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「胡蝶殺し」 近藤史恵

人生において、「趣味は何ですか」と聞かれる機会って意外と多いです。私の場合、そう聞かれた場合の答えは、子どもの頃から「読書です」。その趣味を大人になるまで続けた結果、こういうブログまで始めてしまいました。人間、好きなものについて語ることは楽しいですし、ついつい熱が入ります。

それはプロの世界でも同様らしく、趣味の分野において、面白い作品を書かれた作家さんは大勢存在します。例えば、ボクシング愛好家の百田尚樹さんは『ボックス!』で、将棋ファンである芦沢央さんは『神の一手』で、臨場感溢れる世界観を作り出しました。どちらも、読みながら作者の対象への愛情をひしひし感じたものです。それから、この作品もそうでした。近藤史恵さん『胡蝶殺し』です。

 

こんな人におすすめ

歌舞伎界を舞台にした小説に興味がある人

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「みんなのヒーロー」 藤崎翔

ここ数年で、<ルッキズム>という言葉を聞く機会が激増しました。これは外見を重視する考え方のことで、<外見至上主義><外見重視主義>という言い方もします。一般的に使われるようになったのは最近のような気もしますが、実は日本でも昭和から存在した価値観です。

もちろん、脊椎動物である以上、見た目に左右されるのもある程度は仕方ないのかもしれません。無垢な赤ちゃんが薄汚れたオモチャに目もくれず、ピカピカでカラフルなオモチャに惹きつけられるのも学問的にはルッキズム扱いされるそうですが、これを責められる人はいないでしょう。要は、自分の中できちんと常識やモラルを持ち、折り合いをつけることが大切なのだと思います。そうでないと、この作品の主人公のようになってしまうかも・・・・・今回取り上げるのは藤崎翔さん『みんなのヒーロー』です。

 

こんな人におすすめ

小悪党目線のサスペンスミステリーが読みたい人

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「よもつひらさか」 今邑彩

<何かを始めようとした時に限って、別のことに目がいってしまう>という経験をお持ちの方、一定数いらっしゃると思います。よく聞くのは、<勉強を始めた途端、部屋の掃除をしたくなった>とかですね。普段は特に気にならないのに、一体どうしてなんでしょう?

私の場合、一番よくあるのは<掃除を始めたら本棚の本が目についてしまい、つい読みふけってしまった>というパターンです。こういう時に目がいくのは、大抵、ずいぶん昔に読んだので細部を忘れてしまっている本。時間が経って読み返すと、また新たな面白味や驚きがあるんですよ。つい先日も、片付け中にこれを見つけてやらかしてしまいました。今邑彩さん『よもつひらさか』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラーサスペンス短編集が読みたい人

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「頭の大きな毛のないコウモリ」 澤村伊智

電子書籍の台頭が著しいこのご時世。とはいえ、私個人としては、本は紙で読むのが好きです。ちょっとしたコラムやレビューくらいの分量ならいいのですが、単行本一冊分ともなると、画面越しに読むうちに頭と目が疲れてくるんですよ。DVDやCDのレンタルショップはネット配信の勢いに押されているようですが、本屋と図書館は決してなくならないでほしいと切に願います。

また、紙の本が好きな理由は、疲労のせいだけではありません。これもまた個人的な好みですが、紙の本の方が<仕掛け>の面白さが増す気がするからです。仕掛けについて詳しく説明するとネタバレになってしまいますが、折原一さんの『倒錯の帰結』や道尾秀介さんの『N』のように、文章だけでなく本全体にネタが仕込んである小説といえば分かりやすいでしょうか。もちろん、プロの手にかかれば電子書籍でも仕掛けを施すことは可能なのでしょうが、やっぱり紙のページをめくりながら「あー、そういうことか!」となる楽しさは格別なんです。今回ご紹介する作品も、最後まで読んで初めて仕掛けに気づき、「騙されたー!」となりました。澤村伊智さん『頭の大きな毛のないコウモリ』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラー短編集が読みたい人

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「山の上の家事学校」 近藤史恵

家事。読んで字の如く、掃除・洗濯・食事の支度といった<家の仕事>を指す言葉です。今は家電が発達し、資金に余裕があれば外注という手段もあるとはいえ、細々とした家事の数はそれこそ無限大。不器用で要領の悪い私など、やるべき家事が多い時は、しばらくフリーズして現実逃避に走ることさえあります。

一昔前の<男は外、女は内>という時代では、家事は女性の仕事でした。その影響か、共働きが珍しくもなんともない現代でさえ、女性が家事の中心と見なされる場面が少なくない気がします。当事者同士が納得しているならそれで全然構わないのですが、こういう場合、往々にして家事従事者の方に一方的にしわ寄せが行き、不満を溜めやすいもの。どんな形で家事分担をするにせよ、構成員全員が「自分の家庭の一員である」ことを自覚して行動しないと、取り返しのつかないことになりかねません。この作品を読んで、改めそう実感しました。近藤史恵さん『山の上の家事学校』です。

 

こんな人におすすめ

家事をテーマにしたヒューマンストーリーに興味がある人

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「少女マクベス」 降田天

「時代は問わないから、海外の作家を一人挙げてみて」と聞かれた時、ウィリアム・シェイクスピアの名前を挙げる人はかなり多いと思います。シェイクスピアは一六世紀後半から一七世紀初頭にかけて活躍したイギリス人作家で、二〇〇二年の<百名の最も偉大な英国人>投票で第五位にランクインするほどの有名人です。それほど有名な偉人にも関わらず、現存する資料が少ないため、<実は作品はシェイクスピアではない別人が書いていた説><複数の作家が共同ペンネームでシェイクスピアを名乗っていた説>等々、面白い噂が色々ある人物でもあります。

こういう場合の常として、「著作のタイトルは知ってるけど、最初から最後まできちんと内容を知っている作品ってあんまりないなぁ」ということがしばしば起こりえます。シェイクスピアの場合、小説家ではなく劇作家であり、著作のほとんど戯曲であるため、余計にそうなのかもしれません。そもそも、いわゆる<文豪>と呼ばれる作家の有名作品って、なんとなく敷居が高く感じられることが多いですからね。そんな時、有名作品をテーマにした小説を読むと、ぐっと距離が近くなりますよ。今回取り上げるのは、降田天さん『少女マクベス』。物語自体の面白さもさることながら、『マクベス』という作品を考察することもでき、とても読み応えがありました。

 

こんな人におすすめ

・学園ミステリーが好きな人

・演劇の世界に興味がある人

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「作家刑事毒島の暴言」 中山七里

「こんな結末は読んだことがない」「予想を遥かに超えた奇想天外なストーリー」。物語を評する上で、これらの文言はしばしば誉め言葉として使われます。私自身、事前の予想を裏切られるビックリ展開は大好物。この話は一体どう落着するのだろうと、手に汗握りながらページをめくったことも一度や二度ではありません。

その一方、期待通りに進む王道の物語も面白いものです。それは、『水戸黄門』や『必殺仕事人』が今なお支持されることからも分かります。私の中では、このシリーズもそういう安定・安心枠なんですよ。中山七里さん『毒島シリーズ』第四弾、『作家刑事毒島の暴言』です。

 

こんな人におすすめ

・皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人

・『毒島シリーズ』のファン

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「ウバステ」 真梨幸子

もともとは、飲食店などを一人で利用する客を指す言葉<おひとり様>。それが二〇〇〇年代に入った頃から<一人で生きている自立した大人><同居人がおらず、一人で暮らす人>といった意味で使われるようになりました。流行語大賞にノミネートされたり、ベストセラー書籍のタイトルに使われたりしたこともあり、すっかり世の中に定着した感がありますね。

おひとり様という言葉自体は、男女共に使っていいものですが、比率で言えば女性に対して使われることが多いのではないでしょうか。それはフィクションの世界においても同様で、シングル女性の自立した生き方を応援する、前向きな<おひとり様>作品はたくさん存在します。でも、この方の作品の場合、あっさりといい話にはしてくれないんですよ。今回取り上げるのは、おひとり様の泥沼人間模様を描いたイヤミス、真梨幸子さん『ウバステ』です。

 

こんな人におすすめ

おひとり様の老いをテーマにしたイヤミスに興味がある人

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「あきらめません!」 垣谷美雨

明けましておめでとうございます。毎週水曜更新を基本としている当ブログ、今年は偶然にも一月一日が更新日でした。だからどうというわけではないものの、たまたまこういう記念日に当たると、なんとなく嬉しいものですね。今年も変わらず偏った趣味丸出しの読書レビューを投稿し続けるつもりなので、どうぞよろしくお願いします。

記念といえば、去年は私生活において、ちょっとした記念的出来事が起きました。自他ともに認める超ずぼら人間の私が、投票日に大事な用があるため、期日前投票に行ったのです。「そんなことが記念?」と思われそうですが、二十年前の私なら、投票日に用があるなら選挙そのものに不参加だったこと間違いなし。この年になってやっと、政治とは決して他人事ではなく、私たち一人一人が取り組まなくてはならないものだという自覚が持てた気がします。今回は、そんな選挙を扱った作品を取り上げようと思います。垣谷美雨さん『あきらめません!』です。

 

こんな人におすすめ

・ユーモラスな政治小説が読みたい人

・田舎暮らしの悲喜こもごもを描いた小説に興味がある人

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「仔羊たちの聖夜」 西澤保彦

この世には、様々な記念日や行事があります。大晦日、正月、ひな祭り、ハロウィン、バレンタイン。個人レベルなら誕生日や結婚記念日などもあるでしょう。こうした記念日には、プレゼントにごちそうなど、とにかく華やかできらきらしたイメージがあります。

反面、華やかであればあるほど、創作の世界ではしばしば血生臭く演出されることもあります。クリスマスなんて、まさにいい例ではないでしょうか。有名なスリラー映画『暗闇にベルが鳴る』や『ローズマリーの赤ちゃん』も、作中の季節はクリスマスシーズンでした。周りが賑やかで楽しげな分、登場人物達の恐怖や絶望が際立つのかもしれません。それからこの作品も、クリスマスが重要な要素なんですよ。西澤保彦さん『仔羊たちの聖夜』です。

 

こんな人におすすめ

・多重解決ミステリーが読みたい人

・『匠千暁シリーズ』が好きな人

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