かつて、漫画家の藤子・F・不二雄さんは、SFのことを<S(すこし)F(不思議)>と解釈しました。その言葉通り、この方の作品は『ドラえもん』に代表されるように、日常の中に不思議要素が混ざっていることが多いです。『スターウォーズ』のような壮大なSF叙事詩もいいけれど、身近なところから非日常を感じさせてくれる作品もまた面白いですよね。
日常の中に非日常が混じった作品は<エブリデイ・マジック>と呼ばれ、海外でも広く認知されています。一般家庭に魔女がやって来る『メアリー・ポピンズ』、森の中に不思議な生き物が棲むジブリ映画『となりのトトロ』、特殊な力を持ちながら一般社会に交じって生きる人々を描いた恩田陸さんの『常野物語』等々、名作がたくさんあります。今回取り上げる作品も、ジャンル分けするとこれに入るのかな。芦沢央さんの『魂婚心中』です。
こんな人におすすめ
現実と少し違う世界のSF短編集に興味がある人
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SFやホラーの分野では、しばしば<主要登場人物が何者かに体を乗っ取られる>というシチュエーションが登場します。見た目は本人そのものなので周囲は異変に気付かず、狼藉を許してしまうというハラハラドキドキ感がこの設定のキモ。乗っ取られる側にしても、<完全に意識が消滅する><意識はあるが指一本動かせず、自分の体の悪行を見ているしかない><無意識下(睡眠中とか)に悪行が行われるため、乗っ取られた自覚ゼロ>等々、色々なパターンが存在します。
登場人物の見た目が重要な要素になるせいか、小説より映像作品でよく出てくる設定な気がします。私が好きなのはハリウッド映画の『ノイズ』。宇宙からの帰還後、別人のようになってしまう夫を演じたジョニー・デップがミステリアスで印象的でした。では、小説界でのお気に入りはというと、ちょっと特殊な作風ながらこれが好きなんですよ。西澤保彦さんの『スナッチ』です。
こんな人におすすめ
特殊な設定のSFミステリーに興味がある人
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本を知るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。本屋や図書館に並んでいるのを見たり、人からお勧めされたり、テレビで紹介されていたり・・・まさに千差万別、百人いれば百通りのきっかけがありそうです。
私の場合、ここ最近は<動画で取り上げられていた>というパターンが増えてきました。特に見る機会が多いのがYouTube。世界中の人が利用しているだけあって、本について触れた動画も結構多く、意外な良作に出会えたりします。今回取り上げる作品も、YouTubeの動画をきっかけに知りました。株式会社闇編集による『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』です。
こんな人におすすめ
バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人
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俳句というのは、とても奥の深い芸術です。たった十七文字という、詩の世界の中でも異例の短さで、風景や作者の心情を表現する。文字数が少ない分、一見簡単だと思えるかもしれませんが、十七文字という縛りの中で世界観を作り上げるのは至難の業です。日本での認知度の高さは言うに及ばず、近年では海外にまで俳句文化が進出し、英語で俳句を詠むこともあるのだとか。日本の伝統文化が世界に広まるのは、日本人として嬉しいことですね。
それほど有名な俳句ですが、俳句が大きく取り上げられた小説となると、私は今まであまり知りませんでした。松尾芭蕉や小林一茶といった有名な俳人が主人公の小説ならいくつかあるものの、それらは俳句そのものがテーマというわけではありません。なので、先日、この作品を読んだ時はとても新鮮で面白かったです。宮部みゆきさんの『ぼんぼん彩句』です。
こんな人におすすめ
俳句をテーマにしたバラエティ豊かな短編集に興味がある人
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ものすごく有名な割に、日本の創作物で主要キャラになることが意外と少ない存在、それが<天使>と<悪魔>だと思います。どちらも外国の宗教に由来する存在だからでしょうか。海外作品の場合、主人公のピンチを天使が救ってくれたり悪魔がラスボスだったりすることがしばしばありますが、日本ではこれらの役割を<神仏><守護霊><怨霊><妖怪>等が担うことが多い気がします。
簡単に説明しておくと、<天使>とはキリスト教やユダヤ教、イスラム教における神の使いで、<悪魔>とは神を冒涜し、敵対する超自然的存在だそうです。両者とも、比喩で使われることは多々あれど、そのものずばりがドドーンと出てくる国内作品となると、赤川次郎さんの『天使と悪魔シリーズ』か、森絵都さんの『カラフル』くらいしか知りませんでした。他には何かないかな・・・と思っていたところ、出会ったのがこの作品、朱川湊人さんの『今日からは、愛のひと』です。
こんな人におすすめ
笑って泣けるファンタジー小説が読みたい人
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創作物の中には<チラ見厳禁>というタイプの作品が存在します。何気なくチラッと見た一場面、一ページが強烈なネタバレになってしまい、クライマックスの面白さが半減する・・・やはり、どうせなら順序通り物語を追い、登場人物達と共にラストの余韻を堪能したいものです。
この手の作品の筆頭格と言えば、映画『猿の惑星』ではないでしょうか。猿達が支配する世界で、チャールトン・ヘストン演じる主人公が最後に見たものの正体。あの衝撃、あの絶望感は、いきなりラストシーンだけをチラ見しては半減してしまうと思います。今回取り上げる作品にも、中に一ページ、とんでもないネタバレが仕込まれています。終盤の驚きを楽しみたい方は、決してページをぱらぱらめくらないよう注意してくださいね。北山猛邦さんの『千年図書館』です。
こんな人におすすめ
切ないどんでん返しが仕掛けられた短編集が読みたい人
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<テレパシー>という超能力があります。これは、心の中の思いが、言葉や身振り手振りを使わずに他人に伝わる能力のこと。SF作品などで敵相手に大立ち回りするような派手さはないものの、実生活では結構便利そうな能力に思えます。
テレパシーが登場する小説としては、筒井康隆さんの『七瀬三部作』と宮部みゆきさんの『龍は眠る』がぱっと思い浮かびました。どちらにも、己の能力に苦しみ、葛藤する超能力者が登場します。では、この作品ではどうでしょうか。瀬尾まいこさんの『掬えば手には』です。
こんな人におすすめ
テレパシーが絡んだヒューマンストーリーが読みたい人
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暦の上では秋になり、店先に並ぶファッションアイテムも秋を意識したものが増えました。とはいえ、気候はまだまだ夏そのもの。半袖シャツも、帽子も、キンキンに冷えた飲み物も、当分手放せそうにありません。
私はけっこう夏好きな人間ですが、これほど暑いとやはりひんやりした冬が恋しくなります。季節としての冬が遠いなら、せめて小説で冬気分を味わうのも一つの手ではないでしょうか。そんな時はこれ。「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編』です。
こんな人におすすめ
冬をテーマにしたバラエティ豊かなアンソロジーが読みたい人
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人は時に<恐らく絶対実現不可能だろうけど、願わずにはいられない夢>を見てしまうことがあります。世界中の富をすべて手中に収めてしまいたい、かもしれない。片思いの相手が一夜にして自分に夢中になればいいのに、かもしれない。人によって願う夢も様々でしょうが、<亡くなった人が甦ればいいのに><死んでもまた生き返りたい>と思う人は相当数いそうな気がします。
古来より、死者の復活は多くの人類にとっての願いでした。あまりに願いが強すぎて、怪しげな薬に走ったり、残酷な人体実験に手を染める者までいたほどです。大往生を遂げた老人ならまだしも、この世には不幸な死を遂げる人が大勢いるわけですから、彼ら彼女らが甦れば、そりゃ嬉しいこと楽しいこともたくさんあるでしょう。しかし、どんな物事であれ、表があれば裏もあるもの。自然の摂理に反した存在がどんな事態を招くか、誰にも予想はできません。今回ご紹介するのは、西澤保彦さんの『死者は黄泉が得る』。死者復活に絡んだ悲劇と笑劇(喜劇ではない)を堪能することができました。
こんな人におすすめ
生ける屍が登場するSFミステリーに興味がある人
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そこそこ大きな自治体の場合、たいてい地域内に複数の図書館を持っています。多くの図書館利用者は、その中から自宅や学校、勤務先に近く、通いやすい図書館を選んで利用しているのではないでしょうか。私も自宅近くに図書館があるため、時間があるたびに通うようになって早数年。書棚の位置もすっかり頭に入り、読みたい本を探すのも楽ちんです。
ですが、たまには馴染みのない図書館に行くのも楽しいです。同じ作家さんでも、図書館によって蔵書が違うので、「あ、そういえばこの本書いたのもこの人だっけ」「この本、見かけるの久しぶりだなぁ」と驚かされることもしばしば。もちろん、図書館に取り寄せ依頼をすればどの本だろうと届くのですが、書棚の間をぶらぶらして読みたい本を見つけた時の喜びは格別ですよね。先日、普段利用しない図書館に立ち寄ってみたところ、数年ぶりにこの本を見つけたので再読しました。朱川湊人さんの『わくらば追慕抄』です。
こんな人におすすめ
・昭和を舞台にしたノスタルジックな小説が好きな人
・超能力が出てくる小説が読みたい人
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