はいくる

「螺旋の底」 深木章子

私が最初に読んだ海外の小説は、ヴィクトル・ユーゴ―の『ああ無情』でした。小学生向けのバージョンだったので、表現はかなりマイルドになっていましたが、作品の持つ切なさや痛々しさ、美しさはよく伝わってきました。そのインパクトがあまりに大きかったせいか、私の中でフランスというと、美しさと儚さ、残酷さと哀しさが並び立つ国です。

きらびやかなようでいて混沌としており、閉鎖的でいながら多くの人を魅了する国、フランス。そういう印象があるからでしょうか。フランスにはミステリーやサスペンスの雰囲気がよく似合う気がします。先日読んだ小説は、まさに私の持つフランスのイメージにぴったりでした。今回は、深木章子さん『螺旋の底』を紹介します。

 

こんな人におすすめ

外国を舞台にした本格ミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「憧憬☆カトマンズ」 宮木あや子

明るくポップな雰囲気の小説と暗く重厚な雰囲気の小説、世間ではどちらの方が人気なのでしょうか。私はどちらも好きですが、その時の気分によって作風を選ぶことは当然あります。仕事で大失敗した時に道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』は読みたくないし、ダイエットしたい時は山口恵以子さんの『食堂のおばちゃん』は避けますね。

そして、作家さんの中には、明るい小説と暗い小説の差が凄まじく、同一人物が書いたのかと疑いたくなるようなレベルの作品を書くがいらっしゃいます。作家なのだから当たり前、と言えばそれまでですが、やはりプロというのは凄いものなのだと感嘆せざるをえません。貫井徳郎さんの『慟哭』と『悪党たちは千里を走る』、重松清さんの『疾走』と『とんび』等々、その陰と陽の差に驚いたものです。そう言えばこの方も、明るい作品と暗い作品のギャップが大きいですよね。今回はそんな作家さん、宮木あや子さん『憧憬☆カトマンズ』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

気分すっきりなお仕事小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「ついてくるもの」 三津田信三

振り返ってみると、私の怖い話好きは小学生の頃から始まっていました。学校の図書室にあった『学校の怪談シリーズ』を次々借り、それが終わると市民図書館で怪談本を探してうろうろうろ・・・「この話を読んだ人の所に〇〇が訪れる」という、いわゆる「自己責任系」の怖い話を読み、怯えて親に泣きついたりしたものです。

そんな怖い話好きの私から言わせてもらうと、文章で人を怖がらせるのはとても難しいです。映像なら一瞬で分かる怪異を文章で伝える。だらだら書き連ねればただの説明文だし、あっさり書くと簡潔すぎて何が何だか分からない。そういうハードルを乗り越え、「これは怖い」と読者を震え上がらせるホラー小説もたくさんありますが、今回はその中の一冊を紹介したいと思います。三津田信三さん『ついてくるもの』です。

 

こんな人におすすめ

「自分にも起こりそう」と思わせるホラー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「私にふさわしいホテル」 柚木麻子

こんなブログをやっているだけあって、私は文章を読むのも書くのも好きです。昔は「小説家になりたいな」と思い、自作の小説をちまちま書いてみたりもしました。その内、書くより読む専門でいる方がいいと思うようになりましたが、ふと思いついた物語をあれこれ捏ね繰り回すのは結構面白かったです。

ですが、プロの作家にしてみれば、創作という行為は単純に「面白い」で済むものではないでしょう。物語に破綻がないよう細心の注意を払い、時代のニーズを考え、時には自ら営業活動を行って作品が多くの人に読んでもらえるよう努める。そして、それだけの努力を積み重ねても、作品が見向きもされないこともある。それがクリエイターの背負う宿業です。そんな小説家の悪戦苦闘を描いた作品といえばこれ、柚木麻子さん『私にふさわしいホテル』です。

 

こんな人におすすめ

文壇の悲喜こもごもを描いたコメディ小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「チェインドッグ」 櫛木理宇

「この世で最も憎むべきものが何か分かる?戦争と冤罪なの」これは、私が昔見ていたドラマの台詞です。当時は子どもだったので聞き流しましたが、成長するにつれ、この言葉の意味が少しずつ分かるようになりました。犯人以外の人間が無実の罪で裁かれる。冤罪は、決して許されるものではありません。

冤罪をテーマにした小説といえば、高野和明さんの『13階段』や大門剛明さんの『テミスの求刑』、ややテイストは違いますが伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』などが有名です。これらの作品の中で犯罪者として告発された人物は、自分は潔白だと訴えていました。では、自らが犯罪者であることは認めた上で、告発された罪の一部が冤罪だと訴えた場合はどうでしょうか?ただでさえ難しい冤罪問題が、より複雑になることは想像に難くありません。今日紹介するのは、櫛木理宇さん『チェインドッグ』。タイトルの意味も含めて、考えさせられるところの多い作品でした。

 

こんな人におすすめ

サイコパスが出てくるミステリー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「わたしの本の空白は」 近藤史恵

<記憶喪失>という言葉を見聞きしたことがない人は、恐らくいないと思います。正確には<逆行性健忘>といい、過去の記憶を思い出すことが困難になる症状を指します。この三日間、どんな風に過ごしたかまるで思い出せないというだけで、ものすごく不安でしょう。まして、今まで生きてきた人生すべての記憶を失い、自分が何者か分からないとしたら・・・その恐怖は想像を絶するものがあります。

現実では恐ろしい記憶喪失ですが、フィクションの世界においては、物語を盛り上げる要素となりえます。宮部みゆきさんの『レベル7』、東野圭吾さんの『むかし僕が死んだ家』、綾辻行人さんの『黒猫館の殺人』などは、<記憶喪失>というキーワードを上手く絡めた傑作ミステリーでした。この作品にも記憶喪失になったヒロインが登場します。近藤史恵さん『わたしの本の空白は』です。

 

こんな人におすすめ

記憶喪失をテーマにした小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「物語のおわり」 湊かなえ

子どもの頃から読書好きだった私は、見よう見真似で自分でも小説を書いてみたことがあります。自分で書くだけでは飽き足らず、同じような趣味を持つ友達数名と交換日記形式でノートを回し合い、「前の人が書いた物語の続きを次の人が書く」という遊びをやってみたこともありました。スパイだのクローン人間だの式神だのが脈絡もなく登場する、かなり無軌道な作品になってしまいましたが、やっている最中はすごく楽しかったです。

文章で語られない登場人物たちのその後を考える。これってなかなか面白い試みですよね。実際、シャーロック・ホームズを始めとする小説界の有名人たちの「その後」を、原作者以外の人間が書いた作品だって存在します。もし今ここにとても素敵な物語があり、その続きを自由に創っていいとしたら。そんな「もし」を扱った小説を紹介します。湊かなえさん『物語のおわり』です。

 

こんな人におすすめ

後味の良い湊かなえ作品が読みたい人

続きを読む

はいくる

「プレゼント」 若竹七海

「一番怖いものは何?」と聞かれた時、どんな答えが思い浮かぶでしょうか。「ニンニクと十字架」なら吸血鬼、「まんじゅうこわい」なら古典落語。そう言えば、作家アンデルセンは就寝中に死んだと誤解されて埋葬されることを恐れるあまり、枕元に「僕は死んでいません」というメモを置いて寝ていたんだとか。人それぞれ、恐怖の対象は十人十色です。

私にも怖いものは色々ありますが、何か一つだけ挙げろと言われたら、「人間の悪意」と答えるかもしれません。だって、ホッケーマスクかぶった怪人やテレビから這い出してくる女幽霊と違い、悪意をまったく受けずに生きていくなんてほぼ不可能ですから・・・今回は、どす黒い人間の悪意を扱った作品を紹介します。若竹七海さん『プレゼント』です。

 

こんな人におすすめ

毒と悪意に満ちたミステリー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「月のない夜に」 岸田るり子

古来、双子というのは神秘的な存在として扱われる傾向がありました。母親の胎内で一緒に育ち、一緒に生まれてくるという状況や、(一卵性の場合)そっくりな容姿などが人に謎めいた印象を与えたのでしょうね。現代でさえ、「双子の片方が怪我をするともう片方も痛みを感じる」「生後すぐ離れ離れになってもそっくりな人生を歩む」などといったミステリアスな説まであるほどです。

フィクションの世界において、双子は「他人には分からない絆や確執を持つ存在」として描写されることが多い気がします。ぱっと思いつく限りでは、双子の少女の入れ替わりをテーマにしたエーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』、泥棒と双子の兄弟の同居生活を描く宮部みゆきさんの『ステップファザー・ステップ』、ルイ十四世双子説と鉄仮面伝説を絡めた藤本ひとみさんの『ブルボンの封印』などなど。今回取り上げる小説にも、複雑な絆を持つ双子が登場します。岸田るり子さん『月のない夜に』です。

 

こんな人におすすめ

サイコパスの登場する心理サスペンスが読みたい人

続きを読む