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「ふたり腐れ」 櫛木理宇

以前、読んだ小説にこんな台詞がありました。「突発的な犯罪の場合、一番予想外の方向に向かいやすいのは二人組。一人だとなかなか踏ん切りがつかないし、三人以上だと足並みを揃えるのが難しい」。ただの台詞であり、犯罪学的にどのくらい信ぴょう性があるのかは分かりませんが、一理あると思ったものです。

現実においても、二人組の犯罪者って「勢いでこうなったけど、本人達も最初はここまで大騒動になるとは思ってなかったんじゃ・・・」というケースが結構多い気がします。<アメリカの狂犬>と呼ばれ、最後は警官隊によって蜂の巣にされたボニー・ポーカーとクライド・バロウのカップルなんて、いい例ではないでしょうか。今回取り上げる作品にも、あれよあれよという間に大事件を起こす二人組が出てきます。櫛木理宇さん『ふたり腐れ』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しがあるサイコサスペンスに興味がある人

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「骨肉」 明野照葉

昔読んだ小説に、こんな台詞がありました。「この世の争いのほとんどは、イロかカネが原因で起こる」。イロ(色)とは性欲や恋愛絡み、カネ(金)とは金銭問題のことで、確かにトラブルのほとんどはそのどちらかが原因だよなと、しみじみ納得したものです。

どちらも当事者にとっては深刻なのでしょうが、<巻き込まれる関係者の多さ>という観点で見れば、金銭問題の方に軍配が上がると思います。特に遺産相続問題となると、相続人のみならず、その配偶者や子供の生活に関わる可能性があるわけですから、関係者が目の色を変えるのも一概には責められません。それでも、今日ご紹介する作品のような遺産問題は、なかなか珍しいのではないでしょうか。明野照葉さん『骨肉』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉が効いた家族小説に興味がある人

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「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」 寝舟はやせ

現代は個人主義の時代だと言われています。個人の意思や多様性というものが重視され、公より私を充実させることの方が大事。求人案内でも、<アットホームな社風><休日に社員同士でレジャーに出かけます>などといった文言は喜ばれない傾向にあるようです。

しかし、どれだけ個人主義が広がろうと、人間は社会生活を営む生き物であり、他者との関わりをゼロにすることは相当難しいです。そして、どうせ人と関わらなくてはならないのなら、できれば円満に付き合っていきたいのが人情というもの。特に身近にいる相手とは、いい関係を築くに越したことはないでしょう。でも、隣りにいるのがこんな存在だったら・・・?今回ご紹介するのは、寝舟はやせさん『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』です。

 

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日常侵食系ホラーが浮きな人

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「闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿」 深木章子

世間には様々な働き方が存在しますが、その中に<フリーランス>というものがあります。これは、組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き方のこと。収入や社会的立場が不安定になりがちな一方、自由度が高く、組織のしがらみ・規則に縛られず働けるというメリットもあります。

この<フリー>という立場、フィクション世界においては、すごく使い勝手がいい存在です。何しろ組織内のあれこれの設定を考えずに動かせるわけですから、どんな面倒な事件にも絡ませ放題。内田康夫さんによる『浅見光彦シリーズ』主人公の浅見光彦をはじめ、フリーランスで働く人間が出てくる小説もたくさんあります。今回取り上げる作品でも、フリーライターがいい働きをしてくれていました。深木章子さん『闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿』です。

 

こんな人におすすめ

正統派の本格推理小説が読みたい人

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「二人一組になってください」 木爾チレン

私は子どもの頃から不器用な上に運動が苦手。当然、図工も体育も惨憺たる有様でした。大人になってしまえば「別にそれくらい苦手でも・・・」と思いますが、当時は結構真剣にコンプレックスを抱いていたものです。子どもの頃って、器用で運動神経の良い子が人気者になりがちせいもあるでしょう。

そんな私には、嫌でたまらない時間がいくつかありました。例えば創作ダンスの発表会や、連帯責任を問われる大縄跳び。それから、先生による「はい、〇人組を作ってー」の一言。特に最後の場合、自分の努力ではどうにもならない、同級生の顔ぶれ等に依るところも大きいため、余計に憂鬱だった気がします。でも、こんな「〇人組を作って」が起こったら、憂鬱じゃ済まされませんよね。今回取り上げるのは木爾チレンさん『二人一組になってください』です。

 

こんな人におすすめ

女子高生達のデスゲーム小説に興味がある人

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「お梅は次こそ呪いたい」 藤崎翔

長く続く物語には、時に<転機>というものが訪れます。中には、いわゆる<サザエさん形式>でまったく変わることのない作品もありますが、これは割合としては少数派ではないでしょうか。視聴者や読者を飽きさせないため、何らかの変化が生じることの方が多いと思います。

この<転機>の形は様々ですが、代表的なものの一つとして挙げられるのが<パワーアップ>。登場人物が修行を積んだり新キャラクターに出会ったりした結果、新たな力を手に入れるというパターンです。漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』等でも、主人公チームが修行期間を経てパワーアップするという展開が描かれました。それからこの作品でも、主人公(?)がパワーアップするんですよ。藤崎翔さん『お梅は次こそ呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

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「七色の毒」 中山七里

<色>には、人の気持ちに働きかける力があるそうです。赤やオレンジは活力を呼び覚まし、緑は心をリラックスさせ、ピンクは幸福感を感じさせるのだとか。そういえば一昔前、戦隊ヒーローは、行動派の<赤>やクールな<青>というように、各々の個性と色が対応していることが多かったですね。実際にはそこまで明確に性質が分かれるようなことはないのでしょうが、色が印象を左右することは確かだと思います。

小説の世界においても、色をテーマにした作品はたくさんあります。昔、当ブログでも取り上げた加納朋子さん『レインレイン・ボウ』でも、各話の主人公と、タイトルとなる色が上手く組み合わされていました。これはヒューマンドラマですが、色をテーマにしたイヤミスなら、今回ご紹介する作品がお勧めです。中山七里さん『七色の毒』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるミステリー短編集が読みたい人

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「光の帝国 常野物語」 恩田陸

<その作家さんの著作の中で最初に読んだ本>というのは、強い印象を残しがちです。それが気に入らなければ「この人の本は、もういいかな」となる可能性が高いですし、逆に気に入れば、著作すべてを網羅したくなることだってあり得ます。読書に限った話ではありませんが、最初の一歩って重要なものなんですよね。

私は特に、気に入った作家さんの著作は一気読みしたくなるタイプなので、最初にどの本を読むかはかなり大事です。学生時代、西澤保彦さん『七回死んだ男』を読んでハマった時は、図書委員の権限を利用して西澤保彦さんの著作を購入リクエストしまくったっけ。それからこの本は、私が恩田陸さんにハマるきっかけを作った、記念すべき第一作目です。今回は『光の帝国 常野物語』を取り上げようと思います。

 

こんな人におすすめ

超能力が出てくる連作短編集に興味がある人

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「来なけりゃいいのに」 乃南アサ

昔から、雑誌の読み物ページにある小説紹介コーナーや、本屋のPOPを読むのが好きでした。あの手の紹介文って、短いながらビシッと決まった名文が多いんですよね。がっつり長いレビューとはまた違う面白さがあって、ついつい見入ってしまいます。

そんな紹介文が高確率で載っている場所、それは本の巻末です。特に文庫本には、同じ出版社から刊行された新刊や人気本の紹介文が掲載されていることが多いため、時には本編より先に読んでしまうことさえあります。このコーナーのおかげで、面白い作品の存在をたくさん知ることができました。そういえばこの作品も、別の文庫本の巻末に載っていたことがきっかけで知ったんですよ。乃南アサさん『来なけりゃいいのに』です。

 

こんな人におすすめ

女性目線のサイコサスペンス短編集が読みたい人

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「赤い糸の呻き」 西澤保彦

火村英生、犀川創平、湯川学、中禅寺秋彦・・・日本の小説界には、たくさんの名キャラクターがいます。物語を盛り上げる上で、魅力的な主要登場人物の存在は不可欠。『S&Mシリーズ』や『ガリレオシリーズ』がこれほど人気なのは、話自体の面白さもさることながら、上記のキャラクター達の吸引力に依るところも大きいです。

こうしたキャラクターって、実は作品が長期シリーズ化される前、短編作品にさらりと登場していることがままあります。予想以上に作者の筆が乗り、一作きりの登場で終わらせるのはもったいないと思ったのかな?それが自分の好きなキャラクターだった時は、読者としても喜び倍増です。今日取り上げる短編集には、後にシリーズ作品の主人公となるキャラクターが複数出てくるんですよ。西澤保彦さん『赤い糸の呻き』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かな本格ミステリー短編集が読みたい人

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