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「殺める女神の島」 秋吉理香子

「昔はよく見聞きしたけど、今はめっきり減ったよなぁ」と思う物事って、色々あります。その中の一つが、ミス・コンテスト。独身女性が優勝を目指して競い合うイベントで、ミス・ユニバースやミス・日本が有名ですね。一時期は様々な自治体や学校がコンテストを開催していましたが、ルッキズムやジェンダーレスといった問題から、昨今はその数も激減したようです。

現実のミスコンに対する賛否はひとまず置いておくとして、多くの女性が一堂に会して競うというシチュエーションは、小説の舞台にぴったり。林真理子さんの『ビューティーキャンプ』では、美の世界に生きる女性達の悲喜こもごもがリアリティたっぷりに描かれていました。私はイヤミス好きなので、ミステリーやサスペンスの分野で何か読みたいなと思っていたら・・・先日、見つけました。秋吉理香子さん『殺める女神の島』です。

 

こんな人におすすめ

・ミスコンを扱った作品に興味がある人

・クローズドサークルもののミステリーが好きな人

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「お梅は呪いたい」 藤崎翔

ホラー界における三種の神器とも言える恐怖アイテム、人形(個人的な残り二つは鏡と日記)。人形が怖いのは、人の形を模していることと、本来可愛いものというイメージがあるからでしょうか。愛らしいはずの人形が恐怖シーンに登場した時の恐ろしさは、そのギャップから、本気で鳥肌立ちそうになるものです。

ただ、一言で人形といっても、等身大のマネキンから、豪奢な装飾が施されたアンティークドール、子どもが片手で持てる着せ替え人形等々、たくさんの種類があります。その中でジャパニーズホラーにぴったりなのは、満場一致で日本人形でしょう。澤村伊智さんの『ずうのめ人形』や、漫画ですが山岸凉子さんの『わたしの人形は良い人形』には、読者の背筋を凍らせるほど怖い日本人形が登場します。それから、この作品に出てくる人形も、なかなかどうしてインパクト抜群でしたよ。藤崎翔さん『お梅は呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

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「幻想即興曲 響季姉妹探偵 ショパン篇」 西澤保彦

創作の世界において、姉妹というのは良くも悪くも濃密な関係になりがちです。私がイヤミスやホラーが好きだから余計にそう感じるのかもしれませんが、兄弟より複雑な愛憎劇が展開されることもしばしば・・・女同士という性別ゆえに、そういう描写がなされるのでしょうか。

ですが、現実がそうであるように、物語の中の姉妹だって毎回毎回いがみ合っているわけではありません。赤川次郎さんの『ふたり』『三姉妹探偵団シリーズ』や綿矢りささんの『手のひらの京』のように、固い絆で結ばれた姉妹もたくさん存在します。この作品の姉妹もそうですよ。西澤保彦さん『幻想即興曲 響季姉妹探偵 ショパン篇』です。

 

こんな人におすすめ

クラシック音楽をテーマにしたミステリーが読みたい人

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「つきのふね」 森絵都

私が子どもの頃、オカルト界隈では<ノストラダムスの大予言>が有名でした。最近は名前が出る機会もめっきり減ったので一応解説しておくと、これはフランスの医師兼占星術師であるノストラダムスが書き残した予言のこと。実物は相当な量の詩集なのですが、日本ではその中の第十巻七十二番『一九九九年七の月、空から恐怖の大王が来るだろう』という一文がやたらと広まり、「一九九九年の七月の世界へ滅亡するんだ!」という騒ぎになったのです。実際のところ、ノストラダムス自身は世界滅亡に関する記述は何一つ残しておらず、そもそも詩の和訳が間違っているという指摘すらあるものの、ホラー好きとしては印象深いブームでした。

一時期はテレビで大真面目に特番が組まれるほど人気を集めただけあって、ノストラダムスやその予言が登場するフィクション作品も多いです。ものすごく記憶に残っているのは、さくらももこさんの漫画『ちびまる子ちゃん』の中の一話「まる子ノストラダムスの予言を気にする」。主人公達がノストラダムスの予言を信じ、怯え、「どうせ世界滅亡するのなら勉強なんてしなくていいや」と遊び惚けるようになるが・・・というエピソードで、予言を知った登場人物達のうろたえっぷりや、その後の現実的なオチのつけ方の描写がお見事でした。では、小説では何が印象に残っているかというと、『ちびまる子ちゃん』とは一八〇度違う作風ですが、これを挙げます。森絵都さん『つきのふね』です。

 

こんなひとにおすすめ

思春期の少年少女の戦いを描いた青春物語に興味がある人

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「いっぺんさん」 朱川湊人

ホラーやイヤミスの世界において、<子ども>というのは特別な存在になりがちです。子どもは可能性の塊であり、未来の象徴。そのせいか、モンスターや殺人鬼が跋扈し、多数の犠牲者が出る中、子どもだけはなんとか生き残るという展開も多いです。

その一方、子どもが容赦なく犠牲になる話も一定数あります。命の価値は平等とはいえ、やはり子どもが惨い末路を辿ると、絶望感が一気に高まるんですよね。櫛木理宇さん、澤村伊智さん、三津田信三さん等の作品で、生還フラグが立っている子どもが呆気なく死に、一体何度打ちのめされたことか・・・・・そう言えば、この方の作品も、子どもが過酷な結末を迎える傾向にある気がします。今回取り上げるのは、朱川湊人さん『いっぺんさん』です。

 

こんな人におすすめ

郷愁漂うホラー短編集に興味がある人

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「#真相をお話しします」 結城真一郎

物語を創る上で、テーマ設定はとても重要です。中には、特にテーマを決めず自由気ままに創作するケースもあるでしょうが、これは恐らく少数派。「身分違いの恋を書こう」とか「サラリーマンの下剋上物語にしよう」とか、最初に設定しておくことの方が多いと思います。

古今東西、大勢のクリエイターが様々なテーマを基に創作活動を行ってきたわけですから、その数はまさに天井知らず。となると、当然のごとく、ウケがいいテーマと、そうでもないテーマが出てきます。前者の代表格と言えば、やはり<時事ネタ>ではないでしょうか。今この時、世間を騒がせている問題をテーマにすることで、より多くの注目を集めることができます。今回取り上げる作品も、今という時代を象徴するようなテーマ選びがなされていました。結城真一郎さん『#真相をお話しします』です。

 

こんな人におすすめ

世相を反映したどんでん返しミステリーに興味がある人

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「三十年後の俺」 藤崎翔

万事においておっちょこちょいな私が、読む本を選ぶ上で気を付けているポイント。それが<改題>です。単行本から文庫化されたり、新装版が出版されたりする時、題名が変わるのはままあること。前の題名を連想させるような改題ならいいのですが、あまりにかけ離れた題名に変わっていると、「好きな作家さんの新刊だ!やった!」→「・・・と思ったら、前に読んだやつだった」というガッカリを味わうこともあり得ます。櫛木理宇さんの『少女葬』が、すでに読破済みだった『FEED』の改題だと知った時は悲しかったなぁ・・・

とはいえ、事前に内容をチェックしてさえいれば、改題は悪いことではありません。改題後の方がしっくりくるということだってあるでしょう。個人的には、真梨幸子さんの『更年期少女』は、改題後の『みんな邪魔』の方が好みだったりします。それからこの作品も、改題後の題名の方が好きなんですよ。藤崎翔さん『三十年後の俺』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックユーモアたっぷりの短編集が読みたい人

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「凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎」 櫛木理宇

新興宗教。読んで字の如く、伝統宗教(カトリック教会、十三宗五十六派の仏教、イスラム教、ヒンドゥー教etc)と比べ、成立時期が新しい宗教のことです。<時期が新しい>という基準がかなり曖昧な関係上、国内外合わせて相当な数の宗教団体がこれに該当します。

言うまでもなく、新興宗教自体は悪でも違法でもありません。前述した伝統宗教も、成立当初は新興宗教でした。ですが、オウム真理教のテロやヘヴンズ・ゲートの集団自殺、アガドンサンの連続不審死といった事件が目に付き、新興宗教に対して懐疑的な視線が集まりがちなこともまた事実。それはフィクションの世界でも同様で、澤村伊智さんの『邪教の子』や貫井徳郎さんの『慟哭』には、怖気が走りそうなほど異常な宗教団体が出てきました。先日読んだ作品に登場する新興宗教も、読んでいて非常に胸糞悪かったです。今回は、櫛木理宇さん『凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』をご紹介しようと思います。

 

こんな人におすすめ

・新興宗教を扱ったサスペンス小説に興味がある人

・『鳥越恭一郎シリーズ』のファン

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「謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿」 西澤保彦

<事件解決>とは、果たしてどのタイミングを指すのでしょうか。<捜査>という観点からいうと、犯人を逮捕したタイミング。もっと踏み込むなら、逮捕後、裁判によって動機や犯行方法等がすべて明らかとなり、然るべき刑を科されたタイミングだと考える人が多い気がします。

ただ、創作の世界に関して言えば、必ずしも逮捕や裁判が事件解決の必須条件となるわけではありません。登場人物の会話や独白、回想等で真相発覚・事件解決となることもあり得ます。「で、この後どうなるの!?」「犯人は捕まったの!?」というモヤモヤ感を残すことが多いため、イヤミスやホラーのジャンルでしばしば出てくるパターンですね。消化不良という批判を浴びがちですが、私はこういう後味の悪さが大好きです。そして、登場人物のやり取りで謎解きするという作風なら、やっぱりこの方でしょう。今回は、西澤保彦さん『謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・多重解決ミステリーが読みたい人

・『匠千暁シリーズ』が好きな人

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「薔薇を拒む」 近藤史恵

薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。

と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。

 

こんな人におすすめ

不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人

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