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「鬼の跫音」 道尾秀介

<鬼>という言葉を聞くと、頭に角を生やし、口から牙がむき出しになった猛々しい姿を想像する人が多いと思います。意外かもしれませんが<鬼>の語源は<隠(おぬ)>が転じたものであり、本来は<姿が見えないもの>という意味なんだとか。能楽で鬼が<人が孤独や憎悪などから怨霊と化したもの>として描かれるのは、案外、この辺りに理由があるのかもしれません。

現代を生きる身としては、角を生やして棍棒を振り回す鬼よりも、何らかの理由で鬼になってしまった人間の方が恐ろしいです。この短編集の中には、鬼になった、あるいはならざるをえなかった人間がたくさん登場します。道尾秀介さん『鬼の跫音』です。

 

こんな人におすすめ

人間の怖さをテーマにしたホラーミステリが読みたい人

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「姑の遺品整理は、迷惑です」 垣谷美雨

そこここで<断捨離>という言葉を見聞きするようになって、もうずいぶん経ちます。これは不要な物を捨てて身辺整理を行うことで心身の健康を得ようという思想で、元々はヨガから来ているんだとか。確かに、日本人には<もったいない>という考え方があるので、大量の不用品を延々と保管し続けるケースも少なくありません。

しかし、分かっていても、馴染みのある私物を捨てるのは勇気が要るもの。<思い出の品なんだから><壊れたわけじゃないし、いつか使うかも>そんな風に思った挙げ句、ついつい家中が物で溢れてしまうことだってあるでしょう。特に高齢者と言われる世代はこの傾向にある気がします。もし、その状態で所有者が急死し、その後片付けを遺族がしなければならないとしたら・・・一体どれほど大変な目に遭うか、想像しただけで恐ろしいです。この作品には、そんな苦労を背負い込む羽目になった主人公が登場します。垣谷美雨さん『姑の遺品整理は、迷惑です』です。

 

こんな人におすすめ

・遺品整理というテーマに興味がある人

・家族関係を扱ったユーモア小説が読みたい人

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「泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します」 永嶋恵美

映画・ドラマ・漫画・小説などの創作物をよく見たり読んだりする人なら、どこかで一度はこの文句を見聞きしたことがあると思います。「この泥棒猫!」文字通り、物を盗んでいく猫のことですが、実際は<人の夫や恋人を奪う女性>に対して使われることが多いですね。

字面からして分かるように決していい意味ではなく、好印象を持つ人はまずいないでしょう。私自身、小説で泥棒猫タイプの女性キャラを見るとイライラムカムカする方なんですが、この作品を読んで考えが少し変わりました。こんな泥棒猫なら友達になりたいな。永嶋恵美さん『泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します』です。

 

こんな人におすすめ

ライトな雰囲気のサスペンス小説が読みたい人

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「ダブル」 永井するみ

悲しいかな、この世には嫌なもの、受け入れられないものが溢れています。かくいう私自身、けっこう好き嫌いが多い方でして、嫌だと感じるものは色々あります。例を挙げると、虫、肉の脂身(霜降りとか本当に無理!)、ぶつぶつした穴の集合体などでしょうか。

しかし、いくら嫌だからといって、この世から排除できるとは思っていません。これが<誘拐殺人><放火>などのように明確な<悪>ならともかく、私個人の感覚で虫や脂身をすべて消し去るなど不可能ということくらい弁えています。そこを弁えず、不愉快なものを次々排除する人間がいたとしたら・・・・・一体どんなことになるか、想像しただけで恐ろしいですね。そんな恐ろしさを描いた小説がこちら、永井するみさん『ダブル』です。

 

こんな人におすすめ

女性目線でのサイコサスペンスが読みたい人

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「黒いシャッフル」 松村比呂美

あいつさえいなければ・・・誰しも一度や二度、そんな思いを抱いたことがあると思います。とはいえ、実際に憎い相手を<消す=殺す>決断をする人間は少数派。理由は色々あると思いますが、その一つは「殺してやりたいが殺人犯として逮捕されるのは嫌」というものでしょう。そこでフィクション界の登場人物たち(もしかしたら現実の人間も)は、自分が逮捕されずに済むよう、様々なトリックを駆使するわけです。そのトリックの一つに<交換殺人>があります。

殺意を持った複数の人物が、互いの標的を交換して殺害する交換殺人。実行者自身は標的に殺意を持っていないため動機の線から辿られることはなく、殺意を持っている人物が犯行時に強固なアリバイを作っておけば、警察も逮捕することはできません。ミステリーとしては面白いテーマですが、扱っている作品は意外と少ない気がします。ダイイングメッセージや見立て殺人などと比べると視覚的なインパクトに欠ける上、<裏切られるリスクを抱えてまで、なぜ交換殺人を行うのか>という疑問をクリアするのが難しいからでしょうか。最近読んだ交換殺人ものの小説と言えば、松村比呂美さん『黒いシャッフル』。上記の疑問を上手くさばいていたと思います。

 

こんな人におすすめ

女性目線のイヤミスが読みたい人

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「本と鍵の季節」 米澤穂信

子どもの頃から本好きだった私は、当然ながら図書室や図書館も大好きでした。本屋も好きですが、やはり<その場で好きなだけ本が読める>というシチュエーションは魅力です。学生時代の委員会は当然のように図書委員。紙の劣化防止のためエアコンが設置されていた快適さもあり、半ば<ぬし>扱いされるほど図書室に入り浸っていたものです。

ここでふと思うのは、<図書館>をテーマにした小説は数多くあれど、<図書室>がテーマのものが意外に少ないということです。私が今まで読んだことのある小説に限って言えば、瀬尾まいこさんの『図書館の神様』と竹内真さんの『図書室のキリギリス』くらいしか思いつきません。ですから、この作品では図書室がメインの舞台と知り、読むのを楽しみにしていました。米澤穂信さんの『本と鍵の季節』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い青春ミステリーが読みたい人

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「ファンレター」 折原一

ファン。それは、特定の人物や事象の支援者・愛好家を指す言葉です。人気商売である芸能人やクリエイターにとって、ファンの存在は有難いもの。ファンなくして彼らの生業は成り立たないと言っても過言ではないでしょう。

しかし、すべてのファンが善良とは限りません。<ファナスティック(熱狂的な)>を略してできた言葉なだけあり、情熱を募らせるあまり狂気の域に達するファンも存在します。この手のファンが登場する作品と言えば、スティーヴン・キングの『ミザリー』が一番有名ではないでしょうか。あちらは長編ですし、海外小説は敷居が高いと感じる方もいるかもしれませんので、今回はもう少し手を出しやすい作品をご紹介します。折原一さん『ファンレター』です。

こんな人におすすめ

曲者ファンが登場するブラックユーモア小説が読みたい人

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「ひそやかな楽園」 角田光代

夏という季節は不思議です。エネルギッシュで活気に満ちている反面、終わりに近づくとどこか切なく、物悲しい。四季の中でも、過ぎゆくのが寂しいと感じる季節は夏くらいのものではないでしょうか。

こういう季節柄、夏を描いた小説は、ただ明るいだけではない、しんみりした空気を含むものが多い気がします。代表作を挙げると、成長物なら湯本香樹実さんの『夏の庭-The Friend』、ミステリなら道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』、ファンタジーなら恒川光太郎さんの『夜市』といったところでしょうか。今回ご紹介する小説にも、悩みと苦しみ、そして光が込められた夏が登場します。角田光代さん『ひそやかな楽園』です。

 

こんな人におすすめ

親子の在り方をテーマにした小説が読みたい人

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「汝の名」 明野照葉

<演技>という言葉には、二つの意味があります。一つは、見物人の前で芝居や曲芸などを行ってみせること。もう一つは、本心を隠して見せかけの態度を取ること。前者の場合、行うシチュエーションは限られてきますが、後者はいたって日常的な行為です。

<見せかけの態度を取ってばかりの人間>と言うと、なんだか信用できないような気がしますが、本音と建て前があるのが世の常。物事を円滑に勧めるため演技することは、必ずしも悪とは言えません。しかし、あまりに演技が過ぎると、予想外の落とし穴が待ち受けているかも・・・・・この作品を読んで、そんな恐怖感を感じました。明野照葉さん『汝の名』です。

 

こんな人におすすめ

女同士の愛憎を描いたドロドロサスペンスが読みたい人

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「殺人鬼がもう一人」 若竹七海

ミステリー系の小説や漫画、ドラマなどを見ていると(特にシリーズもの)、しばしば「この町、凶悪事件が起こりすぎでしょ」という突っ込みが発生します。もちろん、人在る所にトラブル有り。それなりの人口を有する町なら犯罪件数が多くても仕方ないですが、それにしたって、そうそう頻繁に<血塗られた復讐劇>だの<阿鼻叫喚の惨劇>だのが起こっていては、住民は堪ったものじゃありません。

とはいえ、あくまでフィクションなら、複雑な謎や衝撃的な事件がしょっちゅう発生した方が面白いもの。ミステリー漫画界で有名な子ども探偵だって、あの町が事件だらけだからこそ能力を発揮できるのです。事件だらけと言えば、ここも負けていません。若竹七海さん『殺人鬼がもう一人』に登場する辛夷ヶ丘(こぶしがおか)です。

 

こんな人におすすめ

ブラックユーモアの効いたミステリー短編集が読みたい人

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