私は読む本を選ぶ時、必ずあらすじをチェックします。「好きな作家さんの作品は事前情報ゼロで楽しみたい!」という方も多いのでしょうが、私は大まかなところを把握してから読み始めたいタイプ。ばっちり好みに合いそうな話だった時は、読書前のワクワク感もより高まります。
ですが、世間には、あらすじからは予想もつかないような方向に進んでいく作品も存在します。私がこの手の作品で真っ先に思いつくのは、鈴木光司さんの『リングシリーズ』。おどろおどろしいジャパニーズホラーかと思いきや、続編『らせん』『ループ』と進むにつれてどんどん新事実が発覚し、SF小説の様相を呈してくる展開が衝撃的でした。それからこの本も、あらすじから想像していた話とは全然違う方向に進んでいきます。澤村伊智さんの『斬首の森』です。
こんな人におすすめ
予想もできないようなホラーミステリーが読みたい人
参加者を暴力で洗脳するカルト集団から、命からがら逃げ出した五人の男女。彼らが迷い込んだのは、右も左も分からない深い森の奥だった。一刻も早く人里に出て、助けを求めよう。協力しつつ森を彷徨う五人だが、ある朝、一人が死体となって発見される。それも、首を切断されるという惨たらしい方法で。一体誰がこんなことを。まさか、残る四人の中に犯人がいるのか。疑心暗鬼に駆られながらも活路を探すメンバー達。その頃、カルト集団の合宿所でも、また別の動きがあって・・・・森に巣食うモノの正体はなんなのか。謎が謎を呼ぶ、ジェットコースター・ホラーミステリー
思えば、澤村伊智さんのノンシリーズ長編は久しぶりです。主人公が体験する、カルト集団の恐ろしさを描いていくのかな?と思いきや、そういった場面は序盤で終了。洗脳が解けた男女数名が森に逃げ込み、飢えや渇きや疲労と戦いつつ生還を目指すサバイバル小説・・・と見せかけて、今度はメンバーが惨たらしく殺されるホラーミステリー。さらに澤村伊智さんお得意の因習絡んだ化物譚と、物語はまさに二転三転。最後はどう着地するんだろうとハラハラしていましたが、まさかそう来るとはね。いい意味で裏切られっぱなしの一冊でした。
とあるカルト集団から命からがら逃げ出してきた女性・鮎美が、ライターに向けて、自らの体験を語り始めます。マルチ商法を主産業とする<T>への入社。合宿所で味わった罵倒と暴力。リンチにより死亡した参加者の死体を埋めさせられたこと。洗脳一歩手前までいく鮎美ですが、合宿所での火事をきっかけに、男女四名と共に森へ逃げ込みます。ここがどこかも分からず、情報機器は取り上げられているため、外部への連絡は不可能。それでも希望を捨てず人里を目指す五人ですが、翌朝、リーダー格だった男性が生首となって発見されました。状況からして、事故も自殺もあり得ない。殺人だとして、周囲にいる人間は自分達だけ。では、残る四人の中に殺人者がいるのか。恐怖と不安におののきながらも、脱出路を探す四人。そしてまた次の犠牲者が・・・・・果たして、この森には何が隠されているのでしょうか。
<生還を目指す、互いに素性を知らない男女><突然現れる謎の途中参加者><相次ぐ不気味な殺人>と、こうしたホラーミステリーの王道パターンをきちっと踏襲した本作。とはいえ、そこはさすがの澤村伊智さんで、王道パターンの中に「おや、これは?」という要素を紛れ込ませるのが上手です。本作の場合、まず真っ先に目につくのは、<主要登場人物の鮎美がライターに体験談を話す=少なくとも鮎美は生還する>ということが確定している点でしょう。内向的で自己肯定感が低い彼女は、なぜ惨劇を生き延びることができたのか。生存者がいるということは、連続殺人は解決したのか。読者はそんな疑問を抱きながら読み進めていくわけですが・・・勘繰れば勘繰るほど、真相発覚時のショック度合が大きくなること請け合いです。あと、ものすごくさらりと語られていますが、<T>を信じて合宿所に残った面々は、普通にバスで都会に送り返されているところも印象的でした。命を懸けて脱出を試みたメンバーは、生き地獄を見る羽目になったのに・・・
こうしたクローズドサークルでのホラーミステリーの場合、メンバー間の人間模様も大事なポイントとなります。大抵、惨劇が進めば進むほど各自のエゴがむき出しになり、醜いいがみ合いを繰り広げるのがお約束。本作も例外ではないのですが、澤村伊智さんの作品にしては、ヒトコワ描写は控え目です。傲慢だったりひねくれたりしていた面子も、修羅場を乗り越えるにつれ態度を改め、協力の姿勢を示します。「よしよし、好転した」と一瞬でも思わせる分、彼らが容赦なく犠牲になる展開が痛ましいんですよ。そんな中、一番気弱そうだった鮎美が生還した理由も壮絶すぎるし・・・すべてが分かってみれば、ほぼ同文が繰り返されるプロローグとエピローグの繋がりが恐ろしいです。
本作を読む上での最大の注意点は、グロテスクな暴力・殺人場面がかなり多いところでしょう。生々しい残酷さが澤村ワールドの持ち味でもあるのですが、本作のそれはまさに段違い。序盤のカルト集団によるリンチに、森での逃走中に発見される生首、森の中に放置されていた身元不明の死体。特に、生首殺人に関する描写は本当におぞましくて、海外のスプラッターホラーもかくやと思わせるほどです。苦手な方にとっては本当に辛いと思いますので、ご注意ください。
ヒトコワ系・・・と思わせて化物無双じゃん度★★★★★
最後の参考文献も要チェック度★★★★☆
カルト集団から逃亡した女性の体験談が主体とは興味深い設定です。
内容からして櫛木理宇さんの設定に残酷な中山七里さんというより誉田哲也さんの描写が合わさったようなイメージです。
SF要素までありそうで独特の恐怖感があり残暑が残る夜には良さそうです。
中山七里さんの毒島刑事の新作が届きました。
おっしゃる通り、誉田哲也さんの描写に通ずるものがある気がします。
澤村伊智さんらしいゴリゴリのホラー要素もたっぷりでした。
毒島刑事の新作、刊行情報を知った時からずっとわくわくしつつ待っていました。
感想を楽しみにしています。