ヒューマン

はいくる

「ばんば憑き」 宮部みゆき

一昔前、悪さをする悪霊や妖怪のことを<物の怪>と呼びました。この<物>とは<人間>の対義語で、超自然的な存在すべてを指すのだとか。ホラーになじみがなくても、ジブリ映画『もののけ姫』で名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

今は<悪霊><怨霊><妖魔>などといった呼び方が広まったせいか、<物の怪>という言葉が出てくるのは、圧倒的に時代小説が多い気がします。最近の、怪異がスマホやパソコンを介して襲い掛かってくる作品も良いけれど、日本情緒たっぷりの時代ホラーも面白いものですよ。今回取り上げるのは、宮部みゆきさん『ばんば憑き』。鬱々とした和風怪談を堪能できました。

 

こんな人におすすめ

日本情緒溢れる怪談短編集に興味がある人

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「戸村飯店 青春100連発」 瀬尾まいこ

単に私の読書傾向の問題なのかもしれませんが、ここ最近読んだ作品の中で物語の鍵を握るのは、母娘ないし姉妹でした。女性同士の場合、掴み合い殴り合いの大乱闘になる可能性が低い(かもしれない)分、水面下でのドロドロを描きやすく、イヤミスやホラーにハマるからかな?と考えています。

とはいえ、当たり前の話ですが、男性同士だって確執が生まれることは多々あります。真保裕一さんの『お前の罪を自白しろ』では父と息子が、東野圭吾さんの『手紙』では兄と弟が、切っても切れない縁の上で苦悩する人間ドラマを繰り広げました。どちらも映像化された有名作品なので、ご存知の方も多いと思います。それから、知名度という点ではこの二つより低いかもしれませんが、これもお気に入りの作品です。瀬尾まいこさん『戸村飯店 青春100連発』です。

 

こんな人におすすめ

兄弟が織りなす青春小説に興味がある人

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「胡蝶殺し」 近藤史恵

人生において、「趣味は何ですか」と聞かれる機会って意外と多いです。私の場合、そう聞かれた場合の答えは、子どもの頃から「読書です」。その趣味を大人になるまで続けた結果、こういうブログまで始めてしまいました。人間、好きなものについて語ることは楽しいですし、ついつい熱が入ります。

それはプロの世界でも同様らしく、趣味の分野において、面白い作品を書かれた作家さんは大勢存在します。例えば、ボクシング愛好家の百田尚樹さんは『ボックス!』で、将棋ファンである芦沢央さんは『神の一手』で、臨場感溢れる世界観を作り出しました。どちらも、読みながら作者の対象への愛情をひしひし感じたものです。それから、この作品もそうでした。近藤史恵さん『胡蝶殺し』です。

 

こんな人におすすめ

歌舞伎界を舞台にした小説に興味がある人

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「山の上の家事学校」 近藤史恵

家事。読んで字の如く、掃除・洗濯・食事の支度といった<家の仕事>を指す言葉です。今は家電が発達し、資金に余裕があれば外注という手段もあるとはいえ、細々とした家事の数はそれこそ無限大。不器用で要領の悪い私など、やるべき家事が多い時は、しばらくフリーズして現実逃避に走ることさえあります。

一昔前の<男は外、女は内>という時代では、家事は女性の仕事でした。その影響か、共働きが珍しくもなんともない現代でさえ、女性が家事の中心と見なされる場面が少なくない気がします。当事者同士が納得しているならそれで全然構わないのですが、こういう場合、往々にして家事従事者の方に一方的にしわ寄せが行き、不満を溜めやすいもの。どんな形で家事分担をするにせよ、構成員全員が「自分の家庭の一員である」ことを自覚して行動しないと、取り返しのつかないことになりかねません。この作品を読んで、改めそう実感しました。近藤史恵さん『山の上の家事学校』です。

 

こんな人におすすめ

家事をテーマにしたヒューマンストーリーに興味がある人

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「あきらめません!」 垣谷美雨

明けましておめでとうございます。毎週水曜更新を基本としている当ブログ、今年は偶然にも一月一日が更新日でした。だからどうというわけではないものの、たまたまこういう記念日に当たると、なんとなく嬉しいものですね。今年も変わらず偏った趣味丸出しの読書レビューを投稿し続けるつもりなので、どうぞよろしくお願いします。

記念といえば、去年は私生活において、ちょっとした記念的出来事が起きました。自他ともに認める超ずぼら人間の私が、投票日に大事な用があるため、期日前投票に行ったのです。「そんなことが記念?」と思われそうですが、二十年前の私なら、投票日に用があるなら選挙そのものに不参加だったこと間違いなし。この年になってやっと、政治とは決して他人事ではなく、私たち一人一人が取り組まなくてはならないものだという自覚が持てた気がします。今回は、そんな選挙を扱った作品を取り上げようと思います。垣谷美雨さん『あきらめません!』です。

 

こんな人におすすめ

・ユーモラスな政治小説が読みたい人

・田舎暮らしの悲喜こもごもを描いた小説に興味がある人

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「月夜行路」 秋吉理香子

「お気に入りの作品に出てくる土地を見てみたい」「あの作者が愛した店に行ってみたい」。そう願うファンは少なくないと思います。かくいう私もその一人。映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』の大ファンでもあるため、お金を貯めて、いつかニュージーランドの撮影地すべてを回るのが生涯の夢です。

現実問題、社会人が大好きな作品ゆかりの土地を巡るのは、決して簡単なことではありません。お金、時間、家庭や仕事のスケジュールとの兼ね合い等々、越えなければならないハードルがいくつもあります。では、物語の登場人物達ならどうやってハードルを越えるかというと、この作品の主人公なんてなかなか印象的でした。秋吉理香子さん『月夜行路』です。

 

こんな人におすすめ

・ミステリー仕立てのロードノベルが読みたい人

・文学ネタが好きな人

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「あいにくあんたのためじゃない」 柚木麻子

図書館に入庫された新刊の予約は、一種の戦争だと思っています。人気のある作家さんの最新刊や、映像化された話題作などは、図書館HPに新刊情報が載ると同時に予約が殺到。あっという間に何百人もの待機リストができることも珍しくありません。私はこの手の予約戦争に遅れがちなので、パソコン画面前で何度も「あーあ」とため息をつきました。

しかし、<予約人数が多い=なかなか順番が回ってこない>かというと、必ずしもそういうわけではありません。たくさん予約が入るような人気作は、図書館側も在庫を多めに仕入れる可能性が高いです。その上、たまたま読破・返却が早い人達が続けば、意外にさっさと順番が回ってくることもあり得ます。この本も、たくさんの予約者がいたにも関わらず、びっくりするほど早く手元に届き、嬉しい驚きでした。柚木麻子さん『あいにくあんたのためじゃない』です。

 

こんな人におすすめ

スカッと痛快なヒューマンストーリーが読みたい人

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「オルゴォル」 朱川湊人

子どもが家から離れ、旅をする。ジュブナイル作品の王道とも言えるシチュエーションです。旅先での出来事を経て子どもが成長していく様子は、文章で読んでも映像で見てもワクワクするものですよね。このジャンルには、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』をはじめ、名作がたくさんあります。

ただ、現代社会で子どもだけの旅を決行するとなると、それなりの理由付けが必要となります。恩田陸さんの『上と外』では主人公兄妹が外国のクーデターに巻き込まれますし、宮部みゆきさん『ブレイブ・ストーリー』の主人公は異世界に行ってしまいました。こういう特殊な設定の物語もとても面白いのですが、今回はもっと現実寄りの作品を取り上げようと思います。朱川湊人さん『オルゴォル』です。

 

こんな人におすすめ

子ども目線の旅物語に興味がある人

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「泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる」 永嶋恵美

現代には、エンターテインメントが溢れています。漫画に小説、ドラマ、映画、ゲームetc。漫画一つ取っても、紙媒体もあれば電子書籍もありと、その数はまさに無数。この分だと、三年後、五年後には、きっとまた新しい娯楽が誕生していることでしょう。

これだけ数が多いと、当然ながら、詳しい分野と疎い分野が出てきます。私の場合、このところドラマに触れる機会がめっきり減りました。お気に入りの小説や漫画について調べた時、「え、これって映像化していたんだ!しかもとっくに放映終了してる!」と驚くこともしばしば・・・この作品も、知らない間にドラマ化されていたと最近知りました。永嶋恵美さん『泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる』です。

 

こんな人におすすめ

・後味の良いサスペンス短編集が読みたい人

・『泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ』のファン

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「つきのふね」 森絵都

私が子どもの頃、オカルト界隈では<ノストラダムスの大予言>が有名でした。最近は名前が出る機会もめっきり減ったので一応解説しておくと、これはフランスの医師兼占星術師であるノストラダムスが書き残した予言のこと。実物は相当な量の詩集なのですが、日本ではその中の第十巻七十二番『一九九九年七の月、空から恐怖の大王が来るだろう』という一文がやたらと広まり、「一九九九年の七月の世界へ滅亡するんだ!」という騒ぎになったのです。実際のところ、ノストラダムス自身は世界滅亡に関する記述は何一つ残しておらず、そもそも詩の和訳が間違っているという指摘すらあるものの、ホラー好きとしては印象深いブームでした。

一時期はテレビで大真面目に特番が組まれるほど人気を集めただけあって、ノストラダムスやその予言が登場するフィクション作品も多いです。ものすごく記憶に残っているのは、さくらももこさんの漫画『ちびまる子ちゃん』の中の一話「まる子ノストラダムスの予言を気にする」。主人公達がノストラダムスの予言を信じ、怯え、「どうせ世界滅亡するのなら勉強なんてしなくていいや」と遊び惚けるようになるが・・・というエピソードで、予言を知った登場人物達のうろたえっぷりや、その後の現実的なオチのつけ方の描写がお見事でした。では、小説では何が印象に残っているかというと、『ちびまる子ちゃん』とは一八〇度違う作風ですが、これを挙げます。森絵都さん『つきのふね』です。

 

こんなひとにおすすめ

思春期の少年少女の戦いを描いた青春物語に興味がある人

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