ヒューマン

はいくる

「偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理」 降田天

「用があって警察署に行ってきたよ」と言われたら、「え?警察署?何で?」と思う人が多いのではないでしょうか。では、「交番に行ってきたよ」ならどうでしょう。時と場合にもよりますが、私なら「落とし物か何かあったのかな」と軽く流す可能性が高いです。交番は警察署と比べ、生活に密着した印象がありますよね。

もちろん、交番の仕事が気楽だなどと言うつもりは毛頭ありません。交番に勤務する警察官が襲撃される事件は現実でも起こっています。また、小説でも、乃南アサさんの『新米警官・高木聖大シリーズ』や、米澤穂信さん『満願』収録の「夜景」などで、交番で働く警察官たちの苦悩や葛藤が描かれています。今回ご紹介するのは、一風変わった交番勤務の警察官が登場する小説です。降田天さん『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』です。

 

こんな人におすすめ

倒叙ミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「おれは非情勤」 東野圭吾

社会には様々な仕事、様々な勤務形態が存在しますが、その中に<非常勤>というものがあります。簡単に言えば、労働時間がフルタイム勤務者より短い労働者のことで、単純な補助作業を行う者もいれば、法律や税制のような専門知識を駆使して働くケースもあります。非常勤労働者を使う業界・会社は多いですが、中でも一番耳にするのは教育現場での<非常勤講師>ではないでしょうか。

教諭の席に空きがないため非常勤として働くしかなく、不満を抱える人も当然いるでしょう。しかし、非常勤という形態は、デメリットばかりではありません。他に目指す仕事があり、一時的に収入を得られればいいと思う人だっているはずですし、非常勤だからこそしがらみもなく公平な目で物事を見ることだってできると思います。そんな非常勤講師が登場する作品がこちら、東野圭吾さん『おれは非情勤』。この先生、かなり好きです。

 

こんな人におすすめ

ジュブナイルミステリー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「傑作はまだ」 瀬尾まいこ

「こんなことがもし自分の身の上に起こったら・・・」小説やドラマ、映画を見ていて、そんな風に空想することは誰でもあると思います。暗い作品の時もあるでしょうが、どちらかというと、楽しく明るい作品の方が空想も盛り上がりますよね。かくいう私も、そういう脳内シミュレーションは大好物。その時々でお気に入りのシチュエーションがあるのですが、一時期は<ある日突然、これまで離れ離れだった身内と出会う>という設定にハマっていました。

この設定だと、古くはエーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』がありますし、朝ドラ『だんだん』もそうでした。最近では、坂木司さんの『ホリデーシリーズ』も有名です。今回取り上げるのは、瀬尾まいこさん『傑作はまだ』。家族の、そして人の繋がりについて考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

心温まる家族小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「マジカルグランマ」 柚木麻子

創作作品を見ていると、「このキャラってステレオタイプだよね」と思うことがあります。たとえば<日本人>なら<努力家で慎み深く、自己主張が苦手>とか、<田舎者>なら<流行に疎く方言丸出しで喋り、お節介だが人情味がある>とか。現実には怠け者ではっきり物を言う日本人も、お洒落でクールな田舎者も大勢いるに決まっていますが、なんとなくこういうイメージが付いてしまっています。こういう固定観念やレッテルのことを<ステレオタイプ>と言います。

映画や小説などを創る上で、このレッテルは役立つこともあります。分かりやすいキャラクターがいた方が物語が盛り上がるという側面も確かにあるでしょう。ただし、一つのイメージがあまりに浸透することで、そのイメージ通りに動かない人達が嫌な思いをさせられるというマイナス面もあります。はっきり自己主張しただけで「日本人なのに我が強い」などと言われたら、誰だって不愉快な気持ちになりますよね。この作品を読んで、物事にレッテルを貼ることの意味を考えさせられました。柚木麻子さん『マジカルグランマ』です。

 

こんな人におすすめ

シニア世代の奮闘記が読みたい人

続きを読む

はいくる

「うちの子が結婚しないので」 垣谷美雨

今や<婚活>という用語はすっかり一般的なものになりました。漢字にするとたった二文字ですが、そのやり方は様々です。インターネットの婚活サイトに登録したり、結婚相談所を介したり、大規模なパーティーに参加したり・・・最近は寺での座禅や農作業など、ユニークなイベントを利用した婚活も多いようですね。そんな婚活の中に<親婚活>というものがあります。

読んで字の如く、まず親同士が子どもの代理で見合いをし、結婚相手を探す<親婚活>。「いい大人の結婚に親がしゃしゃり出てくるなんて・・・」と思う人も多いでしょうが、結婚と生育環境が密接に結びついていることは事実です。相手の人となりを見極め、気持ちいい身内付き合いをしていくため、親の目を借りるというのは効果的な手段なのかもしれません。今回取り上げるのは垣谷美雨さん『うちの子が結婚しないので』。親の目から見た婚活の悲喜こもごもが楽しめました。

 

こんな人におすすめ

<親婚活>というものに興味のある人

続きを読む

はいくる

「姑の遺品整理は、迷惑です」 垣谷美雨

そこここで<断捨離>という言葉を見聞きするようになって、もうずいぶん経ちます。これは不要な物を捨てて身辺整理を行うことで心身の健康を得ようという思想で、元々はヨガから来ているんだとか。確かに、日本人には<もったいない>という考え方があるので、大量の不用品を延々と保管し続けるケースも少なくありません。

しかし、分かっていても、馴染みのある私物を捨てるのは勇気が要るもの。<思い出の品なんだから><壊れたわけじゃないし、いつか使うかも>そんな風に思った挙げ句、ついつい家中が物で溢れてしまうことだってあるでしょう。特に高齢者と言われる世代はこの傾向にある気がします。もし、その状態で所有者が急死し、その後片付けを遺族がしなければならないとしたら・・・一体どれほど大変な目に遭うか、想像しただけで恐ろしいです。この作品には、そんな苦労を背負い込む羽目になった主人公が登場します。垣谷美雨さん『姑の遺品整理は、迷惑です』です。

 

こんな人におすすめ

・遺品整理というテーマに興味がある人

・家族関係を扱ったユーモア小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「ひそやかな楽園」 角田光代

夏という季節は不思議です。エネルギッシュで活気に満ちている反面、終わりに近づくとどこか切なく、物悲しい。四季の中でも、過ぎゆくのが寂しいと感じる季節は夏くらいのものではないでしょうか。

こういう季節柄、夏を描いた小説は、ただ明るいだけではない、しんみりした空気を含むものが多い気がします。代表作を挙げると、成長物なら湯本香樹実さんの『夏の庭-The Friend』、ミステリなら道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』、ファンタジーなら恒川光太郎さんの『夜市』といったところでしょうか。今回ご紹介する小説にも、悩みと苦しみ、そして光が込められた夏が登場します。角田光代さん『ひそやかな楽園』です。

 

こんな人におすすめ

親子の在り方をテーマにした小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「営業零課接待班」 安藤祐介

私は子どもの頃、「働き始めたら、みんな<接待>をするようになるんだ」と思い込んでいました。それくらい、一昔前のドラマや漫画では、勤め人が接待をするシーンが多かったように思います。しかし自分が社会人になる年齢になってみると、接待文化はすっかり廃れ、勤務時間外の付き合いは控えようという風潮が広がっていました。もちろん、今でも接待を行う業界・職種もあるのでしょうが、一時期ほど派手なものではなくなった気がします。

接待が減ったことによるメリットはたくさんあります。その一方、接待によって得られたものもあったのではないでしょうか。<酒を飲まなきゃいけない>とか<豪華にもてなさなきゃいけない>とかではなく、職場以外の場で飲食を共にすることで腹を割って話せたり、連帯感が生まれたりすることもあったはずです。今回は、そんな<接待>の在り方をテーマにした作品を取り上げたいと思います。公務員として働きながら作家業を続ける安藤祐介さん『営業零課接待班』です。

 

こんな人におすすめ

落ちこぼれ社員たちの成長物語が読みたい人

続きを読む

はいくる

「和菓子のアン」 坂木司

これまで何度か書きましたが、私は甘い物が大好きです。健康のことを考えなくて良ければ一日三食全部スイーツでいいと思うほどで、スーパーマーケットやコンビニに行くたび、デザートコーナーの新作をチェックするのが習慣です。味だけでなく見た目も素敵なスイーツの数々に癒される人って、意外と多いのではないでしょうか。

そんな私が思い浮かべる<甘い物>と言えば、かつては洋菓子オンリーでした。ですが、ここ最近、あんこの風味が懐かしくなったり、買い物中にみたらし団子や葛切に目が行ったりすることがしばしばあります。ガツンとしたインパクトや見た目の派手さという点で洋菓子に押されがちな和菓子ですが、改めて見てみると繊細で美しい品が多いですし、洋菓子とは違う優しい甘さも魅力的です。「でも、和菓子ってあんまり馴染みないなぁ」と思う人は、この作品を読んでみてはどうでしょう。坂木司さん『和菓子のアン』です。

 

こんな人におすすめ

・和菓子がたくさん登場する小説が読みたい人

・若い女性の成長物語が読みたい人

続きを読む

はいくる

「それでも空は青い」 荻原浩

小説に何を求めるか。これは人それぞれです。美男美女のロマンチックな恋愛模様を求める人もいれば、手に汗握るアクションシーンが読みたい人、鳥肌が立つような恐怖感が醍醐味だという人もいるでしょう。そして、どうということのない人生の一場面を描いた小説が好きだという人もいると思います。

私自身、そういう日常小説は大好きで、国内外問わず色々読みました。この手のジャンルが得意な作家さんもたくさんいますが、江國香織さんや群ようこさん、吉本ばななさんなどが有名ですね。最近読んだ小説でも、山あれば谷あり、涙もあれば笑いもある人生が描かれていました。荻原浩さん『それでも空は青い』です。

 

こんな人におすすめ

どこにでもあるような日常をテーマにした小説が好きな人

続きを読む