ホラー

はいくる

「厄落とし」 瀬川ことび

<ホラーコメディ>というジャンルがあります。文字通り、ホラー(恐怖)とコメディ(喜劇)両方の要素がある作品のことで、不気味なのに妙に笑える展開を迎えるというパターンが多いです。正反対のジャンルのようで、意外と相性がいいんですよ。

このホラーコメディ、絵的に映えるシチュエーションが多いからか、映像作品でよく見るジャンルなような気がします。私が見たものだと、二〇一〇年の洋画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』は日本でも高評価を獲得しました。一〇〇%善人にもかかわらず、風体や振る舞いのせいで殺人鬼と勘違いされてしまう二人組のドタバタが最高に面白かったです。小説だと、ブログでも取り上げた藤崎翔さんの『お梅は呪いたいシリーズ』も、楽しく笑える傑作でした。それからこれも、質の高いホラーコメディです。瀬川ことびさん『厄落とし』です。

 

こんな人におすすめ

ユーモラスなホラー短編集を読みたい人

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「感染夢」 明野照葉

寝ている間に見る<夢>は、とても不思議な存在です。体は寝ていて脳は覚醒している<レム睡眠>中に多く見られる現象で、時として五感を伴い、無自覚の願望や記憶が表れることもある・・・と言われているものの、正確なメカニズムは今なお不明。その神秘性から、古今東西、「夢で未来を予知した」「夢の中でお告げを受けた」等のエピソードも数えきれないほど存在します。

それだけ謎の多い現象なだけあって、多くのクリエイター達が自作のテーマとして夢を取り上げてきました。洋画『エルム街の悪夢シリーズ』には夢で殺戮を繰り広げる殺人鬼・フレディが登場しますし、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』はヒロイン・アリスが見る夢の中の物語です。夢という存在のミステリアスさは、特にファンタジーやホラーのジャンルに映えますね。今回ご紹介するのは、夢が重要な役割を果たすホラー小説、明野照葉さん『感染夢』です。

 

こんな人におすすめ

夢をテーマにしたサスペンスホラーが読みたい人

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「遅刻して来た幽霊」 赤川次郎

何年、下手をすると何十年も前に読んだ作品のことが、急に気になり出す。再読したくてたまらなくなる。私にはこういうことが結構あります。何かきっかけがあったわけではなく、それこそ雷に打たれたかのように、「あ、あれがまた読みたい!」となるのですけど、あれってどういう思考回路なのでしょう?

こういう場合、一番困るのは、あまりに昔に読んだ作品だと作者名やタイトルが分からないケースがままあることです。あらすじをひたすらインターネットで検索しまくり、それらしい作品を見つけては、あれでもないこれでもないと悩むこともしばしば・・・今回取り上げる作品も、該当作を見つけるまでしばらくかかりました。赤川次郎さん『遅刻して来た幽霊』です。

 

こんな人におすすめ

現実味あるサスペンス短編集が読みたい人

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「この会社は実在しません」 ヨシモトミネ

小説家になろう、カクヨム、アルファポリスetc。現在、国内には複数の創作物投稿サイトがあります。厳密に言えば、各サイトごとに違いがあり、メリット・デメリットも存在するようですが、私はあまり気にしないタイプ。時間がある時、目についたサイトで面白い作品が読めれば満足です。

こうした投稿サイトは、一般人が誰でも気軽に作品を投稿できるという特徴上、どうしても玉石混交になりがちです。だからといって、「素人の趣味じゃん」と侮ることはできません。気軽に投稿できるからこそ参加者が増え、素晴らしい筆力の持ち主が育つことだって決して珍しくないのです。この作品も、その一つだと思います。今回取り上げるのは、カクヨムからデビューした作家、ヨシモトミネさん『この会社は実在しません』です。

 

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モキュメンタリーホラーが好きな人

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「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」 寝舟はやせ

現代は個人主義の時代だと言われています。個人の意思や多様性というものが重視され、公より私を充実させることの方が大事。求人案内でも、<アットホームな社風><休日に社員同士でレジャーに出かけます>などといった文言は喜ばれない傾向にあるようです。

しかし、どれだけ個人主義が広がろうと、人間は社会生活を営む生き物であり、他者との関わりをゼロにすることは相当難しいです。そして、どうせ人と関わらなくてはならないのなら、できれば円満に付き合っていきたいのが人情というもの。特に身近にいる相手とは、いい関係を築くに越したことはないでしょう。でも、隣りにいるのがこんな存在だったら・・・?今回ご紹介するのは、寝舟はやせさん『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』です。

 

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日常侵食系ホラーが浮きな人

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「誰かの家」 三津田信三

創作の世界には、<メタフィクション>という手法があります。これは、フィクション作品を「これは現実ではなく、作り物ですからね」とあえて表現・強調するやり方のこと。例えば、作中に作者自身が登場したり、キャラクターに自分がフィクション世界の生き物であると自覚しているような言動を取らせたり、ページや画面のこちら側に向けて「君はどう思う?」と語りかけさせたりすることなどが、メタフィクションに当たります。フィクション世界に現実の人間が入り込んだり、キャラクターがこちらに語りかけたりするなど、常識から考えてあり得ません。そんなありえない状況をわざわざ作ることで読者・視聴者を「おっ!」と思わせ、物語を盛り上げるのが、メタフィクションの狙いです。

あらゆる創作物でよく見られる手法ですが、小説に限定して例を挙げると、登場人物達が自分を小説内のキャラクターであると自覚している東野圭吾さんの『天下一大五郎シリーズ』、作者本人が主人公を務める澤村伊智さんの『恐怖小説 キリカ』、物語自体が作中作だった綾辻行人さんの『迷路館の殺人』等々、名作がたくさんあります。どれも面白い作品でしたが、個人的にメタフィクション作品の第一人者といえば、真っ先に思いつくのは三津田信三さんです。今回は、その著作の中から『誰かの家』を取り上げたいと思います。

 

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実話風ホラー短編集が読みたい人

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「ばんば憑き」 宮部みゆき

一昔前、悪さをする悪霊や妖怪のことを<物の怪>と呼びました。この<物>とは<人間>の対義語で、超自然的な存在すべてを指すのだとか。ホラーになじみがなくても、ジブリ映画『もののけ姫』で名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

今は<悪霊><怨霊><妖魔>などといった呼び方が広まったせいか、<物の怪>という言葉が出てくるのは、圧倒的に時代小説が多い気がします。最近の、怪異がスマホやパソコンを介して襲い掛かってくる作品も良いけれど、日本情緒たっぷりの時代ホラーも面白いものですよ。今回取り上げるのは、宮部みゆきさん『ばんば憑き』。鬱々とした和風怪談を堪能できました。

 

こんな人におすすめ

日本情緒溢れる怪談短編集に興味がある人

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「ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし」 ジリアン・クロス他著

先日、生まれて初めて七面鳥を食べました。味は結構淡泊だったけれど、脂身が少ないのでガッツリ食べても胃もたれしませんし、グレービーソースとの相性も良くてなかなか美味!「七面鳥はあまり日本人の口に合わないかも・・・」という噂を聞いていましたが、予想していたよりずっと気に入りました。

七面鳥は日本での生産量が少なく、鶏と比べると手に入りにくいこともあり、日本国内を舞台とした小説に登場する機会は少ないです。ではどこに出てくるかというと、私的登場率NO.1はイギリスが舞台、それもクリスマスシーズンを扱った作品だと思います。この作品もそうでした。イギリスのホラーアンソロジー『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』です。

 

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海外のホラー短編集に興味がある人

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「口に関するアンケート」 背筋

「昔は普通にあったけど、近頃は見なくなったなぁ」と思うものって色々あります。読書界隈で例を挙げると、代本板と、本の背表紙裏に貼ってあった貸出カード。特に前者は、学生時代に散々利用したので、消えてしまった少し寂しい気もします。

この話題で私がもう一つ思い浮かべるもの、それは<ミニ文庫>です。文字通り小さな文庫本で、サイズはせいぜい胸ポケットに入る程度。短編が一~二話収録されている程度のボリュームですが、とにかく持ち運びしやすいので、移動中の読書に重宝しました。神坂一さんの『スレイヤーズシリーズ』や、高橋克彦さんの『幻少女』といった印象に残る作品もたくさんあったなぁ。最近、久しぶりにミニサイズの文庫を読む機会があり、なんだか懐かしかったです。今回取り上げるのは、背筋さん『口に関するアンケート』です。

 

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仕掛け満載の短編ホラーが読みたい人

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「よもつひらさか」 今邑彩

<何かを始めようとした時に限って、別のことに目がいってしまう>という経験をお持ちの方、一定数いらっしゃると思います。よく聞くのは、<勉強を始めた途端、部屋の掃除をしたくなった>とかですね。普段は特に気にならないのに、一体どうしてなんでしょう?

私の場合、一番よくあるのは<掃除を始めたら本棚の本が目についてしまい、つい読みふけってしまった>というパターンです。こういう時に目がいくのは、大抵、ずいぶん昔に読んだので細部を忘れてしまっている本。時間が経って読み返すと、また新たな面白味や驚きがあるんですよ。つい先日も、片付け中にこれを見つけてやらかしてしまいました。今邑彩さん『よもつひらさか』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラーサスペンス短編集が読みたい人

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