現代は個人主義の時代だと言われています。個人の意思や多様性というものが重視され、公より私を充実させることの方が大事。求人案内でも、<アットホームな社風><休日に社員同士でレジャーに出かけます>などといった文言は喜ばれない傾向にあるようです。
しかし、どれだけ個人主義が広がろうと、人間は社会生活を営む生き物であり、他者との関わりをゼロにすることは相当難しいです。そして、どうせ人と関わらなくてはならないのなら、できれば円満に付き合っていきたいのが人情というもの。特に身近にいる相手とは、いい関係を築くに越したことはないでしょう。でも、隣りにいるのがこんな存在だったら・・・?今回ご紹介するのは、寝舟はやせさんの『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』です。
こんな人におすすめ
日常侵食系ホラーが浮きな人
続きを読む
創作の世界には、<メタフィクション>という手法があります。これは、フィクション作品を「これは現実ではなく、作り物ですからね」とあえて表現・強調するやり方のこと。例えば、作中に作者自身が登場したり、キャラクターに自分がフィクション世界の生き物であると自覚しているような言動を取らせたり、ページや画面のこちら側に向けて「君はどう思う?」と語りかけさせたりすることなどが、メタフィクションに当たります。フィクション世界に現実の人間が入り込んだり、キャラクターがこちらに語りかけたりするなど、常識から考えてあり得ません。そんなありえない状況をわざわざ作ることで読者・視聴者を「おっ!」と思わせ、物語を盛り上げるのが、メタフィクションの狙いです。
あらゆる創作物でよく見られる手法ですが、小説に限定して例を挙げると、登場人物達が自分を小説内のキャラクターであると自覚している東野圭吾さんの『天下一大五郎シリーズ』、作者本人が主人公を務める澤村伊智さんの『恐怖小説 キリカ』、物語自体が作中作だった綾辻行人さんの『迷路館の殺人』等々、名作がたくさんあります。どれも面白い作品でしたが、個人的にメタフィクション作品の第一人者といえば、真っ先に思いつくのは三津田信三さんです。今回は、その著作の中から『誰かの家』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
実話風ホラー短編集が読みたい人
続きを読む
一昔前、悪さをする悪霊や妖怪のことを<物の怪>と呼びました。この<物>とは<人間>の対義語で、超自然的な存在すべてを指すのだとか。ホラーになじみがなくても、ジブリ映画『もののけ姫』で名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
今は<悪霊><怨霊><妖魔>などといった呼び方が広まったせいか、<物の怪>という言葉が出てくるのは、圧倒的に時代小説が多い気がします。最近の、怪異がスマホやパソコンを介して襲い掛かってくる作品も良いけれど、日本情緒たっぷりの時代ホラーも面白いものですよ。今回取り上げるのは、宮部みゆきさんの『ばんば憑き』。鬱々とした和風怪談を堪能できました。
こんな人におすすめ
日本情緒溢れる怪談短編集に興味がある人
続きを読む
先日、生まれて初めて七面鳥を食べました。味は結構淡泊だったけれど、脂身が少ないのでガッツリ食べても胃もたれしませんし、グレービーソースとの相性も良くてなかなか美味!「七面鳥はあまり日本人の口に合わないかも・・・」という噂を聞いていましたが、予想していたよりずっと気に入りました。
七面鳥は日本での生産量が少なく、鶏と比べると手に入りにくいこともあり、日本国内を舞台とした小説に登場する機会は少ないです。ではどこに出てくるかというと、私的登場率NO.1はイギリスが舞台、それもクリスマスシーズンを扱った作品だと思います。この作品もそうでした。イギリスのホラーアンソロジー『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』です。
こんな人におすすめ
海外のホラー短編集に興味がある人
続きを読む
「昔は普通にあったけど、近頃は見なくなったなぁ」と思うものって色々あります。読書界隈で例を挙げると、代本板と、本の背表紙裏に貼ってあった貸出カード。特に前者は、学生時代に散々利用したので、消えてしまった少し寂しい気もします。
この話題で私がもう一つ思い浮かべるもの、それは<ミニ文庫>です。文字通り小さな文庫本で、サイズはせいぜい胸ポケットに入る程度。短編が一~二話収録されている程度のボリュームですが、とにかく持ち運びしやすいので、移動中の読書に重宝しました。神坂一さんの『スレイヤーズシリーズ』や、高橋克彦さんの『幻少女』といった印象に残る作品もたくさんあったなぁ。最近、久しぶりにミニサイズの文庫を読む機会があり、なんだか懐かしかったです。今回取り上げるのは、背筋さんの『口に関するアンケート』です。
こんな人におすすめ
仕掛け満載の短編ホラーが読みたい人
続きを読む
<何かを始めようとした時に限って、別のことに目がいってしまう>という経験をお持ちの方、一定数いらっしゃると思います。よく聞くのは、<勉強を始めた途端、部屋の掃除をしたくなった>とかですね。普段は特に気にならないのに、一体どうしてなんでしょう?
私の場合、一番よくあるのは<掃除を始めたら本棚の本が目についてしまい、つい読みふけってしまった>というパターンです。こういう時に目がいくのは、大抵、ずいぶん昔に読んだので細部を忘れてしまっている本。時間が経って読み返すと、また新たな面白味や驚きがあるんですよ。つい先日も、片付け中にこれを見つけてやらかしてしまいました。今邑彩さんの『よもつひらさか』です。
こんな人におすすめ
後味の悪いホラーサスペンス短編集が読みたい人
続きを読む
電子書籍の台頭が著しいこのご時世。とはいえ、私個人としては、本は紙で読むのが好きです。ちょっとしたコラムやレビューくらいの分量ならいいのですが、単行本一冊分ともなると、画面越しに読むうちに頭と目が疲れてくるんですよ。DVDやCDのレンタルショップはネット配信の勢いに押されているようですが、本屋と図書館は決してなくならないでほしいと切に願います。
また、紙の本が好きな理由は、疲労のせいだけではありません。これもまた個人的な好みですが、紙の本の方が<仕掛け>の面白さが増す気がするからです。仕掛けについて詳しく説明するとネタバレになってしまいますが、折原一さんの『倒錯の帰結』や道尾秀介さんの『N』のように、文章だけでなく本全体にネタが仕込んである小説といえば分かりやすいでしょうか。もちろん、プロの手にかかれば電子書籍でも仕掛けを施すことは可能なのでしょうが、やっぱり紙のページをめくりながら「あー、そういうことか!」となる楽しさは格別なんです。今回ご紹介する作品も、最後まで読んで初めて仕掛けに気づき、「騙されたー!」となりました。澤村伊智さんの『頭の大きな毛のないコウモリ』です。
こんな人におすすめ
後味の悪いホラー短編集が読みたい人
続きを読む
私の個人的な意見ですが、フィクション世界におけるジャンルの中で、<ホラー>というのはやや特殊な位置付けにある気がします。作品に求められるのは、<恐怖><怖気><震撼>といったネガティブな感情。最近はホラーも細分化してきて、ミステリー的な謎解きがあったり、恋愛要素が絡んだりするケースも多々ありますが、根本にあるのが<恐ろしさ>という点は変わりません。
そのせいかどうなのか、色々なジャンルに挑戦されている作家さんでも、「ホラーだけはまだ・・・」ということが一定数あるように思います。その一方、「〇〇先生、ホラー初挑戦!」というような作品は、普段とは違う、新鮮なカタルシスをもたらしてくれることもしばしばです。この作品を読んだ時も、相当な衝撃でしたよ。林真理子さんの『聖家族のランチ』です。
こんな人におすすめ
家族の崩壊をテーマにしたホラーが読みたい人
続きを読む
私は読む本を選ぶ時、必ずあらすじをチェックします。「好きな作家さんの作品は事前情報ゼロで楽しみたい!」という方も多いのでしょうが、私は大まかなところを把握してから読み始めたいタイプ。ばっちり好みに合いそうな話だった時は、読書前のワクワク感もより高まります。
ですが、世間には、あらすじからは予想もつかないような方向に進んでいく作品も存在します。私がこの手の作品で真っ先に思いつくのは、鈴木光司さんの『リングシリーズ』。おどろおどろしいジャパニーズホラーかと思いきや、続編『らせん』『ループ』と進むにつれてどんどん新事実が発覚し、SF小説の様相を呈してくる展開が衝撃的でした。それからこの本も、あらすじから想像していた話とは全然違う方向に進んでいきます。澤村伊智さんの『斬首の森』です。
こんな人におすすめ
予想もできないようなホラーミステリーが読みたい人
続きを読む
ホラーやイヤミスの世界において、<子ども>というのは特別な存在になりがちです。子どもは可能性の塊であり、未来の象徴。そのせいか、モンスターや殺人鬼が跋扈し、多数の犠牲者が出る中、子どもだけはなんとか生き残るという展開も多いです。
その一方、子どもが容赦なく犠牲になる話も一定数あります。命の価値は平等とはいえ、やはり子どもが惨い末路を辿ると、絶望感が一気に高まるんですよね。櫛木理宇さん、澤村伊智さん、三津田信三さん等の作品で、生還フラグが立っている子どもが呆気なく死に、一体何度打ちのめされたことか・・・・・そう言えば、この方の作品も、子どもが過酷な結末を迎える傾向にある気がします。今回取り上げるのは、朱川湊人さんの『いっぺんさん』です。
こんな人におすすめ
郷愁漂うホラー短編集に興味がある人
続きを読む