現代には、エンターテインメントが溢れています。漫画に小説、ドラマ、映画、ゲームetc。漫画一つ取っても、紙媒体もあれば電子書籍もありと、その数はまさに無数。この分だと、三年後、五年後には、きっとまた新しい娯楽が誕生していることでしょう。
これだけ数が多いと、当然ながら、詳しい分野と疎い分野が出てきます。私の場合、このところドラマに触れる機会がめっきり減りました。お気に入りの小説や漫画について調べた時、「え、これって映像化していたんだ!しかもとっくに放映終了してる!」と驚くこともしばしば・・・この作品も、知らない間にドラマ化されていたと最近知りました。永嶋恵美さんの『泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる』です。
こんな人におすすめ
・後味の良いサスペンス短編集が読みたい人
・『泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ』のファン
一人の男を巡る愛憎劇の行方、卑劣漢への報復の意外な顛末、真実の愛を得ようとする女を待っていたもの、泥沼離婚騒動に差し出された救いの手、恋人との円満破局を望む女が見つけた本当の気持ち・・・・・その悩み、オフィスCATにお任せあれ!愛すべき泥棒猫達が活躍する、人気シリーズ第二弾
二〇二四年四月から六月にかけて、日曜深夜にドラマ版が放送されていました。時としてこの世の地獄のような修羅場を描くのが永嶋作品の特徴ですが、本シリーズの雰囲気は終始軽妙。DVやストーカーといった深刻な問題を扱いつつ、どの話にもちゃんと救いがあります。以前から映像向きだなと思っていたので、ドラマ化に気付かなかったのは痛恨の極みです。
「宵闇キャットファイト」・・・仕事に忙殺されている間に、彼氏をよその女に奪われてしまったアパレルショップ店員・沙紀。ある日、沙紀の前に、鞠江という女が現れる。鞠江は「あなたの彼氏を奪ったのは、私のゼミ仲間である詩織という女だ。昔、私の彼氏も詩織に寝取られた。このままでは腹の虫が収まらないから、強奪屋に頼んで、詩織から彼氏を奪ってやらないか」と持ち掛け・・・・・
恋人を奪った奪われたという、オーソドックスな泥棒猫稼業を描くエピソード。ここでキモとなるのは、オフィスCATへの依頼を思いつくのが主人公の沙紀ではなく、突然先の目の前に現れた見知らぬ女(鞠江)という点です。沙紀としては、そもそもオフィスCATを信用していいのかどうか分からないわけですが・・・終盤の真相と、それぞれの決断を下した二人の女性の姿が印象的でした。
「孔雀たちの夜宴」・・・泥棒猫稼業の見習い従業員・楓は、ニューハーフの依頼人・マヤの担当となる。マヤの依頼は、無節操に他人を弄ぶ軽薄男・直人に一矢報いてやること。楓は変装し、直人がいる合コン会場に紛れ込むのだが・・・・・
完璧な泥棒猫ぶりを見せる雛子に対し、どこか抜けていてポカが多い新米泥棒猫・楓。そのポカが、雛子にはできない形で事態を解決することもあるのですが、まさにその典型ともいえる話でした。軽薄男には怖い思いをさせられたし、マヤのキャラクターもユニークだし、収録作品中一番読後感が良かったです。
「夜啼く鳥と青い鳥」・・・浮ついた性格が災いし、実りのない恋愛を繰り返す看護師・小夜子。どれだけふらふらしても受け入れてくれる彼氏・真一のためにも、今度こそきちんと身辺整理しよう。ところが予想に反し、一夜の関係を持った医師・杉原がすんなりと別れてくれない。困った小夜子は、杉原と円満に別れられるよう、強奪屋に依頼して・・・
有名な童話『青い鳥』のオチを知っていれば、終盤の展開は予想できると思います。目先のことに囚われてあっちにふらふら、こっちにふらふらする小夜子を節操なしと断ずるのは簡単な話。でも、小夜子なりに一生懸命なところが垣間見えるので、あんまり責める気にはならないんですよ。ラスト、雛子の粋な計らいが実を結ぶよう、願ってやみません。
「烏の鳴かぬ夜はあれど」・・・家裁調査官・陽子は、ひょんなことから、フィリピン人ホステスのテスと知り合う。テスは暴力的な日本人夫に息子を奪われ、虐待の疑惑までかけられ、打ちのめされていた。暴力を振るっていたのが夫の方だと証明できれば、息子の親権はテスが持てるかもしれない。陽子は旧知の仲である雛子に、夫を探ってくれるよう頼むのだが・・・・・
シリーズ第一弾にも出てきた家裁調査官・陽子が再登場します。この話のテーマになるのは、国際結婚が絡んだ離婚騒動。テスが陥った状況は確かに過酷ですが、外国人配偶者による子供の一方的な連れ去りがあることは事実だし、行政も厳しい対応を取らざるを得ないのかな・・・陽子が、任務のためなら平気で危険に飛び込む雛子のことを心底気にかけているところが、なんだか嬉しかったです。
「別れの夜には猫がいる」・・・交通事故でピアニストの夢を絶たれ、リストカットを繰り返すようになった楓。唯一、彼氏の玲二といる時だけは心穏やかでいられるが、そのため玲二は生活すべてを楓に捧げている状況だ。玲二を解放してあげたい。しかし、揉めたくはない。そう考えた楓は、強奪屋に玲二を誘惑してくれるよう頼み・・・・・
オフィスCATの従業員・楓の過去が語られます。手抜かりは多いけどパワフルに見えた楓に、こんな背景があったとは・・・自分の本心を向き合い、一つの選択をした楓にかける、雛子の言葉が染み入ります。でも、楓ってすごくいいお姉さんもいるし、雛子という頼れる(?)上司にも出会えたし、なんだかんだで人に恵まれているよなぁ。
このシリーズ、知らない間にドラマ化されていただけでなく、知らない間に第三弾『泥棒猫リターンズ』まで刊行されていました。しかもなんと、五年前に!!永嶋恵美さん、大好きなのに今の今まで気づかなかったとは一生の不覚。一日も早く最新刊も読みたいものです。
重い事件ばかりだけど後味は爽やか!度★★★★★
オフィスCATの他の従業員がちょっと気になる・・・度★★★★☆
泥棒猫ヒナコの3作目が出ていたのですね。
ドラマまであったとは驚きました。
永嶋恵美さんにしては読みやすく馴染み安いシリーズですので読んでみたいです。
1作目と2作目を読んでから読みたくなりました。
全然知らない内にドラマ化までされていて、心底ビックリしました。
永嶋恵美さんの作品は、下手すると登場人物全員生き地獄・・・というパターンも決して珍しくないので、本作のライトな雰囲気がすごく新鮮です。
三作目は図書館に入庫していないようなので、取り寄せ依頼をかけました。