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「Q&A」 恩田陸

<群衆事故>という事故があります。文字通り、統制・誘導されていない群衆によって引き起こされる事故のことで、集団の密度が高ければ高いほど発生リスクが高まるのだとか。二〇二二年に韓国で起きた梨泰院群衆事故は記憶に新しいですし、日本でも二〇〇一年に兵庫県明石市で花火大会帰りの群衆が歩道橋に殺到し、十一名の死者を出す大惨事になっています。

これは群衆事故に限った話ではありませんが、悲惨な事故が起こった場合、<なぜそんなことが起こったか>を調べるのはとても大事なことです。そして、フィクション作品の場合、大抵この<なぜ>の部分にとんでもない謎や秘密が仕掛けられていることが多いです。では、この作品はどうでしょうか。今回は、恩田陸さん『Q&A』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

インタビュー形式で進むホラーミステリーが好きな人

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「すみせごの贄」 澤村伊智

クリエイターは作品を創り出して当然と思われがちですが、人間である以上、創作ペースには個人差があります。心身や周辺環境等の事情により、思うように仕事ができないことだってあるでしょう。シリーズ作品の連載が中断されたり、新作が出ないことがあっても、あまりピリピリせず気長に待った方が、消費者にとっても気楽です。

とはいえ、好きな作家さんの作品がどんどん出たら嬉しいのが人情というもの。おまけにそのレベルが高いなら、これほど幸せなことはありません。多作な作家さんと言えば、最近なら中山七里さん辺りが挙がりそうですが、この方だって負けてはいませんよ。今回ご紹介するのは澤村伊智さん『すみせごの贄』です。

 

こんな人におすすめ

『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

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「3分で不穏!ゾクッとするイヤミスの物語」 このミステリーがすごい!編集部

傑作選。読んで字のごとく、特定のジャンルや著者の作品の中から、良作を選りすぐったもののことです。基本、すでに世に出ている作品から選ばれるので、新作だと思って手を伸ばしたら「知ってるやつばかりじゃん!」とショックを受けることもあり得ます。

とはいえ、対象作品を読み尽くしていない場合は、傑作選はとても有難い存在です。何しろ収録されているのは、ほぼ確実にレベルの高い作品ばかり。読んでガッカリする可能性は低いです。「この人の作品、他にはどんなのがあるんだろう」「こういうジャンルってあんまり知らないから、とりあえずお勧め作品を読んでみたいな」という時にはぴったりですよ。例えば、「今までイヤミスを読んだことってなかったから、お勧めがあれば読んでみよう」という方には、これなんていかがでしょうか。「このミステリーがすごい!」編集部による『3分で不穏!ゾクッとするイヤミスの物語』です。

 

こんな人におすすめ

イヤミス専門のアンソロジーが読みたい人

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「さっちゃんは、なぜ死んだのか?」 真梨幸子

これまでミステリーやホラー小説のレビューで散々「仰天しました」「まんまと騙されました」「驚きでひっくり返りそうでした」と書いてきたことからも分かるように、私は物事の裏を読むのが苦手です。小説にしろ映画にしろ、どんでん返し系の作品はほぼ一〇〇パーセント引っかかり、ラストで絶句するのがいつものパターン。なんならティーンエイジャー向けに書かれたヤングアダルト小説にすら、しっかり騙されてしまいます。

とはいえ、それなりに長い読書人生の中には、珍しくトリックを見破れた経験も少ないながら存在します。作者の術中にまんまとはまり、ラストでびっくりするのも楽しいですが、隠された真相に気付くのもそれはそれでオツなもの。今日取り上げる作品は、ものすごく久しぶりにトリックを看破することができて嬉しかったです。真梨幸子さん『さっちゃんは、なぜ死んだのか?』です。

 

こんな人におすすめ

社会背景を活かしたイヤミスに興味がある人

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「墓じまいラプソディ」 垣谷美雨

<墓>という場所は、石器時代から存在していたそうです。当時はただ遺体を埋めた後に土を盛り上げておいただけのようですが、徐々に形式ができ、宗派による違いも生まれ、現在の形に至りました。故人の魂を労わると同時に、遺された人達の慰めとなる場所は、大昔から必要だったということですね。

しかし、このご時世、墓という存在がトラブルの種となることも珍しくありません。墓の維持管理には肉体的・精神的・経済的エネルギーが必要ですし、遺族が遠方在住の場合、墓参りするために一日仕事になってしまうこともあり得ます。そこで次第に<墓じまい>という方法が注目されてくるわけですが、これも簡単にはいかないようで・・・今回ご紹介するのは、垣谷美雨さん『墓じまいラプソディ』。墓じまいの悲喜こもごもがユーモアたっぷりに描かれていました。

 

こんな人におすすめ

お墓問題に関するユーモア・ヒューマンストーリーが読みたい人

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「スナッチ」 西澤保彦

SFやホラーの分野では、しばしば<主要登場人物が何者かに体を乗っ取られる>というシチュエーションが登場します。見た目は本人そのものなので周囲は異変に気付かず、狼藉を許してしまうというハラハラドキドキ感がこの設定のキモ。乗っ取られる側にしても、<完全に意識が消滅する><意識はあるが指一本動かせず、自分の体の悪行を見ているしかない><無意識下(睡眠中とか)に悪行が行われるため、乗っ取られた自覚ゼロ>等々、色々なパターンが存在します。

登場人物の見た目が重要な要素になるせいか、小説より映像作品でよく出てくる設定な気がします。私が好きなのはハリウッド映画の『ノイズ』。宇宙からの帰還後、別人のようになってしまう夫を演じたジョニー・デップがミステリアスで印象的でした。では、小説界でのお気に入りはというと、ちょっと特殊な作風ながらこれが好きなんですよ。西澤保彦さん『スナッチ』です。

 

こんな人におすすめ

特殊な設定のSFミステリーに興味がある人

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「暗黒祭」 今邑彩

創作の世界には<因習村もの>というジャンルが成立します。古いしきたりや伝説に支配される土地を舞台にした作品のことで、どちらかといえば<閉鎖的><因縁深い>といったマイナスイメージの描写が多い気がしますね。一部例外はあるものの、基本的に都市部から遠く離れ、外部への連絡・避難手段に乏しい田舎が舞台となる傾向にあるようです。

この手のジャンルで一番有名なのは、国内では満場一致で横溝正史御大による『金田一耕助シリーズ』ではないでしょうか。それから、小野不由美さんの『屍鬼』や三津田信三さんの『刀城言耶シリーズ』も該当するでしょうね。長年に渡ってその土地に染み込んできた罪業や因縁がテーマとなる分、すっきり解決して大団円!ではなく、後味の悪いラストを迎えるケースが多いように思います。では、今回取り上げる作品はどうでしょうか。今邑彩さん『蛇神シリーズ』の完結編『暗黒祭』です。

 

こんな人におすすめ

・因習が絡む土着ホラーが好きな人

・『蛇神シリーズ』のファン

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「こちら空港警察」 中山七里

空港。読んで字の如く空の港であり、国内外を結ぶ要です。旅行や出張の際はお世話になることも多い場所のため、親しみを感じる人もたくさんいるでしょう。飛行機移動の予定がなくても、空港内を散策したりショップ巡りするのが好きという人も結構いるようですね。私自身、大の甘党のため、空港のお菓子コーナーをうろうろするのが大好きです。

とはいえ、悲しいかな、空港はいつも楽しく和気藹々としているわけではありません。多くの人間が出入りし、海外との往来の要所ともなる性質上、犯罪の通過点になり得てしまうのです。そんな場所だからこそ、こういう刑事にいてもらえたらどれだけ安心でしょうか。今回取り上げるのは、中山七里さん『こちら空港警察』。中山ワールドに新たな名刑事が誕生しました。

 

こんな人におすすめ

・空港にまつわる犯罪をテーマにした作品に興味がある人

・癖のある刑事キャラが好きな人

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「変な家2」 雨穴

二〇二四年三月、映画『変な家』が公開されました。YouTubeの動画時代から雨穴さんの作品の大ファンだった私は、すっかりメジャーになって・・・と感無量。動画版があまりに完成されていたこともあり、ホラー寄りのアレンジがなされた映画版は賛否両論あるようですね。『変な家』の場合、<短編動画→後日談を付けて長編小説化→ホラー風の映画化>という順に進んできたので、余計に意見が分かれるのかもしれません。私としては、「動画や小説とは違うけど、独立した作品としては面白い!」という感じでした。

とはいえ、「雨穴さんの作品の持つじわじわこみ上げるような怖さは、大画面じゃ再現しきれない」と感じるファンも一定数いることでしょう。私自身、そういう気持ちが一切ないと言えば嘘になってしまいます。映画版に物足りなさを感じた時は、この作品がお勧めですよ。今回ご紹介するのは雨穴さん『変な家2』です。

 

こんな人におすすめ

家にまつわるサイコサスペンスが読みたい人

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「ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語」 株式会社闇(編集) 

本を知るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。本屋や図書館に並んでいるのを見たり、人からお勧めされたり、テレビで紹介されていたり・・・まさに千差万別、百人いれば百通りのきっかけがありそうです。

私の場合、ここ最近は<動画で取り上げられていた>というパターンが増えてきました。特に見る機会が多いのがYouTube。世界中の人が利用しているだけあって、本について触れた動画も結構多く、意外な良作に出会えたりします。今回取り上げる作品も、YouTubeの動画をきっかけに知りました。株式会社闇編集による『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

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