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「少女達がいた街」 柴田よしき

「青春」という言葉の成り立ちは案外古く、古代中国の五行思想に登場しているそうです。本来は「春」という季節を意味する単語であり、転じて日本では「人生において、未熟ながら若々しく元気に溢れた時代」という使われ方をするようになったんだとか。何歳が青春なのかというと、これは人それぞれ考え方があるでしょうが、一般的には大体中学生くらいから二十歳前後といったところでしょうか。

「未熟な登場人物が成長する」というストーリーを成立させやすい分、青春時代を扱った小説は数限りなくあります。あまりにありすぎて挙げるのが大変なくらいですが、ぱっと思いつくだけでも恩田陸さんの『夜のピクニック』、金城一紀さんの『GO』、山田詠美さんの『放課後の音符(キイノート)』などなど名作揃い。これらはすべて切なくも瑞々しい青春時代を描いた爽やかな物語ですが、中には青春の苦さ、痛々しさをテーマにした作品もあります。それがこれ、柴田よしきさん『少女達がいた街』です。

 

こんな人におすすめ

ノスタルジックな雰囲気のあるミステリーが読みたい人

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「私の家では何も起こらない」 恩田陸

他のジャンルがそうであるように、ホラーという分野にも「ブーム」が存在します。ここ最近ヒットしたホラー作品を見る限り、今は「一番怖いのは人間だよ」ブーム。人間の欲望や狂気が引き起こす恐怖は、現実にも起こりそうな臨場感があって怖いですよね。

ですが、人外の存在が巻き起こす意味不明な恐怖もまた恐ろしいです。この世の常識が通用せず、ただ「関わってしまったから」という理由で怪異に見舞われる登場人物たち。この手の作風は三津田信三さんがお得意ですが、この方の小説もかなりのものでした。今回取り上げるのは恩田陸さん『私の家では何も起こらない』。王道をいく幽霊譚が楽しめますよ。

 

こんな人におすすめ

スタンダードな幽霊屋敷小説を読みたい人

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「女が死んでいる」 貫井徳郎

以前、別の記事で、図書館の予約システムについて書きました。読みたい本を確実に読めるよう貸出予約を入れるというもので、当然、人気の本には何百件もの予約が殺到します。となると、なかなか本を借りにこない予約者をいつまでも待ち続けるわけにもいかないので、大多数の図書館では予約本の取り置き期間というものを設けています。自治体によって違うようですが、基本、十日~二週間というケースが多いようですね。

取り置き期間内に本を引き取りに行ければ万事オーケー。しかし、体調や仕事、身内の用事など様々な事情で期間内に図書館に行くことができず、涙を飲んで予約をキャンセルせざるをえないことだってあるでしょう。私自身、そういう憂き目にあった経験がありますが、この本は期間終了間際にどうにか時間を作り、図書館に引き取りに行くことができました。それがこれ、貫井徳郎さん『女が死んでいる』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しが仕掛けられたミステリー短編集が読みたい人

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「TAS 特別師弟捜査員」 中山七里

子どもの頃から推理小説好きだった私には、憧れのシチュエーションがあります。それは<警察の信頼を得て捜査協力を求められる少年少女>というもの。現実にはおよそあり得ないんでしょうが、「もし自分がこんな風に事件に関わることができたなら・・・」とワクワクドキドキしたものです。

この手の設定で一番有名なのは赤川次郎さんの作品でしょう。『三姉妹探偵団シリーズ』『悪魔シリーズ』『杉原爽香シリーズ』などには、刑事顔負けの推理力・行動力を発揮するティーンエイジャーがたくさん登場します。人気を集めやすい状況だからか、長期シリーズ化することも多いようですね。だったら、この作品も今後シリーズ化されるのかな。中山七里さん『TAS 特別師弟捜査員』です。

 

こんな人におすすめ

高校生探偵が登場する学園ミステリーが読みたい人

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「ガラスの殺意」 秋吉理香子

人生を築き上げていく上で、大事なものはたくさんあります。愛情が最も大事だという人もいれば、お金こそ一番と感じる人もいるでしょう。そんな中、つい忘れられがちですが、<記憶>もまた生きていく上で大切な要素です。日々の記憶を積み重ねることで人生は成り立つもの。もしその記憶を保つことができなければ、人生はどれほど辛く寂しいものになるでしょうか。

<記憶喪失>ではなく<記憶を保持できない>登場人物が出てくる物語となると、愛川晶さんの『ヘルたんシリーズ』、小川洋子さんの『博士の愛した数式』、西尾維新さんの『忘却探偵シリーズ』などが思い浮かびます。最近読んだ小説にも、記憶を保てないことに悩み苦しむヒロインが登場しました。秋吉理香子さん『ガラスの殺意』です。

 

こんな人におすすめ

記憶障害をテーマにした小説が読みたい人

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「ショコラティエの勲章」 上田早夕里

私は友人知人から<スイーツ女王>と言われるほどの甘党です。中でも目がないのは、チョコレートパフェやガトーショコラといったチョコレート系のスイーツ。昔、デザートビュッフェでチョコレート系のスイーツばかり三十個近く食べ、カフェインを摂りすぎたせいか全く眠れなくなったこともありました(笑)

美味しそうなスイーツが登場する小説はたくさんあるものの、チョコレートがメインとなると、意外と少ないです。有名どころだと、ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』と、大石真さんの『チョコレート戦争』くらいでしょうか。この二作品ほどの知名度はないかもしれませんが、今回ご紹介する小説にも、それはそれは美味しそうなチョコレート・スイーツが出てきますよ。上田早夕里さん『ショコラティエの勲章』です。

 

こんな人におすすめ

スイーツが登場するコージー・ミステリーが読みたい人

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「未来」 湊かなえ

幸せないっぱいの人生を送りたい。これは、私を含む大多数の人間の望みでしょう。自分で言うのも何ですが私は甘ったれな人間なので、「贅沢言わないから、健康で、普通に遊んだり美味しい物を食べたりできる程度の財産があって、人間関係にも恵まれた一生を送りたいな」などと、ぼんやり夢見ることがよくあります。

現実では幸せを願うのが一般的なんでしょうが、小説や映画の世界ならば、登場人物が悲惨な目に遭うことで逆に物語の面白さが増すこともあります。ヴィクトル・ユーゴーの『ああ無情』はその典型的な例ですよね。他にも、山田宗樹さんの『嫌われ松子の一生』、百田尚樹さんの『モンスター』、田中慎弥さんの『共喰い』などの登場人物たちは、幸福とは程遠い人生を歩んでいますが、その重苦しさが読者を強く魅了します。今回取り上げるのは、湊かなえさんの直木三十五賞候補作『未来』。この作品で描かれる不幸の数々もかなりのものでした。

 

こんな人におすすめ

陰鬱な雰囲気のミステリーが読みたい人

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「蜜蜂と遠雷」 恩田陸

インドア派の趣味の代表格と言えば、「読書」「映画鑑賞」「音楽鑑賞」といったところでしょうか。その内、前の二つは私も大好きですが、「音楽鑑賞」は今一つ馴染みがありません。ドラマや映画の主題歌になった人気曲や、音楽の教科書に載るような有名クラシックをいくつか知っているくらいです。

とはいえ、音楽が嫌いなわけではないですし、音楽をテーマにした小説も大好きです。中山七里さんの『岬洋介シリーズ』や森絵都さんの『アーモンド入りチョコレートのワルツ』などは図書館で何度も借りましたし、毛利恒之さんの『月光の夏』に至っては感動のあまり即座に映画版のビデオをレンタルしたほどです。そして、音楽小説の名作といえば、これを外すことはできないでしょう。恩田陸さん『蜜蜂と遠雷』です。

 

こんな人におすすめ

ピアノをテーマにした小説が読みたい人

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「満月ケチャップライス」 朱川湊人

<超能力>という言葉を聞くと、なんだかわくわくしてきます。手を触れずに物を動かしたり、未来の出来事を見通したり、一瞬で遠く離れた場所に移動したり・・・文字通り、普通の人間の力を超えた能力だからこそ、余計に憧れが募ります。

超能力を扱った創作物の場合、その能力を使って敵と戦うアクション作品と、異能を持つがゆえに悩み苦しむ超能力者を描いたヒューマンドラマの二パターンに分かれることが多いです。前者は派手で迫力ある展開になるからか、漫画や映画でよくありますね。『X-MEN』などのようなアメコミ作品がその代表格でしょう。今回は、後者の作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さん『満月ケチャップライス』です。

 

こんな人におすすめ

超能力が出てくる、悲しくも心温まる物語が読みたい人

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「中島ハルコはまだ懲りてない!」 林真理子

悩みを抱えた時の一番スタンダードな解決方法は、「誰かに相談する」だと思います。ネットで調べる・占いに頼る・趣味に没頭して気を紛らわせる、などの方法もありますが、これだと正確性に欠けたり、根本的な問題解決にならなかったりしますよね。信頼できる誰かと向き合い、悩みを打ち明ければ、たとえ解決策が見つからなくても気持ちが軽くなるものです。

となると次なる問題は「相談相手として誰を選ぶか」ということです。両親や配偶者など、確実に頼れる身内がいる人はいいでしょう。ですが、そういった身内を持たない人もいますし、場合によってはその身内が悩みの種だったりするケースもあります。恋人や友達にしたって、性格や能力その他諸々によっては、「好きだけど、的確な助言をくれる相手ではない」ということだってあり得ます。でも、この人が知人ならば、悩み相談する相手を迷わずに済むんじゃないでしょうか。林真理子さん『中島ハルコはまだ懲りてない!』に登場する中島ハルコです。

 

こんな人におすすめ

コミカルで痛快な人間模様が読みたい人

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