サスペンス

はいくる

「復讐の泥沼」 くわがきあゆ

「今日は救いようがないイヤミスを読みたいな」と思った時、私はタイトルを参考にすることが多いです。胸糞悪いイヤミスやホラーって、タイトルもそれらしいケースがしばしばなんですよ。もちろん、タイトル詐欺という場合も結構多いんですけどね。

過去に読んだ作品を例に挙げると、櫛木理宇さんの『依存症シリーズ』、貫井徳郎さんの『慟哭』『愚行録』、真梨幸子さんの『殺人鬼フジコの衝動』などは、期待通りの後味の悪さを味わえました。タイトルもまた作品の一部。表紙に手をかけた瞬間の予想がドンピシャで当たるのは、なかなか嬉しいものです。今日ご紹介するのも、「これは絶対にどす黒いイヤミスだろ」と思いながら読み始め、見事に予想的中した作品です。くわがきあゆさん『復讐の泥沼』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるサイコサスペンスが読みたい人

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「首なし晩餐 スローライフ警視の事件簿」 櫛木理宇

<スローライフ>とは、効率重視の生活を見直し、時間や義務に追われず自分らしくゆったり生きようという思想のことです。現在は生き方全般を指すことが多いようですが、この思想誕生当初は、食生活・食文化の見直しを意味していました。ファストフードの代表であるマクドナルドがイタリアに初出店した際、一部のイタリア国民が猛反発し、そこからスローフード運動が始まったのだとか。こういう経緯があったと知った時は「へええ」と唸ってしまいました。

実際、スローライフが描かれる小説には、美味しそうな料理が出てくることが多いです。小川糸さんの『食堂かたつむり』などがいい例ですね。食生活は、人生の基盤。美味しそうな食事描写が出てくると、読んでいるこちらの気持ちも満たされます。今回、ご紹介する作品もそうでした。櫛木理宇さん『首なし晩餐 スローライフ警視の事件簿』です。

 

こんな人におすすめ

・人間の悪意が光る警察ミステリーに興味がある人

・美味しそうな料理が登場する小説が読みたい人

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「おしまいの日」 新井素子

ホラーの中には、<サイコロジカルホラー>というジャンルがあります。サイコロジカル(心理的)という単語が付くだけあって、人間の狂気がテーマとなっており、日本では<サイコホラー>と省略されることが多いです。モンスターが大暴れするタイプのホラーとは異なり、じわじわネチネチと精神を蝕まれるような恐怖描写が特徴です。

この手のジャンルの有名どころといえば、我孫子武丸さん『殺戮にいたる病』、貴志祐介さん『黒い家』、中山七里さん『連続殺人鬼カエル男シリーズ』などがあります。海外作品だと、『サイコ』や『ミザリー』などは映画版も有名ですね。サイコホラーにおける重要なポイントは、怨霊や呪いといったオカルト要素ではなく、生身の人間による恐怖を演出すること。その点、今日ご紹介する作品はとても秀逸だと思います。新井素子さん『おしまいの日』です。

 

こんな人におすすめ

女性の静かな狂気を描いたサイコホラーに興味がある人

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「どんどん橋、落ちた」 綾辻行人

ミステリーの技法の一つに<読者への挑戦>というものがあります。これは、作中の探偵役が、推理を披露する前に一旦話を止め、読者に対して「あなたには真相が分かりましたか?」と問いかけてくる形式のこと。このやり方を実施するためには、きちんと推理できるよう、読者に向けてフェアに証拠を提示する必要があります。

<読者への挑戦>で有名なのは、エラリー・クイーンの『国名シリーズ』。それに強い影響を受けた、有栖川有栖さんの『学生アリスシリーズ』。島田荘司さんの『占星術殺人事件』などがあります。どれも面白かったですが、インパクトという点では、これが一番ではないでしょうか。今回は、綾辻行人さん『どんどん橋、落ちた』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

犯人当てを楽しめるミステリー短編集に興味がある人

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「焼けた釘を刺す」 くわがきあゆ

私は、ミステリーやホラーのジャンルにおいて<一般人の主人公が事件に臨む>というシチュエーションが好きです。警察や法曹関係者、ジャーナリスト等が主人公だと、組織のあれこれや仕事上の葛藤が絡むことが多く、そちらに気持ちが引っ張られてしまうんですよ。それはそれで充分面白いものの、本来なら事件と無関係な一般人が事件に関わっていくというパターンの方が、物語にのめり込める気がします。

この場合、当然のことながら、一般人が事件に臨むための理由が必要となります。赤川次郎さん『死者の学園祭』では単なる好奇心から、宮部みゆきさん『夢にも思わない』では片思いの相手の名誉を守るため、若竹七海さん『クールキャンディー』では殺人容疑をかけられた兄の無実を証明するため、主人公たちは非日常の世界へ飛び込んでいきました。でも、今回取り上げる作品のような動機で真相究明に挑む主人公って、なかなかいないのではないでしょうか。くわがきあゆさん『焼けた釘を刺す』です。

 

こんな人におすすめ

叙述トリック満載のミステリーが好きな人

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「変な地図」 雨穴

地図。その名の通り、土地の情報を記号や文字などを用いて平面上に表した図面のことです。文明の進歩に伴い、地図も進化してきましたが、原型となるものは旧石器時代から存在したのだとか。地理を視覚的に理解させ、適切な移動や情報分析を可能とする地図は、社会に必要不可欠な道具です。

現代において<地図>といえば、スマホやタブレット、パソコン上で簡単に検索でき、望めば目的地までナビしてくれる優れものですが、一昔前は違いました。必要な情報を得るため、紙の地図をじっくり眺め、ああでもないこうでもないと試行錯誤する必要があったのです。不便といえば不便なのかもしれませんが、そういう時代だからこそできる地図の使い方もあったのではないでしょうか。この小説を読んで、そんな風に思いました。今回は、雨穴さん『変な地図』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・閉鎖的な村が登場するミステリーが好きな人

・『変な~シリーズ』のファン

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「悪女たちのレシピ」 秋吉理香子

料理というのは、意外とサスペンスと相性がいい要素です。食欲は人間の三大欲求の一つ。そして、殺意や憎悪、妄執、狂気といったサスペンスに欠かせない感情も、悲しいかな、人間と切っても切り離せません。不可欠なもの同士、しっくり馴染むのは、ある意味で当然なのかもしれませんね。

料理と絡んだミステリーやサスペンス小説といえば、一番最近読んだのは近藤史恵さんの『ときどき旅に出るカフェ』。美味しそうな料理と、居心地良さそうなカフェの情景、温かみと同時に時折ほの暗さを感じさせる人間模様の描写が秀逸でした。それから今回ご紹介する小説にも、作中に料理がたくさん登場します。秋吉理香子さん『悪女たちのレシピ』です。

 

こんな人におすすめ

女性の殺意をテーマにしたサスペンスに興味がある人

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「閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書」 知念実希人

何らかの事件が起こった際、ニュースに以下のフレーズが出てくることがしばしばあります。「精神鑑定の結果を踏まえ、その他の証拠を総合的に考慮した上で・・・」「被告の精神鑑定を行った医師に尋問を行い・・・」。この<精神鑑定>とは、裁判所が被告人等の精神状態・責任能力を判断するため、精神科医といった鑑定人に命じる鑑定の一つ。結果如何によっては裁判所の判断が大きく変わることも有り得る、重要な行為です。

何かと賛否両論を巻き起こしがちなテーマですが、それだけ世間の関心を集めるだけあって、精神鑑定が登場するフィクション作品もたくさんあります。私の場合、強烈に印象に残っているのは日本映画『39 刑法第三十九条』。練られた脚本といい、堤真一さんや鈴木京香さんら俳優陣の熱演といい、何年経っても忘れられない名作です。小説では、山田宗樹さんの『鑑定』も、発想の活かし方が面白かったですよ。先日読んだ小説でも、精神鑑定が大きな役割を果たしていました。知念実希人さん『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』です。

 

こんな人におすすめ

モキュメンタリ―ホラー小説が好きな人

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「ボッコちゃん」 星新一

日本人は、神様との距離がとても近い民族です。この世のありとあらゆるものに神様が宿り、人間と絡むエピソードも実に豊富。神様と人間が結婚したり、いたずら好きの神様が人間にやり込められたり、神様がだまし討ちにされたりと、他宗教からすれば信じられないような話が山ほどあります。

神様との距離が近いせいか、日本では生きた人間を神様扱いすることも珍しくありません。菅原道真や徳川家康のように、本当に神社に祀られる例もありますし、特定の分野で多大な功績を挙げた人間を<〇〇の神様>と称することも多々あります。後者の場合、神社に祀るよりハードルが低いこともあって該当者数も多く、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。今日は、<ショートショートの神様>と称される星新一さんの短編集『ボッコちゃん』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

完成度の高いショートショート集に興味がある人

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「拷問依存症」 櫛木理宇

フィクションの世界には、<ダークヒーロー>というキャラクターが存在します。読んで字の如く<闇のヒーロー>のことで、正義と相対する立場ながら確固たる信念を持っていたり、悲劇的な過去ゆえに悪側になってしまったり、違法な手段を使いながら人を救ったりするキャラクターを指します。例を挙げると、映画『スターウォーズシリーズ』のダース・ベイダーや、大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公・夜神月などですね。これらのキャラクターは、どうかすると正義側の主人公より人気を集めることもあったりします。

では、ダークヒーローと、ただの悪党の違いは何でしょうか。もちろん、法律上の定義などはありませんが、一般的には、何らかの背景なり美学を持ち、人を救うこともあり得るのが<ダークヒーロー>、目先の利益に溺れるのが<小悪党>という分け方をされている気がします。闇側の存在とはいえ、<ヒーロー>の名を冠するからには、ちんけな小物ではダメということでしょう。それならば、果たして今日ご紹介する作品の登場人物は、ダークヒーローといえるのでしょうか。今回は、櫛木理宇さん『拷問依存症』を取り上げたいと思います。

 

<こんな人におすすめ>

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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