サスペンス

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「凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎」 櫛木理宇

新興宗教。読んで字の如く、伝統宗教(カトリック教会、十三宗五十六派の仏教、イスラム教、ヒンドゥー教etc)と比べ、成立時期が新しい宗教のことです。<時期が新しい>という基準がかなり曖昧な関係上、国内外合わせて相当な数の宗教団体がこれに該当します。

言うまでもなく、新興宗教自体は悪でも違法でもありません。前述した伝統宗教も、成立当初は新興宗教でした。ですが、オウム真理教のテロやヘヴンズ・ゲートの集団自殺、アガドンサンの連続不審死といった事件が目に付き、新興宗教に対して懐疑的な視線が集まりがちなこともまた事実。それはフィクションの世界でも同様で、澤村伊智さんの『邪教の子』や貫井徳郎さんの『慟哭』には、怖気が走りそうなほど異常な宗教団体が出てきました。先日読んだ作品に登場する新興宗教も、読んでいて非常に胸糞悪かったです。今回は、櫛木理宇さん『凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』をご紹介しようと思います。

 

こんな人におすすめ

・新興宗教を扱ったサスペンス小説に興味がある人

・『鳥越恭一郎シリーズ』のファン

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「謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿」 西澤保彦

<事件解決>とは、果たしてどのタイミングを指すのでしょうか。<捜査>という観点からいうと、犯人を逮捕したタイミング。もっと踏み込むなら、逮捕後、裁判によって動機や犯行方法等がすべて明らかとなり、然るべき刑を科されたタイミングだと考える人が多い気がします。

ただ、創作の世界に関して言えば、必ずしも逮捕や裁判が事件解決の必須条件となるわけではありません。登場人物の会話や独白、回想等で真相発覚・事件解決となることもあり得ます。「で、この後どうなるの!?」「犯人は捕まったの!?」というモヤモヤ感を残すことが多いため、イヤミスやホラーのジャンルでしばしば出てくるパターンですね。消化不良という批判を浴びがちですが、私はこういう後味の悪さが大好きです。そして、登場人物のやり取りで謎解きするという作風なら、やっぱりこの方でしょう。今回は、西澤保彦さん『謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・多重解決ミステリーが読みたい人

・『匠千暁シリーズ』が好きな人

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「薔薇を拒む」 近藤史恵

薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。

と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。

 

こんな人におすすめ

不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人

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「3分で不穏!ゾクッとするイヤミスの物語」 このミステリーがすごい!編集部

傑作選。読んで字のごとく、特定のジャンルや著者の作品の中から、良作を選りすぐったもののことです。基本、すでに世に出ている作品から選ばれるので、新作だと思って手を伸ばしたら「知ってるやつばかりじゃん!」とショックを受けることもあり得ます。

とはいえ、対象作品を読み尽くしていない場合は、傑作選はとても有難い存在です。何しろ収録されているのは、ほぼ確実にレベルの高い作品ばかり。読んでガッカリする可能性は低いです。「この人の作品、他にはどんなのがあるんだろう」「こういうジャンルってあんまり知らないから、とりあえずお勧め作品を読んでみたいな」という時にはぴったりですよ。例えば、「今までイヤミスを読んだことってなかったから、お勧めがあれば読んでみよう」という方には、これなんていかがでしょうか。「このミステリーがすごい!」編集部による『3分で不穏!ゾクッとするイヤミスの物語』です。

 

こんな人におすすめ

イヤミス専門のアンソロジーが読みたい人

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「さっちゃんは、なぜ死んだのか?」 真梨幸子

これまでミステリーやホラー小説のレビューで散々「仰天しました」「まんまと騙されました」「驚きでひっくり返りそうでした」と書いてきたことからも分かるように、私は物事の裏を読むのが苦手です。小説にしろ映画にしろ、どんでん返し系の作品はほぼ一〇〇パーセント引っかかり、ラストで絶句するのがいつものパターン。なんならティーンエイジャー向けに書かれたヤングアダルト小説にすら、しっかり騙されてしまいます。

とはいえ、それなりに長い読書人生の中には、珍しくトリックを見破れた経験も少ないながら存在します。作者の術中にまんまとはまり、ラストでびっくりするのも楽しいですが、隠された真相に気付くのもそれはそれでオツなもの。今日取り上げる作品は、ものすごく久しぶりにトリックを看破することができて嬉しかったです。真梨幸子さん『さっちゃんは、なぜ死んだのか?』です。

 

こんな人におすすめ

社会背景を活かしたイヤミスに興味がある人

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「変な家2」 雨穴

二〇二四年三月、映画『変な家』が公開されました。YouTubeの動画時代から雨穴さんの作品の大ファンだった私は、すっかりメジャーになって・・・と感無量。動画版があまりに完成されていたこともあり、ホラー寄りのアレンジがなされた映画版は賛否両論あるようですね。『変な家』の場合、<短編動画→後日談を付けて長編小説化→ホラー風の映画化>という順に進んできたので、余計に意見が分かれるのかもしれません。私としては、「動画や小説とは違うけど、独立した作品としては面白い!」という感じでした。

とはいえ、「雨穴さんの作品の持つじわじわこみ上げるような怖さは、大画面じゃ再現しきれない」と感じるファンも一定数いることでしょう。私自身、そういう気持ちが一切ないと言えば嘘になってしまいます。映画版に物足りなさを感じた時は、この作品がお勧めですよ。今回ご紹介するのは雨穴さん『変な家2』です。

 

こんな人におすすめ

家にまつわるサイコサスペンスが読みたい人

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「ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語」 株式会社闇(編集) 

本を知るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。本屋や図書館に並んでいるのを見たり、人からお勧めされたり、テレビで紹介されていたり・・・まさに千差万別、百人いれば百通りのきっかけがありそうです。

私の場合、ここ最近は<動画で取り上げられていた>というパターンが増えてきました。特に見る機会が多いのがYouTube。世界中の人が利用しているだけあって、本について触れた動画も結構多く、意外な良作に出会えたりします。今回取り上げる作品も、YouTubeの動画をきっかけに知りました。株式会社闇編集による『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

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「あなたには、殺せません」 石持浅海

「大嫌いなあいつをぶん殴ってやりたい」「あそこにある金を奪えたら、どんなに楽になるだろう」。そんな不埒な考えが一瞬頭をよぎることは、決して珍しいことではありません。私は昔、ハードなダイエットのせいで精神的にめげていた時、ケーキ売り場を見るたび「この場で商品を片っ端から鷲掴みにして食べられたら、楽しいだろうなぁ」と思ったものです。

多くの人間は、罪を犯す考えが脳裏に浮かんでも、実行せず空想に留めておきます。その理由は様々だと思いますが、突き詰めると、「バレたら大変なことになるから」ではないでしょうか。逮捕されれば犯罪者となり、刑を科され、場合によっては仕事や家庭を失うこともあり得る。自分ばかりか、身内までもが<加害者家族>として世間から後ろ指を指される。大抵の場合、犯罪に走ったってデメリットの方が大きいのです。この本を読んで、改めてそう思いました。石持浅海さん『あなたには、殺せません』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いた倒術ミステリー短編集が読みたい人

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「光と影の誘惑」 貫井徳郎

あくまでフィクション限定の話ですが、作中に登場する犯罪者に共感したり、応援してしまったりすることがしばしばあります。こういう犯罪者の場合、犯罪者なりに矜持を持っているとか、実は被害者側が諸悪の根源だったとかいうパターンが多いですね。実際、悪人を主人公としたピカレスク小説は、国内外を問わず山ほどあります。

しかし、現実問題、そんなカッコいい犯罪者などそうそういるはずがありません。犯罪とは身勝手で、卑劣で、人を不幸にするもの。この作品を読んで、しみじみそう思いました。貫井徳郎さん『光と影の誘惑』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いイヤミスが好きな人

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「監禁依存症」 櫛木理宇

<監禁>という言葉の定義について調べると、<人を一定の区画内に閉じ込め、そこから出られない状態にすること>と出てきます。手錠やロープ等で身体を拘束することだけでなく、脅迫等を用いて脱出困難な状態に追いやることも監禁に相当するのだとか。この犯罪の特異な点は、ひったくりや通り魔的な殺傷事件と違い、犯人側もそれなりの準備や工夫を行わなければならないという点でしょう。

小説の世界で例を挙げると、秋吉理香子さんの『監禁』でも、永井するみさんの『大いなる聴衆』でも、犯人は周到な準備を行った上でターゲットを監禁していました。そういえば綾辻行人さんの『迷路館の殺人』のように、広大なからくり屋敷を使って登場人物達を出られないようにするという突飛なケースもあったっけ。先日読んだこの作品にも、狡猾な犯人による恐ろしい監禁事件が出てきました。櫛木理宇さん『監禁依存症』です。

 

こんな人におすすめ

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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