私は、一人の作家さんにハマると、その方の作品をひたすら読み続ける傾向にあります。近藤史恵さん、真梨幸子さん、乃南アサさん等々、ふとした瞬間に熱が再燃し、延々と読み返したものです。図書館の貸し出し履歴を見ると、当時の私がどの作家さんにハマっていたか一目瞭然で、ちょっと面白かったりします。
ただ、こういう読み方には、弊害が一つあります。一人の作家さんに注目するあまり、その他の作家さんの情報に疎くなり、「え!いつの間に新刊出ていたの!?」ということがしばしばあるということです。今回取り上げる作品も、刊行されていたことに気付いておらず、著作一覧のページを見てものすごく驚きました。美輪和音さんの『暗黒の羊』です。
こんな人におすすめ
人の闇を描いたサイコサスペンス短編集に興味がある人
承認欲求を満たすために踏み出した禁断の一歩、中傷に苦しむ少女が知った呪いの正体、隣家で起こった騒ぎの恐るべき真実、人里離れた山小屋で交錯する罪と罰、血塗られた洋館で浮かび上がる因縁の結末・・・・・すべての陰に、羊目の女がいる。恐怖と狂気の行方を描く、著者渾身のサイコサスペンス短編集
大好きな『強欲な羊』の続編です。なんと二〇二〇年に刊行されていたにも関わらず、ずっと気づいていなかったなんて、美輪和音さんのファンとしてはお恥ずかしい限り・・・構成力といい描写力といい、前作より数段パワーアップしていて、すごく面白かったです。
「炎上する羊」・・・清楚で愛らしい穂乃花と結婚することができ、会社員・信隆の人生はまさにバラ色。ある夜、友人夫妻と出かけた先で、轢き逃げ事故を目撃する。その時、穂乃花が偶然撮影した動画がもとで犯人逮捕に至り、SNSはお祭り騒ぎ。ネット上で持てはやされた穂乃花は、過激な事件や事故現場の動画投稿にのめり込むようになり・・・・・
SNSで大勢の人に注目・賞賛されて舞い上がる気持ちは、分からないでもありません。物語の中にも、こうして道を踏み外す登場人物は大勢います。ただ、この話の場合、穂乃花が賞賛だけでなく誹謗中傷されていることも承知の上で、投稿がやめられないところがポイント。中毒とはこういうものなのでしょう。冒頭、幸せそうだった夫婦の末路がこれかと思うと、しみじみと後味悪いです。
「暗黒の羊」・・・男に拉致されるも、無事生還を果たした女子高生・美月。だが、友人達は事件を面白おかしく噂し、クラスで孤立してしまう。なぜ被害者の私がこんな目に遭うのだろう。傷つく美月に対し、部活仲間の少女が、憎い相手を葬ることができる都市伝説を教えてくれて・・・・・
集団の中ではみ出し者(黒い羊)を作ることで、他の者達は結託し、連帯感が強まる。いじめやハラスメントのメカニズムがリアリティたっぷりで、なんとも嫌な気分にさせられました。とはいえ、最初は気の毒だった美月もなかなかどうして大したタマ。こういう仕掛け方、大好きです。
「病んだ羊、あるいは狡猾な羊」・・・マンションで一人暮らしを送る繭子の部屋に、ある日、隣家の主婦が駆け込んでくる。「夫を名乗る男が家にいるが、あれは夫ではなく別人だ。助けてほしい」。主婦は必死で訴えるも、どう考えても後を追ってきた夫の言い分の方が筋が通っていたため、繭子は夫に彼女を引き渡す。だが、その日から、主婦は姿を消してしまい・・・・・
繭子の独白形式で物語が進んでいきます。ミステリーでこの手の形式が出てきたら<語り手の言葉を鵜呑みにしちゃダメですよ>というのがお約束。たぶん、何か裏があるんだろうなと思っていましたが・・・・・あ、そういうことね(汗)真相が分かった上で読み返すと、あの行動もこの行動もすべて恐ろしくて仕方ありませんでした。あと、妄想性人物誤認症候群の説明がすごく興味深かったです。
「不寛容な羊」・・・一人の男が猛吹雪で遭難寸前となり、偶然見つけた山小屋に助けを求める。小屋では、不愛想な老人と、若い女三人、幼い少女一人が共同生活を送っていた。この不自然な家族は一体何なのだろう。もしや、この老人は、女や少女を監禁しているのでは?不審に思った男は、真相を探り始めるのだが・・・・・
前作『強欲な羊』収録作「ストックホルムの羊」の後日談です。主人公格である男がろくでもない奴ということは、言動の端々からすぐ察せられるのですが、山小屋の五人の真相は予想外でした。まさに触らぬ神に祟りなし。余計な手出しをしてしまった男の運命は悲惨なものの、所業が所業なので、読後感は悪くないです。
「因果な羊」・・・不気味な噂がある洋館を訪れた二人の女。この洋館で儀式を行うと、羊目の女が現れ、憎い相手を葬り去ることができるのだという。実際、洋館を巡る血生臭い話は後を絶たない。だが、女の一人は、そんな洋館を買い取ると言い出して・・・・・
これまでの四話の出来事・人間関係がここに帰結します。前作『強欲な羊』の最終話はゴリゴリのホラーでしたが、本作は伏線回収がばっちりなされるサイコサスペンス。これまでの出来事に触れられる箇所が多いので、できれば人物名等をしっかり整理してから読んだ方がいいと思います。ラストの展開を見るに、三作目の構想があるのでしょうか。
短編集ですが、前作『強欲な羊』との繋がりが非常に強いです。特に第四話「不寛容な羊」は、前作から読んでおかないと面白さが激減します。一話一話はさほど読むのに時間もかからないので、できれば両方手元に揃えた状態で、刊行順に読むことをお勧めします。
巡り巡るよ因果は巡る度★★★★★
人間関係は複雑ながら、しっかり覚える価値はある度★★★★☆
読書を再開した時、池井戸潤さんと有川ひろさんばかりで東野圭吾さん、湊かなえさん、柚木麻子さんを読み尽くして色んな作家さんを読むようになりました。
未読の作家さんです。
タイトルの羊はターゲットの意味でしょうか。
一作目から読んでみたくなりました。
イヤミス寄りの作風の作家さんで、私は大好きなんです。
羊は「ターゲット」の意味もあるだろうし、「羊の皮をかぶっているが実は・・・」という意味もあるかも?
機会があれば、ぜひ!