コメディ

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「お梅は次こそ呪いたい」 藤崎翔

長く続く物語には、時に<転機>というものが訪れます。中には、いわゆる<サザエさん形式>でまったく変わることのない作品もありますが、これは割合としては少数派ではないでしょうか。視聴者や読者を飽きさせないため、何らかの変化が生じることの方が多いと思います。

この<転機>の形は様々ですが、代表的なものの一つとして挙げられるのが<パワーアップ>。登場人物が修行を積んだり新キャラクターに出会ったりした結果、新たな力を手に入れるというパターンです。漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』等でも、主人公チームが修行期間を経てパワーアップするという展開が描かれました。それからこの作品でも、主人公(?)がパワーアップするんですよ。藤崎翔さん『お梅は次こそ呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

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「守護霊刑事」 藤崎翔

守護霊。文字通り、生者を守護してくれる霊のことです。大抵は、先祖や恋人、可愛がっていたペット等、縁のある存在が守護霊となるケースが多いようですね。困難にぶち当たった時、人知を超えた力で守ってくれる存在がいればいいな・・・そう夢想したことがある人は、決して少なくないと思います。

小説界で守護霊が活躍する作品といえば、有名どころだと『ハリー・ポッターシリーズ』があります。主要登場人物達が魔法使いということもあり、時に実体を得て敵相手に奮戦する守護霊達の姿は実に格好良かったです。あそこまで目立つ大活躍はしないものの、今回取り上げる作品の守護霊も大したものですよ。藤崎翔さん『守護霊刑事』です。

 

こんな人におすすめ

コミカルな刑事ミステリー短編集に興味がある人

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「モノマネ芸人、死体を埋める」 藤崎翔

フィクション作品、特にミステリーやサスペンスの世界において、数多くの登場人物達が死体と出くわします。常識的に考えれば、そこで真っ先にすべきことは<救急・警察に通報する>一択なものの、創作の世界となると話は別。主人公がどうにか死体を処分しようと苦悩するところから物語が始まる、という展開も珍しくありません。

ここで問題となるのが、死体の処分方法です。燃やす、沈める、バラバラにする等々、様々なやり方がありますが、一番よくあるのは<埋める>ではないでしょうか。土がある場所を掘りさえすればOK!とにかく死体を見えない状態にできる!というお手軽感(?)のせいかもしれませんね。とはいえ、物事はそんなに都合良く進まないのが世の中の常。目先の欲に振り回されたおかげで、とんでもない事態に陥ってしまうこともあり得ます。今回取り上げるのは、そんな修羅場に巻き込まれてしまった人間の悲喜劇、藤崎翔さん『モノマネ芸人、死体を埋める』です。

 

こんな人におすすめ

コミカルなクライムサスペンスが読みたい人

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「お梅は呪いたい」 藤崎翔

ホラー界における三種の神器とも言える恐怖アイテム、人形(個人的な残り二つは鏡と日記)。人形が怖いのは、人の形を模していることと、本来可愛いものというイメージがあるからでしょうか。愛らしいはずの人形が恐怖シーンに登場した時の恐ろしさは、そのギャップから、本気で鳥肌立ちそうになるものです。

ただ、一言で人形といっても、等身大のマネキンから、豪奢な装飾が施されたアンティークドール、子どもが片手で持てる着せ替え人形等々、たくさんの種類があります。その中でジャパニーズホラーにぴったりなのは、満場一致で日本人形でしょう。澤村伊智さんの『ずうのめ人形』や、漫画ですが山岸凉子さんの『わたしの人形は良い人形』には、読者の背筋を凍らせるほど怖い日本人形が登場します。それから、この作品に出てくる人形も、なかなかどうしてインパクト抜群でしたよ。藤崎翔さん『お梅は呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

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「三十年後の俺」 藤崎翔

万事においておっちょこちょいな私が、読む本を選ぶ上で気を付けているポイント。それが<改題>です。単行本から文庫化されたり、新装版が出版されたりする時、題名が変わるのはままあること。前の題名を連想させるような改題ならいいのですが、あまりにかけ離れた題名に変わっていると、「好きな作家さんの新刊だ!やった!」→「・・・と思ったら、前に読んだやつだった」というガッカリを味わうこともあり得ます。櫛木理宇さんの『少女葬』が、すでに読破済みだった『FEED』の改題だと知った時は悲しかったなぁ・・・

とはいえ、事前に内容をチェックしてさえいれば、改題は悪いことではありません。改題後の方がしっくりくるということだってあるでしょう。個人的には、真梨幸子さんの『更年期少女』は、改題後の『みんな邪魔』の方が好みだったりします。それからこの作品も、改題後の題名の方が好きなんですよ。藤崎翔さん『三十年後の俺』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックユーモアたっぷりの短編集が読みたい人

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「墓じまいラプソディ」 垣谷美雨

<墓>という場所は、石器時代から存在していたそうです。当時はただ遺体を埋めた後に土を盛り上げておいただけのようですが、徐々に形式ができ、宗派による違いも生まれ、現在の形に至りました。故人の魂を労わると同時に、遺された人達の慰めとなる場所は、大昔から必要だったということですね。

しかし、このご時世、墓という存在がトラブルの種となることも珍しくありません。墓の維持管理には肉体的・精神的・経済的エネルギーが必要ですし、遺族が遠方在住の場合、墓参りするために一日仕事になってしまうこともあり得ます。そこで次第に<墓じまい>という方法が注目されてくるわけですが、これも簡単にはいかないようで・・・今回ご紹介するのは、垣谷美雨さん『墓じまいラプソディ』。墓じまいの悲喜こもごもがユーモアたっぷりに描かれていました。

 

こんな人におすすめ

お墓問題に関するユーモア・ヒューマンストーリーが読みたい人

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「被取締役新入社員」 安藤祐介

小説を読んでいると、しばしば「この話は映像化向きだな」と思うことがあります。動きが派手で、キャラクターの個性が強く、叙述トリック等、文章ならではの技法が使われていない小説がこう言われることが多いですね(一部例外あり)。「これは画面で見てみたい!」と思った小説が実写化された時の喜びは大きいです。

そして、小説の中には、最初から実写化ありきで執筆・刊行されたものもあります。その中の一つが、講談社とTBSが主催する<ドラマ原作大賞>。読んで字の如く、受賞作はTBSによりドラマ化されることが決まっています。今回取り上げるのは、ドラマ原作大賞第一回受賞作品、安藤祐介さん『被取締役新入社員』です。

 

こんな人におすすめ

前向きなお仕事成長小説が読みたい人

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「フォトミステリー」 道尾秀介

昔読んだ小説の中で、こんなエピソードが紹介されていました。『チャレンジャー号爆発事故の発生後、阿鼻叫喚に陥る観客達を写した写真が話題となった。ところが後日、その写真は事故発生後ではなく、打ち上げ直後に撮られたものだと判明した。当初、恐怖と混乱の真っ只中と思われていた観客達の表情は、実は期待と興奮に沸いていたのだ』。その後同様のエピソードを見聞きしたことはないため、もしかしたら単なる噂なのかもしれませんが、十分あり得る話だと思います。物の見え方というものは、受け取る側の価値観や状況によって簡単に変化するものです。

絵よりもずっと正確に、被写体を写すことができる写真。そんな写真でさえ、解釈の違いというものは存在します。たった一枚の写真からだって、百人の人間がいれば百通りの物語を作り出すことも不可能ではないでしょう。今回取り上げるのは、写真にまつわるバラエティ豊かなショートショート集、道尾秀介さん『フォトミステリー』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックな作風のショートショートが好きな人

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「芥川症」 久坂部羊

創作の世界には<パスティーシュ>という用語があります。これは一言で言うと、作風の模倣のことです。似たような用語に<オマージュ>があり、実際、日本では厳密な区別はない様子。ただ、色々なパスティーシュ作品、オマージュ作品を見る限り、前者は先行する作品の要素がはっきり表れているのに対し、後者は作家が先行作品を自分なりに読み取った上で作品化するので、「え、〇〇(作品名)のオマージュなの?」とびっくりさせられることが多い気がします。

パスティーシュとして真っ先に挙がるのは、清水義範さんの作品でしょう。作家歴四十年以上ということもあって著作は多いのですが、私的イチオシは英語教科書(!)のパスティーシュ作品『永遠のジャック&ベティ』。学生時代の英語教科書を読み、登場人物達の会話に対し「なんでこんな不自然な喋り方をするんだろう?」と思ったことがある方なら、間違いなく爆笑すると思います。それからこれも、粒揃いの傑作パスティーシュ短編集でした。久坂部羊さん『芥川症』です。

 

こんな人におすすめ

古典作品のユーモア・パスティーシュ小説が読みたい人

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「5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編」 このミステリーがすごい!編集部

暦の上では秋になり、店先に並ぶファッションアイテムも秋を意識したものが増えました。とはいえ、気候はまだまだ夏そのもの。半袖シャツも、帽子も、キンキンに冷えた飲み物も、当分手放せそうにありません。

私はけっこう夏好きな人間ですが、これほど暑いとやはりひんやりした冬が恋しくなります。季節としての冬が遠いなら、せめて小説で冬気分を味わうのも一つの手ではないでしょうか。そんな時はこれ。「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編』です。

 

こんな人におすすめ

冬をテーマにしたバラエティ豊かなアンソロジーが読みたい人

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