世間には様々な働き方が存在しますが、その中に<フリーランス>というものがあります。これは、組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き方のこと。収入や社会的立場が不安定になりがちな一方、自由度が高く、組織のしがらみ・規則に縛られず働けるというメリットもあります。
この<フリー>という立場、フィクション世界においては、すごく使い勝手がいい存在です。何しろ組織内のあれこれの設定を考えずに動かせるわけですから、どんな面倒な事件にも絡ませ放題。内田康夫さんによる『浅見光彦シリーズ』主人公の浅見光彦をはじめ、フリーランスで働く人間が出てくる小説もたくさんあります。今回取り上げる作品でも、フリーライターがいい働きをしてくれていました。深木章子さんの『闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿』です。
こんな人におすすめ
正統派の本格推理小説が読みたい人
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<色>には、人の気持ちに働きかける力があるそうです。赤やオレンジは活力を呼び覚まし、緑は心をリラックスさせ、ピンクは幸福感を感じさせるのだとか。そういえば一昔前、戦隊ヒーローは、行動派の<赤>やクールな<青>というように、各々の個性と色が対応していることが多かったですね。実際にはそこまで明確に性質が分かれるようなことはないのでしょうが、色が印象を左右することは確かだと思います。
小説の世界においても、色をテーマにした作品はたくさんあります。昔、当ブログでも取り上げた加納朋子さん『レインレイン・ボウ』でも、各話の主人公と、タイトルとなる色が上手く組み合わされていました。これはヒューマンドラマですが、色をテーマにしたイヤミスなら、今回ご紹介する作品がお勧めです。中山七里さんの『七色の毒』です。
こんな人におすすめ
どんでん返しのあるミステリー短編集が読みたい人
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火村英生、犀川創平、湯川学、中禅寺秋彦・・・日本の小説界には、たくさんの名キャラクターがいます。物語を盛り上げる上で、魅力的な主要登場人物の存在は不可欠。『S&Mシリーズ』や『ガリレオシリーズ』がこれほど人気なのは、話自体の面白さもさることながら、上記のキャラクター達の吸引力に依るところも大きいです。
こうしたキャラクターって、実は作品が長期シリーズ化される前、短編作品にさらりと登場していることがままあります。予想以上に作者の筆が乗り、一作きりの登場で終わらせるのはもったいないと思ったのかな?それが自分の好きなキャラクターだった時は、読者としても喜び倍増です。今日取り上げる短編集には、後にシリーズ作品の主人公となるキャラクターが複数出てくるんですよ。西澤保彦さんの『赤い糸の呻き』です。
こんな人におすすめ
バラエティ豊かな本格ミステリー短編集が読みたい人
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守護霊。文字通り、生者を守護してくれる霊のことです。大抵は、先祖や恋人、可愛がっていたペット等、縁のある存在が守護霊となるケースが多いようですね。困難にぶち当たった時、人知を超えた力で守ってくれる存在がいればいいな・・・そう夢想したことがある人は、決して少なくないと思います。
小説界で守護霊が活躍する作品といえば、有名どころだと『ハリー・ポッターシリーズ』があります。主要登場人物達が魔法使いということもあり、時に実体を得て敵相手に奮戦する守護霊達の姿は実に格好良かったです。あそこまで目立つ大活躍はしないものの、今回取り上げる作品の守護霊も大したものですよ。藤崎翔さんの『守護霊刑事』です。
こんな人におすすめ
コミカルな刑事ミステリー短編集に興味がある人
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読破した小説の量が多くなってくると、「一場面だけ覚えているんだけど、タイトルと作者名が思い出せない」「あの台詞が出てくるのって、どの作品だっけ」などということが起こり得ます。私の場合、こんなことは日常茶飯事。一番読書量が多かった十代の頃、タイトルをしっかりチェックしないことがしばしばだったせいでしょう。
こういう時、該当の作品を探すには、インターネットが役立ちます。台詞や主人公の名前を憶えていれば、Googleなり何なりで検索することでヒットするケースが多いです。先日、この作品も同様のやり方で見つけ出せました。若竹七海さんの『船上にて』です。
こんな人におすすめ
皮肉が効いたイヤミス短編集が読みたい人
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物語の中に登場する作品のことを<作中作>といいます。例えば、登場人物達が創る小説や映画、読んでいる本、演じる劇などがこれに当たります。基本的にはオリジナル作品を指し、現実に存在する作品は<作中作>とは呼ばないようですね。
作中作が登場する物語で有名なものとしては、『千夜一夜物語』が挙げられます。残酷な王をなだめるため、シェヘラザード姫が毎夜面白い物語を語って聞かせるというのが大まかなあらすじで、『アラジンと魔法のランプ』『アリババと四十人の盗賊』『シンドバッドの冒険』等はすべてこの中に登場する作中作です。この作中作が面白いかどうかによって、本編の評価は大きく変わります。その点、今回ご紹介する作品は文句なしでした。藤崎翔さんの『逆転ミワ子』です。
こんな人におすすめ
・本自体にトリックが仕掛けられた小説に興味がある人
・作中作が出てくる小説が好きな人
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人生において、「趣味は何ですか」と聞かれる機会って意外と多いです。私の場合、そう聞かれた場合の答えは、子どもの頃から「読書です」。その趣味を大人になるまで続けた結果、こういうブログまで始めてしまいました。人間、好きなものについて語ることは楽しいですし、ついつい熱が入ります。
それはプロの世界でも同様らしく、趣味の分野において、面白い作品を書かれた作家さんは大勢存在します。例えば、ボクシング愛好家の百田尚樹さんは『ボックス!』で、将棋ファンである芦沢央さんは『神の一手』で、臨場感溢れる世界観を作り出しました。どちらも、読みながら作者の対象への愛情をひしひし感じたものです。それから、この作品もそうでした。近藤史恵さんの『胡蝶殺し』です。
こんな人におすすめ
歌舞伎界を舞台にした小説に興味がある人
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ここ数年で、<ルッキズム>という言葉を聞く機会が激増しました。これは外見を重視する考え方のことで、<外見至上主義><外見重視主義>という言い方もします。一般的に使われるようになったのは最近のような気もしますが、実は日本でも昭和から存在した価値観です。
もちろん、脊椎動物である以上、見た目に左右されるのもある程度は仕方ないのかもしれません。無垢な赤ちゃんが薄汚れたオモチャに目もくれず、ピカピカでカラフルなオモチャに惹きつけられるのも学問的にはルッキズム扱いされるそうですが、これを責められる人はいないでしょう。要は、自分の中できちんと常識やモラルを持ち、折り合いをつけることが大切なのだと思います。そうでないと、この作品の主人公のようになってしまうかも・・・・・今回取り上げるのは藤崎翔さんの『みんなのヒーロー』です。
こんな人におすすめ
小悪党目線のサスペンスミステリーが読みたい人
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「時代は問わないから、海外の作家を一人挙げてみて」と聞かれた時、ウィリアム・シェイクスピアの名前を挙げる人はかなり多いと思います。シェイクスピアは一六世紀後半から一七世紀初頭にかけて活躍したイギリス人作家で、二〇〇二年の<百名の最も偉大な英国人>投票で第五位にランクインするほどの有名人です。それほど有名な偉人にも関わらず、現存する資料が少ないため、<実は作品はシェイクスピアではない別人が書いていた説><複数の作家が共同ペンネームでシェイクスピアを名乗っていた説>等々、面白い噂が色々ある人物でもあります。
こういう場合の常として、「著作のタイトルは知ってるけど、最初から最後まできちんと内容を知っている作品ってあんまりないなぁ」ということがしばしば起こりえます。シェイクスピアの場合、小説家ではなく劇作家であり、著作のほとんど戯曲であるため、余計にそうなのかもしれません。そもそも、いわゆる<文豪>と呼ばれる作家の有名作品って、なんとなく敷居が高く感じられることが多いですからね。そんな時、有名作品をテーマにした小説を読むと、ぐっと距離が近くなりますよ。今回取り上げるのは、降田天さんの『少女マクベス』。物語自体の面白さもさることながら、『マクベス』という作品を考察することもでき、とても読み応えがありました。
こんな人におすすめ
・学園ミステリーが好きな人
・演劇の世界に興味がある人
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「こんな結末は読んだことがない」「予想を遥かに超えた奇想天外なストーリー」。物語を評する上で、これらの文言はしばしば誉め言葉として使われます。私自身、事前の予想を裏切られるビックリ展開は大好物。この話は一体どう落着するのだろうと、手に汗握りながらページをめくったことも一度や二度ではありません。
その一方、期待通りに進む王道の物語も面白いものです。それは、『水戸黄門』や『必殺仕事人』が今なお支持されることからも分かります。私の中では、このシリーズもそういう安定・安心枠なんですよ。中山七里さん『毒島シリーズ』第四弾、『作家刑事毒島の暴言』です。
こんな人におすすめ
・皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人
・『毒島シリーズ』のファン
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