ミステリー

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「どんどん橋、落ちた」 綾辻行人

ミステリーの技法の一つに<読者への挑戦>というものがあります。これは、作中の探偵役が、推理を披露する前に一旦話を止め、読者に対して「あなたには真相が分かりましたか?」と問いかけてくる形式のこと。このやり方を実施するためには、きちんと推理できるよう、読者に向けてフェアに証拠を提示する必要があります。

<読者への挑戦>で有名なのは、エラリー・クイーンの『国名シリーズ』。それに強い影響を受けた、有栖川有栖さんの『学生アリスシリーズ』。島田荘司さんの『占星術殺人事件』などがあります。どれも面白かったですが、インパクトという点では、これが一番ではないでしょうか。今回は、綾辻行人さん『どんどん橋、落ちた』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

犯人当てを楽しめるミステリー短編集に興味がある人

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「焼けた釘を刺す」 くわがきあゆ

私は、ミステリーやホラーのジャンルにおいて<一般人の主人公が事件に臨む>というシチュエーションが好きです。警察や法曹関係者、ジャーナリスト等が主人公だと、組織のあれこれや仕事上の葛藤が絡むことが多く、そちらに気持ちが引っ張られてしまうんですよ。それはそれで充分面白いものの、本来なら事件と無関係な一般人が事件に関わっていくというパターンの方が、物語にのめり込める気がします。

この場合、当然のことながら、一般人が事件に臨むための理由が必要となります。赤川次郎さん『死者の学園祭』では単なる好奇心から、宮部みゆきさん『夢にも思わない』では片思いの相手の名誉を守るため、若竹七海さん『クールキャンディー』では殺人容疑をかけられた兄の無実を証明するため、主人公たちは非日常の世界へ飛び込んでいきました。でも、今回取り上げる作品のような動機で真相究明に挑む主人公って、なかなかいないのではないでしょうか。くわがきあゆさん『焼けた釘を刺す』です。

 

こんな人におすすめ

叙述トリック満載のミステリーが好きな人

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「さよならは明日の約束」 西澤保彦

推理小説の世界には、探偵役がコンビで事件に臨む、いわゆる<バディもの>が数多く存在します。天才的な探偵が一人で活躍する作品も面白いですが、コンビが各々の足りない部分を補いつつ事件解決を目指す姿も魅力的ですよね。個人的には、探偵役が二人組の方が、互いの人間的な部分の掘り下げが深まる気がします。

そして、コンビの組み合わせも、作品ごとに様々です。超有名な『シャーロック・ホームズシリーズ』のような男性二人組、宮部みゆきさん『寂しい狩人』のような老人&若者コンビ、櫛木理宇さん『逃亡犯とゆびきり』のような女性二人組、赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』のような人間&人外の組み合わせ・・・その中には、男女でコンビを組む作品も、もちろんあります。ここ最近の傾向としては、行動力ある女性&サポート能力に秀でた男性という組み合わせが多い気がしますが、いかがでしょうか。今回は、そんなコンビが活躍する作品を取り上げたいと思います。西澤保彦さん『さよならは明日の約束』です。

 

こんな人におすすめ

日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人

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「変な地図」 雨穴

地図。その名の通り、土地の情報を記号や文字などを用いて平面上に表した図面のことです。文明の進歩に伴い、地図も進化してきましたが、原型となるものは旧石器時代から存在したのだとか。地理を視覚的に理解させ、適切な移動や情報分析を可能とする地図は、社会に必要不可欠な道具です。

現代において<地図>といえば、スマホやタブレット、パソコン上で簡単に検索でき、望めば目的地までナビしてくれる優れものですが、一昔前は違いました。必要な情報を得るため、紙の地図をじっくり眺め、ああでもないこうでもないと試行錯誤する必要があったのです。不便といえば不便なのかもしれませんが、そういう時代だからこそできる地図の使い方もあったのではないでしょうか。この小説を読んで、そんな風に思いました。今回は、雨穴さん『変な地図』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・閉鎖的な村が登場するミステリーが好きな人

・『変な~シリーズ』のファン

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「閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書」 知念実希人

何らかの事件が起こった際、ニュースに以下のフレーズが出てくることがしばしばあります。「精神鑑定の結果を踏まえ、その他の証拠を総合的に考慮した上で・・・」「被告の精神鑑定を行った医師に尋問を行い・・・」。この<精神鑑定>とは、裁判所が被告人等の精神状態・責任能力を判断するため、精神科医といった鑑定人に命じる鑑定の一つ。結果如何によっては裁判所の判断が大きく変わることも有り得る、重要な行為です。

何かと賛否両論を巻き起こしがちなテーマですが、それだけ世間の関心を集めるだけあって、精神鑑定が登場するフィクション作品もたくさんあります。私の場合、強烈に印象に残っているのは日本映画『39 刑法第三十九条』。練られた脚本といい、堤真一さんや鈴木京香さんら俳優陣の熱演といい、何年経っても忘れられない名作です。小説では、山田宗樹さんの『鑑定』も、発想の活かし方が面白かったですよ。先日読んだ小説でも、精神鑑定が大きな役割を果たしていました。知念実希人さん『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』です。

 

こんな人におすすめ

モキュメンタリ―ホラー小説が好きな人

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「拷問依存症」 櫛木理宇

フィクションの世界には、<ダークヒーロー>というキャラクターが存在します。読んで字の如く<闇のヒーロー>のことで、正義と相対する立場ながら確固たる信念を持っていたり、悲劇的な過去ゆえに悪側になってしまったり、違法な手段を使いながら人を救ったりするキャラクターを指します。例を挙げると、映画『スターウォーズシリーズ』のダース・ベイダーや、大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公・夜神月などですね。これらのキャラクターは、どうかすると正義側の主人公より人気を集めることもあったりします。

では、ダークヒーローと、ただの悪党の違いは何でしょうか。もちろん、法律上の定義などはありませんが、一般的には、何らかの背景なり美学を持ち、人を救うこともあり得るのが<ダークヒーロー>、目先の利益に溺れるのが<小悪党>という分け方をされている気がします。闇側の存在とはいえ、<ヒーロー>の名を冠するからには、ちんけな小物ではダメということでしょう。それならば、果たして今日ご紹介する作品の登場人物は、ダークヒーローといえるのでしょうか。今回は、櫛木理宇さん『拷問依存症』を取り上げたいと思います。

 

<こんな人におすすめ>

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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「神の光」 北山猛邦

新年あけましておめでとうございます。ブログを解説し、今年で十年目。長く続いたよなと、自分でしみじみしています。今年もミステリーとホラー中心にゆるゆるレビューしていくつもりですので、どうぞよろしくお願いします。

改めてブログ内の記事を振り返ってみると、私が取り上げた作品で一番多いジャンルはミステリー。特に<何かが消える>というシチュエーションが非常に多いことが分かりました。犯人が消え、遺体が消え、凶器が消え、関係者が消え・・・・・<消える>というキーワードは、ミステリーの世界においてとても重要な要素になりがちです。今回は、<消失>にテーマを絞ったミステリー短編集をご紹介したいと思います。北山猛邦さん『神の光』です。

 

こんな人におすすめ

消失トリック目白押しのミステリー短編集に興味がある人

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「パズラー 謎と論理のエンタテイメント」 西澤保彦

二〇二五年最後の一日となりました。今年も色々あったものの、無事にブログを続けることができて感無量です。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

何かと慌ただしいご時世ですが、小説界隈に関していえば、個人的に一番衝撃的だったのは作家・西澤保彦さんが亡くなられたことです。まだ六十代。多作な作家さんだし、てっきり今後も新作がたくさん楽しめると思っていたのに、本当にショックです。心よりご冥福をお祈りするとともに、哀悼の意を表するため、今年の「はいくる」は西澤保彦さんの短編集『パズラー 謎と論理のエンタテイメント』で締めようと思います。

 

こんな人におすすめ

アクロバティックなミステリー短編集が読みたい人

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「見てはいけない」 山口恵以子

今年も残すところあとわずか。世間はすっかりクリスマスおよび年末ムードです。師走、などと言われるほど忙しない時期ですが、こういうバタバタした感じ、結構好きだったりします。

イルミネーションなどで華やかな季節ですが、私はこの時期に、どこか薄暗く寒々しいものを感じます。気温の低さや、日照時間の短さが原因でしょうか。先日読んだ作品は、そんな気分にぴったりの一冊でした。山口恵以子さん『見てはいけない』です。

 

こんな人におすすめ

愛憎絡み合うサスペンス短編集に興味がある人

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「そして名探偵は生まれた」 歌野晶午

どんなジャンルもそうであるように、ミステリー作品はしばしば批判の対象となることがあります。ネタが古い、キャラクターが凡庸、内容がごっちゃになっていて分かりにくい・・・物語に唯一絶対の正解はない以上、ある程度は避けられないことなのかもしれません。

ミステリーでよくある批判内容として、<謎解きがフェアじゃない>というものがあります。読者に対して正しく情報が提示されておらず、「これで真相を見破るの無理だろ!」という場合に出てくる言葉ですね。ミステリーはホラーと違い、基本的に謎解きを楽しむものですから、それが無理となると批判したくなるのも当然。逆に言えば、ここをクリアしていれば、ミステリーとしての評価はグンと上がる傾向にある気がします。その点、今回取り上げる作品はとても満足度が高かったですよ。歌野晶午さん『そして名探偵は生まれた』です。

 

こんな人におすすめ

意外性たっぷりのミステリー短編集が読みたい人

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