ミステリー

はいくる

「虎を追う」 櫛木理宇

現在、インターネットは生活の至る所に浸透しています。一体いつからかは正確には分かりませんが、少なくとも私が大学生になる頃には、多くの人達が当たり前のようにネットで情報を検索したり、発言や創作物をネットに投稿したりしていました。ネットの危険性が声高に叫ばれるようになったのも、この頃からだと記憶しています。

不特定多数の、それも素性がよく分からない人たちと関わる性質上、ネットは一歩間違うと自分の首を絞める凶器になりかねません。と同時に、使い方次第では、自分の主張を世界に向けて発信し、本来なら知り合うことなどなかったはずの人達と知り合い、それによって社会を動かすことも可能です。せっかくこれほど便利なツールがあるのですから、こうした正しい使い方をしていきたいものですね。先日読んだ作品には、ネットを有効利用して戦う人たちが出てきました。櫛木理宇さんの『虎を追う』です。

 

こんな人におすすめ

冤罪が絡んだミステリーが読みたい人

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「もう一人の私」 北川歩実

ものすごく忙しい時やトラブルが続いた時、ふとこんな風に思ったことはないでしょうか。「自分がもう一人いればいいのに・・・」と。鏡に映したかのようにそっくりな自分の分身。そんな存在がいれば、さぞ便利なように思えます。

とはいえ、小説でも漫画でも映画でも、自分の分身が出てきたら大抵困った目に遭うというのがお約束。考えてみれば当然の話ですが、<そっくりなロボット>ではなく<分身>なのですから、意思もあれば欲もあるはず。そう簡単に奴隷のように扱えるはずありません。オルカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』でも山本文緒さんの『ブルーもしくはブルー』でも、分身は混乱と不安をもたらしました。SFやホラーのジャンルで扱われやすいテーマなので、今回はミステリー作品を取り上げたいと思います。北川歩実さん『もう一人の私』です。

 

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後味の悪いミステリー短編集が読みたい人

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「東京下町殺人暮色」 宮部みゆき

<下町>という言葉があります。読んで字の如く、市街地の低地となった部分を指す言葉で、東京では日本橋や浅草、神田などがそれに当たります。また、<下町気質>と言えば、人情味があってお祭り好き、カッとなりやすい所もあるが終わったことは気にしない、面倒見が良くて竹を割ったような性格・・・などが連想されるのではないでしょうか。

独特の文化や気質がある下町は、しばしば物語の舞台に選ばれます。小路幸也さんの『東京バンドワゴンシリーズ』や瀬尾まいこさんの『戸村飯店 青春100連発』など、騒動は起こりつつもどこか心温まる作風が多いような気がしますね。今回は、下町を舞台にしたミステリーをご紹介しようと思います。宮部みゆきさん『東京下町殺人暮色』です。

 

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少年が活躍するミステリーが読みたい人

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「死にゆく者の祈り」 中山七里

新年明けましておめでとうございます。令和初のお正月、いかがお過ごしでしょうか。二〇一六年に始まったこのブログは、今年で四年目を迎えます。今後も変わらず独断と偏見に満ちた内容になることが予想されますが、呆れずお付き合いいただければ幸いです。

毎年、新年一作目となる本を何にしようかと悩むのですが、今年は楽しみにしていた図書館の予約本がタイミング良く回ってきたので、悩む必要ありませんでした。二〇二〇年初投稿は、中山七里さん『死にゆく者の祈り』。ミステリーとしてだけでなく、仏教の在り方についても考えることができ、仏教校出身の私には興味深かったです。

 

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冤罪が絡んだミステリーが読みたい人

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「クリスマス・プレゼント」 ジェフリー・ディーヴァー

メリークリスマス!今年もクリスマスがやって来ました。この時期は街のあちこちにクリスマスツリーやリースが飾られ、クリスマスソングが流れます。キリスト教徒でなくても、なんとなくウキウキする人が多いのではないでしょうか。

そんな雰囲気のせいか、クリスマスをテーマにした小説は、心温まるヒューマンストーリーが多いです。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』はもちろん、有川浩さんの『キャロリング』や伊坂幸太郎さんの『クリスマスを探偵と』、百田尚樹さんの『聖夜の贈り物』など、どれも希望と未来のある名作でした。たぶん、こういうヒューマンストーリーを取り上げるサイトは山ほどあると思うので、ここではあえてブラックな作品を取り上げたいと思います。ジェフリー・ディーヴァー『クリスマス・プレゼント』です。

 

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どんでん返しのあるミステリー短編集を読みたい人

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「灼熱」 秋吉理香子

サスペンス、ホラー、ハードボイルドなどの創作物の場合、<なぜそういう状況になったのか>という設定作りが重要です。登場人物たちは日常とはかけ離れた世界に身を投じるわけですから、あまりにぶっ飛んだシチュエーションだと、読者が感情移入できません。例えばパニックアクション作品で<大災害>という設定を持ってくると、「確かに、こういう非常事態が起こったら、人間はこういう行動を取るかもな」と想像しやすいわけです。

こうした設定の王道パターンとして<復讐>があります。自分自身や大事な相手が傷つけられ、その復讐のため過酷な世界に身を投じる主人公。こういう状況は読者の同情を集め、主人公が道に外れた行いをしても「あれだけのことをされたんだから、気持ちは分かる」と共感されます。『巌窟王』や『嵐が丘』が今なお世界的名作として読み継がれているのは、そんな理由があるからかもしれません。最近読んだ小説も、一人の女性の悲しい復讐劇でした。秋吉理香子さん『灼熱』です。

 

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愛憎絡んだサスペンス小説が読みたい人

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「先生と僕」 坂木司

私は学生時代、家庭教師を付けていたことがあります。相手は大学生の女性で、勉強だけでなくプライベートの話も色々することができました。ああいうやり取りは、塾ではできないものだったでしょう。

家に招き入れるという性質上、家庭教師と生徒の距離は、学校や塾のそれより近くなりがちですし、時に家庭内のトラブルに関わることもあり得ます。いい師弟関係を築ければ最高ですが、家庭教師という存在が家の中に思わぬ波紋を呼ぶこともないとは言い切れません。本間洋平さんの『家族ゲーム』では、強烈な家庭教師が一つの家族を揺るがす様を描いていました。では、この家庭教師はどうでしょうか。坂木司さん『先生と僕』です。

 

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利発な少年が登場するコージーミステリーが読みたい人

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「あなたの本」 誉田哲也

昔、私は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)が好きで、手持無沙汰な時間にちょこちょこ覗いていました。以前と比べると頻度が落ちましたが、唯一、<後味の悪い話>というスレッドのみ、今も定期的に進行をチェックしています。タイトルが示す通り、自分の知っている後味の悪い話を投稿するスレッドで、実体験・小説・映画・アニメなどジャンルは不問。イヤミス好きな私の心をくすぐる投稿も多く、ここでこれから読む本を見つけることもありました。

このスレッドを見ていてつくづく思うのは、「後味の悪い話を簡潔かつ面白くまとめるのって難しいな」ということです。もちろん、どんな話だって難しいんでしょうが、後味の悪い話の場合、内容が重苦しい分、だらだら文章を書き連ねると<読みにくい><中身が暗い>のダブルパンチでウンザリ度合も上がるというか・・・真梨幸子さんや櫛木理宇さんのようなどんより暗い長編イヤミス作品も大好きですが、コンパクトで切れ味鋭い短編イヤミスを見つけた時は嬉しさもひとしおです。今回は、そんな短くも後味悪い小説を集めた短編集を取り上げたいと思います。誉田哲也さん『あなたの本』です。

 

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『世にも奇妙な物語』のような短編小説が読みたい人

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「隣人」 永井するみ

昨今は近所付き合いが希薄な世の中だと言われています。私自身、生まれてから今まで何度か引っ越しを経験しましたが、隣近所と親しく付き合った経験は皆無。せいぜい顔を知っている程度だったり、最初から最後まで隣人と一度も顔を合わせないままだったことさえあります。

もっとも、「どんな人なのかよく分からない」というのは、何も近所付き合いに限った話ではありません。親子、兄弟姉妹、友達、恋人、夫婦・・・どれだけ近い関係でも、いえ、近い関係だからこそ、相手の本性や本音が分からなくなることは多々あります。今回ご紹介するのは永井するみさん『隣人』。身近な人の知られざる一面にゾクッとさせられました。

 

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イヤ~なサスペンス短編集が読みたい人

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「強欲な羊」 美輪和音

ふと、お気に入りの作家さんたちを思い浮かべてみて、あることに気付きました。「私が好きな作家さんって、小説家と脚本家を兼業していることが多いな」と。たとえばドラマ『放送禁止シリーズ』『富豪刑事』の脚本家であり、『東京二十三区女』『出版禁止』の作者でもある長江俊和さん。あるいは、『相棒シリーズ』で脚本を担当し、『幻夏』を書いた太田愛さん。もともと脚本家は小説家と兼ねることが多い職業ですが、映像作品を担当したことのある作家さんは、視覚的に映える描写力を持っている気がします。

そんな小説家兼脚本家業を続ける作家さんの中で、私の一押しは美輪和音さん。映画『着信アリ』の脚本家であり、『ハナカマキリの祈り』や当ブログでも紹介した『ウェンディのあやまち』等、切れ味鋭いサスペンス小説を世に送り出しています。今日は、そんな美輪さんの小説家デビュー作『強欲な羊』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

人の狂気をテーマにしたサイコミステリーが読みたい人

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