これまでミステリーやホラー小説のレビューで散々「仰天しました」「まんまと騙されました」「驚きでひっくり返りそうでした」と書いてきたことからも分かるように、私は物事の裏を読むのが苦手です。小説にしろ映画にしろ、どんでん返し系の作品はほぼ一〇〇パーセント引っかかり、ラストで絶句するのがいつものパターン。なんならティーンエイジャー向けに書かれたヤングアダルト小説にすら、しっかり騙されてしまいます。
とはいえ、それなりに長い読書人生の中には、珍しくトリックを見破れた経験も少ないながら存在します。作者の術中にまんまとはまり、ラストでびっくりするのも楽しいですが、隠された真相に気付くのもそれはそれでオツなもの。今日取り上げる作品は、ものすごく久しぶりにトリックを看破することができて嬉しかったです。真梨幸子さんの『さっちゃんは、なぜ死んだのか?』です。
こんな人におすすめ
社会背景を活かしたイヤミスに興味がある人
さっちゃんは、なぜ死ななくてはならなかったのだろう-----公園で殺害されたホームレス女性・公賀沙知。就職も結婚も出産も果たし、一時は普通の人生を送っていたはずの彼女は、なぜこんな末路を辿る羽目になったのか。この事件を機に、沙知と縁ある人々の人生が動き出す。沙知をよく見かけていたカフェ店員、かつての同僚、離れて暮らしていた娘・・・・・彼らの言葉から浮かび上がる沙知の人生と、見え隠れする嘘の数々。その先にあった真相とは、果たして---――
真梨幸子さんの著作の中では『殺人鬼フジコの衝動』と並ぶくらいインパクトのある題名ではないでしょうか。女性の顔の下半分が塗り潰された表紙と相まって、読者に「絶対にイヤミスだな」と確信させてくれます。中身の方も、その予想を裏切らない、相変わらずの濃さエグさでした。
とある公園で、ホームレス女性の撲殺死体が発見されます。彼女の名前は公賀沙知。ホームレスながら身綺麗で、カフェに出入りし、昔の知人と談笑することさえあった沙知は、なぜこんな哀れな死を遂げる羽目になったのだろう。カフェで沙知をよく見かけていた店員(のちにフリーター)・祐子は、沙知の人生に興味を抱き、調べ始めます。華やかなOL生活、熱海でコンパニオンとして働く日々、荒んだ状態での結婚と出産、虐待疑惑、ホームレスとなった後の孤独な死・・・果たしてその先には、一体何が浮かび上がってくるのでしょうか。
単純人間の私がクライマックスのどんでん返しに気付いたことからも分かる通り、トリック自体はよくある類のものだと思います。登場人物が多いこと、視点がころころ切り替わることなどと併せ、正直、好き嫌いがかなり分かれるかもしれません。レビューサイトでも、「どストライク」「この作品に出会えて良かった」「何が言いたいか分からない」「違和感がすごい」等々、賛否両論渦巻いていました
かくいう私はというと、<賛>の側。相変わらず健やかな人が皆無の登場人物達や、どこにも救いがなさそうなラストもさることながら、社会背景との絡め方が上手いんですよ。本作で重要なテーマとして扱われるのが、バブル世代と就職氷河期世代。前者を沙知が、後者を祐子が体現してくれているのですが、最後はどちらもどん詰まり生活に陥ってしまいます。対照的とされる二つの世代と、結局は同じ穴のむじなとなる二人の人生の対比のさせ方が秀逸で、ミステリー小説としてだけでなく社会派小説としても十分成立しそうです。登場人物の一人が語る「バブル世代生まれだとしょっちゅう揶揄されるけど、実際にはそうそう簡単に恩恵なんて受けられなかった。バブルの象徴とされるジュリアナ東京だって、実際に営業していたのはバブル崩壊進行期。私達の世代はよく誤解される」という言葉が印象的でした。
加えて、キャラクター造形もなかなか面白かったです。真梨幸子さんの作品には、夢に出そうなレベルで癖の強いキャラクターがしばしば登場しますが、本作の場合、そこまでぶっ飛んだ人はいません。むしろ、「不愉快だけど、こういう人、いるよなぁ」と頷かせられるレベル。すぐそこにいそうな人達が、ちょっとしたしくじりから転落していく様子がリアリティたっぷりでした。私に一番刺さったのは、沙知の熱海コンパニオン(という建前の風俗嬢)時代の同僚で、仲間内では<お母さん>という愛称で呼ばれていた女性。頼まれもしないのに変な気の回し方をして空回るところ、私と似ていまして・・・認めたくないものの、シンパシーを感じてしまいました。
ただ、繰り返しになりますが登場人物数が多く、人間関係がややこしいので、堪能したいなら人物相関図をしっかり整理しておいた方がいいかもしれません。流し読みしていると、今は誰の視点で誰が語っているか分からなくなってしまうかも?時間がたっぷりある時、腰を据えて読んだ方がいい作品だと思います。ところで、作中に出てくる<週刊トドロキ>って、真梨作品にたびたび登場しますよね。なんかこの出版社、関わった人間がことごとくロクな目に遭わない気がするんですが・・・経営者にお祓いをするようお勧めしたいです。
<時代ガチャ>という言葉に納得!度★★★★☆
タイトルも重要な伏線です度★★★★★
題名だけでどぎつい内容を想像しました。
真梨幸子さんの作品なら尚更容赦ない展開と内容がありそうです。
ある女性の転落劇の背景に何があるのか~怖いもの見たさで読んでみたくなりました。真梨幸子さんの始めて読んだ「アルミーテスの采配」を思い出しそうです。
最近、淡々とした日常ドラマの作品が続いているので、GW前にどぎつい作品を借りておこうと思います。櫛木理宇さんの新作は何かないでしょうか?
「殺人鬼フジコの衝動」も読んでみたいです。
登場人物達が転落していく様子に現実味があり、暗澹たる気分にさせられました。
櫛木理宇さん、残念ながら今のところ新作予定はないようですね。
昔の作品ですが、「寄居虫女(ヤドカリオンナ)」は読まれましたか?(改題:侵蝕 壊される家族の記録)
一人の女に乗っ取られていく家族の様子が恐ろしく、なかなかに胸糞悪かったです。
あと、短編集なので少しテイストは違いますが、「死んでもいい」も面白かったですよ。
「寄生虫女」はよみましたが。
かなり重たくリアルな内容ですが、ラストが拍子抜けだったと思いました。
殺人鬼フジコの衝動読み終えました。後書きでセールスの女性と叔母が殺人鬼フジコを操作していたと思うと、改めてゾクッとしましたが、満足感もありました。
これは続編もあるようですが、いかがでしたか。
さっちゃんは、なぜ死んだを借りて来ました。
ある女性作家のプロローグろカフェの店員さんの心理を読んだだけですが、面白そうです。人物相関図を整理しようと思いますが、三匹の子ブタだったと思いますが、文中に人物相関図が出てくるのでしょうか。
続編「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」は、一作目で明かされなかった部分の描写もあり、ファンには嬉しい一冊でした。
「殺人鬼フジコの衝動」としっかり繋がっている部分も結構あるため、できればあまり時間を置かずに読んだ方がいいかもしれません。
「さっちゃんは、なぜ~」の作中には、残念ながら相関図は出てこないんですよ。
「三匹の子ぶた」の相関図、すごく分かりやすくて助かったので、また出てきてほしかったんですが・・・
私は自分でメモ用紙に相関図書いて読みました。
読み終えました。人物相関図は理解していたつもりですが、何かしっくりこない終わり方でした。公賀沙知の足取りを辿った関口祐子自身もさっちゃんだった。船井史也が公賀沙知を追い詰めた、西岡という男を犯人にした~何となく理解出来たようで、理解出来ないまま読み終えました。
1993年大学生になりバブルが弾けたことを知り、就職活動した時は就職氷河期。
バブルの記憶はありますがそれほど恩恵に預かった気はしませんが、浪人して奨学金を借りず無事、大学生活を送れたことを考えるとバブルの恩恵を受けていたと感じます。バブル世代と氷河期世代の両方に共感したせいか肝心の作者の仕掛けを見落とした気がします。
相関図やこの作品の真相を教えて貰いたいと思います。
確かに、ミステリー部分よりも、バブル~就職氷河期時代の悲喜劇の方がインパクトありました。
「氷と泡」というブログのタイトルが秀逸だと思います。
作品冒頭、タクシー運転手が沙知になぜかやけに親し気に微笑みかける描写はそういう意味だったのか・・・と読了後にゾッとしました。
インタビュー・セル・殺人鬼フジコの真実、読み終えました。
殺人鬼フジコの衝動で分からなかったことも少し分かった気がします。
藤子の母親が茂子だったのは衝撃的でした。
これは美也子の復讐劇ということでしょうか。
おはようございます。
レビュー書いて改めてインタビュー・イン・セル殺人鬼フジコの真実の真相が分かった気がします。
みっちゃんは美也子のことで、下田茂子・健太に復讐する為の仕掛けがこの作品のメインだと思いました。
一九六一 東京ハウスにも触れてありエグい、救いのない内容でも満足感がありました。殺人鬼フジコの衝動はこの作品の為の前置きでむしろこちらが本作だというイメージでした。
こんにちは!
「インタビュー~」のエグさは「殺人鬼フジコ~」以上ですが、読む価値のある作品だと思います。
これだけ酷い内容ながら、北九州や尼崎の監禁洗脳事件を思うと、絵空事と言い切れないところが余計に恐ろしいです。
美也子にまつわる秘密は驚きでしたが、個人的には、耳削ぎのシーンの強烈さにすべて持っていかれた気がします。