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「ガラスの殺意」 秋吉理香子

人生を築き上げていく上で、大事なものはたくさんあります。愛情が最も大事だという人もいれば、お金こそ一番と感じる人もいるでしょう。そんな中、つい忘れられがちですが、<記憶>もまた生きていく上で大切な要素です。日々の記憶を積み重ねることで人生は成り立つもの。もしその記憶を保つことができなければ、人生はどれほど辛く寂しいものになるでしょうか。

<記憶喪失>ではなく<記憶を保持できない>登場人物が出てくる物語となると、愛川晶さんの『ヘルたんシリーズ』、小川洋子さんの『博士の愛した数式』、西尾維新さんの『忘却探偵シリーズ』などが思い浮かびます。最近読んだ小説にも、記憶を保てないことに悩み苦しむヒロインが登場しました。秋吉理香子さん『ガラスの殺意』です。

 

こんな人におすすめ

記憶障害をテーマにした小説が読みたい人

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「ショコラティエの勲章」 上田早夕里

私は友人知人から<スイーツ女王>と言われるほどの甘党です。中でも目がないのは、チョコレートパフェやガトーショコラといったチョコレート系のスイーツ。昔、デザートビュッフェでチョコレート系のスイーツばかり三十個近く食べ、カフェインを摂りすぎたせいか全く眠れなくなったこともありました(笑)

美味しそうなスイーツが登場する小説はたくさんあるものの、チョコレートがメインとなると、意外と少ないです。有名どころだと、ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』と、大石真さんの『チョコレート戦争』くらいでしょうか。この二作品ほどの知名度はないかもしれませんが、今回ご紹介する小説にも、それはそれは美味しそうなチョコレート・スイーツが出てきますよ。上田早夕里さん『ショコラティエの勲章』です。

 

こんな人におすすめ

スイーツが登場するコージー・ミステリーが読みたい人

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「未来」 湊かなえ

幸せないっぱいの人生を送りたい。これは、私を含む大多数の人間の望みでしょう。自分で言うのも何ですが私は甘ったれな人間なので、「贅沢言わないから、健康で、普通に遊んだり美味しい物を食べたりできる程度の財産があって、人間関係にも恵まれた一生を送りたいな」などと、ぼんやり夢見ることがよくあります。

現実では幸せを願うのが一般的なんでしょうが、小説や映画の世界ならば、登場人物が悲惨な目に遭うことで逆に物語の面白さが増すこともあります。ヴィクトル・ユーゴーの『ああ無情』はその典型的な例ですよね。他にも、山田宗樹さんの『嫌われ松子の一生』、百田尚樹さんの『モンスター』、田中慎弥さんの『共喰い』などの登場人物たちは、幸福とは程遠い人生を歩んでいますが、その重苦しさが読者を強く魅了します。今回取り上げるのは、湊かなえさんの直木三十五賞候補作『未来』。この作品で描かれる不幸の数々もかなりのものでした。

 

こんな人におすすめ

陰鬱な雰囲気のミステリーが読みたい人

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「蜜蜂と遠雷」 恩田陸

インドア派の趣味の代表格と言えば、「読書」「映画鑑賞」「音楽鑑賞」といったところでしょうか。その内、前の二つは私も大好きですが、「音楽鑑賞」は今一つ馴染みがありません。ドラマや映画の主題歌になった人気曲や、音楽の教科書に載るような有名クラシックをいくつか知っているくらいです。

とはいえ、音楽が嫌いなわけではないですし、音楽をテーマにした小説も大好きです。中山七里さんの『岬洋介シリーズ』や森絵都さんの『アーモンド入りチョコレートのワルツ』などは図書館で何度も借りましたし、毛利恒之さんの『月光の夏』に至っては感動のあまり即座に映画版のビデオをレンタルしたほどです。そして、音楽小説の名作といえば、これを外すことはできないでしょう。恩田陸さん『蜜蜂と遠雷』です。

 

こんな人におすすめ

ピアノをテーマにした小説が読みたい人

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「満月ケチャップライス」 朱川湊人

<超能力>という言葉を聞くと、なんだかわくわくしてきます。手を触れずに物を動かしたり、未来の出来事を見通したり、一瞬で遠く離れた場所に移動したり・・・文字通り、普通の人間の力を超えた能力だからこそ、余計に憧れが募ります。

超能力を扱った創作物の場合、その能力を使って敵と戦うアクション作品と、異能を持つがゆえに悩み苦しむ超能力者を描いたヒューマンドラマの二パターンに分かれることが多いです。前者は派手で迫力ある展開になるからか、漫画や映画でよくありますね。『X-MEN』などのようなアメコミ作品がその代表格でしょう。今回は、後者の作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さん『満月ケチャップライス』です。

 

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超能力が出てくる、悲しくも心温まる物語が読みたい人

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「中島ハルコはまだ懲りてない!」 林真理子

悩みを抱えた時の一番スタンダードな解決方法は、「誰かに相談する」だと思います。ネットで調べる・占いに頼る・趣味に没頭して気を紛らわせる、などの方法もありますが、これだと正確性に欠けたり、根本的な問題解決にならなかったりしますよね。信頼できる誰かと向き合い、悩みを打ち明ければ、たとえ解決策が見つからなくても気持ちが軽くなるものです。

となると次なる問題は「相談相手として誰を選ぶか」ということです。両親や配偶者など、確実に頼れる身内がいる人はいいでしょう。ですが、そういった身内を持たない人もいますし、場合によってはその身内が悩みの種だったりするケースもあります。恋人や友達にしたって、性格や能力その他諸々によっては、「好きだけど、的確な助言をくれる相手ではない」ということだってあり得ます。でも、この人が知人ならば、悩み相談する相手を迷わずに済むんじゃないでしょうか。林真理子さん『中島ハルコはまだ懲りてない!』に登場する中島ハルコです。

 

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コミカルで痛快な人間模様が読みたい人

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「鵜頭川村事件」 櫛木理宇

ゆっくりと穏やかな生活を目指す<スローライフ>が注目されるようになったのは、二〇〇年を過ぎた頃かららしいです。同時に、都会の喧騒を離れた田舎暮らしに憧れる人達も増え始めました。この流れを受けたせいでしょうか。最近は田舎暮らしをテーマにした小説でも、<都会から来た主人公が、色々ありながらも近隣住民と絆を作り、困難を乗り越えて田舎暮らしに馴染む>という爽やかな作風のものが多い気がします。

もちろん、こういう小説も面白いのですが、あくまでフィクションの世界限定ならば、田舎の閉鎖的でドロドロした空気を描く作品もけっこう好きだったりします。この手の作品で一番有名なのは、やはり『金田一耕介シリーズ』でしょうか。ここ最近なら、辻村深月さんの『水底フェスタ』や中山七里さんの『ワルツを踊ろう』も、地方都市の閉ざされた世界観が巧みに描写されていました。今回ご紹介する作品でも、日本の村社会の恐ろしさがテーマになっています。櫛木理宇さん『鵜頭川村事件』です。

 

こんな人におすすめ

田舎を舞台にしたパニック小説が読みたい人

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「ツキマトウ  警視庁ストーカー対策室ゼロ係」 真梨幸子

映画『羊たちの沈黙』を初めて見た時の衝撃は、今でもよく覚えています。ヒロイン役のジョディ・フォスターの演技やスリリングなストーリー展開、手に汗握るクライマックスなど見所はたくさんありますが、何と言っても一番インパクトがあるのはアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士の存在感でしょう。残虐な猟奇殺人を犯しておきながら人並み外れた知能を持ち、収監されているにも関わらず警察から捜査協力を求められるほどの天才犯罪者。その紳士的でありながら凶悪なキャラクターは、現在に至るまで多くの観客を魅了し続けています。

現実でこんなことがあるのかどうかは分かりませんが、「犯罪者が獄中から捜査協力する」というシチュエーションはなかなか面白いです。視覚的に映えるからか映画やドラマではよくあるんですが、小説ではあまりないな・・・と思っていたら、最近読んだ小説がまさにそういう設定でした。真梨幸子さん『ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係』です。

 

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ストーカー犯罪を扱ったイヤミスが読みたい人

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「火のないところに煙は」 芦沢央

「この作家さんはこういう作品を書く」というイメージってあると思います。綾辻行人さんなら叙述トリックを駆使した新本格ミステリーだし、瀬尾まいこさんなら心温まる成長物語、唯川恵さんなら女性主人公の恋愛模様etcetc。人それぞれ好きなジャンルがありますから、「これこれこんな物語を読みたい時はこの人の小説がお薦め」という知識があれば、作品選びが楽になります。

その一方で、「この作家さんってこんな小説も書くんだ!!」と驚かされることもあります。私は『和菓子のアン』『女子的生活』などの爽やかな作風のイメージがあった坂木司さんが、『短劇』『何が困るかって』で意外にブラックな小説も書くと知り、びっくりしたものです。こういう驚きもまた、読書の醍醐味の一つではないでしょうか。びっくりと言えば、芦沢央さん『火のないところに煙は』。芦沢さんの新境地、楽しませてもらいました。

 

こんな人におすすめ

実話風ホラー小説が読みたい人

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「四十歳、未婚出産」 垣谷美雨

厚生労働省の発表によると、国内のひとり親家庭の数は二〇一一年度の時点で母子家庭が一二三.八万世帯、父子家庭が二二.三万世帯だそうです。この記事を書いている時(二〇一八年)にはもっと増えていることでしょう。私が注目したのは、一九八八年度の調査の時と比べて、離別や死別ではなく未婚によるひとり親家庭が増えている点です。結婚しないまま子どもをもうけ、育てる生活スタイルは、もはや海外だけのものではありません。

とはいえ、日本において未婚のまま親になるということは、様々な困難に見舞われることも事実。永井するみさんの『俯いていたつもりはない』、柚木麻子さんの『本屋さんのダイアナ』、唯川恵さんの『100万回の言い訳』などでもひとり親家庭が登場し、多くの試練に立ち向かっていました。私が最近読んだこの作品にも、悪戦苦闘する未婚の親が出てきましたよ。垣谷美雨さん『四十歳、未婚出産』です。

 

こんな人におすすめ

シングルマザーの奮闘記が読みたい人

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