ミステリー

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「翼ある蛇」 今邑彩

古来より、蛇は様々な文化の中で、<人知を超えた得体の知れない力を持つ存在>として捉えられてきました。手足のない体や、全身をくねらせて移動する動き方、脱皮を繰り返す性質などがそうさせるのでしょうか。旧約聖書の中で、禁断の果実を食べるようイブを唆すのは蛇ですし、ギリシャ神話では生命力の象徴とされ、世界保健機関のシンボルマークにもなっています。

蛇が重要なキーワードとして登場する作品はたくさんありますが、やはり<ミステリアスで不可思議な力の象徴>として描写されることが多い気がします。川上弘美さんの『蛇を踏む』や三浦しをんさんの『白いへび眠る島』などがいい例でしょう。今日は、蛇がとても印象的な使われ方をしている作品を取り上げたいと思います。今邑彩さん『翼ある蛇』です。

 

こんな人におすすめ

・猟奇殺人が出てくるサスペンスが好きな人

・『蛇神シリーズ』のファン

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「業火の地 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎」 櫛木理宇

古来より、放火は非常に重い罪として扱われてきました。理由は色々ありますが、その最たるものは、社会及び被害者に与える被害が甚大だからでしょう。マッチ一本の火が、最悪、町一つを焼き尽くしてしまうことだってあり得ます。日本の場合、一昔前は木造建築が主流であり、火災の影響を受けやすかったことも関係していると思います。

そうなると当然、放火をテーマにした小説は、のんびりユーモラスなものにはなり得ません。この記事が投稿された時期を考えると、二〇二三年七月にドラマ化された池井戸潤さんの『ハヤブサ消防団』を思い浮かべる人が多いかな。<放火>から<火災>まで範囲を広げると、若竹七海さんの『火天風神』も迫力たっぷりのパニックサスペンス小説でした。今回ご紹介する作品にも、火にまつわる悲惨な事件が出てきます。櫛木理宇さん『業火の地 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』です。

 

こんな人におすすめ

放火事件を扱ったサスペンスに興味がある人

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「灰色の家」 深木章子

厚生労働省の調査によると、一番自殺が多い年代は六十代、次に五十代、四十代と続くそうです。百歳超えが珍しくない現代において、これくらいの年代はまだまだ働き盛り。公私共にエネルギッシュな年頃と言っても過言ではありません。とはいえ、二十代、三十代と比べれば、体力気力が衰えてくる世代であることもまた事実。だからこそ、苦境に立たされた時、「こんな苦しいことがまだ何十年も続くのか」と弱気になり、自殺に走ってしまうのかもしれませんね。

一方、七十代、八十代になると、自殺者の数は減少します。これには様々な要因があるのでしょうが、その一つは、自殺しなくても、段々と死が迫ってくる世代だからだと思います。足腰や五感が徐々に弱ってくる人もいれば、本人は健康でも、近親者や友人知人の死が相次ぐ人だっているでしょう。生きる辛さが長く続くと思うからこそ自殺を選ぶのであって、もう自然死が間近に見えているならわざわざ死ななくても・・・と思う人は、少なくないのではないでしょうか。では、そういう状況で自殺を選ぶ高齢者がいたとしたら?それも、一人ではなく、狭いエリア内で何人も自殺者が続いたとしたら?そこには何が秘められているのでしょう。今回は、高齢者の自殺を巡るミステリーを取り上げたいと思います。深木章子さん『灰色の家』です。

 

こんな人におすすめ

老人介護問題と絡めたミステリーに興味がある人

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「フォトミステリー」 道尾秀介

昔読んだ小説の中で、こんなエピソードが紹介されていました。『チャレンジャー号爆発事故の発生後、阿鼻叫喚に陥る観客達を写した写真が話題となった。ところが後日、その写真は事故発生後ではなく、打ち上げ直後に撮られたものだと判明した。当初、恐怖と混乱の真っ只中と思われていた観客達の表情は、実は期待と興奮に沸いていたのだ』。その後同様のエピソードを見聞きしたことはないため、もしかしたら単なる噂なのかもしれませんが、十分あり得る話だと思います。物の見え方というものは、受け取る側の価値観や状況によって簡単に変化するものです。

絵よりもずっと正確に、被写体を写すことができる写真。そんな写真でさえ、解釈の違いというものは存在します。たった一枚の写真からだって、百人の人間がいれば百通りの物語を作り出すことも不可能ではないでしょう。今回取り上げるのは、写真にまつわるバラエティ豊かなショートショート集、道尾秀介さん『フォトミステリー』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックな作風のショートショートが好きな人

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「ぼんぼん彩句」 宮部みゆき

俳句というのは、とても奥の深い芸術です。たった十七文字という、詩の世界の中でも異例の短さで、風景や作者の心情を表現する。文字数が少ない分、一見簡単だと思えるかもしれませんが、十七文字という縛りの中で世界観を作り上げるのは至難の業です。日本での認知度の高さは言うに及ばず、近年では海外にまで俳句文化が進出し、英語で俳句を詠むこともあるのだとか。日本の伝統文化が世界に広まるのは、日本人として嬉しいことですね。

それほど有名な俳句ですが、俳句が大きく取り上げられた小説となると、私は今まであまり知りませんでした。松尾芭蕉や小林一茶といった有名な俳人が主人公の小説ならいくつかあるものの、それらは俳句そのものがテーマというわけではありません。なので、先日、この作品を読んだ時はとても新鮮で面白かったです。宮部みゆきさん『ぼんぼん彩句』です。

 

こんな人におすすめ

俳句をテーマにしたバラエティ豊かな短編集に興味がある人

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「あなたに捧げる犯罪」 小池真理子

本好きとしては大変ありがたいことに、私が住む自治体は複数の図書館を運営してくれています。とはいえ、しょっちゅう行くのは徒歩圏内にある近所の図書館がメイン。行き来に時間がかからない分、本選びに時間をかけられるし、思い付きでふらっと行くことができてとても便利です。

その一方、時には普段利用する所とは違う図書館に行くのも楽しいものです。図書館によって蔵書が違うため、「あ、これずいぶん前に読んだ本だ!」「そう言えば、これってこの作家さんの著作だったんだな」等々、新鮮な面白さがあります。先日、所用で出かけた場所で普段利用しない図書館に立ち寄ったところ、昔読んで大好きだった本と再会しました。小池真理子さん『あなたに捧げる犯罪』です。

 

こんな人におすすめ

日常系イヤミスが好きな人

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「少年籠城」 櫛木理宇

<子ども食堂>という言葉をご存知でしょうか。これは子どもや地域住民に、無料ないし安価で食事を提供する社会活動のことで、二〇一〇年代頃からマスコミ等に頻繁に取り上げられるようになりました。食は人間にとって欠かすことのできない営みであり、心身の健康に直結するもの。こうした動きが活発化することは、この世界にとってとても大事だと思います。

子ども食堂の認知度が上がるにつれ、子ども食堂を扱った小説も増えてきました。ただ、私が今まで読んだことがあるのは、短編小説がほとんど。長編小説はなんとなく機会がなくて未読のままでした。そんな私が初めて読んだ長編の子ども食堂ものは、なんとこれ。櫛木理宇さん『少年籠城』です。最初にして、とてもショッキングな読書体験となりました。

 

こんな人におすすめ

子どもの貧困に関するサスペンスミステリーが読みたい人

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「蛇神」 今邑彩

実は私、昔はシリーズ作品が苦手でした。今になって考えてみると、<順番通りに読まなくてはならない><前作の内容を把握しないと、次作の意味が分からない>という縛りが嫌だったのだと思います。シリーズ作品で読むとしたら、どの刊から読んでも構わない、いわゆるサザエさん時空で展開するものばかり。我ながら食わず嫌いだったなと思います。

言うまでもなく、縛りがあろうとなんだろうと、面白いシリーズ作品は山ほどあります。有名どころなら、東野圭吾さんの『ガリレオシリーズ』や有栖川有栖さんの『火村英生シリーズ』、当ブログで何度も取り上げた西澤保彦さんの『匠千暁シリーズ』や澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』etcetc。刊が進むごとに登場人物達の状況が変化し、成長を見ることができて楽しいです。今回ご紹介するのは、大好きなシリーズ作品の記念すべき第一作目、今邑彩さん『蛇神』です。

 

こんな人におすすめ

因習が絡む土着ホラーが好きな人

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「黒と茶の幻想」 恩田陸

小説の楽しみ方は、パズルを解くのとは違います。明確な答えがあるわけではないので、同じ物語に対し、いつ何時でも同じ感想を抱くとは限りません。子どもの頃に読んだ本を大人になって再読してみたら、まったく別の解釈が生まれることもあり得ます。

世代によって解釈が分かれる作品として、よく挙がるのがジブリアニメの『火垂るの墓』。子ども目線で見ると、主人公兄妹の叔母は冷酷な酷い人なのですが、大人になって鑑賞すると、「あの大変な時代に、働かない子ども二人が居候していたら、そりゃ冷たい態度にもなるよなぁ」と、叔母の心情が分かってしまうのです。先日再読したこの本も、二十年以上前に初読みした時とはまた違う印象を受け、新鮮な驚きがありました。恩田陸さんの『黒と茶の幻想』です。

 

こんな人におすすめ

長編旅情ミステリーが読みたい人

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「腕貫探偵 残業中」 西澤保彦

小説や漫画を読んでいると「このキャラは作者のお気に入りなんだな」と感じることがしばしばあります。作家とはいえ人間なのですから、特定のキャラクターに感情移入することもあって当然。他キャラに比べて登場シーンが多かったり、描写が丁寧だったり、必要以上に過酷な目に遭わされたり(笑)と、インパクトのある描き方をされることがしばしばです。

ただ、作者お気に入りキャラの例としてよく挙がるのは、さくらももこさん『ちびまる子ちゃん』の永沢君や、諫山創さん『進撃の巨人』のライナー等、漫画のキャラクターが多い気がします。やはり、キャラクターの活躍ぶりが目で見て分かりやすいからでしょうか。でも、小説の世界にも、作者の寵愛を受けて活躍するキャラクターがたくさんいるんですよ。このシリーズの探偵役も、絶対に作者のお気に入りだと勝手に思っています。西澤保彦さん『腕貫探偵 残業中』です。

 

こんな人におすすめ

安楽椅子探偵もののミステリー短編集が読みたい人

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