はいくる

「この会社は実在しません」 ヨシモトミネ

小説家になろう、カクヨム、アルファポリスetc。現在、国内には複数の創作物投稿サイトがあります。厳密に言えば、各サイトごとに違いがあり、メリット・デメリットも存在するようですが、私はあまり気にしないタイプ。時間がある時、目についたサイトで面白い作品が読めれば満足です。

こうした投稿サイトは、一般人が誰でも気軽に作品を投稿できるという特徴上、どうしても玉石混交になりがちです。だからといって、「素人の趣味じゃん」と侮ることはできません。気軽に投稿できるからこそ参加者が増え、素晴らしい筆力の持ち主が育つことだって決して珍しくないのです。この作品も、その一つだと思います。今回取り上げるのは、カクヨムからデビューした作家、ヨシモトミネさん『この会社は実在しません』です。

 

こんな人におすすめ

モキュメンタリーホラーが好きな人

スポンサーリンク

かぞくみんな、だいじょうですよ---――会社の倉庫で眠っていた、持ち主不明の段ボール箱。そこにしまってあった数々の資料が、おぞましい秘密を呼び覚ます。社内に現れる不気味な貼り紙、社員達から垣間見える狂気の行方、録音されていた戦慄の地獄絵図、徐々に社外へと侵食してくる怪異の数々、その背後に隠された過去の業。彼は、彼女は、この災厄から逃れることができるのか。日常を狂わす恐怖を描く、モキュメンタリーホラーの傑作

 

カクヨム連載中からずっと追い続けていた作品が、ついに書籍化されました。こういうことは好みもあるはいえ、個人的・カクヨムNO.1は本作。カクヨムといえば、映画化もされた、背筋さんの『近畿地方のある場所について』の方が有名かもしれませんが、私としては本作を推したいです。

 

主人公は、老舗菓子メーカーで働くOL・瑞穂。ある日、瑞穂は、会社の奥に奇妙な段ボール箱がしまってあることに気づきます。箱の中には、この会社で起きた奇妙な出来事に関する資料が収められていました。もともとホラー好きだった瑞穂は、好奇心に駆られ、これらの資料を文章としてまとめてみることに。その結果、社内では昔から、怪奇現象が繰り返し起きていることを知ります。おまけに、瑞穂の自宅周辺でも不気味な出来事が起こり始めました。不安を覚えた瑞穂は、同期の宮下に相談してみるのですが・・・・・果たしてこの会社には、一体何が巣食っているのでしょうか。

 

ジャンルとしては『近畿地方のある場所について』同様モキュメンタリーホラーであり、物語の大半は新聞記事、インタビュー記事、電話の音声記録、手紙といったデータです。これらがとにかく超不気味!最初はごく普通の文言や会話だったのが、段々と怪異らしきものに侵食され、書き手・語り手が正気を失っていく様子がものすごく怖いんですよ。子ども用のおもちゃが置いてあったら<助からないかもしれない>エレベーターって一体何!?存在しない家族について幸せそうに話す営業マンとか、デスクで唐突に自分の爪を剥がしだすOLとか、想像しただけで怖いし痛いし・・・こういう<余計な感情を排し、淡々とデータを連ねる>というモキュメンタリーの手法は、やっぱりホラーにぴったりですね。

 

また本作の場合、モキュメンタリーホラーとしては珍しく(ないですか?)、主要登場人物達の心理描写もしっかりしています。物語の中心となるのは、資料の数々を発見したホラー好きOLの瑞穂、どうやら瑞穂を憎からず思っているらしい同期の宮下、宮下の昔馴染みである新聞記者・藤村。この三人、それぞれバックボーンがあり、秘めた思いがあり、各々が信念に基づいて怪異と関わっていきます。それらがくどすぎず、かといって雑すぎず、シンプルながら丁寧に描いているので、モキュメンタリーにしばしば感じる物足りなさがないんですよ。出番は少ないながら、瑞穂の両親(生みの親ではない)が、怪異に侵されてもなお瑞穂への愛情を忘れないところも染みたなぁ・・・「モキュメンタリーって、リアル感を出そうとしすぎて、逆に盛り上がりにかける」と思う読者にこそ読んでほしいです。

 

あと、数々のデータが過去に繋がり、怪異の正体が分かるという流れも良かったです。タイトルにもある通り、本作のキーワードは<会社>であり、怪異も会社にまつわるもの。瑞穂が勤める会社設立の背景や、創業者一族の闇が徐々に明らかになる過程はとてもスリリングでした。ここで出てくる霊能者が、決してインチキではないながら怪異には太刀打ちできないというところも、いかにもジャパニーズホラーっぽくてイイ感じです。<家>が怪奇現象の原因だったというホラーは結構あるけれど、<会社>というパターンは初めてお目にかかったので、なかなか新鮮でもありました。

 

なお、作者のヨシモトミネさんは、本作以外にもカクヨム上に複数の作品を投稿されています。いずれも質の高いホラーばかりなので、モキュメンタリーに興味のある方はぜひチェックしてみてください。こういう優れた書き手に出会えるので、投稿サイト巡りはやめられません。

 

段々と狂っていく描写がたまらない度★★★★★

これってもはやハッピーエンド・・・?度☆☆☆☆

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

     「変な家」の雨穴さんのようなイメージを持ちました。
     「近畿地方のある場所について」はイマイチでしたが、少し違うようでどういう展開になるのか楽しみです。
     好みのホラー要素がありそうで楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      怪異の正体や成り立ちがしっかり分かる分、私は「近畿地方~」より本作の方が好みでした。
      ただ、上記の理由により「モキュメンタリーっぽさが薄れている」「もっとモヤモヤ感がある方がホラーっぽい」という意見もあるようですね。
      この辺りは好みが分かれそうです。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください