はいくる

「監禁依存症」 櫛木理宇

<監禁>という言葉の定義について調べると、<人を一定の区画内に閉じ込め、そこから出られない状態にすること>と出てきます。手錠やロープ等で身体を拘束することだけでなく、脅迫等を用いて脱出困難な状態に追いやることも監禁に相当するのだとか。この犯罪の特異な点は、ひったくりや通り魔的な殺傷事件と違い、犯人側もそれなりの準備や工夫を行わなければならないという点でしょう。

小説の世界で例を挙げると、秋吉理香子さんの『監禁』でも、永井するみさんの『大いなる聴衆』でも、犯人は周到な準備を行った上でターゲットを監禁していました。そういえば綾辻行人さんの『迷路館の殺人』のように、広大なからくり屋敷を使って登場人物達を出られないようにするという突飛なケースもあったっけ。先日読んだこの作品にも、狡猾な犯人による恐ろしい監禁事件が出てきました。櫛木理宇さん『監禁依存症』です。

 

こんな人におすすめ

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

スポンサーリンク

絶対に、この屈辱を忘れない。同じ思いを味わわせてやる---――その日、一人の少年が姿を消した。少年の父親は、数々の性犯罪を示談や不起訴に持ち込み、多くの恨みを買っている有名弁護士。では、この事件は父親への報復目的の誘拐なのか。少年救出に向けて動き出す捜査陣だが、やがて事件の背後に不審な点が見え隠れし始める。いつまでも連絡が取れない父親。不可解な行動を取る母親。親族の奇妙な言動。どうやら、これはただの誘拐事件ではないようだが・・・・・終わりのない悪意の連鎖を描くイヤミスシリーズ第三弾

 

『殺人依存症』『残酷依存症』に続く『依存症シリーズ』三作目です。一作目『殺人依存症』と繋がっている部分が多く、シリーズもいよいよアクセル全開という感じ。当然のように陰鬱具合もアップしているので、読む前に心の準備をしておいてください。

 

性犯罪者の弁護を数多く引き受け、悪辣な手法により示談や不起訴に持ち込んできた有名弁護士・小諸成太郎。その一人息子が、ある日突然姿を消します。それから間もなく、小諸家には犯人と思しき人物から身代金を要求する電話が入りました。犯人の動機は身代金か、それとも小諸への怨恨か。高比良ら刑事達は全力で捜査に当たりますが、次第に小諸家に漂う不穏な空気に気付き・・・・・

 

一方、少女時代に誘拐されたことのある架乃は、大学生になりました。事件を経て父親とは和やかな関係を築けているものの、実家とは疎遠。もう二度と被害者にならずに済むよう、誰にも弱味を見せず、派手な格好をして身を守っていました。そんな日々の中、架乃は絢という女子大生と親しくなります。絢は幼い頃、性犯罪の被害に遭っていました。悲惨な過去を持ちながら強く生きる絢と出会ったことで、かつて自分が巻き込まれた事件について考え始める架乃。ですが、架乃の周囲に、逃亡中の指名手配犯・浜真千代の影がちらつき始め・・・・・

 

序盤から誘拐事件が起こりますし、前書きで<監禁>というキーワードにも触れましたが、本作でメインテーマとして扱われるのは性犯罪。犯罪そのもののおぞましさもさることながら、作中では、犯人判明後に被害者を襲う苦難について描かれます。心身に酷い傷を負った挙句、屈辱的な証言を強いられ、有形無形の誹謗中傷に晒され、家族までも嘲笑の的になる・・・・・本作の場合、前二作に比べると肉体的な暴力シーンは少ないのですが、その代わりと言わんばかりに繰り返されるセカンドレイプの描写が壮絶で、胸糞悪くて仕方ありませんでした。

 

その胸糞悪さの象徴とも言える存在が、本作のキーパーソン(なのになかなか本人が出てこない)である小諸弁護士。性犯罪者の弁護を得意とする弁護士ですが、こいつの薄汚さといったら、もう反吐が出るレベルです。「合意の上だったのではないか?」「お金のことが頭にあったのではないか?」等の言葉で被害者を動揺させ、精神力を削ぎ、示談に持ち込んだり、まともに証言できなくさせたりするのが常套手段。とはいえ、小学生の息子に罪はないわけだし、この子だけでも無事でいてほしいと思っていましたが・・・後半、明らかになる小諸家の惨状には愕然としてしまいました。まあ、櫛木ワールドなら、これくらいの修羅場は当然あり得るわな。

 

さらに、小諸の息子の誘拐事件と並行して、シリーズ第一弾『殺人依存症』で生還した浦杉架乃の物語も描かれます。一見普通の大学生活を送っているように見えて、過去の事件と向き合えず、あえて派手なファッションで<強い女>を演出して身を守る架乃。そんな架乃が親しくなる絢という女子大生と、周囲に見え隠れする浜真千代の影。一体どこに浜真千代は潜んでいて、架乃相手に何を企んでいるのか。たぶん、何らかの仕掛けがあるのだろうなと考えていたものの、真相は予想を遥かに超えていました。一作目終盤の展開が、まさかこう繋がってくるとは。途中、架乃が絢と仲良くなり、二人で和気藹々と過ごす様子が本当に楽しそうだった分、クライマックスで架乃が直面する運命の過酷さが衝撃的です。思えば、タイトルにある<監禁>って、攫われた小諸の息子のことだけでなく、浜真千代という存在に囚われ逃げられない架乃や浦杉らのことを指しているのかもしれません。それにしても、これだけ大掛かりな罠を仕掛けられる浜真千代って、一体どれだけの力を有しているのでしょうか。

 

繰り返しになりますが、本作は一作目『殺人依存症』と密接に関わっています。『殺人依存症』未読ではほぼ意味が分からないでしょうし、内容をしっかり覚えておく必要もあります。できれば、『殺人依存症』読了から間を置かずに本作を読んだ方がいいかもしれませんね。かなり精神的にきついでしょうが、その方が絶対に理解が深まります。一説によると、このシリーズは全部で五部作の予定なのだとか。架乃や浦杉はどんな運命を迎えるのか。浜真千代が目指すものは何なのか。それを知るが怖いような、待ち遠しいような、複雑な気持ちです。

 

正義は一体どこにあるのだろう・・・度★★★★☆

表紙の<因果応報>の文字が突き刺さる度★★★★

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

     殺人依存症のシリーズ3作目ですね。
     早速予約します。
     1作目の少女が大学生とはそれなりに時間も経過しているみたいですね。
     リフレッシュ休暇中、食堂のおばあちゃんシリーズ、中山七里さん、柚月裕子さん、東野圭吾さんの新作が届いたと思ったら蔵書整理中で受け取れず。
     滋賀県を舞台にした成瀬は天下を取りに行くの続編も届いたのに受け取れません。
     老い蜂の改題と知らずかりた執着者と織守きょうやさんの新作を読んでます。
     息子が高校生、娘が中学生になるのでますますお金がかかりそうです。

    1. ライオンまる より:

      浜真千代の黒幕っぷりもますます加速し、ラストまでハラハラし通しでした。
      一作目の幼い架乃を知っている分、最後の選択がやり切れなかったです。
      こちらは中山七里さんの空港警察を読んでいる最中です。
      読みたい本が届いたと思ったら蔵書整理中という切なさ、私も何度も味わいました(^^;)

      子どもの成長は嬉しい反面、色々と物入りですからね。
      うちもこれから出費が増えるだろうなと、戦々恐々としています。

  2. しんくん より:

    読み終えました。相変わらず容赦ない結末でした。
     まさに浜真千代のパワーアップというか磨きがかかったラストには驚きを通り越して感心しました。
     因果応報を与えるまさに閻魔様のようなイメージでした。
     

    1. ライオンまる より:

      一作目の時点では「凶悪なサイコパス犯罪者」だった浜真千代ですが、今では人間離れしすぎてもはや魔王のようです。
      ただ、二作目同様、本作でも標的とされた弁護士がクズなせいで、浜真千代を支持する気持ちさえ生まれてしまいました。
      決断を下してしまった架乃の今後が心配です。

  3. しんくん より:

     架乃の今後が心配ですが、これは続編があるかどうか気になります。
     架乃と瀬川姉妹が浜真知代の後継者になるのか?とすら思う結末でした。

    1. ライオンまる より:

      あの結末からして、絶対に続編がありそうですね。
      洗脳し、浦杉と対峙させるつもりでは?と予想しています。
      あと、絢の妹に嫌がらせをした男が失踪しましたが、彼の末路もちょっと気になっています。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください