空港。読んで字の如く空の港であり、国内外を結ぶ要です。旅行や出張の際はお世話になることも多い場所のため、親しみを感じる人もたくさんいるでしょう。飛行機移動の予定がなくても、空港内を散策したりショップ巡りするのが好きという人も結構いるようですね。私自身、大の甘党のため、空港のお菓子コーナーをうろうろするのが大好きです。
とはいえ、悲しいかな、空港はいつも楽しく和気藹々としているわけではありません。多くの人間が出入りし、海外との往来の要所ともなる性質上、犯罪の通過点になり得てしまうのです。そんな場所だからこそ、こういう刑事にいてもらえたらどれだけ安心でしょうか。今回取り上げるのは、中山七里さんの『こちら空港警察』。中山ワールドに新たな名刑事が誕生しました。
こんな人におすすめ
・空港にまつわる犯罪をテーマにした作品に興味がある人
・癖のある刑事キャラが好きな人
犯罪者は絶対逃がさない。どんな手を使っても潰してやる--―――「あてにならない」と評判の成田国際空港警察署に、新署長が赴任してきた。名前は仁志村。一見とっつきやすく柔和ながら、実は狡猾で容赦がなく、あらゆる手を使って犯罪者を追い詰めていく。麻薬密輸、爆弾騒ぎ、パスポート偽造、殺人、ハイジャック・・・どんな犯罪も、彼の前では赤子も同然。唯我独尊の名刑事が、空港に巣食う罪と業を苛烈に暴く!
<ぱっと見は好人物ながら、実は残酷で容赦がない>という仁志村のキャラクターは、『毒島シリーズ』の毒島真理とも共通しています。違いは恐らく、毒島が犯罪者を嘲笑しているのに対し、仁志村は犯罪者を憎んでいる点でしょう。卑劣な犯罪が横行する昨今、仁志村の苛烈さ容赦なさは痛快とすら感じました。高頭冴子、犬養隼人、山崎岳海、真垣総理といった中山ワールドの名物キャラ達の存在もちらほら見ることができ、満足度の高い一冊です。
「セレブリティ」・・・成田空港でグランドスタッフとして働く咲良の前に現れた、空港警察新署長・仁志村。快活で人当たりの良さそうな男なのだが、巷では<狡猾><酷薄><唯我独尊>と恐れられているらしい。そんな人には見えないのに・・・と首を傾げる咲良の前で起きた、外国人ツアー旅行者を装う麻薬密輸事件。幸い、犯人グループは逮捕されて一件落着となるも、仁志村は別の人物に目をつけているようで・・・・・
咲良目線で描写される、仁志村の<好人物→苛烈な策士>という豹変ぶりがインパクトありました。何しろ、あの高頭冴子すら泣かせたことのある鬼刑事ですからね。ちんけな犯罪者など、木っ端微塵にされること必至。あと、本筋とは無関係ですが、お気に入りキャラである宏龍会渉外委員長・山崎がちらっと登場してくれたことが嬉しいです。ご健勝そうで何より!
「ATB」・・・離陸前から態度が悪かった男性客が、飛行中の機内で騒ぎ出した。曰く、「この飛行機に爆弾を仕掛けた。爆破前に空港に引き返せ」とのこと。大急ぎで飛行機を着陸させるも、その後の男性の態度は何やら不自然で・・・・・
前半を読んだ時点では、多くの人が「この感じ悪い男性客が話の中心なんだな」と思うでしょうし、実際、私もそうでした。ですが、そこはさすがの中山七里さんで、男性客にまつわる騒動をしっかり描きつつ、水面下でもう一つ事件を進行させてくれます。まあ、実際、こんな風に飛行機が空港に引き返したら、乗客にとっては大迷惑でしょうけどね。
「イミグレーション」・・・偽造パスポートを使用し、空港内で拘束されていた外国人女性が、一瞬の隙をついて何者かに殺害された。しかも、彼女を見張っていた空港職員の男性と一緒に。許せない。仲間の仇は必ず討ってやる。怒りに燃える同僚達を横目に、仁志村はある行動に出て・・・・・
どこか軽妙な雰囲気があった前二話と比べ、二人の人死にが出ていること、二〇二一年に実際に起きたスリランカ人女性死亡事件が作中で触れられることもあり、この話の雰囲気は終始重いです。やりきれなさを感じる中、中国公安にすら一歩も引かない仁志村の強かさに救われた気がします。なお、中心人物となる空港職員・熊雷は、『カインの傲慢』で犬養刑事に協力してくれた人物とのこと。ずいぶん前に読んだため細部を忘れているので、再読したいです。
「エマージェンシー・ランディング」・・・飛行中の飛行機がハイジャックされた。犯人の要求は、「解散したアイドルグループを再結成させること」。あまりの要求に関係者一同は唖然とするが、仁志村は犯人の言動に違和感を抱いていた。仁志村曰く、「あの犯人は、要求したアイドルグループのファンではない。真の目的は他にある」とのことで・・・
空港を舞台にした警察小説と聞けば、真っ先に出てくることが予想されるであろうハイジャック事件。この話の場合、何よりまず犯人の要求が突飛すぎて、目が点になりそうでした。何気ない会話から犯人の嘘に気付いた仁志村の慧眼、凄すぎる!職員の善意の行動がとんでもない非常事態を巻き起こすことになりますが、解決編は次の話に持ち越されます。
「テロリズム」・・・姦計にはまり、犯人一味に管制塔内を占拠された成田空港。彼らの目的は、成田空港の廃港だ。当然、応じられるはずもないが、人質まで取られてしまい、状況は八方塞がり。そんな中、仁志村は、仲間をも仰天させるような作戦を実行し・・・・・
最終話らしく、仁志村の酷薄さと頭の良さがこれでもかと描かれていました。成功したから良かったようなものの、こんな作戦を決行する人が仲間内にいたら、そりゃ堪らないよなぁ。ただ、前述した毒島と違い、仁志村からは「人命と安全を守りたい」という意思を感じるんですよね。最後の一言が印象的です。
ちょっと気になったのは、第一話から登場していたグランドスタッフ・咲良の存在。てっきり空港職員という立場から仁志村と関わり、時に対立し時に協力するのかと思いきや、前半であっさり姿を消してしまいます。プロ意識のある好印象なキャラクターなので、次巻があるなら再登場してほしいです。
これだけ容赦ないと、いっそ清々しい!度★★★★★
空港お仕事小説としても読み応えあります度★★★★☆
新たな中山七里さんのキャラクターの登場ですね。
仁志村刑事は渡良瀬警部、能面検事、光崎教授と違って愛想というか外面が良い分、彼ら以上に悪に対して容赦ない態度が印象的でした。
毒島に似ているようでも、冷淡な毒島に比べて熱き魂のようなイメージです。
咲良を通して語られる設定が面白かったですが咲良が途中からあまり出なくなったのは残念です。
山崎岳海とアマゾネス刑事が出ていたのは覚えていましたが、他のキャラクターまで覚えているとは素晴らしい。
仁志村はむしろ他の作品のゲストとしては出てきそうです。
岬や古手川刑事が空港を使う時咲良と一緒に出てきそうです。
彼を主役にした続編を期待したいです。
ヒポクラテスの悲嘆が届きました。
犯罪者を冷たく見下している毒島に対し、憎悪の炎を燃やしているような仁志村の姿が印象的でした。
移動の要所で働いているわけですから、今後、他のキャラクターとも絡ませやすそうですね。
こちらは垣谷美雨さんの新作がもうすぐ届きそうです。