はいくる

「双頭の蛇」 今邑彩

シリーズ作品には<三作目の壁>というものがあるそうです。物語の始まりである一作目が面白いのは、ある意味、当然。その勢いに乗れば、二作目も高水準を維持できる。問題は三作目で、ここで失速し、評価を落としてしまう作品もしばしばあるとのこと。逆に、この壁を乗り越えれば、レベルの高い人気シリーズになることが多いそうです。

実際、人気のある小説シリーズは、総じて三作目のレベルが高い気がします。綾辻行人さんの『館シリーズ』三作目の『迷路館の殺人』や、東野圭吾さん『ガリレオシリーズ』三作目の『容疑者Xの献身』は、シリーズ中でもお気に入りの作品です。個人的に、この作品も壁を突破していると思います。今邑彩さん『蛇神シリーズ』の三作目『双頭の蛇』です。

 

こんな人におすすめ

・因習が絡む土着ホラーが好きな人

・『蛇神シリーズ』のファン

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信州の人里離れた場所に存在する日の本村。その村を調べていた調査員が消えた。調査員の行方を案じる元恋人・蛍子は、単身、日の本村を訪れる。古来よりこの村では、七年に一度の大祭の際、幼い少女を生贄に捧げてきたらしい。折しも、生贄の条件に合致する少女が失踪しているのだが・・・・・時同じくして、瀕死の重傷を負い、生死の境を彷徨った少年の背に、蛇の鱗のようなものが出現する。これはまさか、選ばれし者にのみ現れるお印なのか。導かれるように日の本村を訪れた少年が、そこで目にしたものとは---――業と宿命が交錯する、土着ホラーシリーズ第三弾

 

一作目『蛇神』、二作目『翼ある蛇』はどちらも独立した作品でした。対して本作は、『蛇神』『翼ある蛇』の出来事をしっかり引継ぎ、最終巻『暗黒祭』に続く内容になっています。日の本村にまるわる事件の数々はいっそう加速、今まで出てきた登場人物達も再結集し、一瞬たりとも目が離せません。

 

日の本村について調べていた調査員・伊達の失踪。伊達が失踪直前に日の本村に滞在していたことを知った元恋人・蛍子は、一念発起して日の本村を訪れます。伊達の姿はないものの、村の中で伊達のライターを発見。やっぱりここで彼の身に何かあったんだ!確信する蛍子ですが、村民達は何か隠しているようで---――同じ頃、とある事件に巻き込まれて重傷を負った新庄武が、一命を取り留めます。と同時に、突如として武の背中に蛇の鱗のような紋様が出現。これを見た叔父の聖二は顔色を変えました。その紋様は、神に選ばれた者のみに現れるもののはず。ひとまず聖二は、自身が古社で宮司を務める日の本村に武を連れて行きます。村では、もうすぐ七年に一度の大祭が催される予定でしたが・・・・・

 

冒頭の少女誘拐事件から、とにかく不審な出来事のオンパレード。前半は元恋人を探す蛍子、後半は叔父に連れられ日の本村を訪れた武が中心となり、日の本村の暗部にどんどん近づいていきます。今までは「なんとなく怪しいなぁ」レベルだった日の本村が、実は異様な信仰を頑なに守っていることも段々見えてきて、伝奇・土着ホラー好きとしてはワクワクドキドキしっぱなしでした。

 

とはいえ、「すべて変な宗教のせいです」で済ませないのが、今邑ワールドの面白いところ。空虚な夫婦関係に追い詰められていく妻や、若さと逞しさの盛りにある息子に嫉妬心を抱く父親など、生臭い人間の描き方もとても良かったです。なお、上記の二人は本作より十数年前を描くシリーズ第一作『蛇神』にも登場しています。あの時はあんなに生き生き溌剌と描写されていたのに・・・と、なんだか切ないような気持ちにさせられました。

 

注意点としては、二作目『翼ある蛇』同様、日本神話や蛇神にまつわる蘊蓄が大量にあるところ。加えて、繰り返しになりますが、『蛇神』『翼ある蛇』の内容をしっかり引き継いでいるため、この二作品の内容を知らないと意味が分からないところでしょうか。この際、蘊蓄の方はさらりと斜め読みしても大丈夫なのですが、蛍子、武、聖二といった主要登場人物のことはきっちり頭に入れておかないと、面白さ半減です。前作、前々作を読んで日が開いたという方は、できれば再読しておくことをお勧めします。

 

ここまでくると信仰ではなくもはや狂気・・・度★★★★★

そしてすべては<暗黒祭>へ度★★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     三作目は作家、アーティストにとってまさに分岐点でもあるのですね。
     蛇神シリーズは未読でした。
     昭和の雰囲気が色濃く残るホラー、ミステリー、ワクワクドキドキする内容は楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      <恐ろしい因習が今なお残る村>という、土着ホラーファンのツボを的確に突いてくる舞台設定です。
      詳細に語られる神話ネタは好き嫌いが分かれそうなものの、民俗学好きなら楽しめるのではないでしょうか。
      できればシリーズ一気読みした方がいいかもしれません。

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