フィクションの世界には、<創作だからこそ楽しめる>という要素がいくつもあります。一番分かりやすいのは、犯罪に関するものでしょう。殺人、放火、誘拐、強盗等、現実に起これば許し難いものでも、小説や映画なら物語を盛り上げる重要なポイントとなり得ます。
そんな犯罪に関わる職業の筆頭格、それは<殺し屋>です。非合法な手段で犯罪と関わりまくれるという使い勝手の良さ(?)から、フィクション界で殺し屋はいつも大活躍!もはや古典の貫禄さえある『仕掛け人・藤枝梅安』や『ゴルゴ13』、もっと近年のものだと伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』、逢坂剛さんの『百舌シリーズ』等々、殺し屋が登場する作品は数えきれないほどあります。最近読んだ作品でも、腕のいい殺し屋が意外な形で有能ぶりを発揮していました。今回は、石持浅海さんの『殺し屋、やってます。』を取り上げようと思います。
こんな人におすすめ
・殺し屋が登場する小説に興味がある人
・日常の謎をテーマにしたミステリーが好きな人
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フィクション作品、特にミステリーやサスペンスの世界において、数多くの登場人物達が死体と出くわします。常識的に考えれば、そこで真っ先にすべきことは<救急・警察に通報する>一択なものの、創作の世界となると話は別。主人公がどうにか死体を処分しようと苦悩するところから物語が始まる、という展開も珍しくありません。
ここで問題となるのが、死体の処分方法です。燃やす、沈める、バラバラにする等々、様々なやり方がありますが、一番よくあるのは<埋める>ではないでしょうか。土がある場所を掘りさえすればOK!とにかく死体を見えない状態にできる!というお手軽感(?)のせいかもしれませんね。とはいえ、物事はそんなに都合良く進まないのが世の中の常。目先の欲に振り回されたおかげで、とんでもない事態に陥ってしまうこともあり得ます。今回取り上げるのは、そんな修羅場に巻き込まれてしまった人間の悲喜劇、藤崎翔さんの『モノマネ芸人、死体を埋める』です。
こんな人におすすめ
コミカルなクライムサスペンスが読みたい人
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この世の中に、絶対不変のものは存在しません。どんな物事であれ、状況次第で二転三転するのが世の常。そんな中、変わりやすいものの筆頭格は<価値観>ではないでしょうか。
では、なぜ価値観が変わっていくのかというと、理由は色々あれど一番は「時代が移り変わったから」だと思います。時が経てば経つほど新たな文化や技術が生まれ、それにつれて価値観も変化していくのは、ある意味当然のことなのかもしれません。ただ、それが一〇〇パーセント幸福に繋がるかと聞かれれば、そうとも言い切れないわけで・・・・・今回取り上げるのは、歌野晶午さんの『それは令和のことでした、』。令和ならではのブラックさがたっぷり効いていましたよ。
こんな人におすすめ
世相を反映したイヤミス短編集が読みたい人
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現代には、エンターテインメントが溢れています。漫画に小説、ドラマ、映画、ゲームetc。漫画一つ取っても、紙媒体もあれば電子書籍もありと、その数はまさに無数。この分だと、三年後、五年後には、きっとまた新しい娯楽が誕生していることでしょう。
これだけ数が多いと、当然ながら、詳しい分野と疎い分野が出てきます。私の場合、このところドラマに触れる機会がめっきり減りました。お気に入りの小説や漫画について調べた時、「え、これって映像化していたんだ!しかもとっくに放映終了してる!」と驚くこともしばしば・・・この作品も、知らない間にドラマ化されていたと最近知りました。永嶋恵美さんの『泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる』です。
こんな人におすすめ
・後味の良いサスペンス短編集が読みたい人
・『泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ』のファン
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「昔はよく見聞きしたけど、今はめっきり減ったよなぁ」と思う物事って、色々あります。その中の一つが、ミス・コンテスト。独身女性が優勝を目指して競い合うイベントで、ミス・ユニバースやミス・日本が有名ですね。一時期は様々な自治体や学校がコンテストを開催していましたが、ルッキズムやジェンダーレスといった問題から、昨今はその数も激減したようです。
現実のミスコンに対する賛否はひとまず置いておくとして、多くの女性が一堂に会して競うというシチュエーションは、小説の舞台にぴったり。林真理子さんの『ビューティーキャンプ』では、美の世界に生きる女性達の悲喜こもごもがリアリティたっぷりに描かれていました。私はイヤミス好きなので、ミステリーやサスペンスの分野で何か読みたいなと思っていたら・・・先日、見つけました。秋吉理香子さんの『殺める女神の島』です。
こんな人におすすめ
・ミスコンを扱った作品に興味がある人
・クローズドサークルもののミステリーが好きな人
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創作の世界において、姉妹というのは良くも悪くも濃密な関係になりがちです。私がイヤミスやホラーが好きだから余計にそう感じるのかもしれませんが、兄弟より複雑な愛憎劇が展開されることもしばしば・・・女同士という性別ゆえに、そういう描写がなされるのでしょうか。
ですが、現実がそうであるように、物語の中の姉妹だって毎回毎回いがみ合っているわけではありません。赤川次郎さんの『ふたり』『三姉妹探偵団シリーズ』や綿矢りささんの『手のひらの京』のように、固い絆で結ばれた姉妹もたくさん存在します。この作品の姉妹もそうですよ。西澤保彦さんの『幻想即興曲 響季姉妹探偵 ショパン篇』です。
こんな人におすすめ
クラシック音楽をテーマにしたミステリーが読みたい人
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物語を創る上で、テーマ設定はとても重要です。中には、特にテーマを決めず自由気ままに創作するケースもあるでしょうが、これは恐らく少数派。「身分違いの恋を書こう」とか「サラリーマンの下剋上物語にしよう」とか、最初に設定しておくことの方が多いと思います。
古今東西、大勢のクリエイターが様々なテーマを基に創作活動を行ってきたわけですから、その数はまさに天井知らず。となると、当然のごとく、ウケがいいテーマと、そうでもないテーマが出てきます。前者の代表格と言えば、やはり<時事ネタ>ではないでしょうか。今この時、世間を騒がせている問題をテーマにすることで、より多くの注目を集めることができます。今回取り上げる作品も、今という時代を象徴するようなテーマ選びがなされていました。結城真一郎さんの『#真相をお話しします』です。
こんな人におすすめ
世相を反映したどんでん返しミステリーに興味がある人
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<事件解決>とは、果たしてどのタイミングを指すのでしょうか。<捜査>という観点からいうと、犯人を逮捕したタイミング。もっと踏み込むなら、逮捕後、裁判によって動機や犯行方法等がすべて明らかとなり、然るべき刑を科されたタイミングだと考える人が多い気がします。
ただ、創作の世界に関して言えば、必ずしも逮捕や裁判が事件解決の必須条件となるわけではありません。登場人物の会話や独白、回想等で真相発覚・事件解決となることもあり得ます。「で、この後どうなるの!?」「犯人は捕まったの!?」というモヤモヤ感を残すことが多いため、イヤミスやホラーのジャンルでしばしば出てくるパターンですね。消化不良という批判を浴びがちですが、私はこういう後味の悪さが大好きです。そして、登場人物のやり取りで謎解きするという作風なら、やっぱりこの方でしょう。今回は、西澤保彦さんの『謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
・多重解決ミステリーが読みたい人
・『匠千暁シリーズ』が好きな人
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薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。
と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。
こんな人におすすめ
不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人
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<群衆事故>という事故があります。文字通り、統制・誘導されていない群衆によって引き起こされる事故のことで、集団の密度が高ければ高いほど発生リスクが高まるのだとか。二〇二二年に韓国で起きた梨泰院群衆事故は記憶に新しいですし、日本でも二〇〇一年に兵庫県明石市で花火大会帰りの群衆が歩道橋に殺到し、十一名の死者を出す大惨事になっています。
これは群衆事故に限った話ではありませんが、悲惨な事故が起こった場合、<なぜそんなことが起こったか>を調べるのはとても大事なことです。そして、フィクション作品の場合、大抵この<なぜ>の部分にとんでもない謎や秘密が仕掛けられていることが多いです。では、この作品はどうでしょうか。今回は、恩田陸さんの『Q&A』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
インタビュー形式で進むホラーミステリーが好きな人
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