万事においておっちょこちょいな私が、読む本を選ぶ上で気を付けているポイント。それが<改題>です。単行本から文庫化されたり、新装版が出版されたりする時、題名が変わるのはままあること。前の題名を連想させるような改題ならいいのですが、あまりにかけ離れた題名に変わっていると、「好きな作家さんの新刊だ!やった!」→「・・・と思ったら、前に読んだやつだった」というガッカリを味わうこともあり得ます。櫛木理宇さんの『少女葬』が、すでに読破済みだった『FEED』の改題だと知った時は悲しかったなぁ・・・
とはいえ、事前に内容をチェックしてさえいれば、改題は悪いことではありません。改題後の方がしっくりくるということだってあるでしょう。個人的には、真梨幸子さんの『更年期少女』は、改題後の『みんな邪魔』の方が好みだったりします。それからこの作品も、改題後の題名の方が好きなんですよ。藤崎翔さんの『三十年後の俺』です。
こんな人におすすめ
ブラックユーモアたっぷりの短編集が読みたい人
斧を落とした老人と池の神との攻防戦、一晩で老婆となったモデルの運命、八百長を強いられた野球選手の意外な末路、幽霊のプライドを賭けた戦いの結末、悪魔の格好をした政治家が巻き起こす波乱の行方、未来から来たという男の切ない秘密・・・・・元お笑い芸人の著者が送る、皮肉と笑いに満ちた短編集
『比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども』の改題作品です。改題前も決して悪いわけではないのですが、強烈すぎる題名と、悪魔の格好をした男の表紙イラストの影響か、奇抜なイメージばかりが先に立ってしまうんですよ。改題後の方が、本作のシニカルでちょっとシュールな作風をよく表していると思います。
「日本今ばなし 金の斧 銀の斧」・・・主人公は、とある池にすまう神。ある日、老人が池に鉄の斧を落としたため、「お前が落としたのは金の斧か、銀の斧か」という定番の質問をする。老人の答えは、金の斧。嘘をついた罰として斧を没収しようとする神だが、ふとしたきっかけで、老人が認知症ではないかという疑いを抱き・・・・・
「嘘つきは斧の没収だ!」→「え、まさか認知症?だったら嘘とは言い切れないから、斧の没収はやりすぎかも」→「でも病気と決めつけちゃいけないし、きちんと確認しないと」とおろおろする神様の描写が最高にユーモラス。おとぎ話の現代風アレンジって、執筆当時と現代との価値観のズレをどう描写するかが鍵となりますが、この話は実に巧みにアレンジがなされていました。まあ、そりゃ現代だとこうなっちゃうわな。
「一気にドーン」・・・モデルである主人公は、年齢不相応な若々しさを売りに活動中。ところがある日、目覚めてみると、なぜか一気に老婆になっていた。あまりの激変ぶりに誰からも本人と気づいてもらえず、やむなくその場から逃げ出す主人公だが・・・・・
とんでもなく悲惨な状況にも関わらず、妙にコミカルな主人公のモノローグが印象的でした。でも、コメディタッチで描写されているけれど、一晩にして老いさらばえてしまうだなんて相当に酷いですよね。それを思うと、終盤、この手の話にしては珍しく超効果的な解決策を持っていた警察の会話が、なんだかもの悲しかったです。
「伝説のピッチャー」・・・金銭問題に行き詰った挙句、ヤクザから八百長を強いられる野球選手。恐怖のあまり負け試合にすることを承諾するも、なぜかこんな時に限ってするすると勝ちが続いてしまう。命の危機に瀕した選手は、ヤクザに対し、ある提案をして・・・
ずっと不調だったはずなのに、野球賭博のため負けなければならないとなるや否や、なぜか復調して勝ってしまう主人公が滑稽なような哀れなような・・・ここで単なるドタバタコメディに終わらせず、ちょっと寒気がするオチに持っていくところが、藤崎翔さんの上手さだと思います。こういう裏事情、本当にありそうで怖い!
「心霊昨今」・・・空襲で死んで以降、心霊写真に写り続けるという地道な幽霊稼業を続けてきた勇だが、最近の人間はちっとも怖がってくれない。このままでは幽霊の沽券に関わる。苦労の末に新たな幽霊仲間を得、今度はYouTuberの動画に映ってみせようと意気込むが・・・・・
この話だけでなく収録作品すべてに言えることですが、ユーモアたっぷりの中に過酷な状況を垣間見せる描写が秀逸でした。戦争や虐待で苦しむ子どもがいることに胸が痛くなりますが、ちゃんと救いがあって良かったです。藤崎翔さんの著作『守護霊刑事』に触れた箇所があるので、読んでいると「お!」と思うかもしれません。
「比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども」・・・禍々しい扮装に過激な立ち居振る舞い。悪魔そのものの風体で政界に現れたその男の名は、サタン橋爪。<悪魔党>なる政党の党首である彼は、見た目とは裏腹に政治スタイルは公明正大、比例区当選を果たした仲間達と共に次々と革新的な政策を打ち出していく。曰く、「我ら悪魔は世紀末に人類を食い尽くす予定だが、これほど衰退していては食指をそそらない。いい生餌となるよう、人類に活気を取り戻してもらう」とのことで・・・・・
改題前はこの話が表題作なだけあって、インパクトという点では収録作品中トップクラスだと思います。明らかに芸能人のあの方をモデルにしているであろうサタン橋爪の風体と、意外なくらい建設的な政治の執り方のギャップが最高に愉快!あんまりと言えばあんまりなオチまで含め、一度読んだら忘れられない話になりました。
「三十年後の俺」・・・ある日、高校生の主人公の前に現れた、<三十年後の自分>を名乗る男。タイムマシンを使って過去に来たという男は、主人公しか知らない事柄を次々言い当てる。まさか、これは本物か。主人公は男から未来の出来事をあれこれ教えてもらい、大盛り上がりするのだが・・・・・
最終話にふさわしい、切なくも心温まる話でした。ティーンエイジャーの主人公が、芸能人の未来のスキャンダルを知ってワイワイ盛り上がる辺り、なんかリアリティありますね。ここで語られる芸能人情報、元ネタが分かるものもちらほらあって、ニヤリとしてしまいました。寂しくもあるけれど、主人公の愛情が見えるラスト数行が◎です。
上記の短編六話の合間に、ショートショート六話が収録されています。本当に短いのでレビューは省略しますが、いずれも粒揃いの内容でした。同じ感想を抱いた方が多いようですが、「世にも奇妙な物語」辺りで映像化してくれたらいいなと思います。「比例区は~」のサタン橋爪役は、<閣下>という通称をお持ちの彼にお願いしたいけど・・・叶う日は来るのでしょうか。
そこはかとないブラックさが癖になる度★★★★☆
世相を反映した着眼点が秀逸!度★★★★★
藤崎翔さんの短編集ですね。
題名からして面白そうです。
文庫本で改題しているのは、部数を伸ばす為にわざとやっているのか?とすら
感じることもあります。
少女葬もそうですが、図書館で借りたからこそがっかりするだけで済みましたが間違って購入したら?と思います。
「比例区は~」は読みましたが、これは読んでみたいですね。
図書館で探します。
ドクターデスの再臨~重たい内容ですが夢中で読んでます。
「比例区は~」のタイトルが強烈すぎるので、改題作品だと気づかず本作を読み、がっかりした読者も一定数いるのでは?と思います。
内容は期待通り面白かったですよ。
「ドクターデスの再臨」、私も早く読みたいです。
先日、湊かなえさんの「人間標本」を受け取ってきたので、週末の楽しみにしています。