薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。
と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。
こんな人におすすめ
不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人
この館には、何かがある---――身寄りがなく、施設で育った主人公・博人。そんな彼のもとに、とある資産家から「自分の別宅で働けば、将来的に学費を援助する」という、なんとも奇妙な話がもたらされる。縁もゆかりもない資産家が、なぜそんな話を提案してきたのだろう。不可解に思いつつも金銭援助の魅力に抗いきれず、博人は同じように雇われた少年・薫と共に四国の屋敷を訪れる。そこに住んでいた、美しい母娘と、屋敷で働く使用人達。戸惑いながらも屋敷の暮らしに馴染んでいく博人だが、やがて使用人の一人が死体となって発見され・・・・・歪んだ愛憎の行方を描く、禁断のゴシックサスペンス
先日、近藤史恵さんの『久里子シリーズ』を再読し、爽やかな気分になったところで、ふいに読み返したくなったのが本作です。イヤミス好きとしては、後味すっきりのほのぼのストーリーの後には、こういうハラハラゾワゾワのサスペンスが読みたくなるんですよ。分量的にも長すぎず短すぎず、ふと思いついて読むのにぴったりです。
主人公の博人は、両親を失い、養護施設で暮らす十七歳の少年です。ある時、博人は光林という資産家から、こんな提案を受けました。「四国にある別宅で三年間住み込みで働き、大検に合格すれば、その後の教育費・生活費一切を負担しよう」。どうしてそんな話が舞い込んできたのか、訳が分からないながらも、破格の好待遇であることは確か。同じ条件で雇われた少年・薫と一緒に屋敷を訪れた博人は、そこで光林の娘である小夜と出会います。屋敷で懸命に働きつつ、美しい小夜と間近で暮らせる喜びに、秘かに胸を熱くする博人。そんな中、使用人の一人が死体となって発見され、時置かずして小夜の家庭教師も何者かに刺され重傷を負います。この屋敷で、一体何が起こっているのだろう。混乱する博人は、果たして真相に辿り着くことができるのでしょうか。
過去に傷を負った美少年達、人里離れた屋敷に住む美しい母娘、一見優し気ながら秘密を抱えた大人達・・・と、現代日本とは思えないくらい耽美なムードに満ち満ちた本作。実際、博人達は、ある理由を以て電子機器の所持・使用を止められ、分からないことがあってもネット検索などできません。アガサ・クリスティーか、はたまた横溝正史かと思わせるクラシカルな雰囲気が、作品のミステリアスさを引き立てていました。
こういうゴシック小説には、もつれた人間関係が出てくるのがお約束。本作も例に漏れず、一癖あるキャラクターがたくさん登場します。主役・準主役である博人と薫には悲しい背景があり、ヒロインの小夜をはじめ屋敷の住民達は過去に傷を持ち、いかにも怪しい光林氏はやっぱり腹に一物ありと、出るわ出るわ。近藤史恵さんの筆致が柔和なせいでするっと読めるけど、状況を想像したら胸やけしそうなドロドロ具合です。個人的に印象的だったのは、美形である博人と薫が屋敷に招かれた理由。この手の小説にお決まりの「こんな閉ざされた場所に若くて美形の男女置いたら、ややこしいことになるに決まってるじゃん」という疑問に合理的な理由が付けられていて、「ほほう」と頷きながら読みました。
そして、前書きにも書いた薔薇の使われ方ですが、タイトル通り、本作には薔薇が登場します。ただし、この場合の<薔薇>は、必ずしも花の薔薇を指すわけではありません。孤立した屋敷に、美しく咲き誇っていた薔薇。博人が受け入れることも受け入れられることもない薔薇。すべてが分かってみると、博人の運命と、タイトルの意味の残酷さが胸を衝くこと請け合いです。トリックを楽しむタイプの作品ではありませんが、人間心理の複雑さをたっぷり堪能することができました。
最後の最後で持っていかれる度★★★★★
これもまた一つの幸せな形・・・?度★☆☆☆☆
美しい薔薇には棘がある、上手い話に裏がある~を地で行くような内容ですね。
薔薇と言えば情熱、美しさの象徴のイメージですが、その薔薇を拒むという題名の意味するものは何かが気になります。
近藤史恵さんの作品ならが真梨幸子さんのような容赦ない結末はない気がしました主人公の運命がどうなるのか~読んでみたくなりました。
深木章子さんの殺意の構図読み終えました。
何となくこの内容に近いものを感じます。
真梨幸子さんのようなドロドロではありませんが、なかなかに救いがないイヤミスでした。
薔薇という小道具の使い方が上手かったです。
「殺意の構図」もかなりシビアな内容ですよね。
探偵・榊原シリーズは一応これで完結らしいですが、あのままでは榊原が報われなさすぎる・・・
いつか睦木怜シリーズの方に出てきてくれないかなと、勝手に思っています。
読み終えました。
救いが無いと言えばないですが、博人の見事な逆タマ成功、シンデレラストーリーのラストだと感じました。
上手い話の裏をここまで都合よく自分の優位に持っていくとは、拒んだ薔薇を火が焼き尽くした?
そんなイメージです。
ドクターデスの再臨届きました。
ホーンテッド・キャンパスの新作もそろそろ出ると思いますが、情報がありません。
社会的・経済的にいえばサクセスストーリー、ただし本物の愛情は手に入らないという皮肉さが印象的でした。
もしかして、ラストの小夜は、すべてを知りつつ演技しているのでは?とも思ったり・・・
こちらは中山七里さんの「彷徨う者たち」を読了しました。
「宮城県警シリーズ」はこれで完結だそうですね。
なんだか寂しい気持ちです。