はいくる

「殺める女神の島」 秋吉理香子

「昔はよく見聞きしたけど、今はめっきり減ったよなぁ」と思う物事って、色々あります。その中の一つが、ミス・コンテスト。独身女性が優勝を目指して競い合うイベントで、ミス・ユニバースやミス・日本が有名ですね。一時期は様々な自治体や学校がコンテストを開催していましたが、ルッキズムやジェンダーレスといった問題から、昨今はその数も激減したようです。

現実のミスコンに対する賛否はひとまず置いておくとして、多くの女性が一堂に会して競うというシチュエーションは、小説の舞台にぴったり。林真理子さんの『ビューティーキャンプ』では、美の世界に生きる女性達の悲喜こもごもがリアリティたっぷりに描かれていました。私はイヤミス好きなので、ミステリーやサスペンスの分野で何か読みたいなと思っていたら・・・先日、見つけました。秋吉理香子さん『殺める女神の島』です。

 

こんな人におすすめ

・ミスコンを扱った作品に興味がある人

・クローズドサークルもののミステリーが好きな人

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生き残る美女は、一体誰!?---――かつて伝説と称されながら、長く中止されていたミスコン<ミューズ・オブ・ジャパン>。それが久しぶりに再開され、七人のファイナリスト達がリゾートアイランドに集まった。彼女達はここで二週間を過ごして美を磨き上げ、最終選考に臨むのだ。豪華な宿泊施設やご馳走に囲まれ、和気藹々と過ごす美女達。だが、そんな楽しいひと時は、コンテスト主催者が何者かに襲撃され、昏睡状態に陥ったことで終わりを告げる。一体誰が、なぜこんなことをしたのか。まさか、犯人はファイナリスト達の中にいるのか。疑心暗鬼に囚われつつ助け合おうとする七人だが、その中の一人が死体となって発見され・・・・・嘘と罠が入り乱れる、ノンストップ・イヤミス長編

 

多くの作家さんがそうであるように秋吉理香子さんの著作にも、『ガラスの殺意』『灼熱』のようなズッシリ重く切ない作品と、『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』『婚活中毒』のようなさくっと軽めの作品の二種類があります。本作の場合は後者。ページ数からすると長編に分類されるのでしょうが、とにかく物語がスピーディにどんどん進んでいくので、あっという間に読破することができました。

 

主人公の美咲は、かつてヒット作を出しつつ今は落ち目となったミステリー作家。ある時、ひょんなことから伝説的ミスコン<ミューズ・オブ・ジャパン>の出場者としてスカウトされ、あれよあれよという間に決勝まで勝ち進みます。選考に残ったのは、様々な立場の美女七人。彼女達は絶海の孤島に招かれ、そこで二週間の間、決勝戦のための準備キャンプを行うこととなります。同席したコンテスト主催者であるクリスのイケメンぶり、島の設備の豪華さに盛り上がりつつ、美女達のキャンプは順調に進む・・・はずでした。クリスが何者かに殴打され、意識不明の状態で発見されるまでは。外部からの侵入が困難な状況下で、容疑者となるのはファイナリスト七人。まさか、私達の中に犯人がいるのか。混乱する美咲達を後目に、一人、また一人と犠牲者は増えて行きます。果たして、この連続殺人の犯人は一体誰なのでしょうか。

 

同じようなクローズドサークルでの殺人事件といえば、最近では夕木春央さんの『方舟』『十戒』がありました。ただ、あちらには「このままだと酷い死を遂げてしまう」という登場人物達の焦りや不安がみなぎっていたのに対し、本作の雰囲気は前述通り終始ライト。相次ぐ事件の数々に女性達は怖れ慄くものの、そこはかとないノリの軽さのようなものが漂っています。クライマックスで明かされる真犯人の犯行方法と動機の突飛さも含め、リアルな恐怖を期待していると物足りないかもしれません。

 

本作はむしろ、ミスコンを巡る美女達の人間模様を楽しむタイプの作品だと思います。作家である美咲をはじめ、ファイナリスト達の立場は経営者、医者、インフルエンサー、シェフ、女子高生、大学院生と多種多様。当初はここで知り合ったのも何かの縁とばかりに支え合う七人ですが、事件が相次ぐにつれ互いに取り繕うのをやめ、いがみ合うようになります。この手の作品で全員善人などということはまずあり得ないので、裏の顔があるのは予想済み。とはいえ、もうコンテストどころでないと分かった途端に本性むき出しする展開なんていかにも現実にありそうで、いい意味で嫌な気分にさせられました。ミスコンのシステムや裏事情についても、知らないことばかりで非常に興味深かったです。

 

ところで私、あらすじを見た時、「孤島ものか。ということは、『無人島ロワイヤル』と関係しているのかな」と思ったんですよ。実際は何の関係もなかったのが、ちょっと残念。本作にしても『無人島ロワイヤル』にしても、生還者の今後の動向が気になる終わり方をしているんですよね。いずれ、ちらっとでいいから他作品で触れてほしいものです。

 

コンテスト実施の理由に戦慄・・・度★★★★☆

読了前と後とで表紙の見方が変わります度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    クローズドサークルミステリーの典型のようですが、ミスコンの事情や女性たちのそれぞれの事情が面白かったです。無人島ロワイヤルとは方向性が違うような気がしますがどこかで触れるかも知れないと期待してました。
    オチも含めてそこが物足りないと感じました。
    井桁弘恵さんは福岡県の修猷館高校出身なんですね。
    北九州市に住んでいたので進学校と言えば東筑・小倉しか知りませんでした。

    1. ライオンまる より:

      離島でのサバイバルという共通点がある以上、無人島ロワイヤルとの繋がりを期待してしまいますよね。
      表紙の美女達がよく似ていることに意味があった所はビックリでした。
      井桁弘恵さんって修猷館高校出身なんですか!
      全然知らなかったです。

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