世界のホラー文化において、日本の<妖怪>というのは、かなりユニークな存在です。海外の<化け物>の場合、その正体は、恨みを持ってモンスター化した元・人間か、悪魔という展開がしばしば。一方、<妖怪>の場合、その正体は自然現象や物、動物、人間そのものではなく感情ということが多いです。森羅万象、すべてに魂が宿ると考える日本らしい存在だなと、しみじみ感じ入ってしまいます。
文化性の違いもあってか、妖怪が登場する作品を挙げるとなると、大半は日本のものになります。あまりに有名すぎる水木しげるさんの『ゲゲゲの鬼太郎』はもちろんのこと、京極夏彦さんの『豆腐小僧シリーズ』や畠中恵さんの『しゃばけシリーズ』。二〇二五年度後期の朝ドラ『ばけばけ』を連想する方も多いでしょう。ユーモア、切なさ、懐かしさ、所々でじっとりした怖さを感じさせるのが、妖怪作品の特色です。そんな中、どちらかといえば怖さに振り切れてはいるものの、この方の妖怪作品も大好きなんですよ。今回ご紹介するのは、三津田信三さんの『妖怪怪談』です。
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妖怪が登場するホラー小説に興味がある人
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<毒親>という言葉が作られたのは、一九八〇年代後半のことだそうです。意味は<子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親>。日本でも、二〇一五年頃には<ブーム>と表現してもいいほど有名な概念となり、書籍や映像作品でも頻繁に取り上げられてきました。
安易に「うちの親は毒親。毒親がすべて悪い」と言う風潮に対しては賛否両論あるようですが、子どもにとって、特にある時期まで親が神に等しいほど絶対的存在であることは事実。そして、悲しいかな、子どもを雑草以下としか思っていない親がいることもまた事実です。今回は、毒親問題について扱った作品を取り上げたいと思います。美輪和音さんの『天使の名を誰も知らない』です。
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毒親問題をテーマにした小説に興味がある人
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記憶力はそこそこいいと自負している私ですが、それでも覚えるのが苦手なものがいくつかあります。その内の一つは、月ごとの日の数。「九月は三十日までで、十月は三十一日で・・・」というのが、本当に苦手なんです。<西向く士(にしむくさむらい)→二、四、六、九、十一月は日数が少ない月>という語呂合わせを考え出してくれた人には、感謝してもしきれません。
この日の数、サスペンスやホラーの分野では、意外と重要な要素となることが多いです。登場人物が異世界に迷い込んで、三月のカレンダーが三十日までなのを見て「あ!ここは現実世界じゃない!」と気づくというような展開、今までに何度か見ました。それから、今日ご紹介する作品でも、日付がキーワードになっているんですよ。真梨幸子さんの『6月31日の同窓会』です。
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女子校を中心に展開するイヤミスが読みたい人
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一説によると、日本はAV大国だそうです。海外と比べ、作品のバリエーションが豊富で設定・俳優陣の演技にも凝っていること、今は亡き飯島愛さんを筆頭に、AV業界を経てマルチタレントとして活躍するケースも多いことが理由なのだとか。専用検索サイトにおける人気キーワードランキング上位に<Japanese>が入っていることからも、人気の程がうかがい知れます。
<風俗に沈める>という言い方があるように、一昔前、性産業はどこか後ろ暗く、日が当たらないイメージがありました。しかし、ここで忘れてはいけないのは、AV自体は違法でもなんでもない、れっきとしたビジネスだという点です。どんな分野であれ、商売として成立させようとするならば、そこにはきちんとしたシステムや采配が必要となります。この作品を読んで、そんな当たり前のことに今更ながら気づかされました。真梨幸子さんの『アルテーミスの采配』です。
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AV業界を舞台としたイヤミスに興味がある人
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世間には様々な働き方が存在しますが、その中に<フリーランス>というものがあります。これは、組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き方のこと。収入や社会的立場が不安定になりがちな一方、自由度が高く、組織のしがらみ・規則に縛られず働けるというメリットもあります。
この<フリー>という立場、フィクション世界においては、すごく使い勝手がいい存在です。何しろ組織内のあれこれの設定を考えずに動かせるわけですから、どんな面倒な事件にも絡ませ放題。内田康夫さんによる『浅見光彦シリーズ』主人公の浅見光彦をはじめ、フリーランスで働く人間が出てくる小説もたくさんあります。今回取り上げる作品でも、フリーライターがいい働きをしてくれていました。深木章子さんの『闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿』です。
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正統派の本格推理小説が読みたい人
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創作の世界には、<メタフィクション>という手法があります。これは、フィクション作品を「これは現実ではなく、作り物ですからね」とあえて表現・強調するやり方のこと。例えば、作中に作者自身が登場したり、キャラクターに自分がフィクション世界の生き物であると自覚しているような言動を取らせたり、ページや画面のこちら側に向けて「君はどう思う?」と語りかけさせたりすることなどが、メタフィクションに当たります。フィクション世界に現実の人間が入り込んだり、キャラクターがこちらに語りかけたりするなど、常識から考えてあり得ません。そんなありえない状況をわざわざ作ることで読者・視聴者を「おっ!」と思わせ、物語を盛り上げるのが、メタフィクションの狙いです。
あらゆる創作物でよく見られる手法ですが、小説に限定して例を挙げると、登場人物達が自分を小説内のキャラクターであると自覚している東野圭吾さんの『天下一大五郎シリーズ』、作者本人が主人公を務める澤村伊智さんの『恐怖小説 キリカ』、物語自体が作中作だった綾辻行人さんの『迷路館の殺人』等々、名作がたくさんあります。どれも面白い作品でしたが、個人的にメタフィクション作品の第一人者といえば、真っ先に思いつくのは三津田信三さんです。今回は、その著作の中から『誰かの家』を取り上げたいと思います。
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実話風ホラー短編集が読みたい人
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一昔前、悪さをする悪霊や妖怪のことを<物の怪>と呼びました。この<物>とは<人間>の対義語で、超自然的な存在すべてを指すのだとか。ホラーになじみがなくても、ジブリ映画『もののけ姫』で名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
今は<悪霊><怨霊><妖魔>などといった呼び方が広まったせいか、<物の怪>という言葉が出てくるのは、圧倒的に時代小説が多い気がします。最近の、怪異がスマホやパソコンを介して襲い掛かってくる作品も良いけれど、日本情緒たっぷりの時代ホラーも面白いものですよ。今回取り上げるのは、宮部みゆきさんの『ばんば憑き』。鬱々とした和風怪談を堪能できました。
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日本情緒溢れる怪談短編集に興味がある人
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もともとは、飲食店などを一人で利用する客を指す言葉<おひとり様>。それが二〇〇〇年代に入った頃から<一人で生きている自立した大人><同居人がおらず、一人で暮らす人>といった意味で使われるようになりました。流行語大賞にノミネートされたり、ベストセラー書籍のタイトルに使われたりしたこともあり、すっかり世の中に定着した感がありますね。
おひとり様という言葉自体は、男女共に使っていいものですが、比率で言えば女性に対して使われることが多いのではないでしょうか。それはフィクションの世界においても同様で、シングル女性の自立した生き方を応援する、前向きな<おひとり様>作品はたくさん存在します。でも、この方の作品の場合、あっさりといい話にはしてくれないんですよ。今回取り上げるのは、おひとり様の泥沼人間模様を描いたイヤミス、真梨幸子さんの『ウバステ』です。
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おひとり様の老いをテーマにしたイヤミスに興味がある人
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巷でよく言われる話ですが、日本人は宗教に対するハードルが低い民族です。何しろ国内に存在する神様の数は八百万。仏教やキリスト教の宗教施設がご近所同士ということも珍しくなく、カレンダーを見れば世界各国の宗教行事が目白押し。「宗教?まあ、各自で好きなように信じればいいじゃん」という風土があります。身びいきかもしれませんが、こういう精神性って大好きです。
それは創作の世界においても同様で、日本人をメインに据えた作品の場合、「そんな理由で宗教と関わっちゃうの!?」と驚かされるケースも珍しくありません。荻原浩さんの『砂の王国』なんて、その代表例と言えるでしょう。それから、今日ご紹介する作品もそうでした。真梨幸子さんの『教祖の作りかた』です。
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色と欲に満ちたイヤミスが読みたい人
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私は、一人の作家さんにハマると、その方の作品をひたすら読み続ける傾向にあります。近藤史恵さん、真梨幸子さん、乃南アサさん等々、ふとした瞬間に熱が再燃し、延々と読み返したものです。図書館の貸し出し履歴を見ると、当時の私がどの作家さんにハマっていたか一目瞭然で、ちょっと面白かったりします。
ただ、こういう読み方には、弊害が一つあります。一人の作家さんに注目するあまり、その他の作家さんの情報に疎くなり、「え!いつの間に新刊出ていたの!?」ということがしばしばあるということです。今回取り上げる作品も、刊行されていたことに気付いておらず、著作一覧のページを見てものすごく驚きました。美輪和音さんの『暗黒の羊』です。
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人の闇を描いたサイコサスペンス短編集に興味がある人
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