私は子どもの頃から不器用な上に運動が苦手。当然、図工も体育も惨憺たる有様でした。大人になってしまえば「別にそれくらい苦手でも・・・」と思いますが、当時は結構真剣にコンプレックスを抱いていたものです。子どもの頃って、器用で運動神経の良い子が人気者になりがちせいもあるでしょう。
そんな私には、嫌でたまらない時間がいくつかありました。例えば創作ダンスの発表会や、連帯責任を問われる大縄跳び。それから、先生による「はい、〇人組を作ってー」の一言。特に最後の場合、自分の努力ではどうにもならない、同級生の顔ぶれ等に依るところも大きいため、余計に憂鬱だった気がします。でも、こんな「〇人組を作って」が起こったら、憂鬱じゃ済まされませんよね。今回取り上げるのは木爾チレンさんの『二人一組になってください』です。
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女子高生達のデスゲーム小説に興味がある人
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長く続く物語には、時に<転機>というものが訪れます。中には、いわゆる<サザエさん形式>でまったく変わることのない作品もありますが、これは割合としては少数派ではないでしょうか。視聴者や読者を飽きさせないため、何らかの変化が生じることの方が多いと思います。
この<転機>の形は様々ですが、代表的なものの一つとして挙げられるのが<パワーアップ>。登場人物が修行を積んだり新キャラクターに出会ったりした結果、新たな力を手に入れるというパターンです。漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』等でも、主人公チームが修行期間を経てパワーアップするという展開が描かれました。それからこの作品でも、主人公(?)がパワーアップするんですよ。藤崎翔さんの『お梅は次こそ呪いたい』です。
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伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人
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<色>には、人の気持ちに働きかける力があるそうです。赤やオレンジは活力を呼び覚まし、緑は心をリラックスさせ、ピンクは幸福感を感じさせるのだとか。そういえば一昔前、戦隊ヒーローは、行動派の<赤>やクールな<青>というように、各々の個性と色が対応していることが多かったですね。実際にはそこまで明確に性質が分かれるようなことはないのでしょうが、色が印象を左右することは確かだと思います。
小説の世界においても、色をテーマにした作品はたくさんあります。昔、当ブログでも取り上げた加納朋子さん『レインレイン・ボウ』でも、各話の主人公と、タイトルとなる色が上手く組み合わされていました。これはヒューマンドラマですが、色をテーマにしたイヤミスなら、今回ご紹介する作品がお勧めです。中山七里さんの『七色の毒』です。
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どんでん返しのあるミステリー短編集が読みたい人
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<その作家さんの著作の中で最初に読んだ本>というのは、強い印象を残しがちです。それが気に入らなければ「この人の本は、もういいかな」となる可能性が高いですし、逆に気に入れば、著作すべてを網羅したくなることだってあり得ます。読書に限った話ではありませんが、最初の一歩って重要なものなんですよね。
私は特に、気に入った作家さんの著作は一気読みしたくなるタイプなので、最初にどの本を読むかはかなり大事です。学生時代、西澤保彦さん『七回死んだ男』を読んでハマった時は、図書委員の権限を利用して西澤保彦さんの著作を購入リクエストしまくったっけ。それからこの本は、私が恩田陸さんにハマるきっかけを作った、記念すべき第一作目です。今回は『光の帝国 常野物語』を取り上げようと思います。
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超能力が出てくる連作短編集に興味がある人
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昔から、雑誌の読み物ページにある小説紹介コーナーや、本屋のPOPを読むのが好きでした。あの手の紹介文って、短いながらビシッと決まった名文が多いんですよね。がっつり長いレビューとはまた違う面白さがあって、ついつい見入ってしまいます。
そんな紹介文が高確率で載っている場所、それは本の巻末です。特に文庫本には、同じ出版社から刊行された新刊や人気本の紹介文が掲載されていることが多いため、時には本編より先に読んでしまうことさえあります。このコーナーのおかげで、面白い作品の存在をたくさん知ることができました。そういえばこの作品も、別の文庫本の巻末に載っていたことがきっかけで知ったんですよ。乃南アサさんの『来なけりゃいいのに』です。
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女性目線のサイコサスペンス短編集が読みたい人
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火村英生、犀川創平、湯川学、中禅寺秋彦・・・日本の小説界には、たくさんの名キャラクターがいます。物語を盛り上げる上で、魅力的な主要登場人物の存在は不可欠。『S&Mシリーズ』や『ガリレオシリーズ』がこれほど人気なのは、話自体の面白さもさることながら、上記のキャラクター達の吸引力に依るところも大きいです。
こうしたキャラクターって、実は作品が長期シリーズ化される前、短編作品にさらりと登場していることがままあります。予想以上に作者の筆が乗り、一作きりの登場で終わらせるのはもったいないと思ったのかな?それが自分の好きなキャラクターだった時は、読者としても喜び倍増です。今日取り上げる短編集には、後にシリーズ作品の主人公となるキャラクターが複数出てくるんですよ。西澤保彦さんの『赤い糸の呻き』です。
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バラエティ豊かな本格ミステリー短編集が読みたい人
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守護霊。文字通り、生者を守護してくれる霊のことです。大抵は、先祖や恋人、可愛がっていたペット等、縁のある存在が守護霊となるケースが多いようですね。困難にぶち当たった時、人知を超えた力で守ってくれる存在がいればいいな・・・そう夢想したことがある人は、決して少なくないと思います。
小説界で守護霊が活躍する作品といえば、有名どころだと『ハリー・ポッターシリーズ』があります。主要登場人物達が魔法使いということもあり、時に実体を得て敵相手に奮戦する守護霊達の姿は実に格好良かったです。あそこまで目立つ大活躍はしないものの、今回取り上げる作品の守護霊も大したものですよ。藤崎翔さんの『守護霊刑事』です。
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コミカルな刑事ミステリー短編集に興味がある人
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創作の世界には、<メタフィクション>という手法があります。これは、フィクション作品を「これは現実ではなく、作り物ですからね」とあえて表現・強調するやり方のこと。例えば、作中に作者自身が登場したり、キャラクターに自分がフィクション世界の生き物であると自覚しているような言動を取らせたり、ページや画面のこちら側に向けて「君はどう思う?」と語りかけさせたりすることなどが、メタフィクションに当たります。フィクション世界に現実の人間が入り込んだり、キャラクターがこちらに語りかけたりするなど、常識から考えてあり得ません。そんなありえない状況をわざわざ作ることで読者・視聴者を「おっ!」と思わせ、物語を盛り上げるのが、メタフィクションの狙いです。
あらゆる創作物でよく見られる手法ですが、小説に限定して例を挙げると、登場人物達が自分を小説内のキャラクターであると自覚している東野圭吾さんの『天下一大五郎シリーズ』、作者本人が主人公を務める澤村伊智さんの『恐怖小説 キリカ』、物語自体が作中作だった綾辻行人さんの『迷路館の殺人』等々、名作がたくさんあります。どれも面白い作品でしたが、個人的にメタフィクション作品の第一人者といえば、真っ先に思いつくのは三津田信三さんです。今回は、その著作の中から『誰かの家』を取り上げたいと思います。
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実話風ホラー短編集が読みたい人
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読破した小説の量が多くなってくると、「一場面だけ覚えているんだけど、タイトルと作者名が思い出せない」「あの台詞が出てくるのって、どの作品だっけ」などということが起こり得ます。私の場合、こんなことは日常茶飯事。一番読書量が多かった十代の頃、タイトルをしっかりチェックしないことがしばしばだったせいでしょう。
こういう時、該当の作品を探すには、インターネットが役立ちます。台詞や主人公の名前を憶えていれば、Googleなり何なりで検索することでヒットするケースが多いです。先日、この作品も同様のやり方で見つけ出せました。若竹七海さんの『船上にて』です。
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皮肉が効いたイヤミス短編集が読みたい人
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ミステリーやサスペンスにおいて、謎解き役というのはとても重要なポジションです。シャーロック・ホームズ然り明智小五郎然り、難事件をピシッと解決する探偵は格好いいもの。数多の作品で主役を張るのも納得です。
その一方、<謎解き役>ではなく<謎解きのヒントを与えるアドバイザー役>の方が存在感を放つ作品も一定数存在します。『羊たちの沈黙』のレクター博士と言えば、想像しやすいでしょうか。こういう作品の場合、意外と大事なのは、アドバイザー役がなぜ謎解き役にわざわざヒントを与えるのかという理由付け。ここが曖昧だと、ただのご都合主義に思えてしまうんですよね。その点、今回取り上げる作品はしっくりきました。櫛木理宇さんの『逃亡犯とゆびきり』です。
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悲惨な事件が出てくるサスペンス連作短編集に興味がある人
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