作家名

はいくる

「唐沢家の四本の百合」 小池真理子

「嫁姑の仲よきはもっけの不思議」などという言葉もあるように、嫁と姑というのは多かれ少なかれ揉めるものと思われがちです。赤の他人の同性同士が身内になるという状況のせいでしょうか。もちろん、嫁姑関係が円満にいっている家庭もたくさんあるんでしょうが、小説やドラマの中には、確執を抱えた嫁と姑が大勢登場します。

一方、舅となると、創作物に限って言えば意外なくらい存在感が薄いケースが多いです。嫁いびりをするどころか、台詞があるかないかよく分からないような場合も少なくありません。そんないまいち影の薄い舅にスポットライトを当てるため、今回は小池真理子さん『唐沢家の四本の百合』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

家庭内サスペンス小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「首無の如き祟るもの」 三津田信三

古今東西、創作の世界には様々なシリーズ物が存在します。中には作者が死去した後、弟子やプロダクション関係者が続編を作り続けている作品もあり、何十年もの長期シリーズと化すことも珍しくありません。この手のシリーズ物の魅力の一つは、「最後には水〇黄門が現れて悪党を成敗してくれるんだろうな」「十津〇警部が出てくるなら時刻表トリックが使われているのかな」等々、安定した世界観を楽しめる点でしょう。

ですが、長期シリーズ化した作品の中には、これまでのお約束から外れた<異色作>が登場することがしばしばあります。例を挙げるなら、例えばアガサ・クリスティーの『ビッグ4』。『名探偵ポワロシリーズ』の中の一作なのですが、ここでポワロが対峙するのは国際的な悪の組織です。秘密諜報員が出るわ立ち回りはあるわで、<ポワロ=上流階級を舞台にした犯罪者との頭脳戦>をイメージしていた私はかなりびっくりしました。今回は、そんなシリーズ物の中の異色作をご紹介したいと思います。三津田信三さん『首無の如き祟るもの』です。

 

こんな人におすすめ

おどろおどろしいホラーミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「ミハスの落日」 貫井徳郎

私が本を愛する理由は色々ありますが、その一つは<現実にはなかなか味わえない出来事を体験できる>というものです。医者になって病院内の陰謀劇に関わることも、拳銃ぶっ放しながらゾンビ軍団と戦うことも、宇宙飛行士として未知の惑星に降り立つことも、小説の中ならお茶の子さいさい。ここ最近は外国を舞台にした小説を読みまくり、旅行した気分を味わっています。

外国で物語が展開する小説はたくさんありますが、冒険小説寄りの作品が多い気がします。私はどちらかというとミステリーやヒューマンストーリー寄りな小説が好きなので、近藤史恵さんの『エデン』、深木章子さんの『螺旋の底』、村山由佳さんの『翼 cry for the moon』などが印象深かったですね。これらはすべて長編なので、今回はさくさく読める短編集を取り上げたいと思います。貫井徳郎さん『ミハスの落日』です。

 

こんな人におすすめ

異国情緒溢れるミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「看守眼」 横山秀夫

学生時代、進路指導の先生から「どんな職業でもいい。プライドと責任を持てる仕事をしてください」と言われたことがあります。この言葉の意味が少しずつ分かってきたのは、恥ずかしながら社会人になってから。会社員だろうと自営業だろうと専業主婦(夫)だろうと、自分のやることに誇りを持っている人は素敵です。

そんな人々を主人公にした<お仕事小説>というジャンルがあります。天祢涼さんの『謎解き広報課』では田舎の町役場職員の、荻原浩さんの『神様からひと言』では民間企業のお客様相談室の、坂木司さんの『シンデレラ・ティース』では歯科医受付の、様々な葛藤や挫折、やり甲斐や楽しさが描かれました。今日ご紹介するのは、普段は日が当たりにくい仕事の悲喜こもごもをテーマにした作品です。元新聞記者という経歴を持つ、横山秀夫さん『看守眼』です。

 

こんな人におすすめ

様々な職業の主人公が出てくるミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「充ち足りた悪漢たち」 赤川次郎

子どもという存在は無邪気なもの、裏表なく素直なもの・・・そんなイメージを抱いている人は多いでしょうし、実際にそういう面もあります。しかし、油断は禁物です。無邪気さや素直さは、残酷さや遠慮のなさに繋がるもの。「なんでそんなことをしてしまったの」と大人を唖然とさせる子どもは、現実にも存在します。

この手の<残酷な子ども>を描いた作品で私が一番衝撃を受けたのは、S.キングの『トウモロコシ畑の子どもたち』とスペインのホラー映画『ザ・チャイルド』。集団で襲って来る子どもたちと、訳も分からぬまま惨殺されていく大人たちの描写が凄惨で、しばらく呆然としてしまいました。この二作品はグロテスクな部分が多く、かなり人を選ぶと思うので、今回はもう少しマイルドな<怖い子どもたち>を紹介したいと思います。赤川次郎さん『充ち足りた悪漢たち』です。

 

こんな人におすすめ

子どもの恐ろしさをテーマにした短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「10分間ミステリー」 『このミステリーがすごい!』大賞編集部 編

芥川龍之介賞、直木三十五賞、吉川英治文学賞、山本周五郎賞・・・・・文壇には様々な文学賞があります。インターネットなどを経て人気を集める作家さんや作品も増えてきましたが、それでもやはりこうした文学賞には価値があるもの。権威ある賞の受賞をきっかけにデビューした作家さんは大勢います。

そんな文学賞の中で、私が一番注目しているのは『このミステリーがすごい!』大賞です。二〇〇二年に創設された新しい賞ですが、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』や柚月裕子さんの『臨床心理』、中山七里さんの『さよならドビュッシー』など、受賞を機にスターダムの仲間入りをした人気作家さんも多いです。今回は、そんな『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家さんがずらりと並んだアンソロジーをご紹介します。『10分間ミステリー』です。

 

こんな人におすすめ

ショートショートが詰まった短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「僕の明日を照らして」 瀬尾まいこ

テレビや新聞のニュースを見ていると、数日と置かずして家庭内暴力に関する事件が目に付きます。言葉の使用法としては、配偶者への暴力を<ドメスティックバイオレンス>、子どもへの暴力を<児童虐待>と使い分けるんだとか。もちろん、暴力は誰に対してだろうと悪いことなのですが、腕力のない女性や子どもが犠牲になると、「許せない」という気持ちが一層強まります。

しかし、虐待がどんなに酷いものであったとしても、日本が法治国家である以上、「虐待犯は全員海に沈めました。めでたしめでたし」というわけにはいきません。加害者はなぜ虐待に走ってしまったのか。暴力がまかり通った背景は何なのか。そこをしっかり解明し、再発防止に努めないと、第二、第三の犠牲者が出る可能性すらあります。今回ご紹介するのは、瀬尾まいこさん『僕の明日を照らして』。家族間で行われる暴力について、改めて考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

児童虐待にまつわる小説に興味がある人

続きを読む

はいくる

「いつかの岸辺に跳ねていく」 加納朋子

<超能力の例を一つ挙げてみなさい>と言われたら、どんな能力が出て来るでしょうか。口から言葉を発せずに意思を伝えるテレパシー、視界に入らないはずの出来事を見る透視能力、手を使わずに物を動かす念動力・・・どれもこれも有名な能力ですが、それらと並んで知名度が高いのが<予知能力>です。文字通り、その時点で起こっていない出来事を予め知る力のことで、かの有名なノストラダムスもこの能力の持ち主として有名です。

下手するとチート状態になりかねない能力のせいか、漫画や映像作品と比べると、小説の予知能力者の登場率はさほど高くありません。それでも、宮部みゆきさんの『鳩笛草』収録作品である「朽ちてゆくまで」や筒井康隆さんの『七瀬ふたたび』では、予知能力者の悲哀や葛藤が丁寧に描かれていました。今回ご紹介する作品は、加納朋子さん『いつかの岸辺に跳ねていく』。切なく、やるせなく、それでいて優しい予知能力者の物語です。

 

こんな人におすすめ

予知能力が登場するヒューマンストーリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「笑え、シャイロック」 中山七里

私は基本的にどんなジャンルの小説も読む人間です。切なくも甘酸っぱい青春ラブコメだろうと、血飛沫が飛び内臓はみ出るスプラッターホラーだろうと、面白ければ何でもOK。そんな私が唯一、「なんとなくとっつきにくいかな」と思うジャンル、それが金融・経済小説です。根っからの文系人間のせいか、用語や世界観がなかなか頭に入ってこないんです。

ですが、面白いと感じた金融小説が一冊もないわけではありません。特に、池井戸潤さんの『半沢直樹シリーズ』と真山仁さんの『ハゲタカシリーズ』は、映像化されたこともあって世間一般の知名度も高いですね。今回ご紹介するのは、中山七里さん『笑え、シャイロック』。もしかしたら上記の作品と並ぶ人気シリーズになるかもしれません。

 

こんな人におすすめ

銀行員が主役のミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「ひとんち」 澤村伊智

ホラー作品は、大きく分けて二つのタイプがあると思います。それは<自業自得>系と<理不尽>系。前者は、恐怖体験をする原因が(善意悪意は問わず)自分自身にあるタイプで、五十嵐貴久さんの『リカ』や今邑彩さんの『赤いべべ着せよ・・・』などがこれに当たります。

後者の<理不尽>系はというと、主人公サイドには何の落ち度も因果もなく、「そこにいたから」「怪異に目を付けられたから」という理由で恐ろしい思いをするタイプの作品です。登場人物が何か原因となる行動を取ったわけではないので、読者に「もしかしたら私もこんな目に遭うかも・・・」と思わせる怖さがありますね。例を挙げると、明野照葉さんの『棲家』や、ブログでも紹介した小池真理子さんの『墓地を見おろす家』などがあります。先日読んだホラー小説も、このタイプの作品でした。澤村伊智さん『ひとんち』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティー豊かなホラー短編集が読みたい人

続きを読む