記憶力はそこそこいいと自負している私ですが、それでも覚えるのが苦手なものがいくつかあります。その内の一つは、月ごとの日の数。「九月は三十日までで、十月は三十一日で・・・」というのが、本当に苦手なんです。<西向く士(にしむくさむらい)→二、四、六、九、十一月は日数が少ない月>という語呂合わせを考え出してくれた人には、感謝してもしきれません。
この日の数、サスペンスやホラーの分野では、意外と重要な要素となることが多いです。登場人物が異世界に迷い込んで、三月のカレンダーが三十日までなのを見て「あ!ここは現実世界じゃない!」と気づくというような展開、今までに何度か見ました。それから、今日ご紹介する作品でも、日付がキーワードになっているんですよ。真梨幸子さんの『6月31日の同窓会』です。
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女子校を中心に展開するイヤミスが読みたい人
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フィクション作品においては、現実では珍しい部類に入る名前の登場人物がしばしば出てきます。大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公は<夜神 月(やがみ らいと>ですし、西尾維新さん『物語シリーズ』ヒロインは<戦場ヶ原 ひたぎ(せんじょうがはら ひたぎ>です。少し昔のものでは、吉川英治さん『宮本武蔵』に準主人公格で出てくる<本位田 又八(ほんいでん またはち)>も結構珍しい名前と言えるでしょう。
なぜ登場人物に変わった名前を付けるのか、理由は色々あります。主なものとしては、<作中での登場人物の扱いにより、現実で同じ名前の人が中傷されるのを防ぐため><「勝手に自分のことを書くなんて許せない」というクレームを防ぐため>といったところでしょうか。ただ、この作家さんに関しては、何より自分のこだわりで珍名を出している気がするんですよね。今回取り上げるのは、西澤保彦さんの『帰ってきた腕貫探偵』です。
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安楽椅子探偵もののミステリー短編集が読みたい人
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物語には、お国柄というものが出ます。同じ設定でも、作者や舞台によって解釈・描写がまるで違うこともあり、比較するとなかなか面白いです。バーネット(国籍はアメリカだが、思春期までイギリスで育つ)の『小公女』が、リメイクされたアメリカ映画版だと<死んだはずの父親は、実は生還。意地悪な学長は、最後に仕事も立場も失い、煙突掃除人として働く>となるのは、いかにもアメリカらしくて笑ってしまいました。
当然、私が大好きなホラーの分野にも、国よる違いというものがあります。じっとりと陰気なジャパニーズホラーに、派手なアクションが繰り広げられるハリウッドホラー、アーティスティックな描写が多いフレンチホラーに、宗教や民間信仰の要素が絡む東南アジアホラーetcetc。それからお隣りの国・中国のホラーも、なかなかに独特のものがあるんですよ。今回ご紹介するのは、藤水名子さんの『赤いランタン』です。
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中国を舞台にしたホラー短編集に興味がある人
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<ホラーコメディ>というジャンルがあります。文字通り、ホラー(恐怖)とコメディ(喜劇)両方の要素がある作品のことで、不気味なのに妙に笑える展開を迎えるというパターンが多いです。正反対のジャンルのようで、意外と相性がいいんですよ。
このホラーコメディ、絵的に映えるシチュエーションが多いからか、映像作品でよく見るジャンルなような気がします。私が見たものだと、二〇一〇年の洋画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』は日本でも高評価を獲得しました。一〇〇%善人にもかかわらず、風体や振る舞いのせいで殺人鬼と勘違いされてしまう二人組のドタバタが最高に面白かったです。小説だと、ブログでも取り上げた藤崎翔さんの『お梅は呪いたいシリーズ』も、楽しく笑える傑作でした。それからこれも、質の高いホラーコメディです。瀬川ことびさんの『厄落とし』です。
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ユーモラスなホラー短編集を読みたい人
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図書館には<開架>と<閉架>の二種類があるケースが多いです。<開架>とは、図書館利用者が自分で書棚の間を行き来し、自由に本を取り出して読むことができる利用方式のこと。<図書館>という言葉を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、こちらの形でしょう。
一方、<閉架>とは、要するに書庫のことです。一般人は基本的に立ち入り禁止のため、図書館データベースで調べてここに希望の本があると分かった場合、職員さんに頼んで持ってきてもらわないといけません。多少面倒な面はあるものの、開架の本棚にも収容限度があるわけですから、致し方ないことなのでしょう。それに、閉架の本は状態が良いことが多いので、これはこれで好きだったりします。この本も、閉架書庫にあるのを見つけました。唯川恵さんの『愛なんか』です。
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ほろ苦い恋愛小説短編集が読みたい人
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寝ている間に見る<夢>は、とても不思議な存在です。体は寝ていて脳は覚醒している<レム睡眠>中に多く見られる現象で、時として五感を伴い、無自覚の願望や記憶が表れることもある・・・と言われているものの、正確なメカニズムは今なお不明。その神秘性から、古今東西、「夢で未来を予知した」「夢の中でお告げを受けた」等のエピソードも数えきれないほど存在します。
それだけ謎の多い現象なだけあって、多くのクリエイター達が自作のテーマとして夢を取り上げてきました。洋画『エルム街の悪夢シリーズ』には夢で殺戮を繰り広げる殺人鬼・フレディが登場しますし、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』はヒロイン・アリスが見る夢の中の物語です。夢という存在のミステリアスさは、特にファンタジーやホラーのジャンルに映えますね。今回ご紹介するのは、夢が重要な役割を果たすホラー小説、明野照葉さんの『感染夢』です。
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夢をテーマにしたサスペンスホラーが読みたい人
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何年、下手をすると何十年も前に読んだ作品のことが、急に気になり出す。再読したくてたまらなくなる。私にはこういうことが結構あります。何かきっかけがあったわけではなく、それこそ雷に打たれたかのように、「あ、あれがまた読みたい!」となるのですけど、あれってどういう思考回路なのでしょう?
こういう場合、一番困るのは、あまりに昔に読んだ作品だと作者名やタイトルが分からないケースがままあることです。あらすじをひたすらインターネットで検索しまくり、それらしい作品を見つけては、あれでもないこれでもないと悩むこともしばしば・・・今回取り上げる作品も、該当作を見つけるまでしばらくかかりました。赤川次郎さんの『遅刻して来た幽霊』です。
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現実味あるサスペンス短編集が読みたい人
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私は昔から魚介類が大好きです。海が近い地方で育ったせいか、肉より魚の方になじみ深さを感じます。子どもの頃はそれなりに好き嫌いがあったものの、魚に関しては、骨たっぷりの焼き魚だろうと、独特な匂いの青魚だろうと、ぱくぱく食べていたものです。
日本にはたくさんの魚介料理がありますが、その中でも代表的なのは寿司ではないでしょうか。新鮮な海産物と清潔な調理環境があって初めて成立する寿司は、今や世界に誇る日本のソウルフードです。今日は、寿司がキーアイテムとして使われる作品を取り上げたいと思います。柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』です。
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バブル期前後の女性の成長物語に興味がある人
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小説家になろう、カクヨム、アルファポリスetc。現在、国内には複数の創作物投稿サイトがあります。厳密に言えば、各サイトごとに違いがあり、メリット・デメリットも存在するようですが、私はあまり気にしないタイプ。時間がある時、目についたサイトで面白い作品が読めれば満足です。
こうした投稿サイトは、一般人が誰でも気軽に作品を投稿できるという特徴上、どうしても玉石混交になりがちです。だからといって、「素人の趣味じゃん」と侮ることはできません。気軽に投稿できるからこそ参加者が増え、素晴らしい筆力の持ち主が育つことだって決して珍しくないのです。この作品も、その一つだと思います。今回取り上げるのは、カクヨムからデビューした作家、ヨシモトミネさんの『この会社は実在しません』です。
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モキュメンタリーホラーが好きな人
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一説によると、日本はAV大国だそうです。海外と比べ、作品のバリエーションが豊富で設定・俳優陣の演技にも凝っていること、今は亡き飯島愛さんを筆頭に、AV業界を経てマルチタレントとして活躍するケースも多いことが理由なのだとか。専用検索サイトにおける人気キーワードランキング上位に<Japanese>が入っていることからも、人気の程がうかがい知れます。
<風俗に沈める>という言い方があるように、一昔前、性産業はどこか後ろ暗く、日が当たらないイメージがありました。しかし、ここで忘れてはいけないのは、AV自体は違法でもなんでもない、れっきとしたビジネスだという点です。どんな分野であれ、商売として成立させようとするならば、そこにはきちんとしたシステムや采配が必要となります。この作品を読んで、そんな当たり前のことに今更ながら気づかされました。真梨幸子さんの『アルテーミスの采配』です。
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AV業界を舞台としたイヤミスに興味がある人
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