クリエイターに必要な能力は色々あります。その中の一つは発想力。読んで字の如く、物事をクリエイト(創造)するのが仕事なわけですから、アイデアが湧かなくては始まりません。私は先日、童話を創ってみる機会を得たのですが、まあ、全然アイデアが出ないこと出ないこと。頭に浮かぶのは聞いたことがあるストーリーばかりで、たった三十分足らずの時間だったにもかかわらずヘトヘトになってしまいました。一から何かを生み出せる方達って、本当に天才だなと思います。
当然ながら、このブログで取り上げてきた作家さん達にも、発想力は必要不可欠。その発揮の仕方も十人十色、それぞれ個性があって面白いです。中でも、この方の発想って、ユーモアたっぷりで大好きなんですよ。今日ご紹介するのは、藤崎翔さんの『オリエンド鈍行殺人事件』です。
こんな人におすすめ
どんでん返しのあるユーモア小説短編集が読みたい人
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「嘘ついたら針千本飲ます」「嘘つきは地獄で閻魔様に舌を抜かれるよ」。誰しも人生で一度や二度、こうしたフレーズを見聞きしたことがあると思います。嘘というのは、事実とは異なる言葉を言って他者を騙すことなわけですから、基本的には良くないものとされがちです。昔からある民話にも、嘘つきがひどい目に遭い、正直者が報われるというパターンは山ほどあります。
とはいえ、すべての嘘が悪いものなのか、断罪されるべきものなのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。時には誰かのためを思って嘘をつくことだってあるでしょう。一言で<嘘>といっても、そこには無数の背景や事情が存在するのです。今回は、様々な嘘が出てくる作品を取り上げたいと思います。小倉千秋さんの『嘘つきたちへ』です。
こんな人におすすめ
嘘と騙しに満ちたミステリー短編集に興味がある人
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子どもから大人まで、長く社会生活を送っていると、グループを組む機会がしばしばあります。純粋に気が合ってできた仲良しグループもあれば、教師や上司の指示でチームを作ることもあるでしょう。ここでの人間関係が円滑か否かで、物事の成否は大きく変わります。
そんなグループ行動ですが、集まるきっかけとして、意外と<この人たちとつるむしかなかったから>というパターンが多いです。一人よりも集団でいた方が助かる局面は多いので、この動機自体は決して悪いものではありません。とはいえ、私自身を振り返ってみると、こういう<別に気が合ったからではない、不可抗力的に集まったグループ>が、一番揉め事が多かった気がします。ただ揉めるだけならまだしも、取り返しがつかないことが起きる可能性だってあるかも・・・この作品を読んで、そんなことを考えました。貫井徳郎さんの『不等辺五角形』です。
こんな人におすすめ
・<藪の中>状態の推理小説が読みたい人
・インタビュー形式の小説が好きな人
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すべてのジャンルにいえることですが、ホラー作品には定番のシチュエーションというものが存在します。<吹雪の山荘から出られなくなる>とか<ゲーム感覚で呪いの儀式を行ってしまう>とか<真夜中の学校に忘れ物を取りに行く>とかいうやつですね。最後の一つは実際に私も友達と一緒にやったことがあるのですが、怖いというより「おおっ!まさか本当に、こんなホラーお約束の状況に直面できるなんて!」と、妙に感動したものです。
お約束は、人気があって面白いからこそお約束たりえるもの。そして、そのお約束のシチュエーションの中でどうオリジナリティを出せるかが、作者の腕の見せ所です。その点、アメリカ映画『キャビン』は、ホラーあるあるネタをふんだんに取り入れつつ、予想の斜め上をいくトンデモ世界を描いていて、とても面白かったです。それからこれも、一ひねりされた展開を楽しむことができました。瀬川ことびさんの『夏合宿』です。
こんな人におすすめ
ユーモラスなホラー短編集を読みたい人
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<毒親>という言葉が作られたのは、一九八〇年代後半のことだそうです。意味は<子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親>。日本でも、二〇一五年頃には<ブーム>と表現してもいいほど有名な概念となり、書籍や映像作品でも頻繁に取り上げられてきました。
安易に「うちの親は毒親。毒親がすべて悪い」と言う風潮に対しては賛否両論あるようですが、子どもにとって、特にある時期まで親が神に等しいほど絶対的存在であることは事実。そして、悲しいかな、子どもを雑草以下としか思っていない親がいることもまた事実です。今回は、毒親問題について扱った作品を取り上げたいと思います。美輪和音さんの『天使の名を誰も知らない』です。
こんな人におすすめ
毒親問題をテーマにした小説に興味がある人
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元教師、元医者、元社長、元プロアスリート・・・現役から退いたこれらのポジションは、フィクション界隈で重要な役割を果たすことが多いです。現役時代に培った技能と経験と人脈がある一方、退職済であるがゆえに職権はない。有能さと不自由さ、両方を描写することができ、物語を盛り上げやすいことが理由のような気がします。
そんな中、ミステリーやサスペンスで一番登場率が高いのは<元刑事>ではないでしょうか。都筑道夫さんの『退職刑事』をはじめ、元刑事が活躍する小説は数えきれないほど存在します。今回取り上げる作品でも、元刑事が実にいい働きをしていましたよ。芦沢央さんの『嘘と隣人』です。
こんな人におすすめ
日常の悪意を描いた連作短編集に興味がある人
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ダブル主人公というのは、手がける際に注意が必要な物語形式だそうです。描き方を間違えると片方だけが目立ってしまったり、最悪、もう片方がただの引き立て役になってしまうことがあり得ることが理由なのだとか。そのため、一時期、特にWeb小説界隈では<ダブル主人公は鬼門>という常識まで存在したらしいです。
しかし、きちんと描きさえすれば、ダブル主人公はとても魅力的なジャンルです。テレビドラマ『相棒シリーズ』や、海堂尊さんの『田口・白鳥シリーズ』、森博嗣さんの『S&Mシリーズ』等々、人気を博し、長期シリーズ化した作品も少なくありません。今回は、私の大好きなダブル主人公小説を取り上げたいと思います。柚木麻子さんの『本屋さんのダイアナ』です。
こんな人におすすめ
好対照の少女二人の成長物語に興味がある人
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記憶力はそこそこいいと自負している私ですが、それでも覚えるのが苦手なものがいくつかあります。その内の一つは、月ごとの日の数。「九月は三十日までで、十月は三十一日で・・・」というのが、本当に苦手なんです。<西向く士(にしむくさむらい)→二、四、六、九、十一月は日数が少ない月>という語呂合わせを考え出してくれた人には、感謝してもしきれません。
この日の数、サスペンスやホラーの分野では、意外と重要な要素となることが多いです。登場人物が異世界に迷い込んで、三月のカレンダーが三十日までなのを見て「あ!ここは現実世界じゃない!」と気づくというような展開、今までに何度か見ました。それから、今日ご紹介する作品でも、日付がキーワードになっているんですよ。真梨幸子さんの『6月31日の同窓会』です。
こんな人におすすめ
女子校を中心に展開するイヤミスが読みたい人
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フィクション作品においては、現実では珍しい部類に入る名前の登場人物がしばしば出てきます。大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公は<夜神 月(やがみ らいと>ですし、西尾維新さん『物語シリーズ』ヒロインは<戦場ヶ原 ひたぎ(せんじょうがはら ひたぎ>です。少し昔のものでは、吉川英治さん『宮本武蔵』に準主人公格で出てくる<本位田 又八(ほんいでん またはち)>も結構珍しい名前と言えるでしょう。
なぜ登場人物に変わった名前を付けるのか、理由は色々あります。主なものとしては、<作中での登場人物の扱いにより、現実で同じ名前の人が中傷されるのを防ぐため><「勝手に自分のことを書くなんて許せない」というクレームを防ぐため>といったところでしょうか。ただ、この作家さんに関しては、何より自分のこだわりで珍名を出している気がするんですよね。今回取り上げるのは、西澤保彦さんの『帰ってきた腕貫探偵』です。
こんな人におすすめ
安楽椅子探偵もののミステリー短編集が読みたい人
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物語には、お国柄というものが出ます。同じ設定でも、作者や舞台によって解釈・描写がまるで違うこともあり、比較するとなかなか面白いです。バーネット(国籍はアメリカだが、思春期までイギリスで育つ)の『小公女』が、リメイクされたアメリカ映画版だと<死んだはずの父親は、実は生還。意地悪な学長は、最後に仕事も立場も失い、煙突掃除人として働く>となるのは、いかにもアメリカらしくて笑ってしまいました。
当然、私が大好きなホラーの分野にも、国よる違いというものがあります。じっとりと陰気なジャパニーズホラーに、派手なアクションが繰り広げられるハリウッドホラー、アーティスティックな描写が多いフレンチホラーに、宗教や民間信仰の要素が絡む東南アジアホラーetcetc。それからお隣りの国・中国のホラーも、なかなかに独特のものがあるんですよ。今回ご紹介するのは、藤水名子さんの『赤いランタン』です。
こんな人におすすめ
中国を舞台にしたホラー短編集に興味がある人
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