作家名

はいくる

「ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語」 株式会社闇(編集) 

本を知るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。本屋や図書館に並んでいるのを見たり、人からお勧めされたり、テレビで紹介されていたり・・・まさに千差万別、百人いれば百通りのきっかけがありそうです。

私の場合、ここ最近は<動画で取り上げられていた>というパターンが増えてきました。特に見る機会が多いのがYouTube。世界中の人が利用しているだけあって、本について触れた動画も結構多く、意外な良作に出会えたりします。今回取り上げる作品も、YouTubeの動画をきっかけに知りました。株式会社闇編集による『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

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はいくる

「可燃物」 米澤穂信

ミステリーの探偵役は、とにもかくにも個性的でインパクト抜群なタイプが多いです。シャーロック・ホームズや金田一耕助は言うに及ばず、坂木司さん『ひきこもり探偵シリーズ』の鳥井は精神的負荷がかかると幼児返りする引きこもりで、東川篤弥さん『謎解きはディナーのあとでシリーズ』の影山は毒舌執事。赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』にいたっては、謎解きの中心となるのがなんと猫です。現実では到底出会えないようなキャラクターが生き生き事件解決しているのを見るのは楽しいですね。

その一方、個性や人間味の描写がないからこそ輝くタイプのキャラクターもいます。例えば、当ブログでも何度か取り上げた西澤保彦さん『腕貫探偵シリーズ』の<腕貫男>。腕貫を付けた地味な容姿の市役所職員で、シリーズ通して内面描写はほぼないにも関わらず、その脂っけのなさが逆に印象的なんです。それから、この作品の主人公も、人間味を見せない所にある種の魅力を感じました。米澤穂信さん『可燃物』です。

 

こんな人におすすめ

正当派警察ミステリー短編集が読みたい人

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「あなたには、殺せません」 石持浅海

「大嫌いなあいつをぶん殴ってやりたい」「あそこにある金を奪えたら、どんなに楽になるだろう」。そんな不埒な考えが一瞬頭をよぎることは、決して珍しいことではありません。私は昔、ハードなダイエットのせいで精神的にめげていた時、ケーキ売り場を見るたび「この場で商品を片っ端から鷲掴みにして食べられたら、楽しいだろうなぁ」と思ったものです。

多くの人間は、罪を犯す考えが脳裏に浮かんでも、実行せず空想に留めておきます。その理由は様々だと思いますが、突き詰めると、「バレたら大変なことになるから」ではないでしょうか。逮捕されれば犯罪者となり、刑を科され、場合によっては仕事や家庭を失うこともあり得る。自分ばかりか、身内までもが<加害者家族>として世間から後ろ指を指される。大抵の場合、犯罪に走ったってデメリットの方が大きいのです。この本を読んで、改めてそう思いました。石持浅海さん『あなたには、殺せません』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いた倒術ミステリー短編集が読みたい人

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「ヨモツイクサ」 知念実希人

かなりのホラー好きを自認する私が最初にハマったホラー作品は、ゲーム『バイオハザード』でした。幽霊でも妖怪でもなく、ウィルスのせいで巻き起こる阿鼻叫喚の数々がものすごく新鮮で、すっかり夢中になったものです。賛否両論あるようですが、映画版も結構好きなんですよ。

思えば『バイオハザード』以降、<バイオホラー>というジャンルが世間に広く知れ渡った気がします。これは生物技術が絡んだホラー作品のことで、ウィルス、細胞、未知の生命体といった要素がテーマとなることが多いです。心霊はあまり登場せず、科学や物理が通用する敵がメインな分、派手なアクションが繰り広げられることもしばしばですね。先日読んだ作品もそうでした。知念実希人さん『ヨモツイクサ』です。

 

こんな人におすすめ

・バイオホラー作品が好きな人

・アイヌ文化に興味がある人

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はいくる

「光と影の誘惑」 貫井徳郎

あくまでフィクション限定の話ですが、作中に登場する犯罪者に共感したり、応援してしまったりすることがしばしばあります。こういう犯罪者の場合、犯罪者なりに矜持を持っているとか、実は被害者側が諸悪の根源だったとかいうパターンが多いですね。実際、悪人を主人公としたピカレスク小説は、国内外を問わず山ほどあります。

しかし、現実問題、そんなカッコいい犯罪者などそうそういるはずがありません。犯罪とは身勝手で、卑劣で、人を不幸にするもの。この作品を読んで、しみじみそう思いました。貫井徳郎さん『光と影の誘惑』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いイヤミスが好きな人

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「監禁依存症」 櫛木理宇

<監禁>という言葉の定義について調べると、<人を一定の区画内に閉じ込め、そこから出られない状態にすること>と出てきます。手錠やロープ等で身体を拘束することだけでなく、脅迫等を用いて脱出困難な状態に追いやることも監禁に相当するのだとか。この犯罪の特異な点は、ひったくりや通り魔的な殺傷事件と違い、犯人側もそれなりの準備や工夫を行わなければならないという点でしょう。

小説の世界で例を挙げると、秋吉理香子さんの『監禁』でも、永井するみさんの『大いなる聴衆』でも、犯人は周到な準備を行った上でターゲットを監禁していました。そういえば綾辻行人さんの『迷路館の殺人』のように、広大なからくり屋敷を使って登場人物達を出られないようにするという突飛なケースもあったっけ。先日読んだこの作品にも、狡猾な犯人による恐ろしい監禁事件が出てきました。櫛木理宇さん『監禁依存症』です。

 

こんな人におすすめ

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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「依頼人は死んだ」 若竹七海

探偵に向いている資質とは、一体どんなものでしょうか。調査対象をどこまでも追跡できる体力?些細な異変を見逃さない観察力?怪しまれずに周囲に溶け込める社交性?どれも必要でしょうが、一番大事なのは、何があっても動じずに調査を続けるしぶとさだと思います。

古今東西、小説の中で探偵役を務める登場人物達は皆、並々ならぬしぶとさを持っていました。有栖川有栖さんの『作家アリスシリーズ』に登場する火村英生は、銃を突きつけられても犯人追及の手を緩めないし、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』の花咲慎一郎は、暴力団幹部に命を握られながらも問題解決のため奔走します。それから、しぶとい探偵といえばこの人を忘れちゃいけません。若竹七海さんの『葉村晶シリーズ』に登場する葉村晶。今回取り上げるのは、シリーズ第二弾『依頼人は死んだ』です。

 

こんな人におすすめ

・皮肉の効いたミステリー短編集が好きな人

・女性探偵の物語に興味がある人

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「掲載禁止」 長江俊和

一月も後半。今年度も残りわずかです。学校も職場も、今年度の締めくくりと新たな年度への準備で、何かと気忙しくなる時期でしょう。昔の人は十二月を<師走(いつも沈着なお坊さんでも走り回るくらい忙しい時期)>と表現しましたが、個人的には今くらいの時期が一番慌ただしい気がします。

だからといって読書をやめられないのが本好きの性。とはいえ、仕事や勉強が多忙なら、読書に割く時間は減りがちになります。こういう時は、一話一話が独立していて、空き時間に読み進められる短編集がお勧めです。先日は、この短編集を読みました。長江俊和さん『掲載禁止』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるサイコサスペンス短編集が読みたい人

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「双頭の蛇」 今邑彩

シリーズ作品には<三作目の壁>というものがあるそうです。物語の始まりである一作目が面白いのは、ある意味、当然。その勢いに乗れば、二作目も高水準を維持できる。問題は三作目で、ここで失速し、評価を落としてしまう作品もしばしばあるとのこと。逆に、この壁を乗り越えれば、レベルの高い人気シリーズになることが多いそうです。

実際、人気のある小説シリーズは、総じて三作目のレベルが高い気がします。綾辻行人さんの『館シリーズ』三作目の『迷路館の殺人』や、東野圭吾さん『ガリレオシリーズ』三作目の『容疑者Xの献身』は、シリーズ中でもお気に入りの作品です。個人的に、この作品も壁を突破していると思います。今邑彩さん『蛇神シリーズ』の三作目『双頭の蛇』です。

 

こんな人におすすめ

・因習が絡む土着ホラーが好きな人

・『蛇神シリーズ』のファン

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はいくる

「殺人鬼---覚醒篇」 綾辻行人

<グロテスク>というのは、元々は異様な人間や動植物に曲線模様をあしらった美術様式を指すのだそうです。語源はイタリア語の<洞窟>で、暴君として名高いローマ皇帝ネロが造った宮殿群を意味するとのこと。これが転じ、<不気味>とか<異様>とかいう意味で使われるようになりました。

現代、小説の世界で<グロテスク>という言葉が使われる場合、生理的嫌悪感を抱かせる、残酷かつ奇怪な作風であることが多いです。血が噴き出し内臓飛び出るスプラッターな内容になることもしばしばなので、けっこう人を選ぶジャンルですよね。かくいう私も得意な方ではありませんが、物語として面白いなら話は別。そして、国内グロ小説としては、これがトップクラスの完成度ではないでしょうか。綾辻行人さん『殺人鬼-――覚醒篇』です。

 

こんな人におすすめ

・叙述トリックが仕掛けられたホラーミステリー小説が好きな人

・残酷描写に抵抗がない人

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