ま行

はいくる

「さよならの儀式」 宮部みゆき

私は基本的にどんなジャンルの小説も抵抗なく読む人間ですが、改めて自分の読書歴を振り返ってみると、SF小説の読破率が低いことに気付きました。実際、このブログでも、SF小説の登場頻度は低いです。どうしてだろうと自分で考えた結果、「なんとなく感情移入しにくいから」ではないかなと推測・・・私の理解を遥かに超えたテクノロジーとかの話を持ち出されると、つい一歩引いてしまうみたいです。

逆に、私の頭でも設定や世界観が理解しやすいSF作品なら、楽しく読むことができます。筒井康隆さんの『時をかける少女』や重松清さんの『流星ワゴン』、東野圭吾さんの『パラレルワールド・ラブストーリー』などは、SFながら設定は現代に通じていて、共感できる部分が多かったですね。先日読んだSF作品もそうでした。宮部みゆきさん『さよならの儀式』です。

 

こんな人におすすめ

ビターなSF短編小説集が読みたい人

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「いつかパラソルの下で」 森絵都

小説のテーマになりがちな問題は色々あります。<親子の確執>はその筆頭格と言えるのではないでしょうか。近い血の繋がりがあり、本来なら愛情と信頼で結ばれるはずの親子。ですが、近いからこそ、場合によっては憎しみや葛藤の対象ともなり得ます。下田浩美さんの『愛を乞う人』や山崎豊子さんの『華麗なる一族』、唯川恵さんの『啼かない鳥は空に溺れる』などでは、そんな親子の愛憎劇が描かれました。

ただ、上記の例からも分かる通り、小説に出てくる親子の確執は<父と息子><母と娘>というケースが多い気がします。やはり同性同士の方が、反発や共感の情が湧きやすいからでしょうか。もちろん、それらもとても面白いのですが、今回はあえて<父と娘>の確執を取り上げた小説をご紹介します。森絵都さん『いつかパラソルの下で』です。

 

こんな人におすすめ

家族の確執をテーマにした小説が読みたい人

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「東京下町殺人暮色」 宮部みゆき

<下町>という言葉があります。読んで字の如く、市街地の低地となった部分を指す言葉で、東京では日本橋や浅草、神田などがそれに当たります。また、<下町気質>と言えば、人情味があってお祭り好き、カッとなりやすい所もあるが終わったことは気にしない、面倒見が良くて竹を割ったような性格・・・などが連想されるのではないでしょうか。

独特の文化や気質がある下町は、しばしば物語の舞台に選ばれます。小路幸也さんの『東京バンドワゴンシリーズ』や瀬尾まいこさんの『戸村飯店 青春100連発』など、騒動は起こりつつもどこか心温まる作風が多いような気がしますね。今回は、下町を舞台にしたミステリーをご紹介しようと思います。宮部みゆきさん『東京下町殺人暮色』です。

 

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少年が活躍するミステリーが読みたい人

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「誰かが見ている」 宮西真冬

雑誌やインターネットの悩み相談コーナーを見ていると、しばしば<マウンティング>という言葉を目にします。本来は馬乗りになって相手を押さえ込む状態を指しますが、昨今は<自分の方が周囲より幸福>とランク付けし、それを主張するという意味で使われることが多いです。ファッション業界を舞台にしたドラマ『ファーストクラス』に登場したことがきっかけで広まり、流行語大賞にもノミネートされましたね。

我が身と他人を比較することは、必ずしも悪いことではありません。場合によっては、比較することで発奮したり、頭が冷えたりすることもあるでしょう。ですが、自分の方が幸せだと優越感を抱き、他人を見下すようになれば、それは傲慢というものです。今日ご紹介するのは、宮西真冬さん『誰かが見ている』。女性のマウンティングの怖さを味わえました。

 

こんな人におすすめ

女性目線の心理サスペンスが読みたい人

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「強欲な羊」 美輪和音

ふと、お気に入りの作家さんたちを思い浮かべてみて、あることに気付きました。「私が好きな作家さんって、小説家と脚本家を兼業していることが多いな」と。たとえばドラマ『放送禁止シリーズ』『富豪刑事』の脚本家であり、『東京二十三区女』『出版禁止』の作者でもある長江俊和さん。あるいは、『相棒シリーズ』で脚本を担当し、『幻夏』を書いた太田愛さん。もともと脚本家は小説家と兼ねることが多い職業ですが、映像作品を担当したことのある作家さんは、視覚的に映える描写力を持っている気がします。

そんな小説家兼脚本家業を続ける作家さんの中で、私の一押しは美輪和音さん。映画『着信アリ』の脚本家であり、『ハナカマキリの祈り』や当ブログでも紹介した『ウェンディのあやまち』等、切れ味鋭いサスペンス小説を世に送り出しています。今日は、そんな美輪さんの小説家デビュー作『強欲な羊』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

人の狂気をテーマにしたサイコミステリーが読みたい人

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「友達未遂」 宮西真冬

私が通っていた高校には寮がありました。全寮制ではなかったので、各クラスに寮暮らしの生徒は一~二名程度。大変なこともたくさんあるのでしょうが、寮生だからこその楽しみも結構あったらしく、自宅通学の私はちょっぴり羨ましかったものです。

寮生活が登場する小説と言えば、近藤史恵さんの『あなたに贈るX(キス)』や野沢尚さんの『反乱のボヤージュ』、当ブログでも紹介した恩田陸さんの『ネバーランド』などがあります。<閉ざされた空間で暮らす若者たち>という状況から、色々ドラマが作りやすいんでしょうね。最近読んだ小説にも、全寮制の高校に通う少女たちが出てきました。宮西真冬さん『友達未遂』です。

 

こんな人におすすめ

・女子高生の青春ミステリーが好きな人

・毒親等、家庭内の問題を扱った小説を読みたい人

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「三匹の子豚」 真梨幸子

桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、眠れる森の美女・・・・・世界各国には様々な童話が存在します。一見、非現実的なフィクションと思われがちですが、童話には現実世界でも通用する教訓が込められているもの。だからこそ、何百年、何千年にも渡って各地で伝わり続けてきたのでしょう。

そんな童話の初版を調べてみると、子どものトラウマになりかねないほど残酷なものが多いです。『白雪姫』の初版で、悪いお妃が焼けた鉄靴を履かされ死ぬまで踊らされるという展開など、そのいい例と言えるでしょう。上記の特性から、童話を現代風にアレンジした小説はたくさんあります。『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』『ラプンツェル』などはモチーフになりやすいので、今回は目新しい作品を取り上げたいと思います。真梨幸子さん『三匹の子豚』です。

 

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母と娘にまつわる愛憎劇が読みたい人

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「首無の如き祟るもの」 三津田信三

古今東西、創作の世界には様々なシリーズ物が存在します。中には作者が死去した後、弟子やプロダクション関係者が続編を作り続けている作品もあり、何十年もの長期シリーズと化すことも珍しくありません。この手のシリーズ物の魅力の一つは、「最後には水〇黄門が現れて悪党を成敗してくれるんだろうな」「十津〇警部が出てくるなら時刻表トリックが使われているのかな」等々、安定した世界観を楽しめる点でしょう。

ですが、長期シリーズ化した作品の中には、これまでのお約束から外れた<異色作>が登場することがしばしばあります。例を挙げるなら、例えばアガサ・クリスティーの『ビッグ4』。『名探偵ポワロシリーズ』の中の一作なのですが、ここでポワロが対峙するのは国際的な悪の組織です。秘密諜報員が出るわ立ち回りはあるわで、<ポワロ=上流階級を舞台にした犯罪者との頭脳戦>をイメージしていた私はかなりびっくりしました。今回は、そんなシリーズ物の中の異色作をご紹介したいと思います。三津田信三さん『首無の如き祟るもの』です。

 

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おどろおどろしいホラーミステリーが読みたい人

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「初恋さがし」 真梨幸子

ミステリーには、<主役にしやすい職業>というものがあります。高い調査能力や行動力を持ち、事件と関わる確率の高い職業の方が、物語を始めやすいですからね。たとえば刑事や弁護士、検事、ジャーナリストなどなど。探偵もその一つです。

日本の名探偵といえば金田一耕助や明智小五郎などが有名ですが、現代日本において探偵が堂々と大事件に関わる機会はそうそうありません。現代では<探偵事務所>や<興信所>の職員が、人探しや素行調査を行う過程で事件と関わるというパターンが多いです。加納朋子さんの『アリスシリーズ』、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』などがそうですね。今回ご紹介する小説もその一つ。真梨幸子さん『初恋さがし』です。

 

こんな人におすすめ

テンポの良いイヤミスが読みたい人

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「あぶない叔父さん」 麻耶雄嵩

<身内同士が協力して(あるいは影響を受けて)事件に挑む>という設定は、バディ系ミステリの王道パターンです。刑事や探偵というならともかく、素人が謎解きに挑戦する場合、「そもそもなぜ彼らは組んで事件を追うのか→身内で信頼できるから」という理由づけがしやすいからかもしれません。

このパターンの場合、親兄弟が協力するケースって少ない気がします。私が知る限り、親子で協力し合うのは都築道夫さんの『退職刑事』、兄弟は綾辻行人さんの『殺人方程式シリーズ』くらい。あとは、中山七里さんの『TAS 特別師弟捜査員』での従兄弟、宮部みゆきさんの『淋しい狩人』での祖父と孫のように、親兄弟より少し離れた関係の方が多いように思います。親兄弟だと繋がりが近すぎる分、色々と面倒も多いからでしょうか。この作品の場合は、<叔父と甥>でした。麻耶雄嵩さん『あぶない叔父さん』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いたミステリが読みたい人

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