もともとは、飲食店などを一人で利用する客を指す言葉<おひとり様>。それが二〇〇〇年代に入った頃から<一人で生きている自立した大人><同居人がおらず、一人で暮らす人>といった意味で使われるようになりました。流行語大賞にノミネートされたり、ベストセラー書籍のタイトルに使われたりしたこともあり、すっかり世の中に定着した感がありますね。
おひとり様という言葉自体は、男女共に使っていいものですが、比率で言えば女性に対して使われることが多いのではないでしょうか。それはフィクションの世界においても同様で、シングル女性の自立した生き方を応援する、前向きな<おひとり様>作品はたくさん存在します。でも、この方の作品の場合、あっさりといい話にはしてくれないんですよ。今回取り上げるのは、おひとり様の泥沼人間模様を描いたイヤミス、真梨幸子さんの『ウバステ』です。
こんな人におすすめ
おひとり様の老いをテーマにしたイヤミスに興味がある人
一人きりの死は不幸なのか、それとも---――主人公・世津子は、逗子に一人で暮らす六十代半ばの小説家。時折かつての業界仲間と会いつつ、それなりに穏やかな日々を送っている。そんな彼女のもとに届いた、旧知の仲だった女性が孤独死したという知らせ。時置かずして、彼女の夫もまた急死するのだが、彼ら夫妻は仲間達に対し、遺書を思わせる年賀状を出していた。夫妻はなぜこんなものを出したのか。引っかかりを覚えた世津子は夫妻の足跡を辿ろうとするのだが・・・・・真梨幸子流<おひとり様の最期>小説、ここに誕生
真梨幸子さんの小説には、シングル生活を送る女性がこれまでにもたくさん登場しました。『カウントダウン』では、病を抱えるシングル女性が終活に勤しむ様子を描いています。本作のポイントは、そこに<老い>が加わること。若い頃と比べて確実に体力が衰え、友人知人の闘病や死の知らせがぽつぽつ届き始める描写にリアリティがあり、「誰しも行く道なんだよな・・・」と思わされました。
還暦を過ぎた小説家の世津子は、逗子の家でほどほど気楽なおひとり様生活を謳歌中。二十年前、著作『ウバステ』がドラマ化されたことをきっかけに、四人の業界関係者の女性と知り合い、今なお彼女達と定期的に食事会を開いています。ある日、食事会のメンバーの一人・寿々が自宅で孤独死を遂げました。間もなく、寿々の元夫であり、ドラマ監督の梶谷も急死。なんと彼らは、食事会のメンバーに宛てて、それぞれ遺書めいた年賀状を出していました。二人の死の裏には何があるのか。周りに後押しされ、寿々の身辺を探り始める世津子。そんな世津子にも、老いによる衰えがじわじわ忍び寄ってきていて・・・・・
うーん、相変わらず盛り沢山!旧友の死の真相を探りつつ、自身の老化や病と闘い、不仲な弟と相続問題で揉め、不審な噂のある老人ホームの闇を垣間見、なんと出生の秘密とまで向き合う羽目になった世津子が哀れというか、ここまで来ると逆に笑えるというか・・・これだけ詰め込んでも、最後にはきっちり収束するところが、さすがプロの技という感じですね。むしろ、これでもかとトラブルや人間関係が絡み合いまくる真梨ワールドにしては、すっきり分かりやすい部類では?と思うほどでした。
作中の問題のどこに注目するかは人によりけりなのでしょうが、私が一番印象的だったのは老人ホームの場面です。老後のおひとり様生活を快適なものにするため、登場人物達が大枚はたいて契約した老人ホーム。しかし、ホームによっては、認知症や重病を発症したら退所させられることもあります。あるいは、入居し続けること自体は可能でも、ろくなケアもされず放置されることも・・・この生き地獄状態の描写がかなり壮絶で、下手なホラーよりよっぽど恐ろしかったです。現実世界で真面目に働いている介護従事者の方が読めば不愉快になるかもしれませんし、誠実に運営されている介護施設もたくさんあるのでしょう。その一方、実際に介護施設で悲惨な事件・事故が起こっていることもまた事実。登場人物が作中で語る「慣れた自宅で死ぬことができるんだから、孤独死はちっとも悲劇じゃない」という言葉も一理あると思えてきます。
上記の老人ホームの下りこそ強烈なものの、いつもの真梨作品と比べると、全体的にグロさは抑え目。現実離れしたショッキングな場面もほとんどありません。ただ、<老い><死>という逃れようのない現実を描いているからか、ひたひたと迫りくるような苦さがありました。なお、本作には付録として、真梨幸子さんお手製の終活ノートが付いてきます。一般的な項目に加え、ぴんぴんコロリと死ねなかった時の対策として<行きたくない病院><介護されたくない人>などの項目がある、なかなかブラックな仕様。一読の価値があると思いますので、図書館派の方は、見逃さないようご注意ください。
年を取れば取るほど身につまされる度★★★★★
昭和のヒット曲が分かれば、面白さ倍増!度★★★★☆
嫌でもやってくる老後についてリアルに描かれているようで、真梨幸子さんの作品以上に厳しい現実すらあると感じます。
死ぬまで働く覚悟はありますが、働けなくなった時の覚悟までは出来ていません。
図書館で見ましたが借りずじまいです。
将来に向き合う為にも読もうと思います。
櫛木理宇さんの「逃亡犯とゆびきり」林真理子さんの「皇后は闘うことにした」読み終えました。
いつもよりぶっ飛び方は控え目な分、迫りくるような怖さがありました。
付録の終活ノートを含め、将来のことを考える材料になりそうです。
「皇后は~」、歴史好きとしては見逃せない内容ですね。
こちらは婚活食堂の最新刊を読み終えました。
山口恵以子さんは刊行ペースが速いので、すごく嬉しいです。