巷でよく言われる話ですが、日本人は宗教に対するハードルが低い民族です。何しろ国内に存在する神様の数は八百万。仏教やキリスト教の宗教施設がご近所同士ということも珍しくなく、カレンダーを見れば世界各国の宗教行事が目白押し。「宗教?まあ、各自で好きなように信じればいいじゃん」という風土があります。身びいきかもしれませんが、こういう精神性って大好きです。
それは創作の世界においても同様で、日本人をメインに据えた作品の場合、「そんな理由で宗教と関わっちゃうの!?」と驚かされるケースも珍しくありません。荻原浩さんの『砂の王国』なんて、その代表例と言えるでしょう。それから、今日ご紹介する作品もそうでした。真梨幸子さんの『教祖の作りかた』です。
こんな人におすすめ
色と欲に満ちたイヤミスが読みたい人
どうしようもない?じゃあ、宗教やっちゃいましょう!—–夫と息子が起こしたトラブルにより多額の借金を抱え、人生どん詰まり状態の主人公・色葉。参加した同窓会で、弁護士の同窓生に現状を打ち明けたところ、思いがけない提案をされる。それは、宗教法人をやるという奇策中の奇策。悩んだ末に提案を受けることにする色葉だが、後日、発案者の弁護士がバラバラ死体となって発見され・・・・・この苦境を、神はお救いくださるのか。二転三転する転落劇を描くジェットコースター・イヤミス
改めて調べてみて気づきましたが、真梨幸子さんの作品で宗教団体ががっつり絡む展開って、あまりないんですよね。いつもこの世のドロドロをこれでもかと描写してくれる作家さんなので、なんだか意外です。この方の作品に宗教が登場する以上、絶対に真っ当なものじゃないだろうなとは思いましたが、真実は予想をはるかに超えていました。
主人公は、周囲のマドンナだった栄光時代を忘れられない主婦・色葉。お人好しの夫は詐欺被害に遭い、引きこもりの息子とはろくにコミュニケーションも取れず、鬱屈した毎日を送っています。そんな彼女に追いうちをかけるように、息子の一〇〇〇万円もの脱税疑惑が発覚!実は息子は人気YouTuberであり、収益に対する税金を払っていなかったのです。稼いだ分はすべて使い切ってしまっており、貯金はゼロ。打ちのめされた色葉は、ひょんなことから再会した元同級生の弁護士・西脇に、自身の窮状を打ち明けます。すると、西脇から意外な提案がなされました。「息子さんを教祖として宗教法人をやれば、税金を払わずに済む。とはいえ、一から法人を作るのも大変だろうから、関係者が全員いなくなって事実上解体された宗教法人を引き継ぐのはどうだろう。ちょうどぴったりの法人がありますよ」なんだそりゃ・・・と思いつつ、このままではお先真っ暗なことも事実。家族と話し合った末、色葉は提案を飲むことにするものの、その直後に西脇がバラバラ死体となって発見され・・・・・
この色葉の章と並行して、自宅に引きこもって暮らす久斗の物語が展開していきます。久斗はネット仲間であるナオミに呼び出され、なんとそのまま見知らぬ部屋に監禁されてしまいます。ナオミ曰く、久斗には教祖としての素養があるため、これから仕上げを行うとのこと。訳も分からぬまま、得体の知れない薬物のようなものを飲まされ続ける久斗。果たして彼は、この危機を脱することができるのでしょうか。
最初に言っておきますが、本作は最近の真梨作品の中でもトップクラスに人間関係や時系列がややこしいです。しかも、それらがオチに密接に関わってくるため、時に「ええっと、これ誰だっけ?」とページをさかのぼることもあるかもしれません。ゆるりと流し読みするのが好きな方は、それなりに覚悟を決めておいた方がいいでしょう。
ただ、そうした点を補って余りあるほど、密度は濃いです。宗教問題に違法薬物、臓器売買にバラバラ殺人。そこに真梨幸子さんお馴染みの見栄だの嫉妬だの逆恨みだのが絡みまくり、まさに不幸のデパート状態。その中にばっちり伏線が仕込んでおり、最後のどんでん返しに繋がるわけですから、一瞬たりとも気を抜けません。真相が分かってみれば、最初からすべてがズレていたというところが哀れというか愚かというか・・・真梨ワールド独特のこの報われなさ、大好物です。
そして、本作を語る上で忘れちゃいけないのが、宗教に関する描写です。序盤、色葉達が宗教に関わるきっかけは、息子にかかる脱税容疑から逃れようという、なんとも軽薄かつ身勝手なもの。そんな時に利用できる宗教法人なんて、どうせろくなものじゃないんだろうな・・・と思いましたが、実際のエグさは想像以上でした。何が怖いって、こんな風に些細なきっかけで宗教に関わってしまうことも、恐ろしい宗教団体が存在することも現実にあり得るのがめちゃくちゃ怖いんですよ。ただ恐ろしさを見せつけるだけではなく、新興宗教の成り立ちや暴走していく過程がきちんと描かれていて、「あの宗教とかこの宗教とかも、こんな感じだったのかなぁ・・・」と思わされました。
なお、本作の公式キャッチコピーは<あなたの教祖(推し)は誰ですか?>です。<推し>というのは強い支持や憧れの気持ちを表す俗語で、歌手や俳優等に使われることが多いですね。ただの好意とは違う、強烈な支援の感情。果たしてそれを向けられ、<教祖>とされたのは誰だったのか。読者の中でも解釈が分かれそうなので、ぜひとも語り合ってみたいです。
これぞ負の群像劇!度★★★★★
参考文献が超気になる・・・度★★★★☆
いかにもドギツどうな真梨幸子さん独特の展開がありそうです。
日本は確かに宗教に対するハードルが低いですが、だからこそオウム真理教や統一教会のような過激な宗教が出てくるのか?と感じます。
日本は神道という宗教があり基本的に仏教のエリアだと感じますが、クリスマスやハロウィーンがありそれが日本の良さかも知れません。
実家は浄土真宗ですが、一番楽だと感じます。
新興宗教の危険度にイヤミス要素もあり重たい内容ですが何故か読みたくなります。
日本人独特の宗教への緩さと、真梨幸子さんらしいドロドロ具合が上手くマッチしていました。
この作風は、八百万の神と仏が共存する日本だからこそ成立する気がします。
ちなみに私の実家も浄土真宗。
特にこれといった縛りもなく、一番信仰しやすい宗派では?と思っています。