私はこれまでの人生で何度か転校を経験しています。幼稚園や小学校時代のことなので、勉強の遅れを感じることはほとんどありませんでしたが、新しい環境で一から立ち位置を築くのはなかなか大変でした。どこも比較的落ち着いた環境で、ひどいイジメに遭うことがなかったのはラッキーだったと思います。
する側にとっても迎える側にとっても、<転校生>というのはある種、特殊なポジションです。転校生本人にしてみれば、見知らぬクラスメイトや慣れない不文律がある転校先はさながら異世界のようなもの。また、迎える側にとっても、過去も性格も分からない転校生は異分子です。私がこれまで読んだ転校生メインの小説は、恩田陸さんの『六番目の小夜子』や眉村卓さんの『謎の転校生』のように、転校生を迎える側視点のものが多いです。今回は視点を変え、転校生本人が主役の作品を取り上げたいと思います。森真沙子さんの『転校生』です。
こんな人におすすめ
耽美的な学園ホラーが読みたい人
続きを読む
私は自他共に認めるホラー作品大好き人間ですが、そんな私をしても、ホラーというジャンルは人を選ぶと思います。<horror(恐怖)>という言葉が示す通り、恐怖現象を見聞きして楽しむことが目的なわけですが、「怖い思いをして楽しむなんてできっこないじゃん」という人は大勢いるでしょう。ジャンルの性質上、時に血飛沫が飛び内臓がまき散らされる・・・なんていう状況になり得ることも、人を選ぶ原因の一つかもしれません。
ですが、だからといってホラー作品すべてを忌避するのは早計というもの。櫛木理宇さんの『ホーンテッド・キャンパスシリーズ』や瀬川ことびさんの『お葬式』のように、どことなくユーモアがある上に読後感も悪くないホラー小説はたくさんあります。今回取り上げるのも、そんな軽妙なホラー小説です。赤川次郎さんの『怪奇博物館』です。
こんな人におすすめ
ライトで読みやすいホラー短編集が読みたい人
続きを読む
自分で言うのもなんですが、私はけっこう信心深い人間です。祖父母の家によく出入りしていたせいもあるのか、里帰りするとまず神棚と仏壇に手を合わせますし、厄年や大きな旅行に出かける時は必ずお祓いをしてもらいます。神仏に手を合わせる。簡単な動作ですが、なんだか落ち着いた気持ちになってきます。
日本は神仏と距離の近い国であるものの、神社やお寺がテーマになった小説はそれほど多くない気がします。ぱっと思いつくのは三島由紀夫氏の『金閣寺』ですが、あれは神仏の力をテーマにしているわけじゃないし、かといって神秘のパワーで神々が大暴れする!みたいな小説はあまり読まないし・・・と思っていたら、いい作品を見つけました。花房観音さんの『神さま、お願い』です。
こんな人におすすめ
人間の悪意を描いたホラー短編集が読みたい人
続きを読む
ホラー作品の<怖い>と思いポイントは人それぞれです。恐ろしい化け物が登場するとか、登場人物の誰一人として助からないとか、読者によって恐怖ポイントがあるでしょう。もちろん、私にも色々ありますが、その中の一つは<身近なところから物語が始まる>というものです。<スペースシャトル内で宇宙飛行士達が体験する恐怖>とか言われても状況が想像しにくいですが、私と似たような生活を送っている登場人物なら、場面を思い浮かべるのは容易。「こんなことが本当に起きたらどうしよう・・・」と、恐怖感がより高まります。
身近なシチュエーションから始まるホラー小説と言えば、やはり鈴木光司さんの『リング』は外せないでしょう。呪いのビデオを見てしまった。ただそれだけで死へのカウントダウンが始まる登場人物達の恐怖や焦りが、手に取るように伝わってきました。今回取り上げる小説にも、私達の身近な場所から始まる恐怖が登場します。雨宮町子さんの『死霊の跫』です。
こんな人におすすめ
正統派ジャパニーズホラー短編集が読みたい人
続きを読む
<夜>という時間帯には二つの顔があります。一つは、太陽の光が消え失せ、(場所にもよりますが)昼と比べて人気が少なくなり、なんとなく不気味さや心細さを感じさせる顔。キリスト教において夜は神の救済が届かない闇の領域ですし、日本神話でも、ツクヨミという神が殺生を犯して追放されたことで夜の世界が生まれたとされています。その一方、夜には安らぎや落ち着きを感じさせる顔もあります。実際、一日の仕事を終えて自宅で寛いだり、眠ったりできる夜が一番好きという人は結構いるのではないでしょうか。
夜をテーマにした小説は数えきれないほどありますが、私が印象に残っているのは赤川次郎さんの『夜』と、恩田陸さんの『夜のピクニック』。前者は大地震で孤立した人々の夜を描くパニックサスペンス、後者は<歩行祭>という行事を通して成長していく高校生達を描いた青春小説でした。どちらも読み応えある良作ですが、そこそこボリュームがあるため、空き時間にさらりと読むには不向きかもしれません。というわけで今回は、夜をテーマにした読みやすい短編集を取り上げたいと思います。柴田よしきさんの『夜夢』です。
こんな人におすすめ
人の業を描いたホラー小説が読みたい人
続きを読む
ミステリー作品には、論理的な謎解きが必要とされます。対してホラー作品は、人知を超えた存在や現象が登場し、それらに翻弄される人間達の恐怖劇がメイン。<謎めいた出来事はすべて幽霊の仕業でした。終わり>という展開になることも少なくありません。
まるで相容れないように見えるミステリーとホラー、二つを合わせた<ホラーミステリー>というジャンルが存在します。これは、一見ホラーながら、恐怖に何らかのルールなり理由なりを持たせ、その真相を論理的な推理で暴こうとする作品のこと。綾辻行人さんの『Another』や鈴木光司さんの『リング』、三津田信三さんの『刀城言耶シリーズ』などがそれに当たります。先日、図書館で受け取った作品も、なかなかに不気味で恐ろしいホラーミステリーでした。歌野晶午さんの『間宵の母』です。
こんな人におすすめ
人の狂気の怖さを描いたホラーミステリーが読みたい人
続きを読む
結婚については、世界各国の偉人達が様々な名言を残しています。「人類は太古の昔から、帰りが遅いと心配してくれる人を必要としている」と言ったのはマーガレット・ミード、「右の靴は左足には合わない。でも両方ないと一足とは言えない」と言ったのは山本有三、「あなたがもし孤独を恐れるならば、結婚すべきではない」と言ったのはチェーホフ、「恋は人を盲目にするが、結婚は視力を戻してくれる」と言ったのはリヒテンベルクです。温かいものもあれば皮肉の効いたものもありますが、そもそも結婚自体、良い面と悪い面の両方を持つものなのでしょう。
現実の結婚が幸福なものであってほしいのは言うまでもありませんが、フィクションの世界ならば、結婚にまつわるトラブルは物語を盛り上げるスパイスにもなり得ます。秋吉理香子さんの『サイレンス』、垣谷美雨さんの『結婚相手は抽選で』、辻村深月さんの『傲慢と善良』等々、主人公が結婚を意識したことで事件や騒動に巻き込まれる小説はたくさんありますね。今日ご紹介する小説を読んだら、結婚するのがなんだか怖くなってしまうかもしれません。貫井徳郎さんの『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』です。
こんな人におすすめ
結婚をテーマにしたサスペンス短編集が読みたい人
続きを読む
好意を抱く、心惹かれる、ときめく、思いを寄せる・・・誰かに恋愛感情を抱く表現は色々ありますが、一番一般的なのは<恋に落ちる>という言い方だと思います。この表現の由来は不明ですが、理性ではどうにもならない心理状態にすっぽりはまる様子が<落ちる>と言い表されるのかもしれません。実際、恋が原因でのっぴきならない状態に陥ってしまった人は現実にも大勢存在します。
当然、容易く抜け出せない恋愛をテーマにした小説も数えきれないほどあります。辻仁成さんの『サヨナライツカ』、東野圭吾さんの『夜明けの街で』、山本文緒さんの『恋愛中毒』など、三十代以上の男女を主人公にした、どちらかというと大人向けの作品が多いですね。今回ご紹介する小説にも、どうにもならない恋の沼にはまりこんでしまった男女が出てきます。唯川恵さんの『天に堕ちる』です。
こんな人におすすめ
泥沼のような恋愛模様を描いた短編集が読みたい人
続きを読む
実は私、頭に大が付く虫嫌いです。刺されたとか噛まれたとかいう経験があるわけでもないのですが、あの細い手足やもぞもぞした動きが嫌で嫌で・・・ゴキブリやスズメバチはもちろんのこと、チョウチョやテントウ虫さえ冷や汗をかくレベルです。
ただ、実物が目に映らなければ比較的大丈夫ですので、虫が登場する小説は何冊か読みました。世界的に有名なフランツ・カフカの『変身』、その『変身』をどことなく連想させる黒澤いづみさんの『人間に向いてない』、生理的な気色悪さが読者を襲う貴志祐介さんの『天使の囀り』などは、初読みの時のインパクトを今でもはっきり覚えています。これらはすべて、物理的に虫が存在する作品ですので、今回は嫌悪感やおぞましさの象徴として虫が出てくる作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さんの『水銀虫』です。
こんな人におすすめ
後味の悪い短編ホラー小説が読みたい人
続きを読む
ホラー作品の定番恐怖スポット、それはズバリ<家>です。家で死んだ人間がそのまま幽霊となって化けて出る、というのが最多でしょうが、違う場所で死んだ人間が何らかの理由で家にとり憑くというパターンも結構あります。<家>は人間の生活の基盤であり、良くも悪くも強い思いを抱きやすいからでしょうか。
幽霊屋敷小説と言われて思いつくものを挙げると、海外ならスティーブン・キングの『シャイニング』にヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』、日本なら三津田信三さんの『忌館 ホラー作家の棲む家』やブログで過去に紹介した小池真理子さんの『墓地を見下ろす家』、恩田陸さんの『私の家では何も起こらない』etcetc。じめ~っとした陰気な怪奇小説から、怪異が物理的な攻撃を仕掛けて来るパニックホラーまで、その範囲は多岐に渡ります。では、今回ご紹介する幽霊屋敷小説はどうでしょうか。明野照葉さんの『棲家』です。
こんな人におすすめ
家にまつわるホラー小説が読みたい人
続きを読む