はいくる

「怪奇博物館」 赤川次郎

私は自他共に認めるホラー作品大好き人間ですが、そんな私をしても、ホラーというジャンルは人を選ぶと思います。<horror(恐怖)>という言葉が示す通り、恐怖現象を見聞きして楽しむことが目的なわけですが、「怖い思いをして楽しむなんてできっこないじゃん」という人は大勢いるでしょう。ジャンルの性質上、時に血飛沫が飛び内臓がまき散らされる・・・なんていう状況になり得ることも、人を選ぶ原因の一つかもしれません。

ですが、だからといってホラー作品すべてを忌避するのは早計というもの。櫛木理宇さんの『ホーンテッド・キャンパスシリーズ』や瀬川ことびさんの『お葬式』のように、どことなくユーモアがある上に読後感も悪くないホラー小説はたくさんあります。今回取り上げるのも、そんな軽妙なホラー小説です。赤川次郎さん『怪奇博物館』です。

 

こんな人におすすめ

ライトで読みやすいホラー短編集が読みたい人

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真夜中に女性を襲う狼男の正体、平和な家族が別荘で味わう恐怖の真相、美しい令嬢に贈られたプレゼントの秘密、隣人の荷物を預かったことで巻き起こる謎の数々、娘を亡くした夫婦のもとに現れた女性の謎、避暑地を訪れた大学生たちが味わう戦慄の出来事、恋人達の人気スポットで続く死の連鎖・・・・・ユーモアミステリーの名手が描く、愛すべきホラー短編集

 

赤川次郎さんは『白い雨』『黒い森の記憶』などのように、どんより陰鬱なホラーもたくさん書かれていますが、本作の雰囲気はいい意味でライトでポップ。ホラーらしく、謎が完全には解き明かされていないエピソードもありますが、全体的に後味はいいです。ホラー一辺倒ではなく、ミステリー寄りの話も収録されているところも嬉しいですね。

 

『狼男 町を行く』・・・深夜、何者かに襲われている女性を助けた男。闇夜に垣間見えた犯人の顔は、狼男そのものだった!この出来事を経て恋人同士となった二人だが、その後、周辺では獣の仕業のような殺人事件が起こり・・・

研究者の宮島令子&その助手兼年下の恋人の佐々木哲平コンビが怪奇事件を解決するシリーズ第一話。以下、三話・五話・七話がシリーズ作品となっています。このシリーズは、始まりこそホラーなものの、ラストはしっかり現実的な謎解きがなされるので、ミステリーとしても楽しめますよ。行動力あるしっかり者の女性&少々頼りないが彼女に惚れ込んでいる子犬系男子のやり取りも面白く、狼男の正体が判明するラストまで一気読みできました。

 

「吸血鬼の静かな眠り」・・・家族と共に貸別荘を訪れた女子中学生。彼女と弟は、別荘の地下に棺桶らしき物が並んでいるのを見つける。その時、どこからか聞こえた不気味な声。棺桶の中身は空だったものの、家族の様子が徐々におかしくなり始め・・・・・

満場一致で収録作品中トップの恐怖度を誇るエピソードでしょう。タイトルこそ<吸血鬼>となっているものの、実際に吸血鬼が出てくる描写はなく、怪異の正体は謎のまま。未熟な中学生目線というせいもあるでしょうが、訳も分からぬままじわじわと正気を失っていく家族の姿が恐ろしすぎました。よくよく考えてみると何一つ解決していないラストの雰囲気も超好みです。

 

「呪いは本日のみ有効」・・・美貌の名家令嬢のもとに送られて来た、差出人不明のプレゼント。それはなんと、呪いの藁人形だった。令嬢本人は面白がるが、周囲の人間にとってはただただ不気味。不安を感じた使用人は、伝手を使って宮島令子に相談を持ち掛けるのだが・・・・・

呪いのアイテムが登場するホラー作品はたくさんありますが、このエピソードに出てくるのは古典的な藁人形。そのどことなくとぼけた様子と、人間の悪意の嫌らしさの対比が印象的でした。メインキャラである美人お嬢様の<何不自由なく育ったため奔放で鈍感だが、気前は良い>という造形もリアリティありますね。持たざる者にとっては、持つ者の鷹揚さや素直さが癇に障るんだよなぁ。

 

「受取人、不在につき・・・」・・・主婦が預かった、不在中の近隣住民・水原宛の荷物。それは、目を見張るほど大きな箱だった。予想に反して水原はいつまで経っても帰ってこない上、周辺では奇妙な事件が起こり始め・・・・・

第二話が古典的な正統派ホラーなら、このエピソードはモダンな不条理ホラーといったところでしょうか。箱の中身や水原の正体など、不明な部分を数多く残しつつ、不気味な余韻漂うオチに繋がる構成です。ただ、最近では宅配業者から「お隣りが不在なので荷物を預かってください」と頼まれることって滅多にないと思うので、感情移入の度合が多少下がるかもしれません。

 

「帰って来た娘」・・・一人娘を轢き逃げで亡くし、犯人は捕まらず、失意の日々を送る夫婦。そんなある日、見たこともない少女が「ただいま」と言って帰って来る。少女は娘の名前を名乗り、生活習慣も趣味嗜好も娘そのもの。きっと娘の生まれ変わりだと喜ぶ母親に対し、納得できない父親は宮島令子のもとを訪れて・・・・・

ミステリーとしての完成度はこのエピソードが一番高いと思います。読者にとってフェアな形で手がかりが示されていますし、謎解きに至る過程もとても明瞭。ティーンエイジャーの轢き逃げ死という惨い出来事は起こるものの、ラストに希望があって安心しました。序盤、姿形はまるで違う<娘>と対面した母親が、その若々しい眼差しや体臭から「娘が帰ってきたんだ」と信じる場面は、なんだか切なかったです。

 

「避暑地の出来事」・・・夏休みを利用し、避暑地に遊びに来た大学生五人。楽しいバカンスになるかと思われたが、次第に不審な出来事が起こるようになり。夜中に邸内に響く謎の声、正体不明の不気味な人影、グループ内で響き始める不協和音。翻弄される五人が知った、過去の悲劇の真相とは果たして・・・・・

田舎で起こるひと夏の恐怖体験という、そのままホラー映画かドラマになりそうなエピソード。<冷静な主人公><能天気カップル><無骨な力仕事担当><家庭的な控え目少女>というキャラクターも、アメリカのホラー映画さながらで画面映えしそうですね。私自身はこういうキャンプや夏合宿に縁のない大学生活だったので、ちょっとこのシチュエーションに憧れちゃいます。

 

「恋人たちの森」・・・宮島令子に姪からもたらされた依頼。それは、彼氏の死の真相を暴いてほしいというものだった。彼氏は、デートスポットとして有名な公園で姪と過ごした後、園内で突然首を吊ったのだという。おまけにその場所で首吊り自殺を図ったのは彼だけではないらしく・・・・・

ついさっきまでイチャついていた彼氏が姿を消したと思ったら、そこの木で首を吊ってぶらぶら揺れていた・・・想像しただけで背筋が寒くなる光景ですね。姪はさぞかしショックを受けたでしょうが、頼もしい叔母もいることだし、一日も早く元気になってほしいものです。ただ、第四話同様、今時わざわざ公園の陰でコトに及ぶカップルって少ないと思うので、この状況を想像できるか否かで評価が変わってきそうです。

 

とにかく読みやすい上、スプラッタ描写もないので、ホラー初挑戦にぴったりだと思います。あと、個人的に推しなのは令子&哲平カップル。赤川ワールドには、<頼りない中年男性&行動力ある若い女性>という組み合わせは多いのですが、<しっかり者の姉さん女房&その後を追う一途な若者>は少ない気がするので、いずれどこかで再登場してくれればなと思います。

 

救いのあるオチばかりなのでご安心を度★★★★☆

ホラーとミステリーのバランスがナイス!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     本当にホーンテッド・キャンパスのような作風で大変面白そうです。
     ホラーの中にユーモアがあるのは昔の土曜ワイド劇場を思い出します。
     実際、赤川次郎さん原作の作品もあったと思うので大変読みやすく懐かしささえありそうです。ホーンテッド・キャンパスの新作や櫛木理宇さんの新作でますますホラーとの組み合わせに磨きがかかったように感じます。
     この作品も読みたいです。
     「狼男、町を行く」「呪いは本日のみ有効」が特に楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      赤川次郎さんの作品は登場人物がしっかりキャラ立ちしているし、視覚的に派手な展開も多いので、
      映像化しやすいみたいですね。
      ホラー風のオチの話とミステリー風のオチの話、両方あってお得感満載でした。

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