「人は中身が大事」「外見より心の美しさの方が価値がある」誰しも一度は聞いたことのあるフレーズだと思います。そうであってほしいと心底思うものの、悲しいかな、人の立ち位置を決める上で、容姿が重要なファクターとなることは事実。美しい人間が尊ばれ、そうでない人間が蔑まれる場面は、日常の至る所に溢れています。
美醜をテーマにした作品といえば、漫画なら岡崎京子さんの『ヘルタースケルター』や楳図かずおさんの『洗礼』、小説なら百田尚樹さんの『モンスター』、ブログでも紹介した唯川恵さんの『テティスの逆鱗』などがあります。これらの作品の共通点は、美に取りつかれた人間は時として化物じみてくるということ。美しさを求めるあまり人間離れしてしまうなんて、なんとも皮肉な話ですよね。今回取り上げる小説にも、美という呪いにかかった人間たちが登場します。澤村伊智さんの『うるはしみにくし あなたのともだち』です。
こんな人におすすめ
スクールカーストが出てくるホラーミステリーが読みたい人
ある日、一人の女子高生が自ら命を絶った。美貌と才気でスクールカーストの頂点に立っていた彼女がなぜ?程なくして、カースト二位に位置していた女生徒の顔が、衆人環視の中で突如変形、吹き出物と血膿にまみれるという惨事が起こる。相次ぐ美少女の悲劇は、学校に伝わる呪い<ユアフレンド>のせいなのか。犠牲となった少女達の担任である舞香は、生徒と共に調査を開始。だが、呪いの手はすでに三人目を捕らえていた---――
『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』で土着ホラーから少し離れた澤村伊智さんが今回テーマにするのは、美醜に翻弄される人間達を描いたホラーミステリーです。お得意の<犯罪者じゃないけど感じ悪い一般人>描写もふんだんに盛り込まれていて、鬱々とした気分になること必至(褒めてます)。終盤前に犯人が分かり、まだ残りページ数多いけど?と思わせてからの一捻りもお見事で、ホラーとしてもミステリーとしても楽しめました。
主人公の高校教師・舞香が担任を務めるクラスで自殺者が出ます。死んだ女生徒・羽村更紗は容姿端麗で成績優秀、クラスの女王様的存在であり、自殺する理由は不明。間もなく、更紗に注ぐ美少女として評判だった野島夕菜の顔が、教室内で急に腫れあがり、血と膿にまみれたニキビに覆われるという騒動が起きます。ここで生徒達は、学校に伝わる<ユアフレンド>という呪いの噂を思い出します。数十年前、投身自殺を遂げた醜い女生徒。以来、数年に一度、彼女の霊に選ばれた女生徒は、美人を醜く変貌させられる<ユアフレンド>の呪いを教えてもらえるというのです。不可解な更紗の自殺も、この呪いで醜くなってしまったせいなのではないか。舞香はただの噂だと考えますが、学校では過去にも<ユアフレンド>絡みと思われる不可解な自殺や事故が起きていました。舞香は、死んだ更紗を崇拝していた真実、事故の後遺症で顔に酷い怪我を負った桂らと共に、誰が更紗や夕菜を呪ったのか突き止めようとするのですが・・・・・
と、こんなあらすじを読むと、「実行犯を見つけ、最終的に呪いの真実を暴いて怨霊を成仏させるって話かな」と予想する読者が多いかと思います。かくいう私もそうでしたが、ここは魑魅魍魎が跋扈する澤村伊智ワールド。呪いは呪いとしてちゃんと存在し、発端である女生徒についても「そんな怨霊がいるんだね」と普通に受容。最終的に実行犯は分かっても呪い自体は今後も在り続けるという展開がユニークでした。こういう怪異に対する間口の広さが、澤村伊智さんの作品の持ち味だと思います。
それにしてもまあ、美醜に左右される人間たちの愚かで卑しいことといったら!美しい更紗や夕菜をちやほやする一方、真実や桂のような女生徒をあからさまに侮辱し、<イジリ>と称して貶める。かと思えば、あれほど持てはやした更紗達の顔が崩壊したと知るや否や、格付表を作って笑いのネタにする男子生徒達。一億歩譲って、未熟な少年の行為ならまだしも、そこに男性教師も参加するなど・・・(怒)私はお世辞にも美人と呼べる容姿ではなく、ルックスでは不愉快な思いをすることの方が多かったので、カースト下位の少女達が傷つけられる描写は苦しくて仕方なかったです。大柄で太った希美が、教室内での立場を確保するため進んで<笑われ役>を演じ、周りから「あいつは逞しいから何言っても大丈夫」と言われる場面なんて特に・・・大丈夫と言った奴には、今後歩くたびに足の小指をタンスにぶつけ続ける呪いをかけてやります。
でも、それ以上にやりきれなかったのは、あちこちで描かれる容姿への侮辱が、必ずしも侮辱の意図ではないということ。本作には、教師の舞香をはじめ、肉親からブスだ不細工だと言われ続けて育った人間が複数登場します。これが虐待というなら話は単純なのですが、作中の描写からして恐らく、親側に我が子を苦しめ傷つけるつもりなど少しもありません。むしろ「ブスなんだから愛嬌を振りまくことを覚えさせないと」「自分の醜さを自覚させ、強く生きていけるよう導くのが思いやり」と心底信じています。もしも親の方が、「可愛いね。大好きだよ」と言ってやれていたら。たぶん、本作の悲劇は起こらなかったのだろうなと思わせられ、余計にどんよりした気分になりました。
ちなみに本作で呪いのターゲット、ひいては物語の中心となるのは女性陣です。男性キャラ達は、対岸の火事と言わんばかりに呪い騒動を面白がるばかりで、問題解決能力はほぼゼロ。唯一、舞香の同僚教師・足立は善人っぽいけど、それでも美醜問題の根本的なところは理解できていません。それはそれでリアルなのかもしれませんが、容姿に生活が左右されるのは何も女性ばかりではありませんよね。そういえば作中に特に記述はなかったけど、<ユアフレンド>の呪いって男性にも効くのかしら。幸か不幸か(?)、呪いそのものは浄化されることなく終わったので、もし続編があるなら、今度は男性達も巻き込んだ物語にしてほしいです。
心の傷をえぐられる描写が目白押し度★★★★★
最近は呪いもハイテクだなぁ度★★★★☆
スクールカーストの頂点の女生徒が自ら命を絶った~頂点を目指して争いが起こると思ったらナンバー2も悲劇に見舞われる。犯人は科学的な手法を使っていない。
ありがちな展開と設定ですが、惹き込まれそうです。
「モンスター」「テティスの逆鱗」のような美に執拗に拘り過ぎる衝撃的な作品を思い出しました。
この作家さんがあまり読まないですが読みたくなりました。
緊急事態宣言で図書館が休館にならないうちに何冊か借りておこうと思います。
澤村伊智さんの場合、テーマ・舞台は王道をいくジャパニーズホラーなんですが、怪異の描写力が凄まじいんですよ。
本作でも、衆人環視の中、女性キャラの顔面が変貌していく場面は寒気を覚えるほど不気味でした。
心霊現象だけでなく、生きた人間の残酷さもしっかり描かれていて、最後まで飽きさせません。
また図書館が休館になりそうですね・・・
最初の緊急事態宣言では、うっかり休館情報を見逃したせいで本を全然借りておらず、精神的に辛かったです。
今度は気を付けなきゃ!
かなり衝撃的なスクールホラーミステリーでした。
「テティスの逆鱗」「モンスター」とは別の意味での美醜に対する怨念の深さを感じました。
スクールカーストは思ったほど露骨ではなく元をただせば家族の態度が元凶で呪い以上に人間の残酷さ、娘を平気でののしる両親の態度が酷かったです。
中途半端な慰めや空気を読まない気休めもどうかと思いますが、あの態度はないだろうと言いたくなりました。
これこそが人間の本質?と思うと寒気がしました。
仰る通り、親の態度が酷過ぎますよね。
あんな扱いをしておきながら、子どもが悲劇に遭うと泣きわめく・・・親側にとって容姿への罵りは「我が子への思いやり」
というところにゾッとさせられました。