はいくる

「アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿」 澤村伊智

ミステリーやホラーのように<真相究明><問題解決>に重きが置かれる作品の場合、「なぜ主人公は必死に事件に取り組むのか」という動機付けが重要となります。ここをすんなりクリアするための方法の一つは、主人公の職業をマスコミ関係者にすること。何しろ調査・取材することが仕事ですし、犯罪性が高くないと捜査できない警察と違い、まだ物理的な被害が出ていない(判明していない)事件や、何十年も前に起きた未解決事件に対してでも動けます。

マスコミ関係者が登場する小説といえば、ぱっと思いつくのは鈴木光司さんの『リング』。雑誌記者である主人公は、その調査能力を使い、呪いのビデオの謎を解こうとします。また、最近映画化もされた塩田武士さんの『罪の声』には、三十一年前に起きた未解決事件の真相に迫る新聞記者が出てきます。上記二作品に比べるとノリはやや軽めながら、この小説の主人公もけっこう大変な目に遭っていました。澤村伊智さん『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』です。

 

こんな人におすすめ

街の怪奇事件がテーマの短編集が読みたい人

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小さなウェブマガジン<アウターQ>でライターとして働く主人公・湾沢陸男。この世界でまだ新入りのはずだが、なぜか取材に出向いた先で必ず奇怪な出来事と遭遇する。かつて子ども達を震撼させた公園の落書き、フードライターとしての復活を目指す女性が取材した店の秘密、過去を乗り越えたアイドルを襲う恐怖の行方、悲劇の舞台となった地で囁かれる噂の真相、夢に現れる女性に恋した男の運命、不思議な彫刻を家中に飾る男の謎・・・・・果たして貴方は過ちを犯さないと言い切れるだろうか。都会に巣食う罠と悪意を描いたホラーミステリー短編集

 

『比嘉姉妹シリーズ』を筆頭に、どろどろした土着系ホラーがお得意な澤村伊智さんですが、本作は少しテイストが変わり、都市伝説めいた話が中心のホラーミステリーです。怪異と戦える凄腕霊能力者など登場しませんし、主人公の湾沢にしたって「会社が倒産してなりゆきでライターになったから、とりあえず頑張ろう」という現代人らしいノリ。歴代の澤村ワールド主人公達のような、命がかかった悲壮感は欠片もありません。その分、湾沢が直面している状況が想像しやすいですし、ホラーオチの話とミステリーオチの話、両方あってお得感満載でした。澤村伊智さんらしい、<解決したと見せかけてラストで突き落とす>という流れも嬉しいですね。

 

「笑う露死獣」・・・湾沢が取材対象として選んだのは、自身が小学生時代、公園で見かけた落書きの謎。それは一見無意味な漢字の羅列なのだが、改めて調べてみると、実は暗号となっていることが分かる。さらに、調査の過程で、かつてその公園でよく遊んだ幼馴染の一人が自殺していることが分かり・・・・・

あ、後味悪っ・・・・!!!読み始める前、『比嘉姉妹シリーズ』のようなホラーを想像していた私は、あまりに現実的かつ生々しい真相に衝撃を受けました。序盤の暗号解読が少年探偵団っぽいノリでワクワクする分、オチの救いのなさが際立ちます。予想外の形で真実を知らされてしまった<あの人>は、これから大丈夫なのかしら・・・

 

「歌うハンバーガー」・・・フードライターをしていた雫は、仕事の躓きで摂食障害となり、業界から遠ざかる。時を経てようやく回復した彼女にもたらされた<アウターQ>からの原稿依頼。復帰を目指す雫は、手始めにとあるハンバーガーショップに入り・・・

冒頭、わずか一ページほどで語られるフードライターの仕事が超過酷・・・分かっていたけど、テレビとかで映るのは、ほんの一部のきらきらした部分だけなんだろうな(汗)復帰を目指す雫があんまり酷い目に遭わないといいなと思いましたが、この展開は予想外でした。少し寂しくはありますが、極端に非常識な人物が出てこないせいか、読後感は悪くなかったです。

 

「飛ぶストーカーと叫ぶアイドル」・・・知人の頼みにより、ライブのアシスタントをすることになった湾沢。ライブの主役は、二年前にストーカーに襲撃されて怪我を負い、やっと復帰することになったアイドルの亞叉梨だ。今なおストーカーは逃亡中であり、亜叉梨の精神状態は不安定。そんな中で開催されたライブだが、なんとステージにくだんのストーカーが乱入するという騒ぎが起きてしまい・・・

こういうアイドル襲撃事件は現実にも起きました。トラウマを負い、心身共に苦しみ続ける亞叉梨の姿はただただ悲痛・・・そんな中での清涼剤は、ライブアイドルの練馬ねりの存在です。呑兵衛で、酒を飲みながら舞台で料理するという不思議なパフォーマンスが売りですが、鋭い観察眼と推理力の持ち主。このエピソード以降にも登場し、湾沢の頼れる助っ人になってくれます。亞叉梨がいつか本当に立ち直れる日が来るといいなぁ。

 

「目覚める死者たち」・・・<怪談王子>という二つ名を持つ南田が書き込んだ投稿記事。それは、十四年前の花火大会で起きた悲惨な事故にまつわるものだった。事故現場では、亡くなった犠牲者のうめき声が聞こえたり、不気味な影が見えたりするという。実は湾沢は、その事故に巻き込まれて生還した過去を持っていて・・・

恐らく第三話同様、モチーフとなっているのは現実に起きた悲劇的な群衆事故でしょう。自身もそこに巻き込まれた経験から、湾沢は南田の投稿を無視できません。調査の結果、浮かび上がったのはうんざりするほど生臭い人間のエゴ。ああ、これは「生きた人間が一番怖い」という話なのね・・・と思わせてから、最後の最後で正統派ジャパニーズホラーに様変わりしました。とはいえ、これは自業自得ですよね。

 

「見つめるユリエさん」・・・湾沢の先輩・井出は、大学時代の友人から奇妙な相談を持ち掛けられる。曰く、繰り返し見る夢に出て来る女性に心奪われてしまった。ただの夢かと思っていたが、その女性が描かれた絵を実家で発見。ということは、モデルとなった女性も実在するかもしれないので、探したいという。早速<アウターQ>の面々は調査を開始するが・・・

この手のホラーミステリーで、夢にまつわるエピソードが出てきたら、禍々しい展開になるというのがお約束(じゃありません?)。<夢>という、ありふれていながら極めて不安定であやふやな現象がそうさせるのでしょうか。それはこのエピソードも同様。<絵のモデルとなった女性を探す>という目的自体はいたって現実的に解決し、ハッピーエンドとも思える結末を迎えます。それが暗転するのは、ラストで語られる依頼主の述懐。この後、とんでもない悲劇が起きそうな気がするんですが・・・だ、大丈夫?

 

「映える天国屋敷」・・・テレビ出演を機に一気に有名となり、多忙な日々を送る湾沢。そんな彼の次なる取材対象は、都内にある一軒の住宅だ。家主の羽山は、自作の奇妙なオブジェを家中に飾り、町のちょっとした名物になっている。取材によると、近隣住民からの羽山の人物評は「優しそうでにこやかな人」「威圧的で怖い人」に二分されていて・・・

こういう<奇妙な屋敷の住人>というのは、しばしば奇天烈で取っつきにくい人物として描かれがちです。ですが、このエピソードの羽山氏は、少し変わってはいるものの穏やかな好人物。湾沢の記事で多くの人が家を見に来ても、嫌な顔一つせず歓待します。そんなほのぼのムードが一転、最後であんな展開になるなんて・・・次のエピソード「涙する地獄屋敷」に続きます。

 

「涙する地獄屋敷」・・・羽山邸が崩落した。湾沢の記事で多くの見物客が押しかけた結果、バルコニーが崩れたのだ。重軽傷者が多く出る大事故であり、安全性を確かめず記事にした湾沢は批判の的となる。打ちのめされる湾沢だが、ある時、崩壊したバルコニーの土台に何者かが細工した形跡があると分かり・・・・・

第一話からなんとなく引っかかっていた違和感、第四話の群衆事故、そして六話の崩落事故のすべてが、ここに収束します。妙に読み辛いなと思っていたけど、まさかこんな真相だったなんて。悪意は一つもないのに、他人の人生を破壊してしまうことがあるなんて。願わくば、湾沢とあの人がもう一度向き合える日が来るといいんですが・・・・・

 

澤村伊智さんらしい後味悪さはあるものの、まったく救いがないわけではありません。<怪異との手に汗握るバトル>とか<語り継がれる怨念の伝承>とかいった要素もないため、誰でもするりと読める作品だと思います。この終わり方からすると、今後続編もあり得るのかな。それなら、練馬ねりちゃんは絶対出してほしいです。

 

伝えることは、罪にもなり得る度★★★★★

軽いノリで物足りない度☆☆☆☆☆

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