ホラー

はいくる

「どこの家にも怖いものはいる」 三津田信三

古今東西の様々な小説を読んでいると、作者と同名の登場人物が出てくる小説にしばしば出くわします。実在する人物の名前が登場すると、物語のリアリティや臨場感が一層高まるもの。また、作者もキャラクターが自分と同名だと、感情移入の度合がより強まるのではないでしょうか。

作者と同じ名前の登場人物が活躍する小説は国内外問わずたくさんありますが、和書だと有栖川有栖さんの『アリスシリーズ』、坂木司さんの『ひきこもり探偵シリーズ』、道尾秀介さんの『真備シリーズ』などが面白かったです。書き手の気合の入り様もあるからか、人気を集めてシリーズ化された作品も多いですね。今回ご紹介するのも、そういったシリーズ作品の一つです。三津田信三さん『どこの家にも怖いものはいる』です。

 

こんな人におすすめ

・幽霊屋敷を扱ったホラー短編集が読みたい人

・実話風ホラーが好きな人

続きを読む

はいくる

「人影花」 今邑彩

小説の好き嫌いを判断する一番大事な要素は、当然<内容>だと思います。どんなに装丁やタイトルが秀逸でも、内容がつまらなければ何の意味もありません。それほど大事な内容と比べると、重要度という意味では劣るかもしれないけれど、ビビッと好みにマッチすると嬉しいもの、それが<イラスト>です。

私には、「この人がイラストを担当していたら、とりあえずあらすじをチェックする」というイラストレーターさんが何人かいます。その中の一人が北見隆さん。別にグロテスクでも何でもないにも関わらず、どこか不気味さを感じさせる画風が大好きなんですよ。思い込みかもしれませんが、この方が装画や装丁を担当している小説も私好みのものばかり。恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』、岸田るり子さんの『密室の鎮魂歌』、西澤保彦さんの『夢は枯れ野をかけめぐる』等々、どれも面白かったです。今回取り上げるのは、今邑彩さん『人影花』。ゾッとさせられる作風と、北見さんのイラストの雰囲気がぴったり合っていました。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いたホラーミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「逢魔」 唯川恵

本は好きだから国語も好き。でも古典は苦手・・・という人って多いのではないでしょうか。かくいう私もそうでした。何と言っても文体が違いますし、<音きこゆ>だの<さう思へ>だのといった文章を訳するだけで一苦労。学生時代の古典の先生が結構怖かったこともあり、作品を楽しむより授業を無事終えられるかどうかばかり気にしていました。

それが変わったのは、大和和紀さんの『あさきゆめみし』を読んだことがきっかけです。概ね原作の『源氏物語』に忠実ながら、現代でも分かりやすいオリジナルの描写やエピソードが挟まれていたことで、物語の世界観をすんなり受け入れることができました。この頃から段々と「古典も面白いじゃん!」と思い始めましたし、古典を下敷きにした創作物への興味も生まれました。今回ご紹介するのも、古典をモチーフにした小説です。唯川恵さん『逢魔』です。

 

こんな人におすすめ

・男女の愛憎をテーマにしたホラーが好きな人

・古典をアレンジした小説に興味がある人

続きを読む

はいくる

「ファミリーランド」 澤村伊智

SF小説の舞台になりやすい設定として、<違う惑星><異次元>と並んで多いのが<未来社会>です。私個人としては、今からほんの少し先の時代を描いた近未来小説が好きだったりします。何百年、何千年も未来の話だとファンタジーとしか思えませんが、何十年レベルの未来なら「こういうこともありそうだな」と感情移入しやすいです。

<状況がリアルに想像できる>という性質からか、近未来を舞台にした小説は、闇を感じさせたり希望がなかったりするケースが多い気がします。恩田陸さんの『ロミオとロミオは永遠に』や中村文則さんの『R帝国』などでは、時代が進んだが故の狂気や絶望が描かれました。今回取り上げるのは、澤村伊智さん『ファミリーランド』。少し文明が進んだ時代の恐怖が楽しめます。

 

こんな人におすすめ

・近未来を舞台にした小説が読みたい人

・嫁姑や介護など、家族の問題をテーマにしたホラーに興味がある人

続きを読む

はいくる

「猫と魚、あたしと恋」 柴田よしき

「最近疲れて病んでるんだよね」「あの人、ヤバいよ。壊れてるって」そんな会話を交わしたことがある人も多いのではないでしょうか。<病む>とか<壊れる>とかいう言い方は、気軽に使われることがけっこうあります。私自身、簡単に「めっちゃ病み気味なんだ」とか言っちゃう方かもしれません。

ですが、本当に<病んで><壊れた>人間がいた場合、この言葉はとても重くなります。それは、スティーブヴン・キングの『ミザリー』や五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めばよく分かりますね。この短編集にも、それぞれの理由で壊れてしまった女性たちが登場します。柴田よしきさん『猫と魚、あたしと恋』です。

 

こんな人におすすめ

女性中心の心理サスペンス小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「あなたの本」 誉田哲也

昔、私は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)が好きで、手持無沙汰な時間にちょこちょこ覗いていました。以前と比べると頻度が落ちましたが、唯一、<後味の悪い話>というスレッドのみ、今も定期的に進行をチェックしています。タイトルが示す通り、自分の知っている後味の悪い話を投稿するスレッドで、実体験・小説・映画・アニメなどジャンルは不問。イヤミス好きな私の心をくすぐる投稿も多く、ここでこれから読む本を見つけることもありました。

このスレッドを見ていてつくづく思うのは、「後味の悪い話を簡潔かつ面白くまとめるのって難しいな」ということです。もちろん、どんな話だって難しいんでしょうが、後味の悪い話の場合、内容が重苦しい分、だらだら文章を書き連ねると<読みにくい><中身が暗い>のダブルパンチでウンザリ度合も上がるというか・・・真梨幸子さんや櫛木理宇さんのようなどんより暗い長編イヤミス作品も大好きですが、コンパクトで切れ味鋭い短編イヤミスを見つけた時は嬉しさもひとしおです。今回は、そんな短くも後味悪い小説を集めた短編集を取り上げたいと思います。誉田哲也さん『あなたの本』です。

 

こんな人におすすめ

『世にも奇妙な物語』のような短編小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「幻坂」 有栖川有栖

私の昔の職場は、大阪の会社と合併したせいもあって大阪出身の社員が多く、大阪への出張も頻繁にありました。職種がサービス業だったことも関係しているでしょうが、大阪という町やその出身者には、明るく賑やかなイメージがあります。実際、大阪を舞台にした小説も、伊集院静さんの『琥珀の夢』や万城目学さんの『プリンセス・トヨトミ』など、スケールが大きい陽性の作品が多い気がします。同じ関西でも、京都を舞台にした作品がしっとりした雰囲気になりがちなのと対照的と言えるでしょう。

とはいえ、当たり前の話ですが、人が生活する場である以上、いつもいつも明るくパワフルでいられるわけがありません。活気溢れる大阪という町にも、しんみりした部分や切ない部分がたくさんあります。今日ご紹介するのは、有栖川有栖さん『幻坂』。しっとりと胸に染み入るホラーファンタジーでした。

 

こんな人におすすめ

大阪を舞台にしたホラー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「強欲な羊」 美輪和音

ふと、お気に入りの作家さんたちを思い浮かべてみて、あることに気付きました。「私が好きな作家さんって、小説家と脚本家を兼業していることが多いな」と。たとえばドラマ『放送禁止シリーズ』『富豪刑事』の脚本家であり、『東京二十三区女』『出版禁止』の作者でもある長江俊和さん。あるいは、『相棒シリーズ』で脚本を担当し、『幻夏』を書いた太田愛さん。もともと脚本家は小説家と兼ねることが多い職業ですが、映像作品を担当したことのある作家さんは、視覚的に映える描写力を持っている気がします。

そんな小説家兼脚本家業を続ける作家さんの中で、私の一押しは美輪和音さん。映画『着信アリ』の脚本家であり、『ハナカマキリの祈り』や当ブログでも紹介した『ウェンディのあやまち』等、切れ味鋭いサスペンス小説を世に送り出しています。今日は、そんな美輪さんの小説家デビュー作『強欲な羊』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

人の狂気をテーマにしたサイコミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「びっくり館の殺人」 綾辻行人

ミステリーでおなじみのシチュエーションを挙げよと言われたら、一体どんな答えが出て来るでしょうか。私なら、<恐ろしい伝説が伝わる屋敷><とても日本とは思えないような洋館><迷路のように広い古城>辺りを思い浮かべます。俗に<館もの>と呼ばれるミステリーによく登場するシチュエーションですね。

脱出困難な館に集められ、次第に疑心暗鬼に囚われて行く登場人物たち・・・アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を筆頭に、今邑彩さん『金雀枝荘の殺人』、近藤史恵さん『演じられた白い夜』、東野圭吾さん『仮面山荘殺人事件』など、多くのミステリー小説でこの設定が使われてきました。そして、国内の<館もの>を語る上で忘れちゃいけないのが綾辻行人さんの『館シリーズ』。新本格ブームの火付け役となったシリーズで、一九八七年に第一作『十角館の殺人』が刊行されて以降、今なお根強く支持され続けています。この『十角館の殺人』は超有名作品なので、今回はシリーズの中でも毛色の違う作品を紹介したいと思います。講談社ミステリーランドの一冊、『びっくり館の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

子ども目線のホラーミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「首無の如き祟るもの」 三津田信三

古今東西、創作の世界には様々なシリーズ物が存在します。中には作者が死去した後、弟子やプロダクション関係者が続編を作り続けている作品もあり、何十年もの長期シリーズと化すことも珍しくありません。この手のシリーズ物の魅力の一つは、「最後には水〇黄門が現れて悪党を成敗してくれるんだろうな」「十津〇警部が出てくるなら時刻表トリックが使われているのかな」等々、安定した世界観を楽しめる点でしょう。

ですが、長期シリーズ化した作品の中には、これまでのお約束から外れた<異色作>が登場することがしばしばあります。例を挙げるなら、例えばアガサ・クリスティーの『ビッグ4』。『名探偵ポワロシリーズ』の中の一作なのですが、ここでポワロが対峙するのは国際的な悪の組織です。秘密諜報員が出るわ立ち回りはあるわで、<ポワロ=上流階級を舞台にした犯罪者との頭脳戦>をイメージしていた私はかなりびっくりしました。今回は、そんなシリーズ物の中の異色作をご紹介したいと思います。三津田信三さん『首無の如き祟るもの』です。

 

こんな人におすすめ

おどろおどろしいホラーミステリーが読みたい人

続きを読む