ホラー

はいくる

「魔女たちのたそがれ」 赤川次郎

<魔女>と聞くと、どういう存在を連想するでしょうか。恐らく、黒い服を着てホウキにまたがった女性を思い浮かべる人が多いと思います。実はこれは日本的な発想であり、発生の地であるヨーロッパではもっと多種多様な意味を持つ存在であるとのこと。男性だっているし、年齢も年寄りから少年少女まで様々です。数多くの学説があるようですが、まとめると<人知を超えた力で災いを為す存在>ということでしょう。

ここ最近はJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』をはじめ、勇敢な若者が魔法を使って悪を倒す物語が主流な気がします。もちろん、それはそれで面白いのですが、語源を考えると、妖しく不気味な存在の方が正統派<魔女>のはず。というわけで、今回はこの小説を取り上げたいと思います。赤川次郎さん『魔女たちのたそがれ』です。

 

こんな人におすすめ

閉鎖的な村を舞台にしたホラーサスペンスが読みたい人

続きを読む

はいくる

「こうして誰もいなくなった」 有栖川有栖

一口でミステリーと言ってもそこには様々なジャンルがあり、人それぞれ好みが分かれます。刑事が地道な捜査で真相を暴くモダンなものが好きな人がいれば、時刻表トリックが駆使されたトラベルミステリーが好みだという人、殺人鬼が暴れ回るホラー寄りの作品に目がないという人もいるでしょう。私はといえば基本的にどんなジャンルも好きなのですが、一番心惹かれるのは吹雪の山荘や絶海の孤島を舞台にしたクローズド・サークル作品です。

この手のジャンルで最も有名なのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』ではないでしょうか。陸地から遠く離れた孤島、どことなく不気味な童謡、その歌詞通りに殺されていく招待客たち・・・この設定を見ただけでワクワクしてきます。超有名小説なので影響を受けた作品もたくさんあるのですが、今回はその中の一つを取り上げたいと思います。有栖川有栖さん『こうして誰もいなくなった』です。

 

こんな人におすすめ

ホラー、ミステリー、ファンタジーなど、バラエティ豊かな短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「鬼の跫音」 道尾秀介

<鬼>という言葉を聞くと、頭に角を生やし、口から牙がむき出しになった猛々しい姿を想像する人が多いと思います。意外かもしれませんが<鬼>の語源は<隠(おぬ)>が転じたものであり、本来は<姿が見えないもの>という意味なんだとか。能楽で鬼が<人が孤独や憎悪などから怨霊と化したもの>として描かれるのは、案外、この辺りに理由があるのかもしれません。

現代を生きる身としては、角を生やして棍棒を振り回す鬼よりも、何らかの理由で鬼になってしまった人間の方が恐ろしいです。この短編集の中には、鬼になった、あるいはならざるをえなかった人間がたくさん登場します。道尾秀介さん『鬼の跫音』です。

 

こんな人におすすめ

人間の怖さをテーマにしたホラーミステリが読みたい人

続きを読む

はいくる

「あわせ鏡に飛び込んで」 井上夢人

<世にも奇妙な物語>というテレビ番組をご存知でしょうか。タモリが進行役を務めるオムニバステレビドラマで、現在は番組改編の時期に二時間ドラマとして放送されています。一話の長さが二十分程度と短いこと、ホラー・サスペンス・コメディ・ヒューマンドラマなど、様々なジャンルの話が楽しめることなどから、多くの視聴者の支持を集めています。

この番組が有名だからか、面白い短編小説を評する際、「<世にも奇妙な物語>に出てきそう話」「<世にも奇妙な物語>で実写化してほしい」などという言い回しが使われることがしばしばありますし、私もこのブログ内でそういうフレーズを何度も使いました。今回は、<世にも奇妙な物語>向けの小説がたくさん詰まった短編集を取り上げたいと思います。井上夢人さん『あわせ鏡に飛び込んで』です

 

こんな人におすすめ

ひねりの効いた短編小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「招待客」 新津きよみ

催し物に誰を呼ぶか。それは主催者にとって大事な問題です。一家庭内で行われる子どもの誕生パーティーですら、招待客の選別などでいじめが生じるという危惧から、実施を禁止する学校もあるんだとか。まして、百名単位の人間が集まるイベントとなると、招待客を考えるのも一苦労。結婚式なんて、その最たる例でしょう。

一生に一度の晴れの舞台だからこそ、心から感謝している人、心から結婚を祝福してほしい人を招きたい。誰もがそう思うでしょうが、事はそう簡単にはいきません。浮世の義理というものがあるし、何より、相手が本当に善人で結婚を祝ってくれるという保証もないからです。もしかして、招こうとしている相手は腹の内でまるで違うことを考えているかも・・・そんな恐怖を描いた作品がこちら。新津きよみさん『招待客』です。

 

こんな人におすすめ

女性目線のサイコホラーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「などらきの首」 澤村伊智

他のテーマにも言えることですが、<ホラー>の中には色々なジャンルがあります。幽霊や悪魔と戦う正統派のオカルトホラー、現代社会を舞台にしたモダンホラー、古城や洋館などが登場するゴシックホラー、人間の狂気を扱ったサイコホラー、内臓飛び散るスプラッタ、ホラーながら論理的な謎解き要素もあるホラーミステリーetcetc。ホラー大好きな私は何でもOKですが、この辺りは個人で好みが分かれるところでしょう。

たいていのホラー小説は、一冊ごとに上記のジャンルが分かれています。ですが、最近読んだ澤村伊智さん『などらきの首』には、様々のジャンルのホラー短編小説が収録されていました。一粒で二度どころか三度も四度も美味しい思いをした気分です。

 

こんな人におすすめ

・バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

・『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

続きを読む

はいくる

「テティスの逆鱗」 唯川恵

美しくなりたい。そう思ったことが一度もない女性は、恐らくいないでしょう。男性にもそういう願望はあるでしょうが、やはり美に対する欲求は女性の方が大きい気がします。かつて、自分の容姿に満足できない人間は、服装や化粧で美しさを磨くしかありませんでした。しかし、現代ではそれ以外の方法があります。美容整形です。

患者への負担が少ない<プチ整形>の発展もあり、美容整形は美を手に入れるための一般的な方法になりつつあります。ですが、人間の欲とは限りないもの。美への欲求に憑りつかれ、理性を失う患者がいたとしたら。そして、その限りない欲求を叶える手段として美容整形を選んだら。果たしてどんな悲劇が待ち受けているのでしょうか。唯川恵さん『テティスの逆鱗』では、美しさへの執念に憑りつかれた女性たちの狂気が描かれています。

 

こんな人におすすめ

美容整形にまつわるサイコホラーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「私の家では何も起こらない」 恩田陸

他のジャンルがそうであるように、ホラーという分野にも「ブーム」が存在します。ここ最近ヒットしたホラー作品を見る限り、今は「一番怖いのは人間だよ」ブーム。人間の欲望や狂気が引き起こす恐怖は、現実にも起こりそうな臨場感があって怖いですよね。

ですが、人外の存在が巻き起こす意味不明な恐怖もまた恐ろしいです。この世の常識が通用せず、ただ「関わってしまったから」という理由で怪異に見舞われる登場人物たち。この手の作風は三津田信三さんがお得意ですが、この方の小説もかなりのものでした。今回取り上げるのは恩田陸さん『私の家では何も起こらない』。王道をいく幽霊譚が楽しめますよ。

 

こんな人におすすめ

スタンダードな幽霊屋敷小説を読みたい人

続きを読む

はいくる

「火のないところに煙は」 芦沢央

「この作家さんはこういう作品を書く」というイメージってあると思います。綾辻行人さんなら叙述トリックを駆使した新本格ミステリーだし、瀬尾まいこさんなら心温まる成長物語、唯川恵さんなら女性主人公の恋愛模様etcetc。人それぞれ好きなジャンルがありますから、「これこれこんな物語を読みたい時はこの人の小説がお薦め」という知識があれば、作品選びが楽になります。

その一方で、「この作家さんってこんな小説も書くんだ!!」と驚かされることもあります。私は『和菓子のアン』『女子的生活』などの爽やかな作風のイメージがあった坂木司さんが、『短劇』『何が困るかって』で意外にブラックな小説も書くと知り、びっくりしたものです。こういう驚きもまた、読書の醍醐味の一つではないでしょうか。びっくりと言えば、芦沢央さん『火のないところに煙は』。芦沢さんの新境地、楽しませてもらいました。

 

こんな人におすすめ

実話風ホラー小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「震える教室」 近藤史恵

ホラー好きな私が思うに、怪談話が発生するためにはいくつか条件があります。例えば<過去にその場所で悲惨な出来事が起こっている(ex.遺体発見現場)>だったり<すぐには逃げられないほど無防備になる場所(ex.トイレ)>だったり。意外かもしれませんが、「人の気配を感じる場所である」というのもその一つ。この世はすべて表裏一体、生者がいるからこそ死者がいて、幽霊もいます。簡単に行き来できない無人島が怪談の舞台になりにくいのは、この辺りが原因ではないでしょうか。

大勢の人の気配を感じるホラースポットの代表格と言えば、やはり「学校」。普段はたくさんの子どもや教職員が出入りして賑やかな分、無人になった時の不気味さが際立ち、多くの怪談話が発生しました。学校を舞台にしたホラー小説といえば、綾辻行人さんの『Another』や辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』などが有名です。最近読んだ学園ホラーはこちら。近藤史恵さん『震える教室』です。

 

こんな人におすすめ

・学校を舞台にしたホラー小説が好きな人

・ホラー小説デビューしたい人

続きを読む