はいくる

「わざと忌み家を建てて棲む」 三津田信三

季節は夏。今はマスク着用が求められるご時世なせいもあり、暑さが余計に身に染みます。こういう時は、少しでも涼を取れる娯楽が欲しいですよね。例えば、風鈴を吊るすとか、オリジナルのかき氷を作ってみるとか・・・昔のように自由気ままに外出するのがまだ難しい分、自宅で気軽に涼める楽しみを探してしまいます。

そして、伝統的な日本の夏の娯楽と言えば、怪談話。エアコンも扇風機もない時代、人々は背筋がゾッとするような怪談を読み、語り、暑さを乗り切ろうとしてきました。外国と比べて日本の怪談はジメジメと陰気な作風が多く、暑さ対策にはぴったりだったのでしょう。今回ご紹介するのも、夏に涼むのにうってつけの作品です。三津田信三さん『わざと忌み家を建てて棲む』です。

 

こんな人におすすめ

・幽霊屋敷を扱ったホラー短編集が読みたい人

・実話風ホラーが好きな人

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編集者・三間坂が実家で見つけたノートと日記。そこには、かつて一人の資産家が建てた<烏合邸>なる邸宅のことが記されていた。資産家は、怪奇現象が起こるという家や部屋を移築し、繋ぎ合わせて烏合邸を作り、そこに人を住まわせて何が起こるか観察していたという。孤独な母子が住む<黒い部屋>、作家志望の男が執筆活動に勤しむ<白い屋敷>、女子大生が探検に入る<赤い医院>、学者が調査活動を行う<青い邸宅>。四つの物語を読み解いた先に待つ、恐ろしい怪異とは・・・・予想外の恐怖が読者を襲う、幽霊屋敷シリーズ第二弾

 

過去に当ブログで取り上げた『どこの家にも怖いものはいる』に続く、『幽霊屋敷シリーズ』の二作目です。怪異に巻き込まれるのは、著者の分身である作家・三津田信三と、編集者の三間坂コンビ。一作目同様、正統派ジャパニーズホラーらしい陰湿さが存分に仕込まれている上、クライマックスでは恐怖が読者側に侵食してくるような流れになっています。主人公が著者本人ということもあり、「え、これ、創作だよね?」という不安と怖さを味わえました。

 

「黒い部屋 ある母と子の日記」・・・某団地の一室を移築した<黒い部屋>に住み始める母親と幼い息子。一カ月以上住むこと、毎日必ず日記をつけることを条件に、母親には好待遇の仕事が紹介され、期間クリア後には高額の報酬が支払われるという。温情に感謝しつつ暮らす母子だが、間もなく不気味な現象に見舞われるようになる。室内に漂う焦げたような臭い、どれだけ虫対策をしても大量に現れる蚊、繰り返し聞こえる謎の物音や気配。そしてついに、母子の知人が失踪し・・・・・

一番お気に入りのエピソードです。こういうホラーって、子どもが絡むとより一層恐ろしく、救いがなく感じられるんですよね。おまけにこの母子、日記の日付から察するに、入居してからほぼ毎日怪奇現象に見舞われていた様子。それなのに頑なに住み続け、(記述からして)次第に正気を失っていく母親が一番の恐怖かもしれません。

 

「白い屋敷 作家志望者の手記」・・・作家を志す幡杜は、報酬と快適な執筆環境に惹かれ、烏合邸の中にある<白い屋敷>に入居する。執筆活動に勤しむ幡杜の前に現れる、謎の白い影や、家中を徘徊する何かの気配。さらに、作品のモチーフとするため持ち込んだ藁の船に、いつの間にか小さな人形が置かれていることに気付く。人形は、一日経つごとに一体ずつ増えていき・・・・・

三津田信三さんらしい、土着ホラーの香りが漂うエピソードです。作中で紹介される七艘小舟の伝説とか、なぜか毎日勝手に増えていく人形とか、恐怖を盛り上げる要素はたっぷり。でも、一番の恐怖ポイントは、幡杜の目から見た<黒い部屋>の母子の様子ではないでしょうか。母子目線では感じの悪い男だった幡杜ですが、彼の視点で<黒い部屋>及びそこで平気で暮らす母子を見てみると・・・そりゃ幡杜が不愛想になるのも当然だわな(汗)

 

「赤い医院 某女子大生の録音」・・・三間坂の家から、烏合邸に関する新たな資料が発見された。それは、元病院だったという<赤い医院>を探索する女子大生の記録。彼女は最新式のレコーダーを持ち込み、医院の中を調べて回る。やがて建物内で不気味な物音が聞こえるようになり・・・・・

今回は建物を探索する様子の録音ということで、日記や手記で恐怖が綴られる他三話とは少し趣が異なります。何といっても、<音>で表現される(レコーダーの音声を正確に文字で起こしたという設定)怪奇現象の数々が超怖い!!得体の知れない何かがじわじわ寄って来て、周囲を取り囲まれていく様子が臨場感ありまくりなんですよ。ホラーゲームの実況動画が好きな方なら、きっとハマるエピソードだと思います。

 

「青い邸宅 超心理学者の記録」・・・烏合邸の設立者である資産家の依頼を受け、<青い邸宅>の調査を行う女性学者。資産家が派遣した霊媒の少年と共に邸宅に入った彼女は、建物内にレコーダーや動体検知カメラを仕掛けることにする。そんな調査の最中に見つけた、かつてこの家で暮らしていた家族六人の集合写真。間もなく学者は、写真に写った家族が一人ずつ減っていくことに気付く。霊媒の少年曰く、それは家族が一人ずつ死んでいったことを示しているそうだが・・・・

<赤い医院>同様、家に住むのではなく調査のために入った人間目線のエピソードです。怪奇現象相手に科学で挑もうとする女性学者は、なかなか勇ましい奮闘ぶり。そんな彼女が、収録作品中、一番はっきりした形で怪奇現象と関わる羽目になるわけですから、なんとも皮肉です。いきなり出てきた霊媒の少年・サトオは絶対怪しいと思ったけど、まさかそれが正体だったとはね・・・・・

 

途中に<幕間>、終わりに<終章>が入り、三津田と三間坂が怪異について推理するのは前作と同じ。さらに本作の場合、怪奇現象が三津田らにも接近している描写があり、「どうなるのよ!?この先は!?」といい意味でハラハラモヤモヤさせられました。ちなみにこのシリーズ、三作目『そこに無い家に呼ばれる』まで刊行済なのですが、そこでシリーズ通したとある恐怖現象が明らかになります。ご興味のある方は、三作目を読む前に、ぜひとも一作目、二作目のタイトル及び表紙をじっくり見ておいてくださいね。

 

読了後に身辺で変な出来事なんて起こりません度★☆☆☆☆

三津田と三間坂の会話が清涼剤!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     幽霊屋敷のシリーズなんですね。三津田さんは「怪談のテープ~」以来です。
     子供にまで容赦ない仕打ちのオチがあったのでそれ以来読んでいないですが、このシリーズは読みたくなりました。
     蒸し暑くなってきたので冷や汗かくには良さそうです。
     どこの家にも恐い人~でなくどこの家にも怖いものという題名も興味深いです。

    1. ライオンまる より:

      子どもや病人等、普通のホラーなら生還するキャラクターも容赦なく襲われるのが三津田作品の特徴です。
      「怪談の~」同様、はっきりした謎解きがあるわけではないのでモヤモヤ感は残りますが、ファンにとってはそのモヤモヤが癖になるんですよね。
      表紙の不気味さもかなり好みです。

  2. しんくん より:

    どこの家にも怖いものはいる~読み終えました。
    筆者が客観的にそれぞれのストーリーを分析して共通点を見出しても具体的な結論がなく余計にモヤモヤしました。
    4つ目の話~光子の家を訪れては主人公の三女がどうなったのか?特に気になります。

    1. ライオンまる より:

      仰る通り、明確なオチがないんですよ。
      これが現実味あって面白いと言う人もあり、消化不良で納得できないと言う人もあり・・・私は前者です(^^)
      私は第一話の親子がどうなったかが気になりますね。

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