はいくる

「どこの家にも怖いものはいる」 三津田信三

古今東西の様々な小説を読んでいると、作者と同名の登場人物が出てくる小説にしばしば出くわします。実在する人物の名前が登場すると、物語のリアリティや臨場感が一層高まるもの。また、作者もキャラクターが自分と同名だと、感情移入の度合がより強まるのではないでしょうか。

作者と同じ名前の登場人物が活躍する小説は国内外問わずたくさんありますが、和書だと有栖川有栖さんの『アリスシリーズ』、坂木司さんの『ひきこもり探偵シリーズ』、道尾秀介さんの『真備シリーズ』などが面白かったです。書き手の気合の入り様もあるからか、人気を集めてシリーズ化された作品も多いですね。今回ご紹介するのも、そういったシリーズ作品の一つです。三津田信三さん『どこの家にも怖いものはいる』です。

 

こんな人におすすめ

・幽霊屋敷を扱ったホラー短編集が読みたい人

・実話風ホラーが好きな人

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新居に越してきたばかりの主婦が味わう恐怖の数々、怪物と出くわした少年を待つ残酷な運命、好条件のアパートを見つけた大学生が夜中に見たもの、家族を救おうとする少女が見たおぞましい光景、神隠しから帰還した女が生んだ子どもの正体・・・・・ホラー作家・三津田信三と編集者・三間坂が出会う五つの怪談。当初は無関係と思われたが、やがてそれらにはある共通点が存在することが判明する。謎を追う二人が最後に見たものとは、果たして---――

 

ホラー作家である三津田信三さん本人が語り手として登場する『幽霊屋敷シリーズ』第一弾です。タイトルが示す通り、幽霊屋敷に関する怪談話を作家・三津田信三が見聞きするというのが主なあらすじ。そこに、三津田作品のお約束である謎解き要素も加えてあって、ホラーとしてもミステリーとしても楽しめる内容になっています。

 

「向こうから来る 母親の日記」・・・夫と娘とともに一戸建ての家に引っ越してきた主人公。新居に満足する彼女だが、やがて不気味な現象の数々に直面する。壁に向かって独り言を言う娘、姿が見えない<キヨちゃん>という子ども、どこからか聞こえる不審な音。そんな中、娘の友達が行方不明になる事件が起き・・・・・

一番好きなエピソードです。日記形式で語られる怪奇現象の数々も不気味だし、書き手である母親も正気ではないのでは?と推測させるラストも超怖い!冒頭で平和な家族風景が描写された分、そこがじわじわと怪異に侵食されていく様子にゾッとしました。子ども時代特有の<見えない友達>の存在もいい仕事してます。

 

「異次元屋敷 少年の語り」・・・主人公の少年は、友達と遊んでいる最中、<割れ女>に出会ってしまう。それは額が割れた髪の長い女の怪物で、捕まれば生きて帰れない。必死に逃げる少年は、ある屋敷に隠れることにするが・・・・・

正体不明の恐怖がメインだった第一話に対し、このエピソードでは<割れ女>という怪物が堂々と(?)登場します。この割れ女が少年を執拗に追いかける描写が怖くて怖くて・・・やっぱり<追いかけてくる恐怖>というのは怪談話の基本ですね。あと、この話の真相のビックリ度は、収録作品の中でも一番だと思います。

 

「幽霊物件 学生の体験」・・・大学生の主人公は、一人暮らしを始めたばかり。新居のアパートは部屋が広く、その割に家賃は格安で、大満足かと思われた。ある夜、屋根の上から不審な物音が聞こえるまでは。主人公は物音の正体を確かめようとするが・・・

リアリティという意味ではこのエピソードの怖さが作中トップクラスではないでしょうか。快適な新居のはずが、よく考えてみると家賃はやけに安く、他の部屋は空室ばかり。おまけに不気味な出来事が起こり・・・だなんて、すぐそこで起こっていそうですよね。<事故物件><心理的瑕疵物件>という言葉が一般的なものとなった今、読者も感情移入しやすいと思います。

 

「光子の家を訪ねて 三女の原稿」・・・新興宗教団体の教祖になった母親と、母親に言いくるめられてしまった家族。残された三女は、家族を取り戻すべく母のいる<光子の家>に向かう。そこで三女を待ち受けていたのは、想像を絶する出来事だった。

主人公が静まり返った家に入り、一部屋一部屋探索しながら進んでいくという、アドベンチャータイプのホラーゲームを思わせるエピソードです。ポイントは、この話が、もっと長い文献から必要そうな箇所だけを抜粋した(という設定)という点。当然、本作には無関係ということで省略された箇所がたくさんあり、そこを想像するのが楽しいです。主人公の母親が宗教に目覚めた理由、三女以外の家族が母親に取り込まれた経緯、ラストで主人公が目撃した惨劇の真相等々、気になる要素がてんこ盛り。これ、いつか単独で小説にならないかな。

 

「或る狂女のこと 老人の記録」・・・とある家の当主の妹が神隠しに遭い、後に身ごもった状態で発見される。正気を失っていく妹は蔵に監禁され、そこで産まれた子どもには予知能力があった。そんな子どもを村人達は忌避するが・・・・・

三津田作品お馴染みの土着ホラー全開のエピソード。権力を有する名家とか、神隠しとか、不気味な子どもに対する差別の目とか、じめ~っとした和製ホラーを味わえます。特筆すべきは、他のエピソードは恐怖体験をした本人が記録を残しているのに対し、このエピソードは<祖母から聞いた話を書き手が記録している>というところ。距離感のある醒めた目線が、作中の怪奇現象の恐ろしさを盛り上げているように感じました。

 

この他に「幕間」「終章」があり、三津田と三間坂が五つのエピソードの謎を推理するのですが、明かされる各話の繋がりと真相にはゾゾゾ~ッとしてしまいした。基本はホラーですし、何十年も前の出来事もあるので「すべて解決してめでたしめでたし」とはいきませんが、質の高い怪奇ミステリーだったと思います。最後の<参考文献>にも仕掛けがしてあるので、ぜひチェックしてくださいね。

 

これはフィクション?それとも・・・度★★★★★

家の物音が怖くなる!度★★★★☆

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