図書館大好き人間の私が、しばしば意識してしまうこと。それは<蔵書整理>です。本がきちんと整えられ、利用しやすくなるのは有難いのですが、時々、好きだった蔵書がなくなることがあるのです。汚れが激しいので処分されたのか、収納スペースに余裕がある別の図書館に移したのか・・・詳細は分かりませんが、再読しようと思った本が見つからず、データベースで検索して「ここの図書館に置いてない!この前まであったのに!」となった時の落胆は、何度も経験したいものではありません。
反対に、「あれ、この本が入ってる。新刊でもないし、前はなかったのに」という嬉しい驚きもあります。あれって、違う図書館から回ってきたか、寄贈されたかなのでしょうか?以前は遠方の図書館から時間をかけて取り寄せてもらわなくてはならなかった本が、好きな時に手に取れるようになると、一気にテンションが上がります。この本も、図書館の本棚で見つけた時は「おおっ」と前のめりになってしまいました。北山猛邦さんの『私たちが星座を盗んだ理由』です。
こんな人におすすめ
苦い後味のミステリー短編集が読みたい人
おまじないに熱中する女子高生が知った残酷な真実、謎の孤島で暮らす子ども達に課せられた酷い使命、詐欺を企む男が見た意外な真相、化物に翻弄される少年の選択の行方、亡き姉が最期に見た魔法の正体・・・世界はこれほどに残酷で、悲しく、美しい。五つの奇妙な出来事の顛末を描いた、傑作ミステリー短編集
<物理の北山>という異名を持つくらい物理トリックにこだわる北山猛邦さんですが、本作でそうした雰囲気は控え目。むしろ、人間同士の微妙な心の機微、業の深さなどが前面に押し出されています。根っからの文系人間、物理トリックを理解するのに時間がかかる私には、この方が有難いです。最初に読んだ時は市内の別の図書館から取り寄せてもらいましたが、先日から徒歩圏内の図書館に入庫された模様。これでいつでも再読できます。
「恋煩い」・・・上級生に片思い中のアキは、恋のおまじないを試すことに夢中。見聞きしたおまじないを次々試すうち、意中の彼と気軽にお喋りすることができた。きっとおまじないが効いたんだ!おまじないへの信頼を高めていくアキだが・・・・・
二〇一七年、『ドラマ・ミステリーズ』という番組で、土屋太鳳さん主演で映像化されています。アキが先輩に片思いする様子、それを仲良しの女の子にきゃっきゃと話すはしゃぎ方、そんなアキを憎からず思う幼馴染の少年の態度などが、まるで青春漫画のよう。なんて甘酸っぱく瑞々しい・・・と思いきや、一気にどん底に突き落とされるラストが恐ろしかったです。よく見ると、会話の端々に伏線が仕込んであるところもお見事!
「妖精の学校」・・・絶海の孤島に建つ学校で目を覚ました少年・ヒバリ。島には他にも子ども達がいたが、ヒバリ同様、全員過去の記憶がないようだ。なぜ自分達はこの島にいるのか。なぜ誰一人として昔のことを覚えていないのか。子ども達に課せられた奇妙なルールは一体何なのか。ある日、疑問に耐えられなくなった仲間の一人が、ルールを破ってみることにするのだが・・・・・
これは賛否両論分かれそうな話ですね。というのも、ラスト一行、すべての謎を解き明かすキーワードが記載されているのですが、一読しただけでこの意味が分かる読者は恐らく少数。ネットなり何なりで検索しないと意味が分からない人の方が多そうなので、もしかしたらアンフェアと捉えられるかも?でも、<謎の閉ざされた世界に生きる少年少女>という設定が大好きな私は、ツボを衝かれまくりでした。ファンタジーと思わせておいて、生々しい現実を突きつけてくる構成も◎です。
「嘘つき紳士」・・・借金まみれの男が拾った他人の携帯電話。そこに、持ち主の恋人と思しき女性からのメールを見つけた男は、彼女から金を騙し取る計画を思いつく。持ち主を騙って女性とメールのやり取りをした上で、理由を付けて金を振り込ませるのだ。純粋な女性は見事に騙され、計画は成功したに見えたが・・・・・
ミステリーで主人公がこういう詐欺を企んだ場合、思わぬしっぺ返しを食らうのがお約束。何かしら落とし穴があるのだろうなと思っていましたが、こんな形とは予想外でした。ちょっとだけ更生しそうだった主人公は滑稽ですが、まあ、自分の撒いた種だからね。振り込め詐欺という犯罪が絡む関係上、収録作品中、一番生臭さを感じました。
「終の童話」・・・ウィミィが住む小さな村に<石喰い>が現れた。石喰いに襲われた村人は次々石像と化し、ウィミィが大好きだったエリナも石になってしまう。十年後、村長が一人の男を連れて来た。曰く、男の持つ聖水を使えば、石化した人間が元に戻るという。実際、無事に生き返った仲間を見て、喜びに沸く村人達。生憎、この作業には手間暇がかかり、全員一斉に石化を解くことはできないので、元に戻す順番が決められる。ところが、順番待ちをしていた石像が何者かに破壊されるという事件が起き・・・・・
唯一、ファンタジー世界で展開する話です。愛する人が石像と化し、悲嘆に暮れる村人達。やっと石化を解ける人間が現れた矢先、頻発する連続石像破壊事件。終盤、ウィミィが知る、あまりに残酷な真実が胸に突き刺さるようでした。こんなことになるなら、いっそ聖水を持った男が現れない方が、ウィミィも希望を持たずに済んだのに・・・最後、ウィミィが取った行動を読者の想像に委ねる、秀逸なリドルストーリーです。
「私たちが星座を盗んだ理由」・・・病弱な姉。そんな姉に優しく接する近所の少年。少年に好意を持ち、姉に嫉妬する妹。三人の思いがすれ違う中、少年は姉に「七夕の日に空から星座を盗み、プレゼントする」と決意する。奇しくも七夕の夜、容態が急変して亡くなった姉は、死の間際に「星座が消えた」と口走り・・・・・
表題作にして、恐らく作中一番後味がマイルドでしょう。病弱ゆえに優遇され、少年からも大切にされる姉を妬んでしまう主人公の気持ち、分かってしまうんですよ。いっそ、姉がもっと傲慢な我儘女なら、主人公もこんなに鬱屈した思いを抱えずに済んだかもしれないのにね。作中で披露される星座に関する蘊蓄は初耳で、なかなか興味深かったです。
本のコピーが「世界が、ラストの数行で、残酷に崩壊する」なだけあって、全体的に苦い読後感の話が多いです。ドロドロとかズッシリとかいうわけではなく、ふんわりした世界観にほろ苦さ、不穏さが混じっている感じで、いい意味でモヤッとさせられました。北山猛邦さんは、どちらかといえば長編作品の方が多い作家さんですが、こういう短編もどんどん書いていってほしいです。
ハッピーエンドじゃないところがまた良し!度★★★★☆
余白部分を想像すると悲しくなる・・・度★★★★★
物理的なトリックと言えば東野圭吾さんを思い出します。
初めて聞く作家さんですが、どれも興味深い内容です。
星座を盗むというファンタジーというかロマンティックのようで残酷な描写もありまさに東野圭吾さんとどう違うのか読んでみたいです。
「予言の島」読み終えました。
違和感というか伏線はありましたが、横やりちうか飛び入りのようなオチは何かしっくりこない気がしました。
深緑野分さんの「オーブランの少女」と少し似ている気がします。
あそこまで耽美的ではありませんが、その分、身近さを感じましたよ。
「予言の島」、あのオチに対し、「さすがに無理すぎ」「ついていけない」という感想も結構多いようですね。
京極夏彦も三津田信三も大好きな私は、登場人物に皮肉を言われた気分です(笑)