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「ホテル・ピーベリー」 近藤史恵

私が人生で初めて行った外国はハワイです。特大サイズの料理に、日本のそれとは色合いが違う海や浜辺、華やかな民族衣装を着た現地の人々・・・ドラマや漫画で見るような光景にワクワクしっぱなしだったことを覚えています。

とはいえ、どの国もそうであるように、ハワイは桃源郷というわけではありません。人間が集まって暮らしを営む以上、暗い面や怖い面があって当然です。先日読んだ小説では、ハワイの明るい陽射しの下、冷ややかで薄暗い人間模様が繰り広げられていました。今回は、近藤史恵さん『ホテル・ピーベリー』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・ハワイが登場する小説に興味がある人

・海外が舞台のサスペンスが好きな人

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「骨と肉」 櫛木理宇

血が繋がった肉親同士が争うことを<骨肉の争い>と呼びます。<骨肉>とは<骨と肉のような間柄>を指すとのことで、推察するに<極めて身近な、生死を共有することもあり得る関係>という意味でしょう。文字からして血生臭さが漂ってくるようで、先人の表現って秀逸だなと感心させられます。

人類にとって不変の問題なだけあり、骨肉の争いをテーマにした作品はたくさんあります。古くはシェイクスピアの『リア王』、ちょっとユーモラスな雰囲気なら明野照葉さんの『骨肉』、ホラー寄りなら三津田信三さんの『刀城言耶シリーズ』等々、様々な状況下で肉親同士が生々しい争いが繰り広げられてきました。どんなトラブルだろうと、フィクションと思えばそれなりに面白く読めてしまうのが人情というもの。とはいえ、先日読んだ作品の骨肉の争いは、あまりに酷すぎてフィクションと分かっていても辛かったです。櫛木理宇さん『骨と肉』です。

 

こんな人におすすめ

劣悪な家庭問題をテーマにしたサスペンスに興味がある人

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「凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎」 櫛木理宇

新興宗教。読んで字の如く、伝統宗教(カトリック教会、十三宗五十六派の仏教、イスラム教、ヒンドゥー教etc)と比べ、成立時期が新しい宗教のことです。<時期が新しい>という基準がかなり曖昧な関係上、国内外合わせて相当な数の宗教団体がこれに該当します。

言うまでもなく、新興宗教自体は悪でも違法でもありません。前述した伝統宗教も、成立当初は新興宗教でした。ですが、オウム真理教のテロやヘヴンズ・ゲートの集団自殺、アガドンサンの連続不審死といった事件が目に付き、新興宗教に対して懐疑的な視線が集まりがちなこともまた事実。それはフィクションの世界でも同様で、澤村伊智さんの『邪教の子』や貫井徳郎さんの『慟哭』には、怖気が走りそうなほど異常な宗教団体が出てきました。先日読んだ作品に登場する新興宗教も、読んでいて非常に胸糞悪かったです。今回は、櫛木理宇さん『凶獣の村 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』をご紹介しようと思います。

 

こんな人におすすめ

・新興宗教を扱ったサスペンス小説に興味がある人

・『鳥越恭一郎シリーズ』のファン

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「薔薇を拒む」 近藤史恵

薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。

と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。

 

こんな人におすすめ

不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人

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「墓じまいラプソディ」 垣谷美雨

<墓>という場所は、石器時代から存在していたそうです。当時はただ遺体を埋めた後に土を盛り上げておいただけのようですが、徐々に形式ができ、宗派による違いも生まれ、現在の形に至りました。故人の魂を労わると同時に、遺された人達の慰めとなる場所は、大昔から必要だったということですね。

しかし、このご時世、墓という存在がトラブルの種となることも珍しくありません。墓の維持管理には肉体的・精神的・経済的エネルギーが必要ですし、遺族が遠方在住の場合、墓参りするために一日仕事になってしまうこともあり得ます。そこで次第に<墓じまい>という方法が注目されてくるわけですが、これも簡単にはいかないようで・・・今回ご紹介するのは、垣谷美雨さん『墓じまいラプソディ』。墓じまいの悲喜こもごもがユーモアたっぷりに描かれていました。

 

こんな人におすすめ

お墓問題に関するユーモア・ヒューマンストーリーが読みたい人

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「監禁依存症」 櫛木理宇

<監禁>という言葉の定義について調べると、<人を一定の区画内に閉じ込め、そこから出られない状態にすること>と出てきます。手錠やロープ等で身体を拘束することだけでなく、脅迫等を用いて脱出困難な状態に追いやることも監禁に相当するのだとか。この犯罪の特異な点は、ひったくりや通り魔的な殺傷事件と違い、犯人側もそれなりの準備や工夫を行わなければならないという点でしょう。

小説の世界で例を挙げると、秋吉理香子さんの『監禁』でも、永井するみさんの『大いなる聴衆』でも、犯人は周到な準備を行った上でターゲットを監禁していました。そういえば綾辻行人さんの『迷路館の殺人』のように、広大なからくり屋敷を使って登場人物達を出られないようにするという突飛なケースもあったっけ。先日読んだこの作品にも、狡猾な犯人による恐ろしい監禁事件が出てきました。櫛木理宇さん『監禁依存症』です。

 

こんな人におすすめ

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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「ホテル・カイザリン」 近藤史恵

当たり前の話ですが、図書館で本を予約した場合、その本がいつ手元に届くか事前には分かりません。特に予約者が大勢いるような人気作となると、順番が回ってくるタイミングは予測不可能。時には、予約本が複数まとめて届いてしまい、返却日を気にしつつ大慌てで読む羽目に陥ったりします。人気作は図書館側の購入冊数も多いため、意外とさくさく順番が進むのかもしれませんね。

逆に、待てども暮らせども予約本が一冊も届かないこともままあります。なぜか「今なら大長編だろうと読む余裕あるのに!」という時に限って、どの本も全然順番が回ってこなかったりするんですよ。最近、そういう状況が続いてモチベーション下がり気味だったので、この本が届いた時は嬉しかったです。近藤史恵さん『ホテル・カイザリン』です。

 

こんな人におすすめ

イヤミス多めの短編集が読みたい人

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「業火の地 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎」 櫛木理宇

古来より、放火は非常に重い罪として扱われてきました。理由は色々ありますが、その最たるものは、社会及び被害者に与える被害が甚大だからでしょう。マッチ一本の火が、最悪、町一つを焼き尽くしてしまうことだってあり得ます。日本の場合、一昔前は木造建築が主流であり、火災の影響を受けやすかったことも関係していると思います。

そうなると当然、放火をテーマにした小説は、のんびりユーモラスなものにはなり得ません。この記事が投稿された時期を考えると、二〇二三年七月にドラマ化された池井戸潤さんの『ハヤブサ消防団』を思い浮かべる人が多いかな。<放火>から<火災>まで範囲を広げると、若竹七海さんの『火天風神』も迫力たっぷりのパニックサスペンス小説でした。今回ご紹介する作品にも、火にまつわる悲惨な事件が出てきます。櫛木理宇さん『業火の地 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』です。

 

こんな人におすすめ

放火事件を扱ったサスペンスに興味がある人

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「あなたに捧げる犯罪」 小池真理子

本好きとしては大変ありがたいことに、私が住む自治体は複数の図書館を運営してくれています。とはいえ、しょっちゅう行くのは徒歩圏内にある近所の図書館がメイン。行き来に時間がかからない分、本選びに時間をかけられるし、思い付きでふらっと行くことができてとても便利です。

その一方、時には普段利用する所とは違う図書館に行くのも楽しいものです。図書館によって蔵書が違うため、「あ、これずいぶん前に読んだ本だ!」「そう言えば、これってこの作家さんの著作だったんだな」等々、新鮮な面白さがあります。先日、所用で出かけた場所で普段利用しない図書館に立ち寄ったところ、昔読んで大好きだった本と再会しました。小池真理子さん『あなたに捧げる犯罪』です。

 

こんな人におすすめ

日常系イヤミスが好きな人

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「少年籠城」 櫛木理宇

<子ども食堂>という言葉をご存知でしょうか。これは子どもや地域住民に、無料ないし安価で食事を提供する社会活動のことで、二〇一〇年代頃からマスコミ等に頻繁に取り上げられるようになりました。食は人間にとって欠かすことのできない営みであり、心身の健康に直結するもの。こうした動きが活発化することは、この世界にとってとても大事だと思います。

子ども食堂の認知度が上がるにつれ、子ども食堂を扱った小説も増えてきました。ただ、私が今まで読んだことがあるのは、短編小説がほとんど。長編小説はなんとなく機会がなくて未読のままでした。そんな私が初めて読んだ長編の子ども食堂ものは、なんとこれ。櫛木理宇さん『少年籠城』です。最初にして、とてもショッキングな読書体験となりました。

 

こんな人におすすめ

子どもの貧困に関するサスペンスミステリーが読みたい人

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