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「震える教室」 近藤史恵

ホラー好きな私が思うに、怪談話が発生するためにはいくつか条件があります。例えば<過去にその場所で悲惨な出来事が起こっている(ex.遺体発見現場)>だったり<すぐには逃げられないほど無防備になる場所(ex.トイレ)>だったり。意外かもしれませんが、「人の気配を感じる場所である」というのもその一つ。この世はすべて表裏一体、生者がいるからこそ死者がいて、幽霊もいます。簡単に行き来できない無人島が怪談の舞台になりにくいのは、この辺りが原因ではないでしょうか。

大勢の人の気配を感じるホラースポットの代表格と言えば、やはり「学校」。普段はたくさんの子どもや教職員が出入りして賑やかな分、無人になった時の不気味さが際立ち、多くの怪談話が発生しました。学校を舞台にしたホラー小説といえば、綾辻行人さんの『Another』や辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』などが有名です。最近読んだ学園ホラーはこちら。近藤史恵さん『震える教室』です。

 

こんな人におすすめ

・学校を舞台にしたホラー小説が好きな人

・ホラー小説デビューしたい人

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「シフォン・リボン・シフォン」 近藤史恵

「下着が大好き」と言われた時、人はどんな反応を返すでしょうか。「分かる分かる」と頷く人もいるでしょうが、「いやらしい」「はしたない」と眉をひそめる人も多いのではないでしょうか。身に付ける場所が場所なだけに、下着は性的なものを連想させてしまうからかもしれません。

ですが、考えてみれば変な話です。公道を下着姿で闊歩するというならともかく、大多数の人は服の下に下着を身に付けているはず。それなら誰にも迷惑はかけないわけですし、「ワンピースが好き」「ジーパン最高」と同じ感覚で「下着が大好き」と言っても何一つ問題はありません。あらゆる衣類の中で最も肌に触れる製品なのですから、熱心に選び、機能性だけでなく美しさや可愛さを求めることはある意味で当然とも言えます。そんな下着に対する夢や愛着を描いた本を読みました。近藤史恵さん『シフォン・リボン・シフォン』です。

 

こんな人におすすめ

下着を軸にしたヒューマンストーリーを読みたい人

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「チェインドッグ」 櫛木理宇

「この世で最も憎むべきものが何か分かる?戦争と冤罪なの」これは、私が昔見ていたドラマの台詞です。当時は子どもだったので聞き流しましたが、成長するにつれ、この言葉の意味が少しずつ分かるようになりました。犯人以外の人間が無実の罪で裁かれる。冤罪は、決して許されるものではありません。

冤罪をテーマにした小説といえば、高野和明さんの『13階段』や大門剛明さんの『テミスの求刑』、ややテイストは違いますが伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』などが有名です。これらの作品の中で犯罪者として告発された人物は、自分は潔白だと訴えていました。では、自らが犯罪者であることは認めた上で、告発された罪の一部が冤罪だと訴えた場合はどうでしょうか?ただでさえ難しい冤罪問題が、より複雑になることは想像に難くありません。今日紹介するのは、櫛木理宇さん『チェインドッグ』。タイトルの意味も含めて、考えさせられるところの多い作品でした。

 

こんな人におすすめ

サイコパスが出てくるミステリー小説が読みたい人

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「わたしの本の空白は」 近藤史恵

<記憶喪失>という言葉を見聞きしたことがない人は、恐らくいないと思います。正確には<逆行性健忘>といい、過去の記憶を思い出すことが困難になる症状を指します。この三日間、どんな風に過ごしたかまるで思い出せないというだけで、ものすごく不安でしょう。まして、今まで生きてきた人生すべての記憶を失い、自分が何者か分からないとしたら・・・その恐怖は想像を絶するものがあります。

現実では恐ろしい記憶喪失ですが、フィクションの世界においては、物語を盛り上げる要素となりえます。宮部みゆきさんの『レベル7』、東野圭吾さんの『むかし僕が死んだ家』、綾辻行人さんの『黒猫館の殺人』などは、<記憶喪失>というキーワードを上手く絡めた傑作ミステリーでした。この作品にも記憶喪失になったヒロインが登場します。近藤史恵さん『わたしの本の空白は』です。

 

こんな人におすすめ

記憶喪失をテーマにした小説が読みたい人

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「月のない夜に」 岸田るり子

古来、双子というのは神秘的な存在として扱われる傾向がありました。母親の胎内で一緒に育ち、一緒に生まれてくるという状況や、(一卵性の場合)そっくりな容姿などが人に謎めいた印象を与えたのでしょうね。現代でさえ、「双子の片方が怪我をするともう片方も痛みを感じる」「生後すぐ離れ離れになってもそっくりな人生を歩む」などといったミステリアスな説まであるほどです。

フィクションの世界において、双子は「他人には分からない絆や確執を持つ存在」として描写されることが多い気がします。ぱっと思いつく限りでは、双子の少女の入れ替わりをテーマにしたエーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』、泥棒と双子の兄弟の同居生活を描く宮部みゆきさんの『ステップファザー・ステップ』、ルイ十四世双子説と鉄仮面伝説を絡めた藤本ひとみさんの『ブルボンの封印』などなど。今回取り上げる小説にも、複雑な絆を持つ双子が登場します。岸田るり子さん『月のない夜に』です。

 

こんな人におすすめ

サイコパスの登場する心理サスペンスが読みたい人

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「定年オヤジ改造計画」 垣谷美雨

「濡れ落ち葉」という言葉が流行語大賞を受賞したのは一九八九年のことだそうです。意味は「濡れた落ち葉が払ってもなかなか落ちないように、主に定年退職後の夫が妻にべったりはりついて離れないこと」。男声差別だという意見もあったようですが、流行語大賞を取った以上、多くの国民の間に浸透していたことは事実でしょう。

特にある程度以上の世代の男性の場合、仕事以外に趣味や交友関係を持たず、定年後にやることがなくて妻にまとわりつくというケースが多いようですね。まとわりつくならつくで、何か手伝いをしてくれるならまだしも、手は出さずに口だけ出すから嫌がられる、という話をよく聞きます。人間百年というこのご時世、リタイア後の人生を豊かに過ごせるか否かは自分自身の努力次第です。どう努力すればいいか分からないという人は、これを読んでみてはいかがでしょうか。垣谷美雨さん『定年オヤジ改造計画』です。

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「墓地を見おろす家」 小池真理子

四月も残りわずかです。この春に引っ越しを経験した人は、そろそろ片づけが一段落した頃合いでしょうか。今年は引っ越そうにも業者が予約できない<引っ越し難民>が続出したんだとか。不自由した方々が一日も早く落ち着き、快適な新生活を送れるよう願ってやみません。

新居での生活には期待と不安が付きまとうもの。素晴らしい家を得たならば、新生活はより良いものとなるでしょう。でも、もしその家がおぞましく恐ろしいものだったなら・・・?この作品に登場する一家は、そんな恐ろしい家に住んでしまいます。小池真理子さん『墓地を見おろす家』です。

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「カーテンコール!」 加納朋子

昔、偶然ですが、某有名劇団の通算1000回公演に行ったことがあります。本編終了後、再び幕が上がってキャストが観客席に飛び降りてきたり、主演俳優が謝辞を述べたり・・・まったく予想していなかった分、すごく嬉しかったです。これほどの記念公演でなくとも、劇本編とは別に出演者や演出家が出てきてくれたりすると、何となく楽しくなっちゃいますね。

幕が下りただけで終わるのではなく、その後にさらなる喜びや感動をもたらしてくれるもの、それがカーテンコールです。人生にもカーテンコールがあると思えば、何かとままならない世の中も少しは生きやすくなるのではないでしょうか。そんな人生のカーテンコールを扱った作品がこれ、加納朋子さん『カーテンコール!』です。

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「味なしクッキー」 岸田るり子

「ジャケ買い」という言葉があります。意味は「内容を知らないCDや本などを、パッケージのみに惹かれて購入すること」。何しろ内容を知らないわけですから、まるで好みに合わない商品を買ってしまって心底後悔することもある、それがジャケ買いです。

反面、ジャケ買いした商品が予想以上の良作だった場合、その喜びは大きいです。私の場合、人生初のジャケ買いはCDで、松任谷由実さんの『THE DANCING SUN』。「Sign of the Time」「砂の惑星」「春よ、来い」といった名曲揃いで、すっかりユーミンファンになった記憶があります。もちろん、ジャケ買いした本も色々ありますが、今回はその中の一冊を紹介します。岸田るり子さん『味なしクッキー』です。

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「インフルエンス」 近藤史恵

女性同士の人間関係のもつれをテーマにした小説はたくさんあります。この手のテーマの場合、大抵はドロドロの愛憎劇になる傾向が強い気がしますね。人間関係が難しいのは男性同士、男女間でも言える話ですが、女性同士の方が「陰湿」「鬱々」というイメージがあるのでしょうか。

このブログでも新津きよみさん『女友達』、辻村深月さん『盲目的な恋と友情』などを紹介してきましたが、これらは女性二人をメインに据えた作品です。では、これが女性三人なら?「三角関係」などという言葉があるくらい、複雑な人間関係の代名詞とも言える三人組。そんな女性同士のトライアングルを描いた作品を紹介します。近藤史恵さん『インフルエンス』です。

 

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