はいくる

「あきらめません!」 垣谷美雨

明けましておめでとうございます。毎週水曜更新を基本としている当ブログ、今年は偶然にも一月一日が更新日でした。だからどうというわけではないものの、たまたまこういう記念日に当たると、なんとなく嬉しいものですね。今年も変わらず偏った趣味丸出しの読書レビューを投稿し続けるつもりなので、どうぞよろしくお願いします。

記念といえば、去年は私生活において、ちょっとした記念的出来事が起きました。自他ともに認める超ずぼら人間の私が、投票日に大事な用があるため、期日前投票に行ったのです。「そんなことが記念?」と思われそうですが、二十年前の私なら、投票日に用があるなら選挙そのものに不参加だったこと間違いなし。この年になってやっと、政治とは決して他人事ではなく、私たち一人一人が取り組まなくてはならないものだという自覚が持てた気がします。今回は、そんな選挙を扱った作品を取り上げようと思います。垣谷美雨さん『あきらめません!』です。

 

こんな人におすすめ

・ユーモラスな政治小説が読みたい人

・田舎暮らしの悲喜こもごもを描いた小説に興味がある人

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こうなったらもう、私がやるっきゃない!---――六十代にして、夫とともに予想外の田舎暮らしを始めることになった主人公・郁子。何の変化もない生活に飽き飽きしていた矢先、たまたま傍聴した市議会で、若い女性議員が男性議員達のセクハラ・パワハラの標的となる場面を目撃してしまう。憤る郁子に対し、引退間近の女性議員・ミサオが声をかけてきた。「この町の古い体質を変えるため、新しい風になってほしい」。なんと、郁子に補欠選挙に立候補してほしいのだという。最初は一笑に付していたものの、あまりに旧弊な田舎の実態を知るにつれ、次第にやる気になっていく郁子。しかし、その道は苦難の連続で・・・・・世代を超えて戦う女性たちの奮戦を描く、心湧き立つ政治小説

 

一般市民が意外な展開により政治家に転身!というパターンは、ドラマ『恋するトップレディ』『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』などでもありました。これらの作品と本作の違いは、本作は政治だけでなく、土地柄によるハラスメント問題をがっつり描いている点でしょう。「田舎ってこんなにひどい場所じゃない!」という抗議の声もありそうですが、住人同士の距離の近さや、都会からの情報伝達の遅さなどから、良くも悪くも変化が起こりにくいことは事実。そんな状況下で蔓延する女性差別の描写が臨場感たっぷりで、最初から最後まで感情移入しまくってしまいました。

 

主人公の郁子は、仕事・子育て・ローン返済を終え、夫婦でセカンドライフを満喫しようと検討中の主婦。そんな郁子に対し、夫の幹夫は「老後は故郷で暮らしたい」という本音を告げます。ショックを受けつつも、のんびりスローライフも悪くないかと移住を決める郁子ですが、田舎暮らしは期待外れのことばかり。鬱々とした日々の中、郁子は市議会での揉め事を経て、引退間際の女性議員・ミサオから市議に立候補してほしいと頼まれます。最初はまともに取り合わないものの、毎日押しかけてくる舅にうんざりした由香、由香の姑で家出を決行中の瑞恵、そんな瑞恵を家に住まわせてやる郁子の姑・フミらが加わり、立候補は一気に盛り上がりムード。ついに郁子は出馬を決めるものの、それは茨の道でした。

 

ここで描写される、田舎の市議会の様子がひどいことひどいこと。税金を使っての豪勢な海外視察、無意味な胸像の制作、飲み会の席で決まる政治、女性議員へのセクハラ・パワハラの数々・・・もちろん、真っ当な政治が行われている田舎もたくさんあるのでしょうが、本作に限って言えば、田舎への移住を躊躇ってしまうような劣悪さです。特に私は自分が女ということもあり、女性議員や住民に対する差別と侮辱の数々にイライラしっぱなしでした。おまけに、都会にいた頃は良きパートナーだった幹夫が、Uターンした途端、そんな空気に感化され、奮闘する郁子を貶めるようになるのですから始末に負えません。環境って大事なんだなと、しみじみ思わされます。

 

その分、女性キャラの描写や、彼女達が団結して市政に取り組む様子は生き生きとパワフルです。一言言わずにいられない行動派の郁子や、そんな郁子のお尻を叩いて立候補させるミサオらに注目が集まりそうだけど、私のお気に入りは郁子の姑・フミ。田舎の空気になじめない郁子をすんなり受け入れて手助けするわ、家出した瑞恵(それまで面識なかった)を温かく受け入れて同居させるわ、郁子の選挙活動も快くサポートするわと、まさに縁の下の力持ち。こんなに閉鎖的な土地で、これほど柔軟な精神性を保ち続けることができるなんて、つくづく感心してしまいました。こういう聡明な母親に育てられたからこそ、中盤で幹夫も考えを改める気になったのでしょう。垣谷作品の中で、姑は厄介な存在になりがちですが、本作は郁子とも素敵な関係を築けていて良かったです。

 

政治部分に関しては少々うまくいきすぎという気がしないでもありませんが、チーム・郁子の影響を受け、周囲が変わっていく様子が爽快でした。でも考えてみれば、かつては田舎だけでなく日本中がこんな状況だったのでしょう。完璧とは言えないまでも、今の状況まで漕ぎつけることができたのは、郁子達のように戦った女性がいたから。やっぱりタイトル通り、諦めないことって大事ですね。

 

読後感はすっきり爽やか!度★★★★★

政治は、身近なところから変わっていく度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

     明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
     垣谷美雨さんの作品でも最も爽快感のある作品でした。
     郁子を田舎に引っ張っていく夫も頼りないと思いましたが、田舎の老人の思い込み、思い上がりが酷い。
     議会での若手女性の酷いセクハラは腹が立ちました。
     そんな郁子をフォローしてくれる周囲の女性たちと変わっていく様子が良かったです。再読したくなりました。
     垣谷美雨さんの新作のマンダラ・チャート予約中です。
     櫛木理宇さんの新作の「逃亡犯とゆびきり」なかなか辛辣でも読み応えがあります。

    1. ライオンまる より:

      意外とモヤッとさせられることがある垣谷作品ですが、これはスッキリ爽快でしたね。
      途中、悪い方向に感化されかけた夫が、しっかり目を覚まして妻に寄りそう姿にホッとさせられました。

      「逃亡犯~」、早く読みたいので羨ましいです。
      こちらは藤崎翔さんの新作が予約順位一位まで来ました。
      今月中には読めるといいんですが・・・・・

      今年もよろしくお願いします!

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