サスペンス

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「シェア」 真梨幸子

コロナが流行る前、<シェア>という言葉を頻繁に見聞きする時期がありました。大皿料理やスイーツを頼んで同席者同士でシェア、ステーションに停めてある車をみんなで利用するカーシェアリング、各自の能力を必要に応じて共有・マッチングさせるスキルシェア・・・中でも、一つの家に複数人で住むシェアハウスは、人気リアリティショーの設定となったこともあり、爆発的に知名度を伸ばしました。気の合う仲間同士と楽しく、しかし家族ほどべったり干渉することなく暮らせたら、さぞ快適なことでしょう。

とはいえ、複数人で何らかのものを共有するという<シェア>の性質上、予想外のトラブルの可能性は否定できません。お金の問題、生活パターンの問題、常識の問題etcetc。不快な思いをするだけならまだしも、犯罪に関わってしまうことだってあり得ます。でも、いくらなんでもここまで拗れることは少ないかな?真梨幸子さん『シェア』です。

 

こんな人におすすめ

シェアハウスを舞台にしたイヤミスに興味がある人

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「怖い患者」 久坂部羊

私は根が小心者ということもあり、体に異変を感じたらさっさと病院に行きます。「実は深刻な病気だったらどうしよう」「様子見している内に手遅れになったら・・・」等々、つい悪い想像を巡らせてしまうんです。そのため、昔から病院はけっこう馴染みのある場所でした。

一つの建物内に生と死が同時に存在する病院は、フィクションの世界においても様々なドラマの舞台とされてきました。ヒューマンストーリーなら垣谷美雨さんの『後悔病棟』、サスペンスなら海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』、ホラーなら五十嵐貴久さんの『リメンバー』etcetc。いずれも病院という場所の特性を活かした名作ばかりです。先日読んだ小説も、病院とそこに関わる人々の人間模様をテーマにしていました。久坂部羊さん『怖い患者』です。

 

こんな人におすすめ

医療の世界を舞台にしたイヤミス短編集が読みたい人

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「ある少女にまつわる殺人の告白」 佐藤青南

私は九州人ということもあり、子どもの頃から方言が身近に存在していました。成長後、地元を離れた時、標準語だと思っていた言葉が実は方言だと知って驚いたり、話し言葉から同郷出身者が分かって何となく嬉しかったりと、方言にまつわる思い出も結構あります。そう言えば、メダカは理科教育が広がるまで<メダカ>という統一名がなく、方言による呼び名が日本全国に五百個近くあると知った時は衝撃だったなぁ。

作中に方言が出てくる小説もたくさんあります。ぱっと思いつくのは、坂東眞砂子さんの『狗神』と、瀬尾まいこさんの『戸村飯店青春100連発』。前者は陰惨な土着ホラー、後者は後味爽やかな青春小説ですが、どちらも方言がうまく使われていました。小説で方言が使われると、標準語より感情が表れやすい分、暗い作風はより陰気に、明るい作風はよりユーモラスになる気がします。先日読んだ小説でも、方言がいい仕事をしていましたよ。佐藤青南さん『ある少女にまつわる殺人の告白』です。

 

こんな人におすすめ

・児童虐待をテーマにした小説に関心がある人

・インタビュー形式の小説が好きな人

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「5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編」 このミステリーがすごい!編集部

暦の上では秋になり、店先に並ぶファッションアイテムも秋を意識したものが増えました。とはいえ、気候はまだまだ夏そのもの。半袖シャツも、帽子も、キンキンに冷えた飲み物も、当分手放せそうにありません。

私はけっこう夏好きな人間ですが、これほど暑いとやはりひんやりした冬が恋しくなります。季節としての冬が遠いなら、せめて小説で冬気分を味わうのも一つの手ではないでしょうか。そんな時はこれ。「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編』です。

 

こんな人におすすめ

冬をテーマにしたバラエティ豊かなアンソロジーが読みたい人

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「神様ゲーム」 麻耶雄嵩

小説を読むことの一体何がそんなに楽しいのか。人によって答えは様々でしょうが、ラストの面白さを堪能したいから、と答える人は多い気がします。感動的なフィナーレだったり、衝撃的などんでん返しがあったり、終わったはずの恐怖が再び甦ってきたり・・・現実世界にはそんなにはっきりしたオチがない分、小説で味わいたいと思うのも当然です。

ですが、あえてはっきりした結末を描かず、解釈を読者に委ねるタイプの小説も、また違った面白さがあるんですよ。こういう物語は<リドルストーリー>と呼ばれ、古今東西、多くの読者を魅了し、いい意味で悩ませてきました。例を挙げると、岡嶋二人さんの『クラインの壺』、貫井徳郎さんの『プリズム』『微笑む人』、東野圭吾さんの『どちらかが彼女を殺した』などがあります。そんな中、インパクトという点ではこの作品に勝るものはなかなかないのではないでしょうか。麻耶雄嵩さん『神様ゲーム』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いリドルストーリーに興味がある人

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「一九六一 東京ハウス」 真梨幸子

バラエティ番組、大好きです。時に悲惨な出来事を映さざるを得ないニュースや、一度見逃すとストーリーが分からなくなる可能性があるドラマと違い、適度に陽気で、適度に気軽。その日の気分次第でチャンネルを合わせれば、難しいことを考えずさらっと楽しめるところが魅力です。

一言でバラエティ番組と言っても色々ありますが、改めて見てみると、リアリティショーの多さに驚かされます。これは、一般人が様々な出来事に直面する様子を撮影した番組のこと。アイドルを目指したり、お金を稼ごうとしたり、特殊な状況下でのサバイバル生活を送ったりとシチュエーションは様々であり、特に友情や恋愛といった出演者達の人間模様にフォーカスした番組が人気な気がします。もちろん、プロの芸能人ではない素人がカメラの前に立つわけですから、万事順調なはずはありません。一歩間違えれば、取返しのつかない事態に陥る危険も・・・・・今回ご紹介するのは、真梨幸子さん『一九六一 東京ハウス』。リアリティショーを巡る生臭い愛憎劇を堪能できました。

 

こんな人におすすめ

リアリティショー内で繰り広げられる泥沼人間模様に興味がある人

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「残酷依存症」 櫛木理宇

デスゲームもの、というジャンルがあります。これは、逃亡不可能な状況に置かれた登場人物達が、生死を賭けたゲームに参加する様子を描いたもの。生還者は一人だけと決められていたり、進行次第では全員生還も可能だったり、敗者は命ではなく社会的生命を奪われたりと、個性的な設定がなされていることが多いです。

けっこう古くからあるジャンルなのですが、日本で有名になったのは、高見広春さんの『バトル・ロワイアル』辺りからではないでしょうか。当初は<試合>としての側面が強かった気がしますが、段々とお遊び的なゲーム要素が強まり、ハリウッド映画の『SAW』シリーズ、金城宗幸さん・藤村緋二さんの漫画『神さまの言うとおり』、金沢伸明さんの『王様ゲーム』など、有名作品が次々生まれました。私自身も色々と読みましたが、これほど後を引く作品はちょっと他にないかも・・・・・櫛木理宇さん『残酷依存症』です。

 

こんな人におすすめ

デスゲームが絡んだサイコサスペンスが読みたい人

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「ブレイクニュース」 薬丸岳

近年、インターネット文化の発展ぶりは目を見張るものがあります。世に現れた当初は<調べ物をするのに役立つシステム>程度の扱いだった気がしますが、今やテレビや新聞、電話などに取って代わる勢いです。特に<技術があれば一般人でもテレビのような作品を作れる>という点から、ネット動画の数は日に日に増える一方。私自身、いくつか贔屓にしているチャンネルがありますが、中にはテレビ以上の企画力や構成力を感じるものもあって驚かされます。

とはいえ、ネット動画ばかりを一方的に賛美するわけにはいきません。この手の動画が魅力的なのにはいくつか理由がありますが、その一つは、プロが作るテレビ番組と違って自由度が高いからです。自由とは、捉え方を間違えれば暴走してしまうもの。場合によっては人の人生を大きく左右し、最悪、破壊してしまうことだってあり得ます。この作品を読んで、そんなことを考えさせられました。薬丸岳さん『ブレイクニュース』です。

 

こんな人におすすめ

SNS社会の闇をテーマにしたサスペンス小説が読みたい人

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「不安な童話」 恩田陸

私が子どもの頃、前世をテーマにした漫画やアニメが人気でした。その流れで、「自分の前世は何だったのだろう」と考えたことも一度や二度ではありません。外国人だったり、特殊な能力を持っていたり、異世界の住人だったり・・・今では<中二病>と呼ばれてしまうのでしょうが、あれこれ空想を巡らすのは楽しかったです。

しかし、よくよく考えてみれば、仮に前世が存在したとしても、楽しいものとは限らないですよね。ウィルスやアメーバだったかもしれないし、奴隷として悲惨な最期を遂げたかもしれないし、憎悪と軽蔑を一身に受ける極悪人だったかもしれない。そんな前世、思い出さない方が間違いなく心穏やかなはずです。今回ご紹介する作品には、厄介な前世問題と関わってしまった主人公が登場します。恩田陸さん『不安な童話』です。

 

こんな人におすすめ

前世が絡んだサイコミステリーが読みたい人

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「蠍のいる森」 小池真理子

創作の世界には、<群像劇>というストーリー手法があります。これは、特定の主人公を設けるのではなく、複数の主要登場人物がそれぞれ別の物語を紡ぎ、最終的に一つの結末に辿り着くスタイルのこと。グランドホテル形式、アンサンブル・キャストなどの呼び方をされることもあるようです。大ヒットを記録したラブコメディ映画『ラブ・アクチュアリー』形式のこと、と言えば、分かりやすいかもしれません。

勢いがあって視覚的に映えるからか、群像劇は映画やドラマで使われることが多いです。とはいえ、面白い群像劇小説もたくさんありますよ。恩田陸さんの『ドミノ』や辻村深月さんの『本日は大安なり』は、どちらもわざわざハードカバー版を買ったくらい好きな作品です。上記の二作品より登場人物数は少ないですが、これも上質な群像劇でした。小池真理子さん『蠍のいる森』です。

 

こんな人におすすめ

男女の愛憎が絡んだサイコサスペンスが読みたい人

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