はいくる

「無人島ロワイヤル」 秋吉理香子

明けましておめでとうございます。今年もこうしてブログを続けながら新年を迎えることができ、とても嬉しく思います。ニュースで繰り返し取り上げられていましたが、二〇二三年の<今年の漢字>は<税>、得票数二位は<暑>、三位は<戦>だったとのこと。楽しいことより辛いことの方が目につきやすいのが人の世の常とはいえ、穏やかさや安らぎとは程遠い言葉が上位にランクインされているのは、なんとなく寂しい話です。こういう時こそより良い読書ライフを送り、心を豊かにしていきたいものですね。

振り返ってみると、二〇二三年の新年第一発目のレビュー作品は宮部みゆきさんの『おそろし~三島屋変調百物語』、二〇二二年は長江俊和さんの『出版禁止 いやしの村滞在記』、二〇二一年は芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』でした。たまたまですが、胸にズンと響くホラーやイヤミス寄りの作品ばかりだったようです。今年はちょっと趣を変え、後味すっきりで読むことのできる口当たりのいい作品を取り上げようと思います。秋吉理香子さん『無人島ロワイヤル』です。

 

こんな人におすすめ

デスゲーム物が好きな人

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殺し合え。その報酬は十億円---――なじみのバーに集う常連客八人。彼らはマスターの提案により、無人島で数日間のバカンスを過ごすことになる。持って行けるのは、事前に申請しておいたアイテム三つのみ。ゲームみたいで楽しそう!童心に返って無人島に向かう八人だが、一夜明けて、状況は一変する。マスターは消え、ヨットはなく、ビデオメッセージに残されていたのは「生き残りを賭けて全員で殺し合え。勝者には十億円の賞金を進呈し、迎えの船をよこす」という衝撃の内容。こんな提案には乗らず、仲間で協力して生還できないか。試行錯誤する面々だが、早々に一人目の犠牲者が出てしまい・・・・・生き残るのは誰なのか?絶海の孤島で繰り広げられる、ハラハラドキドキのクローズド・デスゲーム!

 

無人島に集った登場人物達が一人一人殺されていく・・・アガサ・クリスティの大傑作『そして誰もいなくなった』をはじめ、クローズドサークル物の王道といえるシチュエーションです。王道であるがゆえに、きちんと味付けしないとマンネリ感が出てきてしまうこともまた事実。一クラス全員が政府公認のもと殺し合うという高見広春さんの『バトル・ロワイアル』や、叙述トリックの技が光る綾辻行人さんの『十角館の殺人』は、この点を見事にクリアしていました。では、本作の場合はどうでしょうか。

 

都内にひっそりと佇む<バー・アイランド>。そこで親しくなった常連客八人は、マスターの提案により、秘密の無人島旅行に出かけることにします。ゲーム性を高めるため、旅行のことは他言無用、持って行けるのは各自事前に申し出ておいたアイテム三つのみ。こうしてやって来た島は地上の楽園そのもので、一同は大はしゃぎしますが・・・一夜明けて、とんでもない事実が判明します。マスターとヨットの姿が消えており、残されていたのは「全員で殺し合いをしてみよう!衛星画像で見ているから、生き残った人は犠牲者の死体を砂浜に並べてね。勝者が決まり次第、迎えのボートをよこすし、賞金十億円をあげる」という衝撃的なメッセージ。動揺しつつ生還への道を探るメンバー達ですが、この時、デスゲームに乗ることを密かに決めていた者がいたのです。一人、また一人と犠牲になって行くメンバー達。果たして彼らは無事に島を出ることができるのでしょうか。

 

本作最大の特徴、それは作品全体に漂う良い意味での<軽さ>でしょう。だまし討ちでデスゲームに放り込まれ、疑心暗鬼になったり悪戦苦闘したりするものの、全員がなんとなく前向きでお気楽。同じクローズドサークル物でも、例えば夕木春央さんの『方舟』に登場人物達の恐怖と不安がビシバシ漂っていたのに比べ、本作からはどこかユーモラスな気配さえ感じられます。視点となる登場人物が一章ずつ交代する構成も、このライトな雰囲気作りに一役買っている気がしますね。

 

そもそも本作、デスゲーム物としては珍しいことに「絶対に生き残りたい」とか「十億を独り占めしてやる」とかいう動機で犯行に走る人間がいないんですよ。作家・佳多山大地さんのレビューにもある通り、作中で殺人を犯す人間の動機は「この機会に、前々からあった殺人欲求を満たしてやろう」「せっかくだから、世間をあっと驚かせるようなデカいことをしてやろう」という、かなり突飛なもの。そもそも事の発端であるマスターさえ、「人生がつまらないので、わくわくすることがやってみたい」という理由でデスゲームを仕掛けます。悲壮感も必死さもなく、行きがけの駄賃とばかりにゲームに乗る登場人物達の姿が、妙に軽妙であり、どこか空恐ろしくもありました。

 

登場人物といえば、デスゲームを強いられることになった面々のキャラクター造形もなかなかユニークです。いかにも足を引っ張りそうなカップル、知性溢れる医者、食料調達に一役買う釣り名人、アウトドア生活に慣れた大学生等々、出てくるのはこの手のクローズドサークル物のお約束とも言える登場人物達。ただ、デスゲームに関してはお約束通りとはいかず、思いがけないところで思いがけない人物が脱落したり、裏切ったり、協力し合ったりします。個人的には、身に付けた知識を正しく活かす塾講師が好きだったなぁ。私は理系科目が苦手なので、ああいう先生に出会いたかったです。

 

読書は、多かれ少なかれ読み手の精神状態を左右するもの。落ち込んでいる時にうっかり重めの作品を読むと大変なことになりますが、その点、本作ならそういう心配は無用です。デスゲーム物にしては珍しく、やけに読後感の良い結末を迎えるので、どうぞ安心して読んでみてください。

 

知識と経験って大事だね度★★★★★

マスターとの再戦が読んでみたい!度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

     新年明けましておめでとうございます。
     今年もよろしくお願いします。
     無人島ロワイヤル、面白かったです。
     遊びというかバカンス気分で訪れた無人島での置き去りにされてのサバイバル、そこで本性を表した人たちの殺し合い、一番先に脱落すると思っていたカップルが生き残り最後に一捻り~危機感が無い登場人物の心理は「方舟」に似ていると感じました。この状況で取り乱すのは論外ですが、ここまで危機感が無いのもどうか?と思いながら読んでいましたが、今の日本人は似たようなもの。
     ミサイル飛ばされようが、中国が侵略してこようが、隣国で戦争が起ころうと危機感がないことことの警告だとも取れました。
     だからどうしろ?と自分も思いますが・・・。

    1. ライオンまる より:

      あけましておめでとうございます!
      地震に飛行機事故と、大変な年明けになりましたね。
      こういう時こそ平常心を失わず、自分を律して過ごしていきたいものです。

      この手のデスゲームものにしては珍しいほど緊張感のない登場人物達のドタバタが面白かったです。
      最後に生き残った一人は意外・・・とも思いましたが、よく考えてみるとあの人、我儘ではあるけど人を出し抜いたり陥れたりはしていないんですよね。
      そういう素直な真っすぐさが、生き残るタフさに繋がったのかなと思います。

      今年もよろしくお願いします。

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