一昔前まで「話を順番通りに追うのが面倒」という理由で、作中で時間が進んでいく形式のシリーズ作品はあまり読まなかった私ですが、一作独立型のシリーズは結構読んでいました。作中の出来事や人間関係が基本的に一作ごとに完結しているため、どの作品から読んでも大丈夫なところが気楽だったんです。私は図書館を利用することが多いため、シリーズ作品をきっちり刊行順通りに借りていくのは難しいせいもあるかもしれません。
何より、どこから読んでも置いてけぼりを食らうことなく楽しめるのが独立型シリーズ作品の魅力。そして、こういう形式のシリーズ作品の場合、読者によって一作ごとの好みがよりはっきり分かれる傾向にある気がします。例えば私の場合、赤川次郎さんの『三姉妹探偵団シリーズ』なら四作目『怪奇編』が、田中芳樹さんの『薬師寺涼子の怪奇事件簿シリーズ』なら三作目『巴里・妖都変』が好きだったりします。今回ご紹介するのは、綾辻行人さん『囁きシリーズ』の三作目『黄昏の囁き』。シリーズ中、これが一番お気に入りです。
こんな人におすすめ
記憶をテーマにしたサスペンスホラーに興味がある人
黄昏の光の中、少年達は何を見たのだろうか---――兄の急死の報を受け、急ぎ帰郷した大学生・翔二。兄の死には不審な点があったが、総合病院院長である父の力もあり、事故死として片づけられる。納得いかないものを感じた翔二は、昔馴染みの占部と共に調査を開始。そんな中、町では兄の幼少期の友人達が次々と死体になって発見される。まさかこれは、かつての仲間達を狙った連続殺人なのか。だとしたら、次に狙われるのは翔二ではないのか。慄然とする翔二の身近に、殺人者の魔の手は迫っていた・・・・・幼き日の罪と罰を描く、サスペンスホラー『囁きシリーズ』第三弾
以前、シリーズ一作目『緋色の囁き』をご紹介しました。二作目は『暗闇の囁き』なのですが、私は断然三作目である本作の方が好きです。こういう<子ども時代の罪が時を経て甦る>系ミステリー、大好物なんですよ。雰囲気としては、生馬直樹さんの『夏をなくした少年たち』に少し近いかもしれません。
医学部に通う大学生・翔二は、兄が転落死を遂げたという知らせを受け、大急ぎで故郷の町に帰ってきます。兄の伸一は翔二と違って医師への道を歩むことができず、失意の日々を送っていました。父はそんな伸一を蔑んでおり、その死に不審点があったにも関わらず、強引に黙殺。あまりに冷淡な父の姿にショックを受ける翔二ですが、幸い、再会した予備校時代の講師・占部が力になってくれました。伸一の死は、ただの事故ではない。そう確信し、浦部と協力して調査を始める翔二の前に、伸一の幼馴染三人が現れます。この三人と伸一、そして翔二は、十五年前、よく一緒に遊んだ仲でした。旧交を温める間もなく、次々と死を遂げて行く幼馴染達。彼らが死の直前に聞いた「遊んでよ」という囁き。かつて非業の死を遂げた六人目の友達<ノリちゃん>の存在。なぜかすっぽりと抜け落ちた記憶。果たして翔二は、自身に迫る魔の手から逃れ、伸一の死の真相を暴くことができるのでしょうか。
一作目『緋色の囁き』は赤、二作目『暗闇の囁き』は黒をテーマにしていましたが、本作のテーマカラーはオレンジと黄色をぼかしたような黄昏色。鮮烈でいながらどこか郷愁を感じさせる色が示す通り、残酷さとノスタルジーに溢れる作品です。要所要所で挿入される子ども時代の記憶。幼い少年特有の残酷さと軽率さ。ちらほらと垣間見える大人の狂気。それらの謎が終盤ですべて解き明かされる展開に、意表を衝かれること請け合いです。まあ、個人的には、犯人周辺の諸々よりも、弟へのコンプレックスから殻に閉じこもってしまった伸一の孤独と、そんな長男をできそこないとして切り捨てる父親の冷酷さの方が印象的でしたが・・・
この謎解きについてですが、『館シリーズ』と比べると、『囁きシリーズ』には大掛かりなトリックのようなものは施されていません。それは本作も同様で、事件現場の様子や登場人物達の位置関係等を把握しなくても、文章だけでしっかり真相解明できる構成になっています。論理的思考が苦手な私にとっては、実に有難い限り。もちろん、だからといって真相のびっくり度合は少しも下がっていないのでご安心ください。
綾辻行人さんの著作なだけあって胸糞悪い(褒めてます)描写も多々あるのですが、シリーズ三作品の中では比較的後味が良い方だと思います。一作目が全寮制の女子校、二作目が田舎の別荘地だったのに対し、本作の舞台は関東地方の一都市。主人公の行動範囲も広く、閉塞感があまりないからでしょうか。『囁きシリーズ』お約束のホラーっぽい要素も少なめなので、『館シリーズ』で綾辻行人さんを知った読者には、一番取っつきやすいのではないかと思います。
ところで私、このシリーズは三部作で完結したのだとばかり思っていましたが、実は綾辻行人さんの中では四作目の構想があると、最近になって知りました。仮題は『空白の囁き』。何年でも待ちますので、ぜひとも執筆してほしいです。
<ノリちゃん>への伏線の張り方が凄い!度★★★★★
犯人の狂気が許し難く、哀しい・・・度★★★★☆
こんにちは、ライオンまるさん。いつも楽しく貴ブログを拝読しています。
この綾辻行人さんの「黄昏の囁き」は、兄が住んでいたマンションの7階から落ちて亡くなった。
旅行中だった弟の津久見翔二が、それを知ったのは、葬儀が全て終わった後だった。
実家に戻った翔二は、兄の死について、口を閉ざす両親の態度に憤りを覚える。
病院長の息子として、自分より出来の良くなかった兄。
事故なのか、自殺なのか、それとも他殺だったのか。
生前、兄と親交のあった元予備校教師の占部とともに、兄の死の真相を調べ始めるというお話ですね。
子供の頃の断片的な記憶。この「囁きシリーズ」はこれが大きな意味を持っていますが、この作品が一番強く出されてると思います。
私もたまにありますが、何かの拍子に子供の頃の事を思い出す事があります。
それは何気ない日頃の風景だったり、友達のちょっとした一言だったり。
頭の中のどこかに、ひっそりと隠れているんでしょうね。不思議なものですよね。
昨日や1年前の出来事を記憶しているというのとは、ちょっと違うような気がします。
事件の真相(殺された人の正体)や真犯人は、意外で驚かされました。
15年前の犯人の心理が、何となく理解できるのが悲しいですね。
こんにちは!コメントありがとうございます。
子どもの頃のなんてことのない記憶が、ふっと甦ることってありますよね。
私自身、なぜか小学生時代に見た夢のことを、唐突に思い出したことがあります。
そんな誰にでもある経験が、作中でうまく利用されていたと思います。
ノリちゃんの正体や、凶行に走ってしまった犯人の姿はショッキングで、初読みの時は相当な衝撃を受けました。
大がかりなトリックが使われた「館シリーズ」と違い、心理面からじわじわ攻めるのが「囁きシリーズの魅力。
ぜひとも四作目が出てほしいです。
綾辻行人さんは館シリーズで2冊しか読んでいないです。
最近というか昔からかも知れませんが順番を飛ばしても楽しめるシリーズが増えたのは良いですね。
記憶を辿るミステリーは好みです。
1作目から読みたくなりました。
最近読んだ知念実希人さんの「ヨモツイクサ」も記憶を辿るミステリーの最たるものです。
バイオホラーで失われた記憶はストーリーの一部ですがこれは是非とも感想を聞きたいと思います。
一作目「緋色の囁き」も、ホラー色が濃くて好みでした。
このシリーズ独特のじっとり陰鬱な感じ、大好きなんです。
「ヨモツイクサ」は、予約順位が現在三十番目です。
早く読みたくてうずうずしているのですが・・・年内に回ってくるかなぁ(-_-;)