この記事を書いているのは二〇一八年ですが、一年ほど前から国内で空前の将棋ブームが巻き起こりました。史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太四段の存在、ひふみんこと加藤一二三九段の引退とその後のメディアでの活躍、羽生善治棋聖の国民栄誉賞受賞など、華やかな話題が目白押し。私自身は将棋崩しくらいしか知らない人間ですが、古くからある文化がこうして注目されるのは喜ばしいことですね。
将棋をテーマにした作品は何かと聞かれれば、私が真っ先に思い浮かべるのは大崎善生さんのノンフィクション小説『聖の青春』でした。夭折した実在の天才棋士・村山聖さんをテーマとした迫力ある内容が話題を呼び、藤原竜也さん主演でドラマ化、松山ケンイチさん主演で映画化されたことでも有名です。これと並び立つインパクトの将棋作品はあるのか・・・と思っていましたが、最近読んだ小説もなかなかどうして負けてはいません。柚月裕子さんの『盤上の向日葵』です。
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人はどんな時に役所を利用するのでしょうか。引っ越しや結婚、出産などによる諸々の手続き、各所へ提出する戸籍等の重要書類の請求、自治体が運営するイベントへの参加etcetc・・・ぱっと思いつくだけでも色々あります。最近は役所内の飲食施設も結構充実しているそうですから、そういうところを利用する人もいるかもしれません。
地域住民の味方となり、生活の手助けをすべき役所。悲しいかな、その役割放棄しているとしか思えないような事件もありますが、大多数の職員さんたちは使命を全うするため日々努力しているはずです。この作品に出てくる彼も同じこと。迷える人々に手を差し伸べ、的確なアドバイスを授けてくれます。西澤保彦さんの『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』です。
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現在地方在住の私ですが、一時期、首都圏に住んでいたことがあります。上京した時は、生まれて初めてのお江戸暮らしにわくわくどきどき。芸能人と会えるかな、ドラマの撮影現場に出くわすかなと、胸を高鳴らせていました。まあ、実際はそうドキドキすることがあるわけもなく、ごく普通に生活していただけですけどね。
新しい環境での生活を始めるとなると、誰でも多かれ少なかれ緊張したり期待したりすると思います。楽しい出来事があるといいけれど、もしかしたら危ない目や怖い目に遭うかもしれない。命の危険さえ感じる出来事があるかもしれない。たとえば、新居の隣人がとんでもない人物だったりとか・・・・・今回取り上げる藤崎翔さんの『お隣さんが殺し屋さん』には、そんな驚愕の「お隣さん」が登場します。
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飛行機、新幹線、電車、自家用車・・・どれも旅行で利用したことのある私ですが、船旅は未だ経験したことがありません。乗ったことがあるものといえば、乗船時間十分程度のフェリーくらい。船酔いしやすい体質ということもあり、数時間の移動はもちろん、数週間、数カ月をかける長期クルーズなど夢のまた夢です。
一度出向したら最後、四方を大海原に囲まれ、ちょっとやそっとのことでは逃げ出すことのできない船の旅。そんな特殊な状況下なわけですから、船の上ではきっと様々なドラマが繰り広げられることでしょう。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』などは世界各国で読まれていますし、北杜生さんの『どくとるマンボウ航海記』、福井春敏さんの『亡国のイージス』なども有名ですね。この船の上でも、驚くべき人間模様が展開されます。若竹七海さんの『名探偵は密航中』です。
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昔、友達と「もし大金持ちだったら言ってみたい台詞」を考える遊びをしたことがあります。私が考えたのは、(1)「端から端まで全部頂くわ」(2)「映画監督のAさん?いい方よ。レマン湖畔の乗馬倶楽部でよくご一緒するの」(3)「〇〇って最近流行っているみたいね。うちの外商さんに取り寄せてもらおうかしら」でした。三つのうち、(1)は店を選べば(駄菓子屋とか)実現可能、(2)は今生では恐らく無理なので来世に期待、(3)はかなり難しいけど(2)に比べればまだ可能性あるかも・・・というところでしょうか。友達の間では、この外商ネタが一番共感してもらえました。
先日読んだ小説によると、そもそも外商とは呉服屋の御用聞き制度が元になっており、顧客の生活すべてをサポート、必要とあらば悩み相談にも応じるコンパニオン的存在だったんだとか。確かに百貨店ならば衣食住すべてに関わる商品を扱っていますし、その商品を顧客のため用意する外商は、「暮らしのトータルコーディネーター」と呼べるのかもしれません。もしも、対価と引き換えにあらゆる相談事に応じてくれる外商がいれば、生活がどれほど楽になるでしょうか。真梨幸子さんの『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』には、そんな凄腕外商が登場するんです。
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「元警察官」というのは、創作物の世界では重要なファクターとなることが多いです。警察官時代のスキルやコネ、確執を持ち、捜査権はない一方、公僕としての制約もない。善玉なら頼もしいけれど、悪玉ならこれほど厄介な存在もそういませんね。
元警察官が登場する作品と言われて、ぱっと頭に浮かぶのは横山秀夫さんの『半落ち』、当ブログでも紹介した柚月裕子さんの『慈雨』といったところでしょうか。あの二作に出てくる元警察官は、いずれも彼らなりの信念を持ち、周囲からの人望も厚い人物でした。では、こちらの作品に出てくる元警察官はどうでしょうか。若竹七海さんの『死んでも治らない~大道寺圭の事件簿~』です。
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貧富の差。日常生活の中でも頻繁に耳にする言葉です。この言葉を見聞きする時、どんな映像が思い浮かぶでしょうか。アフリカや中東などの開発途上国?江戸や明治といった昔の時代?それも間違いではありませんが、今この瞬間、平和なはずの日本国内にも貧富の差は存在します。
格差を解消するための制度は色々ありますが、その筆頭は生活保護でしょう。とはいえ、それは決して完璧とは言えない制度であり、様々なトラブルが起きています。先日、そんな生活保護にまつわる哀しい問題を扱った小説を読みました。中山七里さんの『護られなかった者たちへ』です。
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弁護士というのは、法曹界の中でも一種独特の職業だと思います。何らかの犯罪の容疑がかけられた人間を弁護し、減刑や無罪を訴える。たとえ、容疑者本人が裁判で争う気がなかろうと、あるいは庇う余地など微塵もない極悪人だろうと、引き受けた以上は検察官と争う。それが弁護士です。
そういう立場のせいか、フィクションの世界に登場する弁護士は、検事や判事以上に強烈な個性付けがなされていることが多い気がします。中山七里さんの『御子柴礼司シリーズ』、大山淳子さんの『猫弁シリーズ』、柚月裕子さんの『佐方貞人シリーズ』等々、人気が高くシリーズ化された作品も少なくありません。どの小説に出てくる弁護士も個性豊かで魅力的ですが、この作品の弁護士はちょっと珍しいタイプですよ。深木章子さんの『敗者の告白 弁護士睦木怜の事件簿』です。
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「ジャケ買い」という言葉があります。意味は「内容を知らないCDや本などを、パッケージのみに惹かれて購入すること」。何しろ内容を知らないわけですから、まるで好みに合わない商品を買ってしまって心底後悔することもある、それがジャケ買いです。
反面、ジャケ買いした商品が予想以上の良作だった場合、その喜びは大きいです。私の場合、人生初のジャケ買いはCDで、松任谷由実さんの『THE DANCING SUN』。「Sign of the Time」「砂の惑星」「春よ、来い」といった名曲揃いで、すっかりユーミンファンになった記憶があります。もちろん、ジャケ買いした本も色々ありますが、今回はその中の一冊を紹介します。岸田るり子さんの『味なしクッキー』です。
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「オカルト」と「科学」、この二つは相反するものと考えられがちです。実際、その手の検証番組などでは、超自然学者と科学者が喧々諤々の討論を繰り広げていたりしますよね。漫画やドラマなどでも、上記の二者は犬猿の仲として描写されることが多い気がします。
ですが、この世にオカルトなど絶対存在しないという証明は今のところできていません。それならば、「幽霊」「呪い」といった超常現象も「人類」「進化論」などと同じように科学的に証明できる可能性だってあるわけです。一見、摩訶不思議な超常現象に論理的な解釈ができるとしたら・・・そんな面白い作品を読みました。石持浅海さんの『二歩前を歩く』です。
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