はいくる

「神のロジック、人間(ひと)のマジック」 西澤保彦

甘ったれで気弱な子どもだった私が怖かったもの、それは「親から離れてのお泊まり」です。幼稚園のお泊まり教室などはもちろんのこと、祖母の家へのお泊まりさえ途中で寂しくなり、夜に自宅に帰ったこともありました。小学校の修学旅行にも戦々恐々としながら参加し、いざ始まってみて「あれ、意外と楽しいじゃん」と思ったことを覚えています。

子ども達が親元を離れて寝起きする。考えてみれば、これってちょっと特殊なシチュエーションですよね。ただの合宿や寮生活なら問題ありませんが、もし何らかの事情で家族と一緒にいられない子ども達を隔離しているのだとしたら・・・?そんな不可思議な世界を描いた作品がこれです。西澤保彦さん『神のロジック、人間(ひと)のマジック』です。

こんな人におすすめ

叙述トリックの驚きを味わいたい人

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新入生が来ると邪悪なモノが目を覚ます---――荒野の真っただ中に建つ<学校>には、そんな奇妙な噂があった。なぜ自分たちがここに集められたかも分からず、不思議な集団生活を送らされる六人の生徒たち。一体ここはどこなのか。なぜ自分たちは家族から引き離されたのか。答えの出ない生活の中、また新たな生徒が<学校>にやって来た。それが、怪物を目覚めさせる引き金になるとも知らず・・・・・彼らを待つ衝撃の運命を描いた傑作ミステリー。

 

あー、惜しい惜しい惜しい惜しい惜しい!!と、百回くらい言いたくなります。何が惜しいって、各所のレビュー等でもさんざん言われている通り、本作のトリックは同時期に出た某作家さんの有名作と類似しているんです。アプローチの仕方は違うんですが、あちらを先に読んだ読者ならあっさり真相が分かっちゃうんだろうなぁと・・・私は本作の方を先に読んだので大丈夫でしたが、このラストの衝撃を味わえる人が減ったと思うと残念でなりません。

 

物語の舞台となるのは、どことも知れぬ荒野に建つ<学校>。そこでは主人公であるマモルの他、日仏ハーフのステラ、車椅子のケネス、高貴な雰囲気のケイト、ケイトの取り巻きであるビル、世渡り上手のハワードら六人の生徒が暮らしていました。ステラに淡い恋心を抱き、謎の学校生活にもそれなりに順応しているマモルですが、なぜ自分たちはこんな所で暮らさなければならないのか、常々疑問に思っています。そんな彼の耳に入って来た、「<学校>に新入生がやって来ると、邪悪なモノが目覚める」という噂。そしてやって来る新入生・ルゥ。それは、取り返しのつかない惨劇の始まりでもありました。

 

物語の前半は、さながら眼鏡魔法使い少年が登場する某英国小説のような雰囲気で進んでいきます。外界から隔絶された<学校>と、そこで暮らす個性豊かな生徒達、定期的に出される謎の<課題>。登場人物数が少ないせいもあってか、生徒たちそれぞれがキャラ立ちしていて魅力的です。一応、マモルの片思いの相手であるステラがヒロイン格なんでしょうが、個人的にはキリリとした立ち居振る舞いのケイトが好きだなぁ。

 

ちなみに西澤さんのミステリー小説の場合、一人の探偵キャラがすべての謎解きを行うのではなく、数名がディスカッション形式で推理を行う形式が多いのですが、本作も同様です。生徒達には授業の他、二チームに分かれての<課題>が出されます。日常のちょっとした事件をテーマにし、チームごとに謎解きをするというものなのですが、この際のやり取りも個性が感じられてすごく面白いんですよ。こういう推理ゲームみたいな課題、実際に学校で取り入れたら、下手な授業よりずっと頭の体操になるんじゃないでしょうか。

 

そんなファンタジーめいた雰囲気が一変するのは中盤以降。新入生・ルゥがいきなり行方知れずになったのを機に、マモルたちは<学校>の秘密を探り始めます。ここで各自が自分なりの<学校>に対する推論を披露し合うんですが、この推理も実にバラエティ豊か。おー、そんな風にも考えられるのか、こんな想像もできるのか、とのんきに感心していたら・・・・・実はここ、伏線の嵐でした。それらが一気に回収され、あまりにもショッキングかつ痛々しい真相に辿り着くラストは圧巻の一言。真相を知ったマモルが味わったであろう脱力感を、私もまた味わえた気がします。

 

繰り返しになりますが、本作の展開は某有名ミステリー小説と似ています。あちらがものすごく有名になった分、割を食ったような印象がないでもありませんが、個人的には本作の方が好きですね。この残酷さ、この哀しさ、最後のページでマモルが呟く「愛している」の言葉の重さ・・・ラストの衝撃度合でいえば、西澤ワールドの中でもトップクラスに位置する作品だと思います。

 

世界はあまりにも惨く反転する度★★★★★

彼らに未来はあるのか度★☆☆☆☆

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