ミステリー

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「シャルロットの憂鬱」 近藤史恵

以前の記事でも書きましたが、私は生まれた時からずっとマンション暮らしで、飼ったことがある生き物は金魚とヤドカリのみ。そのため、犬や猫といった動物を飼うことに憧れがあります。今でも、コリーやレトリバーのような大型犬と楽しげに遊ぶ人がいると、「いいなぁ」とついつい目で追いかけてしまいます。

とはいえ、動物を飼うことはままごととは違います。生活の中に生き物を迎え入れることで不自由も増えるでしょうし、トラブルに巻き込まれることもあるでしょう。先日、動物がいる生活の大変さと、それを上回る楽しさを描いた小説を読みました。近藤史恵さん『シャルロットの憂鬱』です。

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「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」  歌野晶午

日本には素晴らしい推理小説を書く作家さんがたくさんいます。どの方もそれぞれ甲乙つけがたい魅力を持ち、一番を決めるのは難しいのですが、幻想・怪奇分野ではやはり江戸川乱歩の名前を挙げる人が多いのではないでしょうか。私自身、学校の図書室に置いてあった乱歩作品(確か、少年探偵団シリーズ)を読み、そのミステリアスな作風にすっかり魅了された記憶があります。

現代の作品で、あの独特のおどろおどろしさを出すのは難しいかも・・・・・と思っていたところ、面白そうな作品を見つけました。江戸川乱歩好きなら、タイトルを見ただけで手に取りたくなってしまうかもしれませんね。どんでん返しの巧みさに定評のある、歌野晶午さん『D坂の殺人事件、まことに恐ろしきは』です。

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「淋しい狩人」 宮部みゆき

こんなブログまで開設しているのですから今さら言うまでもありませんが、私は読書が好きです。一番好きなのはミステリーですが、基本的にホラー、恋愛、SF、ヒューマンドラマと何でもござれですし、エッセイや児童文学にも手を出します。親に聞いてみると、昔から本さえ与えておけば何時間でも大人しくしている子どもだったようですね。

そんな私が大好きな場所、それが本屋です。最近、大型書店はどんどん綺麗になり、店内に立派なテーブルやソファを設置して購入前の本を読めるようにしてあったり、併設のカフェからなら飲食物を持ち込めたりするような店も多いです。そういう店ももちろん好きですが、昔ながらの小さな本屋さん、街角にひっそりあるような古本屋さんも大好きですよ。そんな愛すべき本屋を扱った作品といえばこれ。ありとあらゆるジャンルの小説を手がけ、無類のゲーム好きとしても知られる宮部みゆきさん『淋しい狩人』です。

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「リバース」 湊かなえ

私は昔からコーヒー党でした。子どもの頃は砂糖とミルク、今はミルクだけを入れて、ホットで飲むのが好きです。美味しいコーヒーがお供だと、読書の楽しさも三割くらい増す気がします。

作中にコーヒーが登場する小説もたくさんありますよね。有名なところだと、ドラマ化もされた吉永南央さんの『紅雲町珈琲屋こよみ』シリーズ、「このミステリーがすごい!」大賞にノミネートされた『喫茶店タレーランの事件簿』シリーズなどが挙げられます。そんな中、私のお薦めはこれ。「イヤミス」というジャンルを世に広めた、湊かなえさん『リバース』です。

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「ある閉ざされた雪の山荘で」 東野圭吾

最近すっかりご無沙汰ですが、私はけっこう演劇が好きです。限られた舞台空間の中で、役者たちが物語を紡ぎ出す。それは、映画鑑賞や読書とはまた違った楽しさがあります。

演劇界の悲喜こもごもを扱った小説もたくさんありますね。「舞台という閉ざされた世界」「人間が別人になりきって演技する」などといった状況の特殊さが、作家の創作性をかき立てるのかもしれません。私が今まで読んだ中では、綾辻行人さん「霧越邸殺人事件」、近藤史恵さん「演じられた白い夜」などが印象的でした。その中でも白眉はこれ。数多くの賞を受賞し、国内でもトップクラスの知名度を誇る人気作家、東野圭吾さん「ある閉ざされた雪の山荘で」です。

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「こんにちは刑事ちゃん」 藤崎翔

今までブログに投稿してきた読書レビューを見れば何となく分かるかもしれませんが、私はイヤミスが好きです。読み進めるうちにイヤ~な気分になり、たとえ謎が解けても登場人物たちは幸せにならない。その後味の悪さに、どうしようもなく惹かれてしまいます。

とはいえ、楽しく笑えるユーモア小説も大好きなんですよ。そんな私が、久々に「これはヒット!」と思える作品に出会いました。かつて「セーフティ番頭」というコンビ名でお笑い芸人として活動していた、藤崎翔さん「こんにちは刑事ちゃん」です。

 

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「戦場のコックたち」 深緑野分

戦争について考えたことのない人は、恐らくいないと思います。かくいう私自身、それこそ小学生の頃から平和学習を受けてきましたし、戦争を取り扱った映画やドラマ、小説も手に取りました。今この瞬間でさえ、戦火が上がり、人々が犠牲になっている戦場は山のようにあります。

大多数の現代日本人にとって、戦争とは非日常そのものの世界でしょう。ですが、たとえ戦地だろうとなんだろうと、人間が生きている以上、そこには毎日の生活があります。今日ご紹介するのは、そんな戦場での「日常」を描いた作品です。「このミステリーがすごい!」で二位にランクインした、深緑野分さん「戦場のコックたち」です。

 

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「噂」 荻原浩

噂話は好きですか?たとえ嫌いな方でも、人生で一度や二度、何らかの噂話を耳にしたことがあると思います。昔からある有名どころでいえば、口裂け女や人面犬、赤マントなどでしょうか。

本来なら、ただのお喋りの一環であるはずの噂話。では、もしそれが真実となったらどうなるのでしょう。そんな噂の恐怖を扱った作品といえばこれ、直木賞作家である荻原浩さん「噂」です。

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「絶対正義」 秋吉理香子

「正義のヒーロー」「正義感が強い」「正義の道を貫く」・・・どれも専ら良い意味を持つ言葉です。正義とは、漢字が示すとおり、正しく道理にかなうということ。それが悪いと言える人など、恐らく一人もいないでしょう。

でも、ちょっと考えてみてください。立ち居振る舞いすべてが正義を重んじ、ほんのわずかな不正も許さない人。正義を守るためなら、誰かの心を踏みにじっても構わないと思う人。もしそんな人と出会ったら、信頼より苦痛を感じてしまうのではないでしょうか。今日は、そんな「正義の化身」とも言える人が登場する作品を紹介します。「暗黒女子」の映画化も決まり、まさに乗りに乗っている秋吉理香子さん「絶対正義」です。

 

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「絶望ノート」 歌野晶午

私は文章を書くのが好きということもあり、子どもの頃から日記を書いています。昔は日記帳に、今はパソコンを使って、一日の出来事を書き留めておきます。嫌なことや悲しいことがあっても、文字にしてしまうと、不思議とすっきりするんですよ。翌日マラソン大会がある日などは、「雨が降りますように」などと、神頼みしつつ書いたものです。

でも、そんな他愛ない願い事が、本当に叶ってしまったらどうでしょうか。しかもそれが、人を傷つけるような願い事だったら?というわけで、今日はご紹介するのはこれ、新本格第一世代の一人として名高い歌野晶午さん「絶望ノート」です。

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