これまで何度か書きましたが、私は甘い物が大好きです。健康のことを考えなくて良ければ一日三食全部スイーツでいいと思うほどで、スーパーマーケットやコンビニに行くたび、デザートコーナーの新作をチェックするのが習慣です。味だけでなく見た目も素敵なスイーツの数々に癒される人って、意外と多いのではないでしょうか。
そんな私が思い浮かべる<甘い物>と言えば、かつては洋菓子オンリーでした。ですが、ここ最近、あんこの風味が懐かしくなったり、買い物中にみたらし団子や葛切に目が行ったりすることがしばしばあります。ガツンとしたインパクトや見た目の派手さという点で洋菓子に押されがちな和菓子ですが、改めて見てみると繊細で美しい品が多いですし、洋菓子とは違う優しい甘さも魅力的です。「でも、和菓子ってあんまり馴染みないなぁ」と思う人は、この作品を読んでみてはどうでしょう。坂木司さんの『和菓子のアン』です。
こんな人におすすめ
・和菓子がたくさん登場する小説が読みたい人
・若い女性の成長物語が読みたい人
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<世にも奇妙な物語>というテレビ番組をご存知でしょうか。タモリが進行役を務めるオムニバステレビドラマで、現在は番組改編の時期に二時間ドラマとして放送されています。一話の長さが二十分程度と短いこと、ホラー・サスペンス・コメディ・ヒューマンドラマなど、様々なジャンルの話が楽しめることなどから、多くの視聴者の支持を集めています。
この番組が有名だからか、面白い短編小説を評する際、「<世にも奇妙な物語>に出てきそう話」「<世にも奇妙な物語>で実写化してほしい」などという言い回しが使われることがしばしばありますし、私もこのブログ内でそういうフレーズを何度も使いました。今回は、<世にも奇妙な物語>向けの小説がたくさん詰まった短編集を取り上げたいと思います。井上夢人さんの『あわせ鏡に飛び込んで』です
こんな人におすすめ
ひねりの効いた短編小説が読みたい人
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「四苦八苦」という言葉があります。由来は仏教で、人間が避けることのできない苦しみの分類のこと。「生」「老」「病」「死」の「四苦」に「愛別離苦」「怨憎会苦」「求不得苦」「五蘊盛苦」の四つを加えて「八苦」とするそうです。どの苦労も深刻なものですが、それらすべての終わりに待ち受ける苦しみは「死」でしょう。
そんな「死」と直結しているからか、「葬式」という儀式は様々なドラマを生み出します。当然、葬式をテーマにした創作物もたくさんありますね。映画『おくりびと』はアカデミー賞外国語映画賞を受賞する快挙を成し遂げましたし、幸田文さんの『黒い裾』、湯本香樹実さんの『ポプラの秋』、宮木あや子さんの『セレモニー黒真珠』などは、どれも面白い作品でした。状況が状況だからか人間ドラマ寄りの作風になることが多いので、今日は意外な路線でいこうと思います。天祢涼さんの『葬式組曲』です。
こんな人におすすめ
葬儀にまつわるミステリが読みたい人
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英語圏には「羊とヤギを分ける」ということわざがあります。聖書に由来することわざで、「善(羊)と悪(ヤギ)を分ける」という意味。このことわざの中で、羊は善の象徴です。日本でも、羊にはなんとなく「大人しく温厚」というイメージがありますね。
ですが、油断は大敵。「羊の皮をかぶった狼」などという言葉もあるように、羊の内面が本当に大人しく穏やかとは限りません。もしかしたら、優しげな顔の下には思わぬ本性が隠れているのかも・・・・・今回取り上げる本には、そんな恐ろしい羊たちが登場します。米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』です。
こんな人におすすめ
皮肉の効いたイヤミス短編小説が読みたい人
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催し物に誰を呼ぶか。それは主催者にとって大事な問題です。一家庭内で行われる子どもの誕生パーティーですら、招待客の選別などでいじめが生じるという危惧から、実施を禁止する学校もあるんだとか。まして、百名単位の人間が集まるイベントとなると、招待客を考えるのも一苦労。結婚式なんて、その最たる例でしょう。
一生に一度の晴れの舞台だからこそ、心から感謝している人、心から結婚を祝福してほしい人を招きたい。誰もがそう思うでしょうが、事はそう簡単にはいきません。浮世の義理というものがあるし、何より、相手が本当に善人で結婚を祝ってくれるという保証もないからです。もしかして、招こうとしている相手は腹の内でまるで違うことを考えているかも・・・そんな恐怖を描いた作品がこちら。新津きよみさんの『招待客』です。
こんな人におすすめ
女性目線のサイコホラーが読みたい人
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小説では、しばしば<パンドラの箱>という表現が登場します。元ネタは、ギリシア神話に登場する、ゼウスによってすべての悪と災いが詰め込まれた箱(本来は壺ですが)。人類最初の女性・パンドラがこの箱を開けてしまったことで、この世には様々な不幸が蔓延するようになります。このことから、<パンドラの箱>とは<暴いてはならない秘密><知りたくなかった真相>というような意味で使われることが多いですね。
パンドラの箱を開けてしまったことが導入となる物語はたくさんあります。特にミステリーやホラーといったジャンルに多いのではないでしょうか。この作品でも、封印されていたパンドラの箱が開いたことで、登場人物たちは混乱と不安のどん底に突き落とされます。小池真理子さんの『懐かしい骨』です。
こんな人におすすめ
記憶にまつわるミステリーが読みたい人
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すべての生命は水の中から生まれたそうです。また、私達人間の体は半分以上が水でできています。だからでしょうか。水という存在は、私たちに懐かしさや安らぎ、切なさをもたらします。
そのせいか、水辺が舞台となった小説は多いです。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』などは世界的に有名ですし、ここ最近の作品だと近藤史恵さんの『昨日の海は』、坂木司さんの『大きな音が聞こえるか』などが面白かったです。比較的<海>を扱った作品の方が多い気がするので、今回はあえて場所を変え、<川>が出てくる小説を取り上げたいと思います。恩田陸さんの『蛇行する川のほとり』です。
こんな人におすすめ
少年少女が出てくる青春ミステリーが読みたい人
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他のテーマにも言えることですが、<ホラー>の中には色々なジャンルがあります。幽霊や悪魔と戦う正統派のオカルトホラー、現代社会を舞台にしたモダンホラー、古城や洋館などが登場するゴシックホラー、人間の狂気を扱ったサイコホラー、内臓飛び散るスプラッタ、ホラーながら論理的な謎解き要素もあるホラーミステリーetcetc。ホラー大好きな私は何でもOKですが、この辺りは個人で好みが分かれるところでしょう。
たいていのホラー小説は、一冊ごとに上記のジャンルが分かれています。ですが、最近読んだ澤村伊智さんの『などらきの首』には、様々のジャンルのホラー短編小説が収録されていました。一粒で二度どころか三度も四度も美味しい思いをした気分です。
こんな人におすすめ
・バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人
・『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人
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小説の分野においては、「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」というものが存在します。文字通り、最後の最後で読者に衝撃を与える物語のことで、ミステリーやホラーのジャンルに多いですね。作品の最終ページが近づき、やれやれ・・・と思った瞬間に与えられる驚きや恐怖は、読者に強烈なインパクトを与えます。
この手の小説で有名なものはたくさんありますが、インターネットで検索すると、「最後の一撃にこだわった」と作者本人が公言する米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』が一番多くヒットするようです。その他、我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』や百田尚樹さんの『幸福な生活』、このブログでも紹介した荻原浩さんの『噂』など、どれも面白い作品でした。そういえば、この作品の最後の一行も強烈だったなぁ。貫井徳郎さんのデビュー作『慟哭』です。
こんな人におすすめ
・読後感の悪い本格推理小説が読みたい人
・新興宗教を扱った作品に興味がある人
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推理小説やミステリー映画などの感想を読んでいると、「まさに<藪の中>」という文言をしばしば目にします。私自身、このブログでよく使っていますが、由来は芥川龍之介の『藪の中』。とある事件を巡って次々と証人が現れ、そのたびに真相が変化していく様を描いた短編小説です。このことから<藪の中>とは<関係者の言い分が食い違っていて、真相が分からないこと>という意味で使われます。
大多数のミステリー作品には、多かれ少なかれ<藪の中>の要素があります。今まで紹介したことのない作品だと、恩田陸さんの『ユージニア』や貫井徳郎さんの『プリズム』、塔山郁さんの『毒殺魔の教室』などがありますね。私がこの手の作風が大好きということもあり、あらすじを読んで<藪の中>的な要素を感じるとついつい飛びついてしまいます。今回は、そんな私の個人的<藪の中>ランキングでトップクラスに入る作品を取り上げたいと思います。深木章子さんの『殺意の構図 探偵の依頼人』です。
こんな人におすすめ
二転三転する本格ミステリーが読みたい人
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