ミステリー

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「宮辻薬東宮」 宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介

本屋や図書館でうろうろしていると、「アンソロジー」という本を見かけることがよくあります。「アンソロジー」とは、複数の作家による短編作品などを収めた出版物のこと。現代的な名前で呼ばれていますが、万葉集や古今和歌集、新約聖書などもアンソロジーに当たります。

複数の作家の作品が収録されるという形式上、内容の質にばらつきが見られるアンソロジー。たとえ話のレベル自体は高くても、「この設定は苦手」などいうこともあり、大満足の作品を見つけることは難しいです。ですが、最近読んだアンソロジーはレベルが高かったですよ。当代の人気作家が一堂に会したアンソロジー『宮辻薬東宮』です。

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「ドクター・デスの遺産」 中山七里

この世には、どれほど議論を尽くしても正解が出ないであろう問題があります。例えば死刑制度や少年犯罪への厳罰化。賛成派と反対派、どちらの言うことにも一理あり、是非を決めることは恐らくできないでしょう。

答えの出ない問題の筆頭格として、安楽死が挙げられます。自分自身、あるいは家族が不治の病にかかり、地獄の苦しみを味わっていたとしたら・・・安楽死を考えることは、果たして罪なのでしょうか。安楽死問題を扱った小説はたくさんありますが、今回は中山七里さん『ドクター・デスの遺産』を取り上げたいと思います。

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「バック・ステージ」 芦沢央

大抵の図書館には「予約」というシステムがあります。本を確実に借りることができるよう予め予約しておく方法で、人気作家の新刊や大作映画の原作本などには予約が殺到します。予約件数が数百ということも決して珍しくなく、その場合、本が手元に届くのは何カ月も先ということにもなりかねません。

小学生の頃から図書館通いを初めてウン十年。ほとんどの場合、予約で出遅れてしまっていた私ですが、先日初めて「予約一番目をゲット」という出来事を経験しました。大好きな作家さんの新刊なので、喜びもひとしおです。それがこれ。芦沢央さん『バック・ステージ』です。

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「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき

写真撮影は好きですか。私自身は撮る方は決して上手ではありませんが、見るのは大好き。インターネットで美味しそうなスイーツの写真を見つけては、一人ニンマリしていることもしばしばです。

今はスマートフォンなどの普及により、一昔前よりずっと手軽に写真が撮れるようになりました。それはもちろん楽しいことだけれど、時にはしっかりとカメラを構えて写真撮影するのも面白いかもしれません。今日取り上げるのは、柴田よしきさん『風味さんのカメラ日和』。最近忘れていた、「レンズを通して物を見ることの楽しさ」を思い出せた気がします。

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「カウントダウン」 真梨幸子

ある日突然、病気で余命宣告されたら。そんな状況に直面した時、人はどういう行動を取るのでしょうか。愛する人とたくさん思い出を作る?やり残した大仕事を片付ける?百人に聞けば百通りの答えが返ってくると思います。

悔いなく最期の瞬間を迎えるための活動「終活」は、今や社会現象となりつつあります。終活を通じて心の整理を行い、限りある人生を豊かに送る人もいるでしょう。反面、終活を行うことで、忘れたい過去を掘り返すことになったりして・・・そんな「黒い終活」を描いた作品がこれ。真梨幸子さん『カウントダウン』です。

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「ずうのめ人形」 澤村伊智

子どもの頃、人形遊びが好きでした。私の子ども時代に主流だったのはタカラトミーから発売された「ジェニーちゃん」。細かなキャラクター設定やお洒落な洋服の数々に夢中になったことを覚えています。

その名前の通り人の形をしているだけあって、人間と人形の間には強い繋がりがあります。そのせいか、ホラー界では時として恐ろしいキーアイテムになることもありますね。最近読んだホラー小説にも、不気味な人形が登場しました。澤村伊智さん『ずうのめ人形』です。

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「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」 柚月裕子

私が面白いと思う作品には、名コンビが登場することが多いです。ホームズの横にはワトソン、ポアロの横にはヘイスティングズ。異なる長所を持つ二人が助け合い、自分の持ち味を活かして物事に臨む様子は、読んでいてわくわくさせられます。

最近は、パートナーが動物や悪魔など人外の存在だったり、主人公と仲が悪かったりするなど、ユニークなコンビが登場する作品もありますね。では、この作品に出てくる二人はどうでしょうか。柚月裕子さん『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』です。

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「秋山善吉工務店」 中山七里

「雷親父」という言葉は、今や死語になりつつあります。雷のように大声で怒鳴る、何かと口やかましい親父のことですが、今のご時世では迂闊に怒鳴り声を上げると一歩間違えれば警察沙汰。『サザエさん』に登場する波平さんのような雷親父は生きにくい社会なのでしょう。

ですが、私には雷親父が不要な存在だとは思えません。筋を通し、節度を重んじ、若者を教え導く気骨ある老人は、絶対に必要なのだと思います。今回取り上げるのは中山七里さん『秋山善吉工務店』。このおじいちゃん、かなり素敵ですよ。

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「ガーディアン」 薬丸岳

いじめ、体罰、スクールカースト、試験勉強etc。学校には様々な問題が山積みです。私自身、特に中学校では、人間関係のいざこざで苦労した記憶があります。誰かがこの問題を解決し、穏やかな学校生活を送らせてくれないものかと、他力本願なことを考えたりもしました。

もしも本当にそんな存在がいたとしたら、学校はより良い場所になるのでしょうか。そんな「もしも」を描いた作品を読みました。薬丸岳さん『ガーディアン』です。

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「機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト」 秋吉理香子

私は子どもの頃、夏休みや冬休みになると、飛行機で祖父母の家に遊びに行っていました。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんと遊ぶのはもちろん楽しみでしたが、それと同じくらい、飛行機に乗ることも嬉しくて仕方なかったものです。電車やバスのように毎日乗れる乗り物とは違って、飛行機には何となく特別な雰囲気を感じていたんだと思います。

海を越えた土地同士を繋ぎ、ひとたび離陸すれば巨大な密室と化す飛行機。ミステリーの設定として、これほど魅力的なものはそうないのではないでしょうか。今回ご紹介するのは秋吉理香子さん『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』。空の旅を味わっている気分に浸れますよ。

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