はいくる

「螺旋の底」 深木章子

私が最初に読んだ海外の小説は、ヴィクトル・ユーゴ―の『ああ無情』でした。小学生向けのバージョンだったので、表現はかなりマイルドになっていましたが、作品の持つ切なさや痛々しさ、美しさはよく伝わってきました。そのインパクトがあまりに大きかったせいか、私の中でフランスというと、美しさと儚さ、残酷さと哀しさが並び立つ国です。

きらびやかなようでいて混沌としており、閉鎖的でいながら多くの人を魅了する国、フランス。そういう印象があるからでしょうか。フランスにはミステリーやサスペンスの雰囲気がよく似合う気がします。先日読んだ小説は、まさに私の持つフランスのイメージにぴったりでした。今回は、深木章子さん『螺旋の底』を紹介します。

 

こんな人におすすめ

外国を舞台にした本格ミステリーが読みたい人

スポンサーリンク

フランスの片田舎ラボリの地主と結婚し、螺旋階段のある古い屋敷で暮らし始めた美しき花嫁。それは恐ろしい殺人劇の幕開けだった。屋敷を守る謎多き使用人、住民が口にする不穏な噂、次々と消えていく少年たち。やがて屋敷に眠る血塗られた秘密が明らかになった時、あまりに哀しい真実が浮かび上がる。過去から続く、陰謀と復讐の果てに待っていたものとは・・・・・

 

深木章子さんと言えば、当ブログでも紹介した『鬼畜の家』や『敗者の告白』などのように、法律学の知識を駆使したリーガルサスペンスで有名な作家さんです。本作はそれらとはガラリと作風が変わり、フランスの田舎で巻き起こる殺人と陰謀をテーマにした本格ミステリー。読み終えてから考えてみると、深木さんの練られた文章って、海外物にも向いていると思います。

 

舞台となるのは北フランスの田舎町ラボリ。町一番の大地主であるゴラーズ家に、パリから美貌の花嫁がやって来ます。事実上の女主人として采配を振るう女中のデュポン夫人や無骨な使用人のジャン・ルイ、好奇心たっぷりの視線を向けてくるラボリの住民たちに囲まれ、なんとか暮らしに馴染もうとする花嫁。初々しい新妻と思われている彼女ですが、実はある秘密がありました。そして夫であるポール・ゴラーズもまた、誰も明かすことのできない秘密を抱えていたのです。

 

読み始める前、「どうしてわざわざフランスを舞台にしたんだろう」と思った私ですが、読了後に納得。確かにこのトリックは、日本を舞台にしていては成立しません。会話の中で繰り返される「シェリー(フランス語で【愛しい人】)」という呼びかけにはそういう意図があったのか!フランスだから「ダーリン」じゃないのね、ふむふむ・・・とか、あっさり流している場合じゃありませんでした。

 

それにしても深木さん、相変わらず伏線張るのが上手だなぁ。夫と妻の語りが交互に続く展開、名家が幅を利かせる地方都市特有の閉塞感、相次ぐ少年の失踪事件、好奇心旺盛な住民たちの何気ない噂話・・・これらすべてが伏線であり、最後の種明かしに結びつく構成には「おおお~」と唸らされました。本作を未読であり、これから読む楽しみのある人を羨んでしまうほどの緻密さです。

 

ここまでなら他の深木作品にも言えることなんですが、本作にはさらに歴史的要素が絡んでいます。第二次世界大戦中、フランスはナチス・ドイツに侵攻されました。その影響は田舎町であるラボリにも及び、裏切りと密告と制裁の嵐が吹き荒れたのです。そこから生まれた恨みと哀しみは時を経ても消えることがなく・・・あまり詳しくは語れませんが、冒頭、ドイツ兵と付き合ったという理由で女性がリンチを受ける場面や、その因縁が本章での事件と絡む展開には胸が痛くなりました。現実でも、こういうことは決して珍しくなかったのでしょう。

 

と、こんな風にいつもの深木ワールドとは違う異国の雰囲気が魅力の本作ですが、唯一不安点を挙げるとすれば、地名や人名がフランスのものばかりなので、人によっては読みにくいと感じるかも・・・ということでしょうか。ただ、登場人物数はそう多くないですし、舞台も基本的にラボリだけなので、混乱するほどではないと思います。何より、もう一度繰り返しますが、本作の仕掛けは海外が舞台でないと成立しません。どんでん返しのカタルシスを味わいたい方にお薦めです。

 

夫婦とはいえ秘密はある度★★★★★

読了後すぐに再読しちゃう度★★★★☆

スポンサーリンク

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください