「こんな結末は読んだことがない」「予想を遥かに超えた奇想天外なストーリー」。物語を評する上で、これらの文言はしばしば誉め言葉として使われます。私自身、事前の予想を裏切られるビックリ展開は大好物。この話は一体どう落着するのだろうと、手に汗握りながらページをめくったことも一度や二度ではありません。
その一方、期待通りに進む王道の物語も面白いものです。それは、『水戸黄門』や『必殺仕事人』が今なお支持されることからも分かります。私の中では、このシリーズもそういう安定・安心枠なんですよ。中山七里さん『毒島シリーズ』第四弾、『作家刑事毒島の暴言』です。
こんな人におすすめ
・皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人
・『毒島シリーズ』のファン
小説家デビューした者に向けられる黒い欲望、作者が著書を売るために踏み出してしまった禁断の一歩、書評家と文学YouTuberとのトラブルが招いた悲劇の真相、文学賞受賞を目論む小説家が迎えた予想外の末路、宗教の手先と化した小説家との対決の行方・・・・・文壇に巣食う闇を毒島が斬る、人気シリーズ第四弾
文学界に渦巻く真っ黒な欲望劇を、小説家兼刑事技能指導員の毒島が木っ端微塵に打ち砕くというのが、このシリーズの大まかなあらすじ。定番の流れのため、四作目ともなると予定調和的な印象を持つ人も出てきたようです。でも、私はこのお約束の展開が大好きなんですよ。表紙の毒島も、相変わらず性格悪そうで実にイイ!!
「一 予選は突破できません」・・・現役作家が指導する小説講座の受講生が殺された。新人賞を受賞し、華々しいデビューを果たした人間が、なぜこんなことになったのか。事件の担当となった高千穂明日香は、刑事技能指導員である毒島と共に捜査に当たる。調べるにつれ、講座内に渦巻く複雑な人間模様が分かってきて・・・・・
<小説家を志す者達が、自作を批評してもらう過程で事件が起こる>という流れは、シリーズ第一弾『作家刑事毒島』の「ワナビの心理試験」と共通しています。この話の場合、ポイントは<すぐそこにいた人間が華々しく作家デビューした>というところ。欲しくて欲しくて堪らない栄光を、間近な人間が手にした時、タガが外れた者が何をするか・・・毒島の言う「人の褌で相撲を取るなら、もっと上手くやってくれないと」という言葉は、身も蓋もないけど真実なのでしょう。
「二 書籍化はデビューではありません」・・・小説投稿サイトで人気を博した作品が書籍化されたものの、評判は散々、売れ行きも最悪で、お先真っ暗の天王山。そんな彼が、遺体となって自宅で発見された。生前、天王山は著書の売り上げアップを狙ってYouTuberデビューを果たしており、注目を集めるため、<自殺予告>を行っていたという。まさか、引くに引けず、本当に自殺してしまったのか。早速関係者を聴取する高千穂と毒島だが・・・
これは話そのものより、小説投稿サイトにまつわる蘊蓄の方が印象的でした。私、<小説家になろう>や<カクヨム>の作品が結構好きで、定期的に投稿作品をチェックしています。その評価方法や書籍化が、こういうシステムだったとは。単純に「昔みたいにえっちらおっちら原稿を版元に持ち込まなくていい分、手間暇が省けて楽ちん」とかいう話じゃなかったのね。気楽にデビューなんてあり得ないんだなと、つくづく思わされました。
「三 書評家の仕事がありません」・・・ベテラン書評家・田和部の人生はどん詰まり状態だ。仕事は減る一方の上、YouTuber・ホンズッキーの素人ブックレビューをSNSで批判した結果、「老害だ」と大炎上。そのホンズッキーが小説家デビューしたため真っ向から評論したところ、さらに火に油を注いでしまう羽目に。そんな騒動の最中、ホンズッキーが遺体となって発見され・・・・・
この話は少し目先を変え、小説家ではなく書評家が主要登場人物となります。他人が心血を注いで創った作品を批評するのが仕事なわけですから、時にトラブルの種となることだってあるでしょう。トラブル相手のホンズッキーさんは、このシリーズにしては比較的真っ当な人だったようなので、もっと動く姿を見たかったですが・・・そして、普通の常識人に対しては毒気を抜かれて大人しくなる毒島、なんだか可愛いです。
「四 文学賞が獲れません」・・・近年、ヒット作に恵まれない小説家・嬬恋が考えた起死回生の一手。それは、直木賞の受賞だ。ところが、どの出版社も嬬恋の作品を推薦してくれない上、賞獲得のため躍起になる嬬恋の姿を<寄生虫>などとゴシップ誌に揶揄されてしまう。後日、嬬恋が転落死を遂げた。彼の性格上、自殺はあり得ないと毒島は語り・・・
この話の嬬恋は、他の話の小説家志望者や新人小説家とは違い、過去のこととはいえ一定数のヒット作を出した中堅どころ。そこそこ実績があるからこそ「直木賞欲しい!誰か推薦して!」などという妄執に囚われてしまったのかと思うと、ちょっと哀れでもあります。でも、何よりインパクトあったのは、終盤での毒島の行動。人を人とも思わぬ毒島がこんな行動に出るなんて・・・過去に何かあったのでしょうか?
「五 この世に神様はいません」・・・小説家・花王子が殺害された。最有力容疑者は、事件当日、花王子と会う約束を取り交わしていた小説家の崎山だ。だが、崎山は死亡推定時刻、宗教法人・統価会の総本部にいたというアリバイがある。どうやら崎山は、統価会教祖の自伝本のゴーストライターを務めていたようで・・・・・
名前こそ変えてありますが、宗教法人・統価会って、まんま、あの宗教じゃん!少しですが二世信者の問題にも触れてあるし、嫌でも現実で起こった悲惨な事件の数々を思い起こさせます。こういう時、容赦のない毒島の存在はすごく頼りになりますね。最終ページに一行、皮肉たっぷりの文章が書いてあるので、読み飛ばすことがないよう気を付けてください。
以前から思っていましたが、中山ワールドの他のシリーズ物主人公と比べると、毒島は他作品の登場人物とがっつり絡むことが少ないですよね。犬養隼人、高千穂明日香、麻生は出てくるものの、毒島を前にすると影が薄め。この辺りで、敵対でも共闘でもいいから、毒島と誰かが対等に並び立つところが見たい気もします。ぱっと浮かぶのは御子柴礼司か蒲生美智留。少し時系列を戻して、若き日の毒島が要介護探偵や静おばあちゃんに出会うというのもなかなか面白い気がしますが、いかがでしょう?
文壇での悲喜こもごもがやけにリアリティたっぷり・・・度★★★★★
最後の一行に心底同意!度★★★★★
毒島シリーズにしては少し期待外れだと感じました。
皮肉が効き過ぎて肝心のストーリーがイマイチでした。
毒島刑事のキャラクターが強すぎて渡瀬警部や御子柴弁護士と共演すると、面白いようで展開がいつまでも進まないのでは、両雄並び立たない典型、バランスが取りにくいと思いました。
九州で地震がありましたが、そちらは大丈夫でしたか。
この個性の強さが毒島の魅力であると同時に、キャラクターとしての使いにくさでもあるんですよね。
同じくかなり個性的な御子柴や要介護探偵が他作品キャラと共演していることを考えると、毒島、どれだけクセが強いんだ・・・という感じです。
こちらはほとんど揺れませんでした。
お気遣い、ありがとうございます!
南海トラフ地震の可能性も高まってきているらしく、不安を感じます。